「んぁ………抑まってるな。一体何だったんだか」
仮眠を終えると疼痛は抑まっていた。原因は何だったのか、思い当たる節がない。この件を考えるのは後にする、特段に優先順位の高い事では無い。
迷宮に転移し、アレーティアの鍛練に付き合う前にオスカー・オルクスを弔う。
棺を作り亡骸を納め、黙祷を捧げた後に土葬した。トータスの文化的には墓は十字架にすべきなのだろうが、神に抗った者に十字架とゆうのも妙な話なので、宗教に関わらない様式の墓石にした。
尚、"
オスカー・オルクスの亡骸から思念を読み取り過去を視たので、恐らくは解放者から得られる情報の大半を取得出来た筈だ。幾つか貴重な情報はあったが、最も有益なのは帰還手段の確立に目処が立った事だろう。
概念魔法、名の通りに概念を創る魔法。これを修得するのが確実だ。それに恐らくはこの魔法が、エヒトが神を気取っている要因の一つなのだろう。
修得条件は神代魔法を七つ修める事と極限の意志らしい。神代魔法の本領は理に干渉するモノであり、組み合わせて用いる事で極限の意志に合致した概念を創り出す。プロセスとしてはそんな所だが、極限の意志とゆうのは大雑把で曖昧だ。当の解放者達も酒の席で愚痴を吐き出す、なんて形で成功した様だし詳細は要検証である。
極限の意志は置いておくにしても他の神代魔法も扱えなければならないが、これに関しては"大迷宮"を周るより手間の少ない方法がある。結局、多少の時間は必要ではあるが。
兎も角、今はアレーティアの鍛練に付き合うのが先だ。
「さて、鍛練に付き合えって話だが………弱所の近接戦を何とかしたいって事でいいんだよな?」
「一人で大迷宮を巡る以上は接近戦が出来ない等と言ってはいられませんから」
「なら……んー、そうだなぁ」
これまでのアレーティアの戦術と体格や性格等から、短期間で接近戦を補い得る方法を考える。
魔力操作による身体強化の効率上昇は前提だ。出来なきゃどうしようもない。その上での方法、か。
徒手格闘………は無いな、体格が物を言う要素が大き過ぎる。武器を扱うのが妥当。それでも場数や技術の差を埋め得る要素は必要になる。出来れば魔法に頼らない手段が望ましい、となると。
「何か扱った事のある武具はあるか?」
「武具、ですか。…………剣術を嗜み程度にですね」
「実戦レベルでは無い、と。なら片っ端から試すか」
〝錬成〟を用いて適当に多数の武器を作る。
剣、槍、戟、鎌、斧、棍、槌、と多種多様な武器を乱雑に放っていく。但し小型の得物は却下、その場合は結局 相応以上の格闘技術も必要になる。
「身体強化の効率上昇と並行して武具の適性を見ていく。取り敢えず、これ全部試すまでぶっ通しな」
「こ、この量を………ですか?」
周囲には武具が山の様に積み上がっている。その数は優に千は超える。剣や槍といった大まかな分類だけでなく、細かな種別まで網羅した為だ。
「勿論。ただでさえ突貫だからな、ゆっくり丁寧に なんてやってられん」
「わ、分かりました」
口元が引きつってはいたが了承し、傍にあった細みの曲刀を手に取り構えた。
自分も同じ曲刀を作り構える。
「魔法は無しで常に身体強化した状態で打ち込んで来てもらう。僕も同様の武具で応じるから、よく観てやってみな………………じゃ 始め」
「行きます!」
自分の宣言と同時にアレーティアが斬り掛かり、近接改善の鍛錬がはじまった。
数時間が経ち、辺りに大量の武具の破片が散乱する中でアレーティアは息切れして倒れ込んでいた。
「はぁ……はぁ……コホッ………はぁ、はぁ……」
「やっぱり身体強化が大分お粗末だな、アレーティアの魔力量ならもっと上げられる筈。それに結局 武具は多少は心得のある剣で良さそうだ」
改めて観察した結論である。とはいえ身体強化に関して言えば、アレーティアは天才肌の感覚派の様だから多少コツを教えれば何とでもなりそうだ。
寧ろ武具の方が問題。魔法のみで戦術を組み上げて来たからか、武術はからっきし。正直 どの武具の扱いも団栗の背比べといった所だった。となれば剣の仕様は体格に誂えたモノにするのがベスト。
(刀身は長過ぎず短過ぎずな幅狭の厚めで両刃、柄は鍔付きで両手持ち可の細め、重心の位置は手元の直剣。なら………こんなトコかね)
観察結果からアレーティアが扱い易い仕様の剣を作る。あくまで鍛錬用なので細かく作り込みはしないが。
「それを使って剣術を教える………って、そろそろ立とうか」
「はぁ はぁ…………もう少し、待って下さい………」
アレーティアはまだヘタリ込んでいた。三日しかみてやれないので時間に余裕は無いのだがな。仕方無いので血を与える為に、手首を切り小瓶に注いで渡す。
気付けばこの数日でかなり血を抜いている。これ以上は避けたい、ちょっと怠い。
「血だ。飲みながら聞け」
返事を待たずに話し始める。
「剣術はひたすらの実践で習得して貰うとして。身体強化はアレーティアなら直ぐにでも精度が上げられる筈だ。
今の大雑把に全身に流してる状態から魔力の流れをもう少し細かく制御するだけでいい。具体的に表現するなら、そうだな………血流に沿って身体の細部まで行き渡らせる、とゆうのがイメージしやすいか?」
「自信があった訳でもありませんが………、そんなに雑でしたか?」
血を飲んで回復したアレーティアの疑問に対する回答はYESだ。
「現状は魔力と比して等倍かそれ以下の精度だと観てる。けど今の制御能力でも少なくとも倍はいける筈だ。やってみな?」
「……血流に沿って………細部に行き渡るイメージ…………」
アレーティアは目を閉じ、集中し始める。
「!」
少しして勢いよく目を見開くと、手を握ったり開いたりして調子を確かめだした。
「これは確かに、もっと上げられそうですね」
手応えは掴んだ様子、大体 五割増しになった位か。
「じゃあ 再開するぞ。今度は助言もするから、身体強化の上達も含めて意識しながら来な」
「はい………!」
武具は剣に絞り鍛錬を再開、夜まで続けた。
夜間は鍛錬はせず休息をとる事にした。
アレーティアは血を与えれば動けるだろうが、これ以上 血を与えてると怪我もしてないのに貧血になりそうだ。それに自分にはアレーティアに鍛錬をつける以外にもやる事がある。
隠れ家の三階。椅子に座り神代魔法授与の魔法陣を解析する。
この魔法陣の術式には複数の役割がある。
1.大迷宮の試練を突破したかの記憶の精査
2.魔法陣の改竄などの干渉防止
3.解放者の記録映像の再生
4.〝生成魔法〟の授与
5.攻略二組目以降の者達への攻略の証の生成
6.大迷宮の外への転移
7.七つの神代魔法の本領の情報授与
8.〝概念魔法〟の概要授与
と、これだけの効力を一つの魔法陣に落とし込んでいる。
これ程の技術と才覚を有していたのなら、解放者達が非情に徹する事さえ出来れば、正直 エヒト如き始末するのは可能だった筈だ。致し方無いとはいえ、実に惜しい。
少し、思考が逸れた。
自分が用があるのは7、本来ならば全ての大迷宮を攻略した後に得られるモノだ。しかし、今 この場で魔法陣を完全に解析してしまえば七つの神代魔法を扱う事が可能になる、のだが・・・
(やはり、そう簡単にはいかないな。干渉防止もだがそれ以上に複数の効力が織り交ぜられてるのが厄介だ。ただでさえ多い情報量を解析しなけりゃならねェのに)
確実に今日中は不可能。だがせめて帝国の使者が来るまで、つまりは四日の内に解析しきりたい。
「…………っとに、面倒くせェ」
屋外で剣戟の音が響く。
格式ばった型など無く、実践を繰り返す事で短期での実戦剣術の習得をさせる。
「はぁっ!」
「決め手にならない刺突に全力は止めとけ、見切られるのがオチだ。攻撃に緩急をつけて虚をつきな」
アレーティアの刺突を逸し、返す刃で崩しをかける。
「くっ!」
「間合いを切るにしても無策に下がろうとするな。それは只の隙になる、視線や気当りで相手の意識を誘導しろ」
後方へ下がろうとした瞬間に同等の距離を詰め、間合いを切らせずに斬り掛かる。
一合、二合、三合、四合と切り結ぶが五合目で押し切り、そのまま吹き飛ばす。
「〜〜〜っ!」
飛ばされた先で即座に受け身を取り跳ね起きるアレーティア、間髪入れずに再び切り込んで来る。
「身体強化が上達しても体格の不利が無くなる訳じゃない。まともに受けずに逸らすか往なすかの技術を盗め」
追撃せずに待ち構えて応じ、見本になる様に剣閃を逸らす又は往なして見せる。そして、ある程度 技術を見せた頃合いで反撃する。
すると、アレーティアも自分の一太刀を逸らしてみせた。
「それでいい。けど──ー」
剣を逸らされ自分の体勢が泳いでいるとみて、アレーティアの目に “入った”、と確信の色が浮かぶ。
「──ーあからさまな誘いに乗らなければ尚良し、だな」
逸れた剣の勢いをそのままに背面で持ち替え、そうして剣を引き戻していては間に合わない対応を間に合わせる。
「えっ?」
甲高い金属音が鳴り、アレーティアの手から剣が払い落とされる。視界の外で持ち替えた事で、急に現れた剣に反応が出来なかったのだ。
「遠距離と近接じゃ誘いの見極め方が違う。そこんトコの判別は必須だな」
「…………続きを、お願いします」
上がり始めていたた息を整え、落とされた剣を拾って構えをとる。剣の構えも初期に比べれば隙が減っており確かな上達が窺える。
「いい調子で身体強化も上達してるな。よし、続けよう」
再び剣戟の音が鳴り響き、鍛錬を再開する。
技能〝自動再生〟によって技能発現時から肉体の成長が停止しているアレーティアの体力が増す、それは技量の上達とイコールだ。
傷を負っても自動で治り歳も取らない、メリットしかない様に聞こえるが相応にデメリットもある。歳を取らないとゆう事は肉体の変化が停止している訳で、つまり身体機能は決して上昇しないのだ。
筋肉・骨・細胞が一時的に傷付き修復する、それを繰り返す事で生物は成長する。しかし〝自動再生〟がそれすら元の状態へ再生させる以上、どれほど鍛えても筋力もつかなければ体力も増えない。
そんな頭打ちの状態であるなら、身体をより効率的に操る術を身に付けなければ進歩は無い。そして、決定的な差異を持つ者は他者からの教えもある程度までしか意味を成さず、その先は自身で手探りするしか方法は無い。
故に先人が練り上げた流派などを説くのではなく、只管な実践による技術の習得をさせている訳だ。
「ぅあっ!」
再びの金属音と共に剣が弾き飛ばされ地面に刺さる。
「残念、今のも誘いだ。自身で隙を作ったんじゃなく、相手に作られた隙。距離が近いからって視野を狭めるな」
「………はぁ、はぁ…………もう一度、お願いします」
「よし、来な」
「はぁぁっ!」
気合と共に踏み込むアレーティアに応じて再び斬り結ぶ。
特定の相手との手合せが続く事による癖がつかないよう、仕切り直す度に構えや太刀筋をズラして相手をする。
(………着実に上達しているな。この調子なら明日にはある程度 様にはなるか)
こうして昼間は実践によるアレーティアの剣術の鍛錬、夜間は魔法陣の解析に努めていき、三日が過ぎた。
三日間の鍛錬を終えた翌朝。
「クレイ。昨日までの教示、感謝致します」
「失言の詫び代わりだったんだから、気にしなくていい」
他の大迷宮の攻略へとアレーティアは出発するそうだ。
残念ながら神代魔法授与の魔法陣の解析はまだ八割といった所。仮に終わっていたとしても技術に落とし込んで扱う以上はすぐさま他人に教えられる訳でも無いし、大迷宮を巡る事自体に意味はあるので教えはしなかっただろう。
(だが、餞別くらいはやろうか)
鍛錬用に作った剣を持ったまま行こうとしたアレーティアを静止する。
「待った。その鍛錬用の間に合わせを使うのは終いだ」
「?…………間に合わせと言うには出来が良過ぎませんか?」
「アレーティア専用の剣を作ってやるって事。大迷宮の魔物にも通用する様になっても、ヒュドラモドキと同レベルの相手には不足だろ?」
「それはそうですが………材料はどうするのですか?」
迷宮探索の間も隠れ家に着いてからも鉱石の採掘などしていない、それ故の疑問だろう。
「心配ない。オスカー・オルクスの神代魔法が〝生成魔法〟だったんだから隠れ家に工房くらいある、相応の鉱石だってな」
封印がかけられていた二階の部屋は書斎と工房、鍵は遺体が身に着けていた指輪。予め拝借しておいたそれで工房に入り、そこにある鉱石を材料に使う。
いざ作成の前になって、一つ確認するのを忘れていたのに気付いた。
「………一応、確認なんだが」
「?……何でしょうか」
「血の摂取による魔力の回復は技能だよな?」
「〝血力変換〟のことですか? 吸血鬼なら誰でも使える技能ですが、それが何か?」
ちゃんと技能だった様だ。もし、ただの体質だったら魔法付与の予定が変わる所だった。
「なら、この鉱石に付与を頼んだ」
「鉱石に〝血力変換〟を? ………〝生成魔法〟なら出来るでしょうけれど、武具に付与してどうするのですか?」
「ま、少し待ってな」
アレーティアから〝血力変換〟を付与した鉱石を受け取る。その他にも工房にあった幾つかの鉱石を使い、武具の作成を始めた。
オスカー・オルクスが持っていた神代魔法である生成魔法は初歩として鉱石への魔法・技能の付与を可能にする、が………その程度なら魔法陣の術式を突き詰めていけば無くても出来る。本領は無機物全般に対する干渉だ。
しかし、今はどうでもいい。神代魔法の本領、理への干渉はトータスが下位世界である事を結論付けるだけ。今、重要なのは生成魔法によって魔法・技能の付与をより効率良く行える事実。
(〝血力変換〟の鉱石を芯材に、単純な強度と温度変化の耐性を上げる為に性質の異なる鉱石を数種類使用し複雑に多層化させて練り合せる)
先ず、元となるインゴットを作り・・・・・・
(その際にそれぞれの鉱石へ複数の魔法術式を重ねて付与、これで一つの物体に付与できる魔法術式の数的制限を超えて重複できる)
同時に付与を実行・・・・・・
(重複した術式を調整し効率を引き上げながら鍛える)
・・・・・・剣へと収斂させる。
「…………フゥー、完成っと」
完成したのは、十字鍔の直剣。全長一メートル刃渡り七十五センチ、華美な装飾は施しておらずシンプルな西洋剣としての造形、しかしそれ故に武具としての質の高さは一目で判る仕上がりになった。
限界を計る意味も込めて自分の魔力の大半を使った結果、トータスで見たアーティファクトの中ではかなり上等な部類に入る代物になった。
(………まぁ、こんなモンか)
残り僅かな魔力で鞘を作成し納めてから渡す。
受け取ったアレーティアは剣の出来栄えを観て少し慄いていた。
「こ、これは………流石に、私には過ぎた逸品ではありませんか……?」
「気にするな。どの道、他の奴には使いこなせやしない」
「どうゆうことですか?」
アレーティアの目には余程の名剣にでも映ったのかも知れないが、十全に扱うにはそれなりに条件がある。
「その剣に大した付与はしてない。精々が剣の強度・耐性・切れ味と所持者の全身体能力の上昇って程度だ」
「十分では?」
「そうかもな。けど、それじゃ少し強いだけの剣だろう? 重要な特徴は〝血力変換〟による全性能の強化だ」
「敵の血を吸い強くなる訳ですか」
「違うな、吸うのは使用者の血。敵の血じゃあ強化のタイミングが限られる上に非効率だ」
「なっ………!」
軽く悍ましいモノ見る目を向けてきたが説明を続ける。
「無論 敵の血でもいいが斬りながら吸える量は高が知れてるし、刺して吸わせる位ならそのまま刺し殺した方が早い。だから使用者の血を吸う機構を組み込んである。
当然 この機構を使った場合、剣の性能は飛躍的に高まる。通常時とは比にならない程にな。他には吸った血を消費して斬撃の拡張や魔力の増幅だとか、〝血力変換〟を利用した機能が幾つか。
つまり、高い再生能力か異常な血液生成能力が無いと真価は発揮しないって訳だ」
吸血鬼のアレーティアでも使用者の血を吸わせると聞いた際は引き気味だったが、説明を聞き終える頃には納得した様子になった。
「実質、〝自動再生〟のある私専用の剣ですね」
「そう言う事。それを使い熟せれば対策どころか魔法無しでも十分だろうよ、あとついでにコレも持ってきな」
「この指輪は………まさか〝宝物庫〟ですか!?」
渡した紅い宝石付きの指輪は〝宝物庫〟とゆうアーティファクトで、付与された魔法空間内にあらゆる物を収納出来る代物。オマケにいれた時点から状態は維持される便利機能付きときた。
「オスカー・オルクスの遺品だが………神殺しの意志を継ぐ者が使う分には本望だろうさ。昨夜の内に旅に必要になる物は粗方いれといた」
「本当に何から何まで…………重ね重ね感謝致します」
「旅についてはいけないが、多少の助力はするさ。勝手な召喚をしたエヒトには思う所しかないしな」
と言うより、帰還ついでに始末すると決めた。しかしそれは少し先の事、一般人共は帰せる様にしておかねばならないし、エヒトの所在も曖昧だ。それなら、いざとゆう時の協力者はいて困る事は無い。
「ま、アレーティアがエヒトに挑むって段になっても僕がトータスにいたら、その時は手を貸すよ」
「それは心強いですね。………ですが、この世界の事情に巻き込んでしまった異邦の方々に命を懸けろ、とは言えません。クレイ達が故郷へいち早く帰還できる事を願っておきます」
既に亡国の女王と言えど王族として為政者として、異世界の人間すら巻き込まれている事に思う所があったらしい。
「そうかい。ならせめて、アレーティアの武運を祈るとしようか」
「ええ。クレイもお達者で」
別れの挨拶を済ませると魔法陣を起動させてアレーティアは出立した。
「さて、帝国の使者が到着するのは今日の昼だったな。それまでに解析を終わらせねェとな」
アレーティアを見送った後、魔法陣の解析の仕上げに取り掛かった。