ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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十三話 教会の惨劇

 

 

 実地訓練再開の期日前夜──ー

 

 

 人々が寝静まった真夜中の王都に爆発音が轟いた。

 

 

「「「「「「「────っ!!?」」」」」」」

 

 

 爆発音は一度目を皮切りに二度、三度と何度も轟き渡る。

 

「な、なんだよ?! 」

 

「何が起きてるんだ!!?」

 

「「爆発!?」」

 

「一体どこで?!」

 

 王都の民衆に限らず、寝ていた生徒等も飛び起きて外へ出て原因を確かめる。そして発生源はすぐに分かった。

 

 

「"神山"が、燃えてる!!?」

 

 

 聖教教会の総本山、そんな場所で爆炎が上がっている。"神山"の麓にある王都は炎に照らされて夕暮れの様に明るい。

 

 言うに及ばぬ非常事態。だが、何が起きているのかが分かった訳ではない。誰も彼もどうしていいか分からずに何も行動に移せずにいる中、伝令役の騎士がメルド団長からの集合指示を伝えた。

 

「メルドさん! "神山"で何が起きてるんですか!?」

 

 集合場所に指定された中庭に着くなり、真っ先に天之河が状況の説明を求める。

 

「詳しい事は判っていない…………だが、"神山"の教会神殿が魔人族の襲撃にあっている事は確かだ」

 

 魔人族の襲撃と聞いて皆がザワつく。

 それはそうだ。本格的な開戦まで猶予があると聞かされていたにも関わらず、大規模な襲撃が起きているのだから。

 

「既に動ける騎士達は対処に向かったものの戦闘は続いている。お前達にとっても早過ぎるだろうが実戦だ……!」

 

 メルド団長の様子からするに苦渋の決断。訓練すら終えていない生徒等を実戦投入するのを決めたのは本人では無く、上の為政者達だろう。それでも殉ずるのは、王国の騎士団長とゆう立場による責任が故だ。

 

「これより戦争参加を決定していた者達は俺と共に神殿に向かい、魔人族を迎撃するっ!!」

 

「「はいっ!/おう!」」

 

 威勢よく声を上げれたのは天之河と坂上のみ。他の者達は声を上げてはいたものの、不安、恐怖、混乱、動揺、怯え、理由は様々ではあるが萎縮しているのを隠せていなかった。無論、自分は例外として除くが。

 当然ではある。何れは来る事だと覚悟していた者もいただろうが、余りにも早く突然だった。

 この状況のクラスメイトの内心を正しく察せた訳では無いが、"勇者"らしく天之河は鼓舞する。

 

「皆、大丈夫さ! ベヒモスみたいな怪物だって倒せたんだ!俺が必ず魔人族だって倒してみせる!」

 

「おうよ! 何とかしてやろうぜ!」

 

 天之河の言葉に坂上が乗っかる。いつも通りの無根拠に無思慮ではあるが、こんな時でもカリスマとも言える影響力は発揮されて生徒等は士気を持ち直した。

 一応は平静を取り戻せた事もあり、メルド団長の後を続き"神山"の神殿へと向かう。

 

 

 

 "神山"は標高八千m級の山であり、その神殿まで行くのに徒歩では当然として馬を使っても時間がかかる。マトモな通信手段の無いトータスでは伝令も覚束ない立地。襲撃されたなら普通は手遅れだ。

 それでも、僅かとはいえ情報が伝達されたのは神殿から王都まで直通の魔法式のリフトが存在するからだ。本来は教会での身分の高い者しか使用は許されていないが今は緊急、そんな事を言ってはいられない。

 余談ではあるが、トータスに召喚された日に"神山"からハイリヒ王国へ移動した際に使用されたのもこの魔法式のリフトである。

 

「………どうして王都を無視して、神殿が狙われたんだろうか?」

 

 リフトでの移動の最中、一人の生徒が疑問を口にした。

 

 生徒の名は永山 重五。柔道部員であり坂上に負けず劣らずの大柄な体格をしているが、比較的 慎重に物事を考える性格をした男子生徒だ。なお、天職は"重戦士"である。

 

「どうしてって、魔人族からしたら異教徒の総本山だからじゃないのか?」

 

 永山の疑問に、同パーティの友人である野村 健太郎が答える。

 

「それはそうだが、戦力としての中心は王都の方だ。攻めるなら王都を優先するはずだ」

 

 突然の襲撃に対する動揺で誰も頭が回っていなかったろうが、落ち着いて考えれば抱いて然るべき疑問である。

 

「う〜ん……大結界を破れなかったんじゃない?」

 

「大結界って確か、王都が不落の理由のアーティファクトだよな」

 

「それなら辻褄が合うな!」

 

「………合わないんじゃないかな」

 

「攻め込むならそれなりの準備はするはずでしょ」

 

 疑問の輪は広がり、各々が考えを述べていくが整合性のとれる解答はでない。

 

「メルド団長。何か考えられる理由はありませんか?」

 

 ハイリヒ王国の軍事責任者とも言えるメルド団長にお鉢を回す。

 

「……いや、知らんな。直近の情報でもこんな急な攻勢をかけてくる素振りもなかった筈だ」

 

 微妙な間があったがメルド団長も答えを持っていないと言う。

 

「今は考えたって仕方ない。とにかく、教会が襲われているのは確かなんだ!理由を考えるのは魔人族を倒してからでいいさ!」

 

 結局 メルド団長ですら分からない理由を生徒等に分かる筈も無く、天之河の総括によって疑問は捨て置かれる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 "神山"の神殿に着いて目にした光景は悲惨だった。

 豪奢な装飾を施された神殿は爆撃でも受けたかのように、至る所が崩れて火の手が上がっていた。内部からは今も争いが続いている証拠として騎士の雄叫びと神官の悲鳴が響いている。

 何より嫌でも目に入る、そこら中に散らばるモノ。

 

「ひぃっ!」

 

 手足や首が千切れ飛んでいるモノ・・・

 

「こ、これって……!」

 

 腸を溢したまま火に焼かれたモノ・・・

 

「ぁぁ、あ…………」

 

 ぶち撒けられた脳漿や臓物に身体のパーツ・・・

 

「どうして、ここまでっ?!」

 

 夥しい数の著しく破損した人間の死体、それが焼けた臭いが漂っている。

 

「ぅぷ………、オェエッ!」

 

 一部の生徒が耐え切れずに嘔吐した。

 日本で普通に暮らしていれば、ここまで生々しい死体を見る機会はそうそう無い。至って正常な反応だろう。

 

「お前達は出来る限り見るな………。酷だろうが進むぞ、ここで立ち止まる訳にはいかんのだ」

 

 メルド団長の言う通りに皆 出来る限り視界に入れずに進もうとするが無理な話だ、余りにも数が多すぎる。中へ進んでも散乱している死体を見る度に生徒等の精神は擦り減っていく。

 

 殆どの者が戦い始める前から意気消沈してしまっていた。戦意を保てているのはご都合主義フィルターのお蔭で義憤に燃えてる天之河くらいだ。

 こんな有り様とは言え、生徒等を置いて行く選択肢をメルド団長は職責や立場が違ったとしても取れない。連れて来ているのは自ら戦争参加を決めた者達であり、王国は戦力として召喚者達を擁立している以上、“勇者達は戦場に立つ事すらしませんでした”ではどの道 居場所が無くなるからだ。

 

 

 惨状による精神的摩耗を除けば、何事も無く進んで行く。魔人族が使役してる筈の魔物とも一度も遭遇しないままに、だ。

 不自然さをメルド団長が警戒し始める中、自分は道中に散らばる死体に()()()()()()がいるかを確かめながらついて行く。

 

(これで九体………上出来だな)

 

 そうして一切の戦闘も無いままに、魔人族と交戦中との情報があった地点まで到着するが・・・・

 

「ホセ! イヴァン! ベイル! 遅かったか……!!」

 

 魔物の死骸と先に迎撃に向かった騎士達が斃れてるだけで、魔人族の姿は無く既に戦闘は終わっていた。

 

「…………ゴホッ………団、長………」

 

「アラン!」

 

 唯一 息のあった騎士も骨や内臓ごと胴体を大きく抉られており助かる状態では無い。しかし、王国を守護する騎士として最期の役目を果たそうと声を絞り出す。

 

「……魔人族、は……教皇………ゲホッ……、連れ………牢獄へ………ガフッ………向かい……まし、た………後を頼、みます………!」

 

 死に際の掠れ声だったが、襲撃してきた魔人族の行方を告げきって絶命した。

 

「すまん……! お前達の仇は必ず………!」

 

 部下達の死をメルド団長は己を律して受け止める。それが出来るのは戦時下の国の軍属だから。

 

 つまり、生徒等には出来ないとゆう事だ。

 

 ここで死んだ騎士達の数人は訓練にも付き合ってくれていた者達だ。昨日まで顔を合わせていた人間の死を間近で見る。そして、それを受け止めて伴う感情を飲み込む。

 どれも一般の学生には不可能。大半の顔は青褪め、義憤に燃えていた天之河の表情すら翳りだす。

 

「行くぞ! 魔人族はこの先だ!」

 

 号令に従って皆が足を進めるが、戦える様な精神状態では無いのは明らか。にも関わらず、メルド団長は戦場へ進む号令をかけた。

 

 普段のメルド団長の人格を踏まえれば、ここまでの惨状を目の当たりにした時 生徒等に『この戦争は初めから俺たちの戦争だった。この世界の事は気にせず故郷へ帰る手段を探せ』と、概ねこの様な事を口にして争いから遠ざけようとした筈だ。

 本人は冷静さを保てている積もりかも知れないが、間違いなく動揺している。少なくとも生徒等の状態を察せ無い程度には。

 何せ トータスの人間の信仰の象徴とも言える教会総本山の陥落、非戦闘員の区別のない虐殺、腹心の部下達の死。これらをまざまざと見せつけられたのだ、動揺せずにいられる訳が無い。

 

 

 ここまでで充分に戦場の凄惨さを見て来た中、とうとう魔人族の元に辿り着く。

 

 

 

 

「──────え……?」

 

 

 

 

 ただし────

 

 

 

 

「うぁああぁぁあ゛────ー!!」

 

 

 

 

 同族の亡骸の前で泣き崩れている姿のだが。

 

 

 

「ど、どうなっているんだ………?」

 

 この光景を見て殆どの者が困惑しているが、最も衝撃を受けているのは天之河だ。

 惨劇を引き起こした"悪"の魔人族を"勇者"の自身が討つ。そんな物語のワンシーン染みたものを思い描いていたのだろうが、目の前の光景はそんなものからは遠く離れている。

 

 血生臭く薄暗い部屋。血痕の付いた鋭利な金属器具。鎖に繋がれ吊り下げられた裸の魔人族の男女。その身体は無事な箇所を探すのが難しい位に惨たらしい傷だらけ、呼吸の様子が無い以上は事切れてるのは確定。

 牢獄と聞いていたが、ここは明らかな拷問部屋だ。

 

 状況の理解が覚束ない天之河へ横合いから声が掛かる。

 

「ようやく来ましたか、勇者殿!さぁ! 早く! 魔人族を始末してくだされぇ!」

 

 恐らくは道案内に使われ、着いた途端に投げ捨てられたといった有り様の教皇イシュタルが喚く。

 

「イシュタルさん………どういう、ことですか?」

 

 天之河は震えた声で問い質す。

 

「魔人族は人類を脅かす敵だって………そう言ってたじゃないですか………? どう見ても、彼は────」

 

 天之河の中で魔人族の存在は教会に吹き込まれた通りの“悪の手先”、もしくはいいトコ“魔物の上位種”といった認識だった筈。しかし、持ち前のご都合主義を以てしても目の前の存在はそんなモノには見えない。

 同胞の亡骸の前で滂沱の涙を流す魔人族は、仲間の死を悼む事の出来る存在。

 

「────心を持った"人"じゃないですか!!?」

 

 つまりは自らと同じ"人"だと、初めて認識した。他の者からしたら今更にも程がある話だが。

 

 襲撃に遭うとゆう自らの命の危機に、常の老獪さを発揮する余裕の無いイシュタルは“何を言ってるのか理解できない”とばかりに間の抜けた表情を晒した後、天之河の前で本音を口にする。

 

「エヒト様以外の神を信じる異教徒共など! 獣畜生以下に決まってるでしょう!!」

 

 多少は信用していた相手からの、完全に自らの価値観の外の発言。それは天之河にとって理解が及ばない事態だ。

 

「な、何を言って──ー!?」

 

「もういい、光輝! 俺がやるッ!」

 

 剣を抜いたメルド団長が遮り、天之河を押し退けて魔人族を処理しようとする。

 

「待って下さい、メルドさん! 彼に何をするつもりですか!?」

 

 何をしようとしてるかを察し、メルド団長と魔人族の間に割り込む天之河。

 

「ここに来るまでにお前も見ただろうっ!!

今の"神山"の惨事は奴が引き起こしたものだ! これ以上の被害を出される前に始末をつけねばならんッ!!」

 

「そ、それはっ………!」

 

 天之河にとって"人"を見殺しにするのも、知人が"人殺し"になるのも是とは出来ない。だが、ここまでの惨状で目の前の魔人族が"人殺し"なのも事実でありお咎め無しにも出来ない。

 天之河は自身の価値観に於ける"正しい事"が分からず、二の句が継げなくなる。

 

「もしかして、メルド団長。貴方は最初から今回の不自然な魔人族の襲撃理由を知ってたんじゃないですか?」

 

 自分はさも今 気付きましたとばかりにメルド団長へ問いを投げる。

 

 

 生徒等が息を呑む。

 

 

 リフトの中でメルド団長は襲撃理由を『知らない』と言っていた。だとゆうのに、自分の問いはその真逆だったのではないかと指摘しているからだ。

 

「道中の騎士の遺言で『魔人族が教皇を連れて牢獄に向かった』と聞いた時、何の疑問も無く受け入れてましたよね。まるで予期してたかの様に。それに、この場に来た時も貴方は知らなかったと言う割には、驚く素振りすらありませんでした」

 

 淡々と、しかし敢えて僅かな棘を含ませて自分は根拠を述べていく。

 

「初めから魔人族が教会に捕まっていて、拷問されている仲間を助ける為に襲撃してきた事を分かっていたのでは?」

 

 最後に確信を込めて、もう一度 問い掛ける。

 

 生徒等の、特に天之河の『頼むから否定してくれ』と懇願せんばかりの視線がメルド団長に集まる。

 

「…………そうだ。知っていた。だがお前達に対して釈明する気も、ましてや教会を責める積りも無い。戦時下において敵兵から得られる情報には値千金の価値がある。

例え非道を行なって得たとしても、人間族の窮状を考えれば尚更だ………!!」

 

 メルド団長の言葉を聞いた反応は、生徒の大半は感情的にはさて置き理屈の上では納得する。しかし、信頼していた人物からの非道を是とする言葉で天之河の目は死んだ。

 

 

 そして、魔人族にとっては慟哭を掻き消す程の憤怒を抱かせるには充分な言葉でもあった。

 

 

「貴ッ様等ァァアアァ────!!!」

 

 

 絶叫と共に魔人族を包む球形の魔力の力場が発生。

 

 

「「「「「「っ!!」」」」」」

 

 力場から幾つもの光条が放物線を描いて放たれる。

 

「全員、伏せろぉッ!!」

 

 放たれた光条は着弾した箇所で大きな爆発を起こし、拷問部屋を跡形も無く吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「げほっゴホッ……皆! 大丈夫か!?」

 

 瓦礫から這い出ながら辺りへ呼び掛ける天之河。

 

「お、おう。………なんとかな」

 

「けほっ、けほっ、……!」

 

「えぇ。私も香織も無事よ」

 

「いっつ〜〜!」

 

「ちょっ! 手をかしてくれぇ〜!」

 

 土煙で視界は悪いが辺りを見渡せば皆、瓦礫から這い出てきていた。多少の怪我はしているものの、概ね軽傷だ。

 

「皆 無事みたいだけど、どうして……?」

 

 南雲が疑問を呈した様に、爆心地にいた以上はタダで済む筈が無い。だが、現実に生徒等に重傷者はいない。

 

「メルド団長のお蔭だよ。コッチには伏せさせた上に、本人は魔人族に飛び掛かかる事で、魔法から身を挺して庇ってくれたんだ」

 

 そう口にはするが実際は、自分が生徒等に重傷にはならない程度に障壁を張ったからで、メルド団長のお蔭では無い。

 

「じゃ、じゃあ! メルドさんはどこにっ?!」

 

 メルド団長の安否に対しての問いに首を横に振る。

 

「………見ない方が良い」

 

 とか言いつつ身体を僅かにズラし、頭部の右半分しか残らなかったメルド団長の遺体を連中の視界に入れさせる。

 

「そ、そんなっ……メルドさん………!」

 

 トータスに来てから最も親身に接してくれた人物の死に、生徒等は愕然とする。そこへ土煙が晴れ、更に絶望は重なった。

 

「………う、ウソだろ、………?」

 

「し、神殿が………」

 

「…………さ、さっきの魔法だけで?」

 

 拷問部屋は位置合い的には神殿の地下だったのに月が見える、しかも辺りは瓦礫の山。一人の魔人族のたった一度の魔法で"神山"の神殿は完全に崩壊していた。

 

「ッ! お前等、ボケッとしてんな!」

 

 再び飛来してきた三つの光条を、三連続の〝緋槍〟で迎撃し着弾前に起爆させる。

 

「ッフゥ──! 、フ──ッ!!」

 

 同胞の亡骸を抱えて歩み出て来た魔人族は、怒りのあまりにまともな言葉すら発せていない。

 

「ま、待つんだっ! 俺は──ー」

 

「ッガァア────!!」

 

 魔人族を"人"として見た以上は戦う選択肢を取れない天之河が何事か言おうとするが、その前に三度 光条が放たれる。

 

「〝聖絶〟!」

 

 無詠唱で発動させた半球状の〝聖絶〟で生徒等全員を爆破から守る。教会が落ちた今、最早 詠唱のカモフラは意味を無くした。

 

 結界の外では連続で爆発が巻き起こり、衝撃で結界が揺れている。

 

「こ……こんなの、どうしたらいいんだよ?!」

 

 檜山が泣き言を言い出したのを皮切りに、次々と諦め切った声が上がった。

 

 道中の惨状で意気消沈していて戦える精神状態では無かった所へ、更にメルド団長の死が重なり、止めに魔人族の圧倒的な暴威だ。

 生徒等の大半が戦意喪失していた。

 

 だが、周囲が軒並み絶望した事で逆に動ける様になった者もいるらしい。

 

「………結界はどれくらい保たせられるかしら?」

 

 展開している結界について八重樫が聞いてくる。

 

「そう長くはないな」

 

「じゃあ、この結界を維持しながら個人にも結界を張ることはできる?」

 

「個人に? ………一人分位なら出来るぞ」

 

「だったら、結界をお願い。私が懐へ飛び込んで魔人族を仕留めるから………!」

 

 八重樫は腹を決めた様子で言ってるが、実際は違う。“自身がやらなければならない”と思ってしまった時に"否"と言えず、応えようとしてしまう悪癖があるだけだ。

 

 誰かが殺らねばならない状況なのは確かだが、未だにそれを是としない輩が約一名いる。

 

「待つんだ! 雫! 彼は俺達と同じ"人"なんだぞ?!仕留めるって………意味を分かっているのか!?」

 

 勿論、天之河である。この期に及んで自身の価値観の外の事態が起こり続けているのを受け入れられずにいる。

 

「戦争に参加する時点であんた以外は理解してたわ!

それに! あの魔人族をどうにかしなきゃ全滅よ! この場の全員が死ぬわ!」

 

「っ!……それでも"人殺し"なんて絶対に間違ってる! 落ち着いて話し合えば、きっと………!」

 

「話し合うなんてできる状況じゃあ──!」

 

 今の八重樫に天之河の駄々に普段通り相手する余裕は無い、仮に余裕があったとしても平行線。よって、二人の言い合いに割って入る。

 

「八重樫も天之河も一回 落ち着け………!」

 

「「っ!!」」

 

「天之河。お前が言いたい事は分からんでも無いが、八重樫の言うことは尤もだ。何より、仮に生け捕りにしたとしても捕まった魔人族の末路はさっき見ただろう?」

 

 本当に殺れるかはさて置いて、八重樫の発言はズレてはいないので放置。天之河の方へ言葉を掛け、トータスの文明レベルで行える拷問を片っ端から受けて殺されていた魔人族の男女を思い出させる。

 

「〜〜っ! それはっ………!」

 

 また言葉に詰まったのを見計らい、仮定の部分は実現可能だと仄めかしてやる。

 

「まぁ 僕ならあの魔人族を生け捕りにするのは可能ではあるけどな………」

 

「だったら頼む、雹堂! あんな非道な扱いをされないように王国の人達を説得する! 俺が"勇者"の肩書きを使えばできる筈だ! だから………!」

 

 天之河の妄言としか言い様の無い懇願。しかし、敢えて一つだけ念押しして聞き入れてやる。

 

「そうか………。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だな?」

 

「ああ、それでいいっ! だから殺さずに………!」

 

「OK。分かった」

 

 頼みを聞き入れられた事で、自身が承諾した事の意味も分からずに天之河は安堵の表情を浮かべた。

 何か言いたげな八重樫の機先を制する様に、成り行きを見てただけの奴らに指示する。

 

「じゃあ、まず坂上。得物を使う訳にもいかないが素手じゃ厳しい。お前のアーティファクトの籠手を貸せ」

 

「お、おう」

 

「次に南雲。僕が合図したら魔人族との間に一枚でも多く壁を造って、同時に足場を沈下させて即席の塹壕にしろ」

 

「うん」

 

 後の為に体裁を整えたら、行動に移すだけだ。

 

 間断なく飛来してくる光条の勢いが緩むタイミングを計り、爆発が途切れる瞬間に合図する。

 

「南雲! 今ッ!」

 

 自分が飛び出す瞬間のみ〝聖絶〟を解除。そして、指示通りに南雲が〝錬成〟で生徒等の足元の地面と瓦礫を材料にする事で、壁と塹壕の作成を同時にこなす。

 

 南雲に錬成させた塹壕と壁によって、生徒連中の視界から自分の姿が遮られる。

 

(簡単に捕縛するトコを一般人共に見せる訳にはいかないからなぁ………)

 

 内心で独りごちながら、多量に錬成された壁を縫うように駆けて光条の弾幕を掻い潜り、魔人族へ肉薄していく。

 

 距離を詰める途中で、自分に向けて魔人族と同じ魔法を発動して自傷する。

 いくら捕縛の過程を隠しても結果が無傷では怪しまれかねない。左腕が動かない程度の負傷だが、動きに支障は無い。

 

 徒手格闘の間合いに入った直後に、はっきりと打撃痕が残る形で顎に一発いれて意識を刈り取った。

 

 昏倒させはしたが何の拘束も無しに運ぶ訳にはいかない。しかし、自分の手元に拘束具の持ち合わせは無い、仮にあったとしても普通の枷では無意味だ。

 よって魔法で縛る。トータスの既存魔法に〝縛光鎖〟とゆう拘束魔法があるが、ここは敢えて自分が知る能力を劣化再現した魔法を使う。

 

(ひどい劣化版だが、〝マテリアル・ハイ〟ってな)

 

 薄水色の直方体を三つ、口と脛と胴を両腕ごと固定するカタチで発生させて身動きを封じた。

 

 拷問され殺された方の魔人族の遺体を魔法で燃やして処分。その後に〝聖絶〟を解除し、昏倒させた魔人族を担いで連中の元へ戻る。

 

「はぁ……はぁ、………終わったぞ。何とか生け捕りだ」

 

 魔人族を生け捕る事は容易だったが、それを察せられては元も子もない。疲労した振りをしながら戦闘の終わりを告げる。

 

「雹堂、そのケガは………」

 

「生け捕りがノーリスクな訳ねェだろ…………。さっさと治療して欲しいモンだが、それよりもこんだけ苦労したんだ。ちゃんと()()もてよ? 天之河」

 

「ああ………分かってるさ」

 

 疑う余地すら無く、天之河は意味を履き違えている。だからこそ、わざわざここまでの手間を掛けているのではあるが。

 

「さぁ、皆。王都へ帰ろう」

 

 こうして明るい結果など何一つ無いままに、魔人族による"神山"襲撃は終わりを迎えた。

 その事を誰もが理解しているが故に曇った面で王都への帰路に着く。とびっきりのご都合主義者ですら例外無く、だ。

 

(順調、順調。………この上なく順調だ)

 

 もう一波乱あるのが確定している事に気付かない生徒連中を冷めた目で眺めながら自分も後に続いた。

 

 

 

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