すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect   作:デトネート

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二日目、死神達から明かされる、渋谷に起こったインバージョン。

狂わされてしまった二つの物語の、修正を試みる謎の少女は何者なのか。


#3 2日目『リマインドマイセルフ』

 少し時間が経った後。暗闇と触れ合っていた瞼をこじ開けると、真っ先に目に飛び込んできたのはあまりにも眩しすぎるほどの光だった。

思わず眩しいと叫び、その場で飛び起きる少年と少女。

 辺りを見渡すと、少年の方は、壁一面に描かれた黒猫のグラフィティアートと、その芸術に寄りかかっている、どこか不安げな表情の『死神娘』と、腕を組んで固い表情で黙りこくっている『オブジェ死神』がいた。

 少女の方は、特徴的な地球のオブジェクトがある建物『トウワレコード』が目の前に見え、ついさっき帰ったはずのシキと……もう1人、赤のヘッドフォンと赤と白の制服を見にまとった、金髪の少女がいた。

 そこで、ネク、凛はいつのまにか、何かを握りしめていたことに気がつく。怪しみながらも手を開くと、そこには黒の素体に白の独特なマークが刻み込まれた一枚のバッジがあった。

 デジャヴ。少年は過去の記憶によって、少女は昨日起きた出来事によってそれを感じていた。

 

 

 

 

 

「……どうして、俺のことを助けたんだ」

 今まで失っていた記憶、死神ゲームに初めて参加した日から再び殺された日までを思い出し、ネクはかつて敵だったはずの二人に尋ねる。

 一人はコンポーザーの座を狙い続ける危険人物で、もう一人は自分のことを撃ち殺した張本人だ。

 例え元の記憶を取り戻させてくれたとしても、簡単に信用できるはずがない。

「へっ、警戒する必要はねぇよ。俺はお前を殺すことなんざに興味はねぇ。苦しんでるお前とコイツに、力を貸してやろうと思ってな」

 ネクには、今の発言に信憑性を得ることが出来なかった。何故コンポーザーの座を欲している彼が自分に親切に力を貸してくれるというのだろうか。理由になっていない。

 そもそも、何故このオブジェ死神が今ここにいるのだろうか。こいつは前に、ヨシュアによって倒されたはずだ。何故だ、一体何故。

 ココとミナミモトを置き去りにして、ネクは一人で考えを膨らませる。

「あ、あのね、ネク。確かに私たちのことが信用できないのは分かるよ。でも、私たちにも私たちなりの事情があるんだ……ちょっと複雑だけど、聞いてくれないかな?」

「……」

「ネクだって、今の状況ちんぷんかんぷんでしょ?どうして自分が記憶を失ってたのか、どうしてこいつが生き返ってんのか。今のまま無闇にあちこち回っても、何にもならないよ」

 …確かに、とネクは渋々と納得する。無策であちこち回っても、無駄に体力を消耗するだけになるのは目に見えている。さらに今回は、死神娘が情報を持っている。

 話を始める前から二人を観察していたが、どうやら本当に敵意はないようだった。ミナミモトのあの凶暴さも、ココのふざけた態度も特にない。まだ信用には至らないが……ネクには、聞かない以外に手はない。

「…じゃあ、教えてくれ。お前達が知ってる全てを。嘘偽りなく、はっきりとだ」

 

 

 

 

 

「シキ!?ど、どうしてここに?帰ったんじゃなかったの?」

 急いで駆け寄り、凛は何故かここにいるシキに話しかける。

「そんなのこっちが聞きたいよ!いつもみたいに電車乗って、つい寝ちゃって、目が覚めたらまた渋谷にいたんだよ!しっかり持ってたはずの紙袋も無くなっちゃったし、もうちょ〜ショック……」

 ガックリと肩を落とすシキ。聞いたところ、どうやらシキも自分と同じく眠ってしまい、その後訳もわからずここにいるようだった。

 シキと別れてヨシュアと会ったとき、既に日は沈み、空は暗くなっていた。しかし現在、空は青く澄み渡り、身を焦がすほど熱い日差しを全身で感じる。

 夜から昼……つまり、昨日から今日。ここで、凛は大変なことを思い出した。

「あれ……ああっ!!」

「うわっ!ど、どうしたの凛?」

「どうしたも何も、今日って平日じゃん!学校だよ、学校!」

「へ……って、ああああーー!!!」

 凛とシキはお互いの肩を掴み合い、顔を見合わせながら思わず大声で叫ぶ。何があったかはよく分からないが、既に一日経ってしまったということは、紛れも無い事実だ。

 格好も持ち物も昨日のままで、風呂にも入っていない。何も身支度できていない状態で、どうやって遅刻せずに学校へ行けるというのだ。

「ど、どうしよう……とりあえず速攻で家に戻って、朝シャンしてから学校行くしかないか……」

「確かにそうだけどさ、凛は徒歩圏内に家があるからまだいいけど、私はそんな近くに家無いから時間かかるし……何より化学の勉強してないし!!行っても行かなくても終わったよね、これ!」

「と、とにかく!そんなこと嘆いてる暇あったら急いで戻ろうよ!朝ごはんだってまだ食べてないでしょ?」

「え、まさか今から家で朝ご飯食べる気なの!?こんな状況でとかバカでしょ!?」

「朝ごはんはきちんと食べる、それがうちの基本ルールなんだよ!健康志向第一だし、ね、シキ?」

「ちょっと、なんで最後だけバカにするのよ!!」

「してないよ!」

「しーまーしーたー!!」

 登校の話から、いつの間にかくだらないことで駄弁っている二人。

 

 そんな彼女たちを見て、今まで口を閉ざしていた彼女がついに口を開く。

 

『ほら、騒ぐのもそこまでにして』

 パチパチという手を叩く音と同時に突如その場に響いた第三者の声に、二人は口を閉じて声の方向を向く。二人の目に写る謎の少女は、ため息をつきながら、呆れたようにこちらを見続けている。

「えっ……誰、あの子?話しかけてきたってことは、もしかしてシキの知り合い?」

「…制服着てるお友達がこんな時間に居たら普通気づくよ。凛の生き別れた血族とかじゃないの?」

「いやいや、現実味無さすぎでしょ。学校無視してヘッドフォンつけて出歩いてるって、もしかしてガチの不良かも」

「確かに髪染めてるし、目つき怖いし、知らんぷりしたほうがいいかも……ん?」

 コソコソ話を急にやめ、シキが謎の少女、正確には少女の左手にある『人形』に視線を向ける。

散々人から馬鹿にされたあの可愛い丸っこい顔、豚と間違えられまくったあの抱きしめたくなる胴体、とろんとしたあのシンプルなフェイス、

 間違いなくあれは『にゃんタン』だった。

 自分が初めて作った、『世界に一つだけしかない』はずの宝物だ。

「え……!?なっ、私のにゃんタンは……あ、ここにある……だったらどうして、あの子がそれを!?」

『……これのこと?これなら前に、あなたから借りたんだよ。まあ、借りたのは『あなた』であって『あなた』じゃないんだけどね』

「へ……へっ?」

 確かに、今シキの手にはがっしりとにゃんタンが握られている。それに、このにゃんタンを誰かに貸した覚えもない。あの少女のにゃんタンは、一体どこから……?

「……君、何者なの?」

 少し警戒を強めながら、凛が尋ねる。謎の少女は少しだけ目を瞑ると、

 

『そんなものに意味はない。私は渋谷の未来を守る、ただそれだけのための存在』

 

 また謎めいた言葉で凛たちを困惑させるのだった。

 

 

 

 

 

「……じゃあ、まずは今この渋谷に何が起こっているのか、から説明するよ」

 ココがそう言うと、ピリピリとしたその場の空気がより一層鋭さを増す。

 

 

「落ち着いて聞いてね。実は……この渋谷は、ついこないだまでの渋谷とは全く違う渋谷なの」

 

 

「違う渋谷?どういうことだ?」

 ネクが尋ねると、ココではなくミナミモトがそれに答える。

「お前らは前に死神ゲームを通じて、あのコンポーザー様を改心させ、一番望ましい並行世界の渋谷へと、あの渋谷を変えた。

だが、今はそれが『なかったこと』になってるってことだ」

「だから、お前はこれまでゲームの記憶を失っていた。お前にも世界にも『そんな出来事は元々起こってない』、そういうことになってる」

 ココとミナミモトの話は捻れていて、ネクは思わずその場で唸る。しかし、そうなるのも無理はない。誰だって何も分からない状況で、難解な説明をされても、理解できるはずがない。

「…あの、もう少し分かりやすくしてくれないか?なかったこととか、そういうこととか、意味わかんな——」

 

 

 

「……時間改変」

 

 

 

「…は?」

 

 ココがそう呟くと、ネクは一瞬自身の耳を疑った。時間改変、確かに今そう聞こえた。

「信じられないって思うでしょ?でも実際にそれが起こってるってわけ」

「時間逆行、時間改変……時間に干渉することは、たとえ上位次元の存在でも不可能な禁忌だ。だが、それを破った存在が現れ、そいつらが渋谷の『過去を改変した』。

よって、お前は死神ゲームに参加することなく日々を過ごしたことになり、ゲームに参加していた他の奴らもお前のことを知らない、そんな世界の渋谷が今の渋谷ってことだ」

「過去が、改変された……!?そんなことが、本当に現実に……?」

 過去が改変され、それに伴い参加者……シキたちも自分と同じく、ゲームの記憶を失っている。そんなにわかに信じ難いことを前に、ネクは自然と焦りを感じ始める。

 今起こっている出来事の、非常事態さを。

「…やっぱ焦るでしょ?私も始めはびっくりしたし……だから、私はいち早く行動してたヨシュアの仲間になって、この渋谷の異常を止めようと動いてるんだよ。コイツも……多分そのつもりだと思う。

……これを早く止めないと、渋谷が消えちゃうかもしれないから」

「えっ……渋谷が、消える!?どういうことだ?」

「それは、過去を改変する方法に由来する。分かりやすく言えば、代償だ」

 そういうと、次にミナミモトは時間改変には可能な限り二つの方法があると言った。

 一つは『改変者自身が過去に飛び、直接物事に接触する』というもの。しかし、そもそも過去に飛ぶこと自体が非現実的であるため、この方法は絵空事も同然。

 そして、もう1つは『現在地点から時間軸に干渉し、過去を改変する』という、かなり強引な方法だ。これでも現実的には程遠いが、ただ唯一のサイキックを使えば可能になる。

 

 

 その方法こそ、インバージョンである。

 

 

 過去を自由に改竄する、時空に干渉できるサイキック。

 だが、それを繰り返せば繰り返すほど、世界自体がその消耗に耐えられなくなり、やがてUG間とRG間に存在する『次元の壁』が崩れる。

 

 

 その時、街は完全に消滅し、崩壊してしまう。

 

 

「私たちはその禁忌を破って、禁断のサイキック『インバージョン』を起こした元凶を探し出して、やっつけようとしてるんだよ」

 ミナミモトが説明し終わると、最後にココが付け足すようにして、そう言った。大方理解したが、まだ抜け落ちているところも何ヶ所かある。

 何故オブジェ死神がこの場にいるのか。

 あの時、死神娘が自分を撃ち殺した訳は。

 彼女らの仲間であるならば、ヨシュアは今どこにいるのか。

 過去を改変した張本人は誰か、目的は何か。

 少し間を開け、ネクが再び尋ねようとしたその時。

 

「おーイタイタ。桜庭音操に南師醒、それから……俺たちを裏切った、新子々ちゃんだナ?」

 

 ネクの言葉を遮るようにして、軽い口調で話す男の声が三人の耳に入ってくる。咄嗟に周りを見渡そうとすると、どこからか現れた数体の紫色のノイズが、三人の周りを覆い囲む。

「…えっ!?き、急に何!?」

「…フッフッフ、ど〜、このディゾナンスノイズちゃんら。お前たちをケスために、わざわざRGまで来てくれたんだとサ」

 ニヤリと笑いながらゆっくりと上空から降りてくる青年。メガネにオールバックの橙色の髪、口には棒付きの『紫』の飴玉を加えている。肋骨のような柄が描かれている黒のタンクトップの背面からは、あの黒い死神の羽。

 ネクはその姿に見覚えがあった。死神であるが、前にビイトとのゲームで力を貸してくれたことがあった。

「お前は確か、ビイトが言ってた……そうだ!アメ玉!!」

 正しい名前は知らないが……非公認のあだ名だけは、覚えてる。

「あ、アメ玉……?あ〜ハイハイ、お前が言ってるのはアイツのことカ。

でも、ザンネンデシタ。俺はそのアメ玉じゃナイし、名前もアメ玉じゃナイヨ」

 ノイズが囲む輪の中に降りると、口に咥えていた飴玉を抜き、ネクに向けて指す。

「……俺の名前は、狩谷申輝(カリヤシンキ)。このトーッても偉大な渋谷の、真の支配者、サ」

 

 

 

 

 

『渋谷の悪夢を終わらせるための、第一の鍵。それはあなたたちが、特異的に行動を起こすこと』

 少女は指で宙に線をなぞると、その線上のとある一点を指差し、縦にスラッシュして、切るような仕草をする。

『今のあなたたちは、時間の歪みに操られている、ただの人形。特異でもなければ、目に見えるものを疑いもせずに咀嚼し、そのまま飲み込むだけの、何も知らない無力な存在』

『何も知らない者が何をしようと、また何かを思っても、何も成し得ることは出来ない。そんなことは一目瞭然のはず……だったら、どうしてあなたたちは今まで気づこうとしなかったの?』

 途端、少女の無色だった声色が少しだけ暗くなる。声の音量を無意識に上げ、鋭い視線を二人に……主に凛に向けていた。

『はぁ……あなたを失ってた友達は、例え記憶を失ったとしても、心の底にはあなたへの思いが残ってた。その微かな思いを通じて、彼女達の記憶は、戻すことが出来たの』

『それに比べて、まるで思い出したくないみたいに、あなたは何も覚えてないなんて……まったく。卯月と未央を……自分のために泣いてくれるような、あんなにいい友達を、簡単に忘れるなんてさ』

 徐々に心無い言葉も交えながら、少女は凛に向けてこれでもかと冷たい言葉を叩きつける。冷めきったその無感情な声は、鋭利な刃物として、訳も分からない凛の心を無慈悲に抉る。

「……?」

 謎の心の痛みに襲われ、何も言葉を発することができなくなっていた凛。

 そして痛みに耐えるその姿を見て、少女は呟く。

『……まあ、こんな風にあたっても意味ないか。これが本来の流れなら……矯正はいくらでも効く』

「未央ちゃんと、卯月ちゃんと……私…?」

 少女の話で出てきた、未央と卯月。頭の中で、その二人の真ん中に、自分の姿を置いてみる。

 彗星の如く現れ、瞬く間に時の人として有名になった、人気急上昇中の期待の新人アイドルユニット『シブヤマチ』の二人、島村卯月、本田未央。

 そしてその間にいるのは、どこにでもいるような女子高生の自分。

「……いや、ないない」

 こんなことをしても意味がないことは、自分が一番よく知っていた。こんな気持ち悪い妄想、するんじゃなかった。妄想は妄想でしかないし、こんなアイドル大好き女子高校生の妄想なんて、もっての外すぎる。

『……ここまで来ると、思い出したくなくて、わざとやってるみたいに見えるよ。全く……呆れるね』

 心なしか、さらに表情が強張った少女は、急に凛とシキの腕を引っ張りトワレコの中へ連れて行こうとする。

「えっ、わ、私も!?今の話からして、あなたは凛に用があったんじゃないの?」

『そうだよ。だからあなたにも、彼女のパートナーとして真実を見せる。『経験者』のあなたが引っ張らなきゃ、そこの非力な親友は、すぐに消えるよ』

 意味深げにボソッと呟くと、少女は強引に二人をトワレコの中へ押し込もうとする。

 少女が伝えたい真実……少し怖いけど、いずれ自分たちが知らなければならないこと。学校のことなんかすっかり忘れ、二人は昨日と同じ場所へ向かう。

 

 入り口に近づくと、何やら看板が見えてくる。

 

【『シブヤマチ』新曲リリース記念!一日限定ミニライブ&握手会!!開催日○○月□□日——】

 

 

「そーはさせないわよ」

 

 

 しかし、日時を最後まで見る前に、頭上から聞こえた声がそれを止めた。凛が見上げると、地球のオブジェクトの上に座っていた誰かが見えた。紺のタートルネックのタイツ型のジャケットを着た、『紫』色のショートボブの女性。右手には黒光りしている銃が握られており、ニヤリと不穏な笑みを浮かべながら銃口を凛たちの方へ向ける。

「…じゅ、じゅじゅじゅ、銃!?け、警察!!だれか、警察呼んで……ん〜!!」

 パニックで思わず叫び散らすシキを、慌てて口を塞いで黙らせる凛。

「いやいや!バカなのシキ!?なんでこの状況で大声出して目立とうとするの!殺されるよ!?」

 信じられないものを目にしたような表情で、凛も大声を出すが、どういう因縁なのか、あの女の狙いは凛でもシキでもなく、謎の少女だった。

 少女は女の方を向くと、面倒臭そうに深いため息をつく。

『…八代未月(ヤシロ ビツキ)、だよね。こんな酷い渋谷を創った張本人が、私に何の用?』

「あら、もう知ってたのね。直々に自己紹介してあげようと思ったのに、つくづく気に入らない奴だわ」

 八代未月と呼ばれた女性はその場で立ち上がると、オブジェクトから勢いよく飛び降り、凛とシキの前で着地し、そして、威嚇するように空に一発弾を撃ち放つ。

 

凄まじい轟音が辺りに鳴り響く。

 

[キャーーー!!!!]

[じ、銃だ!!銃を持ってるぞ、あいつ!!!]

[に、にににににに逃げろ!!!今すぐ逃げろ!!!!]

 銃声を恐れた人々がパニックで散乱していく中、恐怖から身動きが取れなくなったシキと凛は、トワレコを背にするようにして硬直している。二人の背筋は凍りついているが……銃を向けられている肝心の少女は、全く動じずに無表情なままだった。

「……最近ね、困ったことがあるのよ〜。どこからともなく現れた『よそ者』が、この穏健な渋谷の空気をぶっ壊しててね〜。アタシたちスッゴイ迷惑してるんだけど、あんたはどうおも——」

『言いたいことがあるなら、そんな隠さないでハッキリ言ってよ。焦ったく話引き延ばすの、あんただって嫌でしょ?』

 と、飽き飽きしながら言った直後、話を遮られた八代は軽く舌打ちをして、銃を自身と少女たちの間の地面に乱射しだした。恐ろしい威力の銃弾が、コンクリートの地面を貫通し穴を開けると、その穴から紫色の異形の生き物が何体も現れてくる。

「不法滞在する不届き者は、その身共々強制退去させてやる、ってことよ」

 憎悪を込めた瞳のまま、笑顔で八代は銃と殺意を突きつけてきた。

 

 

 

 

 

 午前10時。トワレコの裏口から、二人の少女が走って飛び出る。着ていた衣装をその場に脱ぎ捨て、黒いジャケットとサングラスを付け、手慣れている変装を素早く行う。

 追いかけてくる警備員、スタッフの目をかいくぐり、急いで彼女を探す。先ほどの銃声と同時に聞こえたのは、間違いなく昨日の二人の悲鳴だ。

 

 いや、昨日というよりかは『今日』といった方があっているかもしれない。だが、今はそんなことはどうでもいい。

 

「はぁ、はぁ……どこ行っちゃったの、凛ちゃん!」

「ぜーはー……おーい!聞こえたら返事してよ、しぶりーん!!」

 時間が経てば経つほど不安は募っていく一方だ。トワレコ、カドイ、渋谷デパート、スクランブル交差点と渋谷のあちこちを周り、昨日途端に意識を失った104ビル前までは、今のところ何の異常もなく来ることができた。『眠気もまだなく』、二人を探す時間は残っている。

「ねえ、未央ちゃん……私たちって昨日、本当にこんなところで寝ちゃったのかな?」

 サングラスを少しずらして、卯月は訳の分からない謎について未央に尋ねる。

「うーん……感覚的にはそうだったんだけど、実際はどうなんだろうね?もし仮に寝てたとしても、今朝の出来事には辻褄が合わないし……」

 今朝の出来事、それはとても奇妙な話だ。104ビルの前で意識を失い、目が覚めたら、トワレコのイベントステージの上にまた立っていたのだ。衣装も髪型も昨日と全く同じで、訪れていた人もあの二人を除いて、昨日とほとんど同じ顔ぶれだった。

 当然イベントなんか出来るわけもなく、急いで会場を離れてプロデューサーにこのことを話したが、

『……突然、お二人ともどうされたのですか?どこか具合でも……まさか、連日の疲れが…』

などと、変に心配されることになってしまった。

「携帯のカレンダーを見ても、昨日と同じ日付が表示されてる。何もかもが昨日と同じ……まさか私たち、知らない間にタイムスリップでもしちゃったんじゃ!?」

「ええ〜っ!!!」

 卯月は自らも半信半疑のまま、タイムスリップという驚きの発言をする。

 一般的にはフィクション上のもので、アニメやSF小説などによくありがちな展開だと、アニメ好きの友達が言っていたのを覚えている。

「……いやいや、流石にそれはないでしょ〜?いくらなんでも、そんな非現実的なことありえる訳——」

 ないに決まってる。そんなことは空想上のおとぎ話でしかありえないし、きっと何かのドッキリに違いない。と未だに、そう思っていた未央に、

 

 

「そう、ありえないと思うよな?だからお前らは、まだ気づけない。世界は、目に見えるものだけが全てじゃないんだぜ?」

 

 

 何処からともなく現れた、サングラスをかけたダンディーな男性が、未央と卯月に知り合いのように話しかけてきた。コーヒーの独特な香りを漂わせ、どこか見据えている目で二人のことを見ている。

「……?えと、お、おじさん、誰?」

 若干警戒してこわばった声で未央が尋ねると、男性は自らを『羽狛早苗(ハネコマサナエ)』と名乗り、次にこう言った。

「喫茶店ワイルドキャットのマスター兼ゲームプロデューサーを務めてる。お前らは……ん?まだ参加者じゃないのか?」

「「参加者?」」

「ああ……生と死を隣り合わせにする事で、その存在の価値をジャッジするためのゲーム、『死神ゲーム』の参加者だ。今は開催されてないが、緊急事態で俺たちは能力者を集めてる。そのうち一人の渋谷凛は、お前らのお友達だろ?」

 ピクリと同時に頭が動き、目を少し見開く二人。

「渋谷凛……!!凛ちゃんを知ってるんですか?」

「それに今、参加者に含まれてるって……ねえ、参加者ってどうなっちゃうの?しぶりんは大丈夫なの!?」

「……今の参加者の定義は、『渋谷を守る存在』だ。だとすると、当然戦いが絡んでくる。安全なはずなんかあるわけがない。これからも、渋谷凛は邪魔な存在として『奴ら』に狙われ続ける」

「邪魔な存在……奴ら……?」

 遠回しに友達が危険に晒されていると伝えられ、思わず喉が引きつり咳き込んでしまう。薄々、嫌な予感は前からしていた。

 

 

 

——あの日。今から数ヶ月前の、自分たちが離れ離れになった日から今までずっと。今日この日まで一体何度非現実的な出来事があったことか。

 いつも通りだった日常はどこかへと消え、いつも通りになってしまった日常へと変わっていた。

 

 

 

「参加者は、戦わなければならない。この渋谷の存続のためにな。パートナーとなる契約者と契約を結び、サイキックを繰り出して立ち向かう。今日、『二組』のパートナー契約を確認した。渋谷凛はパートナーと契約を結ぶことに成功し、奴らを退けて今日を生き残れたみたいだな。そこは、安心していい」

 羽狛の言葉を聞き、少し緊張が緩和する。無事であるのなら、まだ会える希望は残されているということだ。

「……でも、お前らは違うぞ」

 しかし、安心したのも束の間。

「え?」

「逆に、よく今まで未契約のまま生きてられたな。契約もしないでほっつき歩いてるなんて、命知らずもいいところだぜ?お前らだって、狙われる側の人間に含まれてるんだ」

「えっ……それって、まさか私たちも『参加者』ってことですか……?」

 卯月の問いかけに羽狛は「ああ」と小さく頷きながら答えると、ゆっくりと二人の前へと歩み寄り、あるものを手渡した。

「……?おじさん、これって何?」

「お守りがわりのバッジさ。それを互いに持っていれば、最悪襲われても立ち向かうことが出来る。使い方は……」

 と言いかけた直後に羽狛は腕時計の時刻を確認すると、おっとと何かを思い出し驚く。

「もうこんな時間か。ほんとは色々と話したいことがあったんだが……しょうがねえな」

 

「いいか、よく聞け。お前らは明日、『AMX』へ向かうんだ。そして……そこで『桜庭音操』って奴に会え」

 

「さくらば、ねく?」

 卯月は未央の知り合いのことかと思い未央のことを見るが、未央はキョトンとした表情で首を横に振って知らないと伝える。

「フッ、大丈夫だ。そいつと一緒に行動していれば、きっとお前らの目的は果たせる。お友達とまた再会できることを願ってるぜ!がんばれよ!」

「あっ……!!ま、待って下さい羽狛さ——」

 徐々に体が透き通っていく羽狛に手を伸ばす卯月。しかし、手が届く前に羽狛の体は消えてしまった。

 このような異様な光景を目の当たりにしても、驚いてる暇はない。渋谷を守る参加者、そしてその参加者を狙い、渋谷を崩壊へと導く存在。

 世の中の、無知でちっぽけな自身たちの世界の常識では、最早理解不能な領域に達していることくらいは分かっていた。既に彼女らは、自分たちの知らない『世界』へと足を踏み入れていたのだから。

「……なんかさ、もしかしてじゃなくとも、私たちって結構やばいことに巻き込まれちゃったりしてる?」

「うん、多分そうなんじゃないかな……でも、凛ちゃんをおいて私たちだけ逃げるわけには行かないよ……!」

「もちろん分かってるよ!絶対……しぶりんは私たちが取り戻すんだから!」

 

 

 こうして彼女たちは『三組目』の参加者として、これから未だ見ぬ渋谷を歩むこととなるのだった。

 

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