ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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プロローグ 〜施設〜

 

 

 あぁ 夢を見ている、はっきりとわかる。

 だって、これは現在の事じゃない。

 昔の施設にいた頃の、名もなく番号で管理されていた時の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 そこは真っ暗な部屋だった。一切の光が射していない為、視覚が全く役に立たない完全な闇に包まれているが、茫漠とした空気から周辺に何もないのがわかる。

 そんな中で自分は、袖や裾が極端に短く首筋までを覆った上下一体型のボディスーツのみを身に着け、周囲を警戒して立っていた。

 

 カシャンと軽やかに何かが開く様な音が部屋中から鳴る、その瞬間に限界まで集中力を高めた。

 しかし、十秒……三十秒……一分と何も起きないまま時間が経過。それでも集中力を落とさずに警戒し続ける。

 

 十四分三十七秒経過した時、部屋の各所から小さな光が瞬いた。

 

 即座に光の数と位置と距離を把握し、同時に光がマズルフラッシュであると理解、真上に旋転しつつ跳躍する。

 次の瞬間、自分がいた場所を多数の銃弾が通過したのと、ほぼ同時に発砲音が聴覚に届く。それによって銃器の種類を特定するのと並行し、頭上から覗いていた銃器を片手で砕く。

 今度は天井を蹴って跳躍し、連続する銃撃を躱しつつ次の銃器の破壊に移った。

 

 自身に向かって飛んでくる銃弾を躱す、あるいは逸らす。

 そうしながら三機目の銃器を破壊した所で異常に気付いた。

 

 銃撃が続いている以上は発砲音が止まないのは当然だが、跳弾する音が増え続けている。いくら壁や床が硬くても跳弾が何十回も続く筈がない、おそらく弾自体に細工がしてあるのだろう。どうやら銃器だけではなく、銃弾も壊さねばならない様だ。

 

 残りの銃器の数は三十七機、種別はサプレッサー付きハンドガンが十、サブマシンガンが十二、アサルトライフルが十一、対戦車ライフルが四である。全ての銃が同種ではないお陰で何とか出来そうだが猶予はほぼない、急がなければ。

 

 マズルフラッシュによって僅かに照らされる部屋の中を飛び交う全ての弾と今も撃ちだされ続ける弾の数、弾道、速度を計算しつつ銃弾を回避し続ける。

 秒間千発以上のペースで増え続けている銃弾は既に膨大な量になっている。焦燥感が沸き上がりかけるが、瞬時に抑制する。精神を揺らす訳にはいかない。

 そして、気が遠くなりそうな十秒間を経て計算が完了。後は、計算通りに弾道を変えるのみ。

 

 

 ・・・・・・一分後。

 

 

 自分は両手の骨に罅をいれつつも、全ての銃器と弾を破壊して五体満足で部屋に立っていた。

 

 行った事は単純だ、幾ら跳弾性能に優れていようと真正面から対戦車ライフルの弾をぶつければ他の弾は砕ける。そうなる様に弾道を変えて、跳弾を排除しつつ銃器を破壊し、最後に残った弾を掴んで止める。

 万を優に超える数の弾道を計算しなければならなかったが、何とか出来た。

 

 正直、倒れ込みそうな位には疲労しているがおくびにも出さない、いや……出せない。

 

 自分が身に着けているボディスーツには肉体と精神の両方の情報をリアルタイムで取得、送信する為の特製マイクロチップが多数埋め込まれている。そして、自分の脳と頸椎にも信号一つで有毒となるナノマシンが仕込まれている。

 その情報を監視している連中が不要と判断すれば、自分は即座に処分される。

 

『No.901、次の部屋に進みプログラムを受けろ』

 

 部屋の隅に仕掛けられたスピーカーから命令が下されるのと共に向かい側の壁が下がっていき、光が射し込む。

 今日は九つのプログラムしか終了していない。つまり、通常の半分以下でしかない、まだ続くのが分かっていたとはいえ、辟易とする思いはある。それを打ち消し、務めて無感情に返事をする。

 

「了解しました」

 

『僅かな発汗も動揺もなく即答か。随分余裕があるようだな』

 

「いいえ、多少の肉体的成長によって体力が向上しただけであります」

 

 嘘だ、その程度で何かが変わる訳はない。

 ただ、今も最大の警戒と最高の集中を保って肉体と精神の制御を行っているだけだ。そうしなければ、次の瞬間すら生きてはいられない。その上で自身のあらゆる性能を、能力を上昇させ続けるしか処分を免れる方法はなかった。

 

『ようやく、設計された異能力を発現したのかと思ったがな。未発現の個体はお前だけだぞ? No.901』

 

「申し訳ありません、自分は未だに異能力を発現できません」

 

 だが、同時に完成したとも判断されてはならない。なぜならば、その先にあるのは道具としての出荷であり、出荷されれば便利な捨て駒にされる。そうなれば、ほぼ確実に死ぬ。

 それを避けるには異能力が既に発現している事は隠さねばならない。

 

『まぁ、いい。次のプログラムに進め』

 

「了解しました」

 

 次の部屋では多種類の言語からなる十二の問を同時に多数のスピーカーから流され、それぞれに指定された言語での解答を行わされた。

 

 その次は炭で造られた刀剣で鋼鉄の塊を両断させられた。

 

 その次は無手で一キロ先で音速で移動する的を破壊させられた。

 

 その次は拳銃で戦車から放たれる撤甲弾の破砕をさせられた。

 

 その次は連続で切り替わり続けるスクリーンを百分割し、それぞれの升目に表示された数式への解答を行わされた。

 

 次から次へと、プログラムという名の難題を受けさせられた。

 内容は技術に身体能力に知識知能知略にと、必要とされるものは様々だ。例え異能力を使ったとしても、そう簡単にはいかないだろう。

 休息は流動食を摂取する間くらいだ。その流動食も耐性を付けるために、複数種類の毒物が混ぜ込まれているのだが。

 

 

 

『No.901、次の部屋で待機していろ』

 

 二十三のプログラムを終えた時だった、そんな命令が下されたのは。

 

 無機質で広い部屋と先程の命令で次にさせられる事がわかった。

 

 

 待機する事......三分。

 自分より少し幼い少年が部屋に入って来た。

 

『No.901、No.4983 今日の最後のプログラムだ。目の前の個体を殺せ』

 

 やはり、この部屋で行うのは作成した個体同士での死合いの様だ。

 目の前の少年はNo.4983、つまり自分より後に作成された個体という事だ。基本的に後の個体の方が基礎的な性能が高い、つまり自分を殺させてNo.4983の少年を完成に近付けたいのだろう。

 

『さぁ、始めろ』

 

 互いが命令と同時に行動を開始する。命令通り、目の前の個体を殺す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 何分か、それとも何十分か、判らないがNo.4983を殺し自分が生き残った。

 殺しに思う事は無い、所詮 自分達はデザインベビーだ。高い知能に強い肉体、そして異能力を持って生まれる様に作成された存在でしかない。

 

『また お前が残るかNo.901、異能者となった個体を五度も殺すとはな。これで異能力を発現すれば完成だというのに.........』

 

 スピーカーの向こうで嘆息している様だが、今は気にする余裕は完全に無い。

 

「ゴブッ! ゲホッガハッ! ハァ…ハァ…」

 

 血反吐を吐き散らし、呼吸も整えられない。幾つもの内臓がイカれている。

 今回の個体は強すぎた。何度も異能力を使いかけた。おそらく、次は隠し切れない。仮に隠し切れても、失敗作として処分されかねない。

 

『カプセルに戻れ。休眠と共に調整を行う』

 

「!.........了解.....、しました...ッ!」

 

 ここに残っていれば不要と処分される、しかし完成したら出荷された先で死がまっている。だが反抗しても殺される、どうにもならない袋小路だ。

 

 自由を得るにはどうすればいいのか、答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突にあの施設から解放されるのは暫く後の事だ。

 

 

 

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