ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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十一話 帝国の使者

 

 

「よし。ギリギリだったが解析終了」

 

 神代魔法授与の魔法陣の解析が完了したのは太陽が頂点を差すかどうかといった所だった。

 帝国の使者の到着予定は今日の昼過ぎ、本当にギリギリ何とか間に合った。絶対の期限とゆう訳では無かったが動きにくくなるのは確実、故に間に合って万々歳だ。

 これで七つの神代魔法を行使する事が可能。〝概念魔法〟を扱う、つまりは帰還手段の足掛かりを得られた。とはいえ、検証するのは後回しになる。

 そろそろ帝国の使者とのご対面の時間が近づいてきている、王都へ戻らなければ。

 

 

 

 

 

 王城の謁見の間に帝国の使者達が訪れた。

 迎えたのはエリヒド国王と教皇イシュタルを始めとしたハイリヒ王国と聖教教会の重鎮と、ベヒモスを討伐した“勇者御一行”として戦争参加組の生徒等だ。

 

「使者殿、よくぞ参られた。勇者方の武勇を、存分に確かめられるがよかろう」

 

「陛下。この度は急な訪問の願い、聞き入れてくださり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

 

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前に出てくれるか?」

 

「はい」

 

 形式的な定型文の挨拶を交わし"勇者"のお披露目に移る。そして、額面上の訪問目的であるベヒモス討伐の真偽を確かめていく。

 しかし分かりきっている事だが、ベヒモスの素材や戦いの証言を示した程度で『はい、分かりました。勇者を人類の代表として認めます』等とはならない。

 

「成程、確かに勇者様達はベヒモスを討伐したようですな」

 

「帝国の方々にも信じて頂けましたか?」

 

 天之河は信じてもらえたと喜色を浮かべているが、当然 そんな事は無い。ここはトータスの大国同士の、外交の場なのだから。

 

「しかし、聞けば王国最強のメルド騎士団長殿もその場にいらしたのでしょう? 勇者様本人の実力の証明には少々足りませんかな」

 

 そう言うと、使者の男はさり気なく国王と教皇に視線を送る。提案したい事は分かっているだろう? とばかりに。天之河は気付いていない様子、表情から不満が隠しきれていない。

 

「メルドさんのお蔭ではないかと疑っていらっしゃると?」

 

「いえいえ、貴重なお話ではありましたとも。されど私共、帝国としてはやはり直に実力を見せて貰いたい。なので私の護衛と模擬戦をしてもらえませんか? そうすれば、一目瞭然でしょう」

 

 戦時下の外交とゆうのは基本的に戦後を見据えたモノになる。ここで帝国側は王国と教会が擁する"勇者"を認めたくないのだ、容易に認めてしまえば戦後のイニシアチブを完全に持っていかれる。認めるにしても外交上の影響力は削いでおきたい、この模擬戦はそれ故の提案だろう。

 

「俺は、構いませんが………」

 

 実力を疑われてる事に不満でも言葉を尽くせば認めてもらえるとでも思っていたのだろう。天之河は戸惑いがちに国王の方へ振り返る。

 だが、帝国のお国柄を知っている者達からすればこの展開は想定内。いとも容易く許可は下りる。

 

「構わんよ、光輝殿。その実力、存分に示されよ」

 

「決まりですな。では、場所の用意をお願いします」

 

 こうして模擬戦もとい決闘の開催決定である。

 

 

 

 天之河を相手する使者の護衛は見るからに平凡な男だった。特徴とゆう特徴が無く、いっそ不自然さすら感じる程の平凡さの塊。護衛の割には強そうに見えない。

 少なくとも天之河も含め、この場の人間の大半がそのように認識している。しかし・・・・・・

 

(護衛とかよく言う。する側じゃなくて、される側だろうに)

 

 ちゃんと観れば直ぐに判る。平凡さの塊の様に見えて、身に着けてる装飾品の中に明らかに質の違うイヤリングがある。間違い無くアーティファクト、効力は変装ってトコか。

 わざわざ変装するとゆう事は、この人数の護衛では釣り合わない身分の人物。それにそもそも、不利な戦況の中に訪れた大きな変化を軍事国家のトップが見定めに来ないとは考え難い。つまり、正体は帝国の皇帝陛下ご本人。

 

 そんな事にも気付かぬまま、見た目と無造作な所作に油断しきった天之河が宣言と共に斬り掛かる。

 

「いきます!」

 

 結果は当然────ー

 

 

「ガフッ!?」

 

 

 ────ー返り討ちである。

 

「…………おいおい、勇者ってのはこんなもんか? なっちゃいねぇとかのレベルじゃねぇぞ。やる気あんのか?」

 

 護衛の男が乱暴な口調で言い捨て、呆れや失望以上に疑念の籠もった視線を送る。

 皇帝が為政者としてどうかは判断しかねるが、戦闘者としてはボンクラでは無さそうだ。天之河の実力がベヒモスを討伐しうるモノではないと、今の一合だけで気付いたらしい。

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

「戦場じゃあ"次"なんてないんだがな」

 

 改めて油断を無くした天之河が全力で挑むが──ー勝てない、実力差は変わらない。

 技量や経験は当然ながらステータスですらも劣って気構えも足りてない、最初から天之河に勝てる要素は無いのだ。

 

 結局、あっさりと天之河は敗北した。

 

「はぁ〜、ベヒモスを倒したって言うもんだから期待してたんだが…………がっかりだな」

 

 本気で落胆してる様子を観るに多少の期待はあったらしい。しかし、このまま終わられると折角 国や教会に対して召喚者の発言力を強めた意味が無くなる。

 

「随分な言い草ですね、少し滑稽です」

 

 露骨に嘲りを含んだ言葉を発しながら割り込む。強引な形ではあるが意識を引くにはこれ位で丁度いい。

 

「あぁ 誰だ、お前は?」

 

「勇者様と共に召喚されたしがない魔法職ですよ。接待試合に勝ってご機嫌の、皇帝陛下殿?」

 

「ほぅ、見抜いてるヤツもいたか」

 

 イヤリング型のアーティファクトを外して変装を解いた。

 姿を現したのは、野性味に溢れた堂々とした威風の男。歳は四十半ば程か。短く切り上げた銀髪に鋭い碧眼、筋肉質でありながら引き締まった身体。自身が"強者"である、そんな自信に満ちた佇まいをしている。

 話に聞く、ヘルシャー帝国 皇帝ガハルド・D・ヘルシャーの容姿と完全に一致する。

 

 その姿を目にした周囲が驚愕する。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

 驚いていないのは帝国側と自分を除けばイシュタルのみ。教皇しか気付いてなかったのは流石にお粗末だな。しかし、国王は喧騒を取りなすとガハルドを問い詰める。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

 

「これはこれは、エリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。

今後の戦争に関わる重要な事だ。無礼は許して頂きたい」

 

 エリヒド国王の嘆息する様子から皇帝のこういった行動は珍しくもないらしい。一国の主の割に自由人の様だ。

 

「それで、しがない魔法職とやら。俺が滑稽とはどういう意味だ?」

 

 問いと共に威圧的な眼差しを向けてくるがその程度で怯む神経は持ち合わせていない。

 

「貴方様が皇帝陛下である事、それが答えですよ」

 

 本当に只の護衛が相手だったなら体裁を整えるのは面倒だったが、皇帝陛下ご本人様だったお蔭で手間が減って助かる。

 

「貴方様の変装を勇者は見抜いていた。そしていくら相手から言い出したとはいえ、外交の場で遠慮なく叩きのめしていいのか戸惑った勇者は国王陛下の意見を仰いだものの。国王陛下は気付いておらず、結果 勇者は貴方様の顔を立てる為に適度に加減した。

だから、その事に気付いていない貴方様が滑稽でこれは接待試合だ、と申したのですよ」

 

 無論 天之河は正体に気付いてなどいないし、手加減もしていない。だが模擬戦を申し込まれた際に戸惑っていた事や、国王の意見を仰いだのは事実。

 要は、一概には否定できない訳だ。

 

(ま、天之河本人が否定すりゃ終いだけど。コイツはそうゆう事はしない)

 

 ご都合主義者な天之河にとって、“自身に都合の良い事を否定する”なんて選択肢は余程の事が無い限りは存在しない。

 

「へぇ、つまり何だ。本気なら俺なんざ相手にならねぇ、とそう言いたいのか?」

 

「勿論ですとも。…………な、天之河?」

 

「そ、そうだ!」

 

 敬語が外れていたが、案の定 考えなしに天之河は肯定した。

 それを聞き、ガハルドは威勢よく再試合を宣言した。

 

「いいだろう! もう一度やってやる、今度は本気で来い!」

 

 乗ってくるのは分かっていた。実力主義を謳う帝国からすれば接待試合なんて最上級の侮辱だ。このまま帰る、なんて真似は絶対に出来ない。

 

 

 そうして始まる三度目の模擬戦。

 

 

「遠慮なく来い。何なら勢い余って殺っちまっても構わねえ」

 

 “接待試合に勝ってご機嫌”とまで言われたガハルドの頭からは、実力を見極めるなんて思考は完全に消えている。

 

「間違っても殺したりはしません! けど、もう遠慮もしません」

 

 一方、天之河も今度は勝てると根拠もない自信に溢れている。

 

 何方もいい具合に火が付いている。これで、この後の結果にはイチャモンなど誰もつけようが無くなった。

 

「では、始め!」

 

 立会人、とばかりに自分が開始の合図を出した。

 

 

「「おらぁあ!/うおぉっ!」」

 

 

 双方が同時に斬り掛かり真正面から激突────

 

 

 ドオオォゥンッ!!

 

 

 ──拮抗すらせず一方的に吹き飛ぶのは天之河──

 

 

「ぐおあっ?!」

 

 

 ────では無く、ガハルド・D・ヘルシャー。

 

「「「「陛下ぁ!?」」」」

 

 謁見の間の壁をブチ抜いて吹き飛んだガハルドへ護衛達が駆け寄っていく。

 

「おいおい、天之河。遠慮無しって言っても王城は壊すなよ」

 

「え、あ! ………す、すまない」

 

 結果にどこか驚いてる様子の天之河をもっともらしい理由で諫める。そんな面でいられては困るからな、周囲が疑念を抱いてしまう。

 

 護衛達が向かってから少しすると、穴の開いた壁の向こう側からガハルドが身体を引き摺りつつ戻って来た。

 

「さて! ガハルド皇帝陛下、まだ勇者の実力に疑いの余地がありますか?」

 

「…………いや、ねぇな。帝国も勇者を認めよう」

 

 苦虫を噛み潰したような表情ではあったがガハルドは確かに公の場で勇者を認める旨を告げた。

 

「では、皇帝陛下の治療をして模擬戦は終了ですね」

 

 それっぽい詠唱を短縮して回復魔法を行使、ガハルドを回復させる。自分に幾つかの視線が集まっているが気付かぬフリをして下がる。

 

(…………どうやら違和感に気付いてる奴はいるらしいな)

 

 当然ながら今回も天之河の実力では無い。やった事はベヒモスの時と同じだ、自分がPSIで介入しただけ。

 "W・H(ワイヤレス・ハック)"で二人の思考を誘導し正面から斬り掛からせ、衝突の瞬間に天之河の剣に纏わせていたバーストエネルギーを開放した。結果として勇者が圧倒的な実力で皇帝を降した、様に見えるって訳だ。

 然し、今回は場の空気に呑まれていなかった連中も多い。流石にそいつ等の一部には違和感をもたれただろう。これ以上は同じ手を使うのは少し控えるか。

 とはいえ、これだけお膳立てされた上での結果に口を挟める奴もいない。この場に関しては問題無しだ。

 

 

 後は大した波乱も無く帝国側との会談は終わった。

 

 

 

 

 晩餐会の後、帝国の使者に宛てがわれた部屋。

 其処で皇帝ガハルドと護衛の部下達の会話が交わされている。それを自分は"リカーニセンス・ビット"を発動し傍受していた。

 今後の帝国の動向を確かめておくにはこれが手っ取り早いからだ。

 

「勇者があれ程の力をもっているとは、直に見ても信じ難いです」

 

「他の目がねぇから言うが、あれは違ぇよ。しがない魔法職とか言ってやがった若造の方だ」

 

 部下の感想に対し、苦々しげにガハルドは言う。

 

「と、言いますと?」

 

「それらしい事を言って三度目を焚き付けてきたが、二度目の手合せの時点で勇者のガキは明らかに全力だった。何より最後の一撃、あれはほんの僅かだったが………確かに剣が触れた瞬間に吹き飛ばされた」

 

「それは不可解ですね。しかし、小細工を弄したなら一体どうやったのでしょう? 魔法やアーティファクトを使った素振りは見られませんでしたが………」

 

「さぁな、どうやったかまでは定かじゃねぇが、やったのは間違い無くあの若造だ。あいつなら誰にも気付かれずに魔法を使うぐらいやれるだろうよ。中級に偽装して上級回復魔法を使ってやがったからな…………まぁ、それもワザと分かる様にやったみてぇだがな」

 

 正解だ、ちゃんと気付いていたらしい。

 

「誰にもバレない介入手段を持っていながら、何故にそんな特定される様な行動をとったのでしょうか。意図が読めませんね」

 

「読めるんなら立ち回りようもあるが、難しいだろうな。優れてんのは魔法の腕前だけじゃねえ、恐らくは謀の類いもだ…………イシュタルのジジイですら、あの若造を避けてる様子だった」

 

「なっ!? あの老獪な教皇が………それは、つまり……」

 

「おう。王国どころか教会も手の平で転がしかねねえってコトだ」

 

「………陛下はこれからどうされるおつもりですか?」

 

「決まってる、出し抜かれっ放しにはいかねぇからな。帰ったら情報網を強化するぞ。本人に限らず動向を注視、確実に対応して今回の負債も巻き返す。こっから忙しいぜ、お前らも気張れよ」

 

「はっ! 了解です」

 

 

 その後、十分な情報を得たと判断した所で帝国の連中の傍受を終える。

 

 どうやら皇帝は為政者としてもボンクラでは無かったらしい。だが、やはり思考は軍事の人間だな。現況からの判断は正しくても、散らばった朧気なピースから先を組み上げた予測がしきれていない。

 自分への対処をしたいなら半端に引いて観察するのでは無く、生徒等を抱き込むか周りに手駒を挿むなりして動きを制限するのが正解だった。まぁ、それをさせない為に立ち回った訳だがな。

 懸念点は解消された。皇帝が予想以上に優能だったり無能だったりして、幾つかの事前予測から完全に外れた動きをされるなんて事は無さそうだ。予測の範囲内な上に一番都合が良い展開だ。密偵や間諜が増えてくれるなら、むしろ情報の搾取も操作もやりやすい。

 

 

「さぁ〜て、徐々に動き易くなって来たぞ」

 

 曖昧だった筋道がハッキリと輪郭を帯びてきた、そう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その確信が間違いだったと知るのは、もう少し後の事だった。

 

 





 ヌルゲーの終わりが近づいてきている
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