勇者による魔人族の公開処刑。その後の民衆への演説を終えたエリヒド国王に生徒等の誰も伴わずに自分は謁見した。
「む、貴殿一人か。勇者殿達はどうしたのだ?」
「勇者を含めた他の者は不参加を決めていた者達へ状況の説明に」
謁見が代表たる勇者ではなく自分のみの理由をそれらしく偽る。
「何分 城に残っていた者達にしてみれば、唐突に騎士に囲まれながら処刑を見届ける事になりましたから、ひどく狼狽えておりまして。勇者の口から語るのでなければ執り成せそうになく…………何卒 ご容赦を」
「まあ よかろう。貴殿らの処遇を言い渡すだけだ、必ずしも全員を集めることもない」
「寛大な御言葉 感謝します、エリヒド国王陛下」
挨拶は終わり、互いにとっての用件に移る。
「国王陛下の仰せの通り、恙無く公開処刑はなりましたが我々の扱いはどうなるのでしょうか?」
「うむ。“貴殿らが戦おうとしなかったというのは誤解であった”と認めよう。しかし、これまで通りのままとはいかんな」
自分の問いに対して国王は前回同様の厳めしい面持ちで答える。
「聖教教会の戦力に王国騎士団、更には勇者一行までが戦線に加わっていてなお"神山"が壊滅した。人間族の戦力は減り、魔人族の戦力は予測を越える。こうなっては最早、戦力足り得るものを遊ばせておける余裕はない。
戦争参加の志願制は撤廃、全員強制とする。それ以外はこれまでと変わらぬ待遇を約束しようではないか」
「志願制の撤廃と強制参加ですか…………」
概ね予想通りの答えだ。とゆうより志願制の参加なんて、王国側は初めから変えたかったのだから当然だ。
魔人族と人間族の戦力差は当事者達からの視点だけでは無く、エヒトの視点からみても歴然なのだ。文字通りに見世物にもならないと判断するレベルで。
教会の連中は信仰と人命なら前者に重きを置くが王国はそうはいかない。折角 与えられた召喚者達とゆう戦力の志願制参加なんて、教会が決めたから覆せなかっただけで納得していた者は大していなかった。そこへきて魔人族によって教会が総崩れになった。
そりゃあ 是が非でもひっくり返そうとするに決まってる。前回の謁見の間でのやり取りは、その為の王国側の策略だ。
投獄か隷属かなんて出来もしない二択をチラつかせて、“形振り構っていられなくなった”と見せかけ交渉の余地が無いと装い。自立していない召喚者達は組織単位の支援が無ければ路頭に迷うが故に返答に窮し、そこへ譲歩したかの様に公開処刑の執行を言い渡して、内容には口を挟ませずに了承させる。
そうやって公開処刑をさせるとどうなるか。
召喚者側は生殺与奪が握られていると錯覚し、あたかも主導権は王国側にあるかの様に刷り込める訳だ。そうやってコチラを飼い馴らし戦力として運用するって寸法だ。
「まさか、否とは言うまいな?」
だからこそ、今もエリヒド国王の態度は“否定などさせない”とばかりに高圧的だ。
実際、この場にいるのが一般人共であれば唯々諾々と従うだけだったろう。それ位には王国の意図に嵌っていた。
「勿論、そのような事は言いません。しかし──」
とは言え主導権を握るのは王国では無く、自分だ。
「──それくらいで戦力差が埋まるでしょうか?」
「何………?」
了承以外の返答があると思っていなかったエリヒド国王の眉が僅かに揺れる。
「我々への誤解が解けたのであれば、魔人族の力が予想を超えていた事も信じて頂けた筈。
いくら我々がエヒト神に遣わされた使徒と言えど、数十人の精鋭程度で戦争全体の趨勢を傾かせようとするのは些か無謀ではありませんか?」
自分の確認と問いかけによって謁見の間に気不味い空気が流れる。先送りにしていた問題を焼き直されたからだ。
「貴殿の言いたい事はわかる。だが、敗北が人間族の滅亡を意味するからにはやらねばならぬのだ」
確かに出来る出来ないの話では無いだろう。しかし方策は必要だ、なのに茶を濁すとゆう事は・・・・・
「つまり、具体的な方策は無いと仰せになるので?」
「………我が国だけで決められる事でもあるまい」
エリヒド国王は尤もらしい方便で言い逃れる。
元々が人間族だけの手には負えぬと、神が召喚した勇者達に縋ったのだから。その勇者達の手に余ると言われては何かの次善策すら出せる筈が無い。
「それはその通りですね。しかし、この場で臣下の方々からも意見が出ないというなら、私の話を聞いて頂きたい」
言い逃れを潰してもいいが、敢えて肯定することで流れをつくる。
「よかろう。申してみよ」
国王から許可を受け、自分は語り始める。
「まず、このままでは人間族の兵が碌に戦力になりません。"神山"の戦いの様子では魔人族の使役する魔物一体に対して十人掛かりで戦っても劣勢、魔人族本人を相手にすれば一方的に蹂躙されるだけ。これでは我々、使徒だけで魔人族の全戦力を相手取るのと何も変わりません」
彼我の戦力差、その擦り合わせもとい再認識をさせる。
「実質的な戦力が我々だけでも、敵勢力が千にも満たないなら戦略で如何様にも出来ましょう。しかしそれは楽観が過ぎると言うもの。少なくとも、一人の魔人族が中隊規模の魔物を使役する以上は数的優位はアチラにあり、しかも有象無象ではなく高い質も備えている」
神代魔法の会得者なんて突拍子も無い情報ではなく、飲み込まざるを得ない範囲の情報を簡潔にまとめた。
「結論として敗戦は必至です、明らかに個人の武勇でどうにかなる範囲を超えている」
自分の歯に衣着せぬ統括に、謁見の間は嫌な静けさに包まれる。
この沈黙は状況の悪さを示唆されたから………では無い。既に否定の余地の無くなった事実を並べ立てた厳然たる予測結果、軍事の専門家でなくとも理解る。そしてこんな事はとっくに王国側は理解している。
これは彼等の戦争、逃げ出す事も投げ出す事も出来ない。しかし、召喚されたコチラは違う。無関係だと見限って王国を離れる事も出来る。
だからこそ上手く飼い馴らしたがった。その為の策略が不発に終わった、自分の統括により王国側がそう認識したが故のものだ。
「と、ここまではあくまでも状況整理。ここからが私の提案です」
王国側が優位をとっている訳では無い、そう示した所で自分にとっての本題に入る。
「圧倒的劣勢を覆し、確実に勝利する策があります! …………それを実行する為の権限を私に与えて頂きたい」
つい先程 述べた結論とは真逆の発言に、『ほ、本当なのか!?』『さっきと言ってることが違うではないか』『確実に、とは大きく出たものだ』『だが何の方策もないより良いのでは?』と碌に意見も出さなかった臣下達が騒ぎ始める。
ザワつく臣下達を静めてから国王が尋ねる。
「実行する為の権限とは、どの程度を指している?」
「陛下が与えられる最大の権限ないしは軍略を一任して頂ければ充分かと」
堂々と、吹っ掛けてるにも程がある回答をする。
「貴殿に一任すれば本当に戦局を覆せると?」
「間違い無く、確実に」
「そこまで言い切れるのなら、なぜもっと早くに提示しなかったのだ?」
「余りにも形振り構わぬ方法ですから。そう安易に献策するのは憚れまして」
重ねられた質問にいけしゃあしゃあと自分は答え続けた。幾ら詰めてもボロは出さぬと判断したか、エリヒド国王は核心を問う。
「ならば、その策とは具体的に何だ?」
「はい。では、内容を口にしますと────ー」
自分は提案した策の詳細を語った。
「馬鹿な! そのようなことは不可能だッ!!」
自分の策の詳細を聞き終えると、これまで為政者として感情を制していたエリヒド国王が唾を飛ばす勢いで否定した。
対照的に一切 動じる事なく自分は応じる。
「可能ですとも。そうでなければ、国王陛下に献策する訳が無いではありませんか?」
揺るぎ無く言い切られた事で国王は僅かに落ち着きを取り戻すが、それでも顔を顰め難色を示す。
「…………貴殿らの世界ではどうか知らぬが、トータスの倫理道徳ではその策を許可は出来かねる」
この策を容認させるのは教会相手の方が簡単だったろうが、別に王国相手でも然程難しくは無い。
「これは異な事を仰られる。倫理道徳の話をされるのならば、エヒト様が遣わした救世の一行にあらぬ嫌疑をかけ、投獄あまつさえ奴隷にしようとした事は………果たして許されるのでしょうか?」
「口を慎まぬか! 確かに誤解だと認めはしたが、魔人族の助命を請いなどしなければ嫌疑をかけられる事もなかっただろう!」
口を噤んだ国王にかわって臣下の一人が強く反発した。
「それは横暴が過ぎますよ。コチラの言葉を『信じられない』と切って捨てたのは貴方方です。
そもそもエヒト様が我々を常識も異なる異世界から遣わしたのは、貴方方も既にご存知だったでしょうに。だと言うのに『魔人族は魔物の上位種』なんて誤情報を教えるから、勇者が困惑して助命を請うような事態になったのです」
王国側と召喚者側のどちらに非があるか、その根本を刺していく。
「神が遣わした勇者は初めから“世界を救う”と言っていたのに、それを信じないばかりか正しい情報も渡さない程に非協力的、その上 奴隷にまで貶めかけた。これを民衆が知ったら貴方方と我々………どちらを支持するでしょうかね?」
これには国王のみならず、威勢良く反発した臣下も含めた全員がたじろいだ。
今まで散々 他国にも民衆にも"勇者"を旗印に喧伝してきたのだ。オマケについ先刻も魔人族の処刑に勇者を起用して支持を高めたばかり。そこへこんな話を垂れ流されれば対外的にも内政的にも、王国の信用は地に落ちる。
「仮に私の策を却下し代案を用いたとして、敗戦の折に民衆の怒りは何処に向かうでしょうか?
──決まってます。為政者に、です。
そんな有様の貴方方が今更に倫理道徳などと、道理を説いている余裕がお有りなのでしょうか?」
無論、ある筈が無い。あるなら尋ねられた時点で方策を打ち出せた筈だ。現に今 王国側の誰一人として、抗弁をしようとする者はいない。
「さぁ、エリヒド国王陛下。ご決断を」
そう言って、分かりきった決断を促した。
謁見を終えた後、顛末がどうなったか共有するべく皆を集めようとした。が、その必要は無かった。
集合をかけるまでもなく大部屋に全員が揃っていた。農作地の巡回から戻った畑山先生も、戦争の参加組も不参加組も含めてだ。ほぼ錯乱状態だった天之河も、ある程度は落ち着いた様で表情に陰はあるものの、ちゃんとこの場にいる。
「何があったのかは八重樫さん達から聞きました。結果はどうだったんですか?」
"神山"襲撃の件や公開処刑の件などの共有は終えていたらしく、陰鬱さが漂う中で畑山先生が尋ねてきた。
「誤解は解けて、投獄も隷属もされないようにはなりましたが………志願制は撤廃して参加を強制すると」
自分は意図的に情報を削いだ結果をさも無念そうな態度で言った。
結果を聞いた反応は、最悪の結果ではないと受けとめ思案する少数と、失意に暮れる大多数に別れた。
そして、その大多数には悲嘆を内に留められる者は少なく、殆どが言葉や態度に表す。それを受けて、生徒想いの畑山先生が動こうとする。
「私が話をしてきます。せめて一度は不参加を許した人達くらいは、戦場にいく以外の貢献でも認めてもらえるように──」
「無駄ですよ。畑山先生」
自分は抗議しに行こうとする畑山先生を制止する。
「元々敗けられない戦争、なのに教会の中枢が潰滅した上に騎士の多くが戦死。もう王国側も切羽詰まってます。幾ら先生の天職が作農師だといっても、それだけでは今の王国と交渉は成立しませんよ」
理路整然と不可能だと告げられ、畑山先生は一瞬だけ固まるが直ぐに頭を振った。
「それでも何もしない訳には──「もうオシマイなんだよ! 俺たちッ!!」──!」
畑山先生の言葉を檜山の叫び声が遮る。
「もう参加したってしなくたって一緒だろ?!! 魔人族があんなに強えんじゃ勝てねえよッ!! 全員殺されて終わりだぁっ………!」
檜山は皆が敢えて口にしなかったであろう事を大声で喚き散らして崩折れる。
さっきの畑山先生すら『せめて一度は不参加を許した人達くらい』と言っていて参加を決めた者達の戦線辞退を諦めていた。要は最初から檜山には利が無い話に限界で暴発したのだろう。
「このまま魔人族が攻めてきたら殺されちまう!!」
「あんなのと戦いたくねえッ!!」
「この世界の連中なんかどうだっていいっ! 俺は死にたくねえよぉ!!」
自棄を起こした檜山を皮切りに斎藤、近藤、中野も続けて喚き始める。それらを口火に不安が際限なく高まり、積み重なって恐慌に陥った。
「私だって死にたくなぁい!」
「今さら戦えなんてっ、ムリだぁっ!!」
「戦争なんて俺たちには関係ないだろっ?! 皆で逃げればいいじゃんか!」
「どこに逃げるってんだよ!?」
「そんなのっ、どこでもいい!」
「行くアテなんて無いじゃないッ!!」
「そもそも逃げたら地球に帰れないでしょう!?」
「生き残る方が大事だろうっ?!」
「逃げてサバイバル生活するのなんて嫌だ!!」
「だったらどうすんだよおぉ!!」
「知らないわよッ!!」
あっという間にいつかの焼き直しだ。
前回と違うのは治める筈の天之河が意気消沈していて動かない事。奮起するどころか、寧ろ表情を曇らせていく。
八重樫や永山、畑山先生などの少数が治めようとしてはいるが、その声には余り力が無い。本人達も展望等は持っていないからだ。
(予想以上にパニクってて話が始まらねェ………仕方ない。先ずは治めるか)
いつもの様に柏手を打って注目を集めよう。
「みんな! いったん落ち着こうっ!!」
と思ったが、その前に思わぬ声が響く。
意外な人物の聞いた事のない大声に、恐慌状態だった者達が驚きの余りに固まっている。
「戦うにしても逃げるにしても、これからどうするかはちゃんと決めるべきだよ。だから、落ち着いて話そうよ」
声を上げたのは南雲だった。
集団の前で発言しそうも無い人物が話す様はよっぽどの衝撃だったのか、恐慌を驚愕が上回ったらしく場は治まった。
正直、自分も驚いた。南雲にいざとゆう時に行動する胆力があるのは知っていたが、衆目の前での発言はしないと思っていた。制止を呼び掛けただけで主体となる訳では無いとはいえ、だ。
兎も角、パニックは治まり会話の流れに戻る。しかし、話し合いは直ぐに堂々巡りとなった。
内容を大雑把にまとめるなら、
魔人族が強すぎて勝てないから逃げよう
⇅
逃げたら地球に帰れないから戦おう
といった形のやり取りが繰り返されている。
要は、“死にたくないし帰りたいけど方法は考え付かない”とゆう訳だ。とてもじゃないが建設的な話し合いとは呼べない。
そんな不毛な話し合いの様子を眺めながら頃合いを見測っていると、また思わぬ形で動いた。
「ねえ 雹堂。この間まで魔法の研究をしてたなら、何かいい案はない?」
園部が話し合いに関さずにいた自分へ水を向けたのだ。それに釣られる様に全員の注意が自分へ向く。
(大した事じゃないが……どうも予定外が重なるな)
自分が描いていた青写真との些細なズレの連続に、内心で僅かに嘆息する。
周囲の者達の自分への評は常に“実力や能力はあっても積極的には関わらない・らせない人物”、但し“真摯に請うなら手を貸しもする”といった立ち位置を維持しているつもりだ。
故にただ意見を求められるだけなら意外には感じないが、『魔法の研究をしてたなら』の部分に含みがある。詰まる所、園部は“帰還手段を見つけていたりしないか?”とゆう事を聞きたいのだ。
普通なら問われる事では無い筈だが、オルクス大迷宮での訓練前夜に話したせいだろうか。
(多少のズレに構う事はない………か)
瞬きの間に巡った懸念を断ち切って口を開く。
「そうだな。率直に言って、帰れる魔法は見つけた」
「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」
直ぐ様 大多数が縋りつく様に入れ食い状態となり、引っ切り無しに確認を投げ掛けてきて再び喧しくなる。自分はその中でも通るように続ける。
「だ・け・ど! まだ帰る事は出来ない」
それを聞いてより一層 喧しくなった連中に対し、今度は“バチィッン!”と柏手を打って黙らせてから続ける。
「理由は一つ…………その魔法を発動する為の魔力が多すぎる。現状、全く足りてない」
「私たち全員の魔力を集めたら何とかならない?」
八重樫の解決案に即答する。
「足りない。仮に魔力を蓄えられたとしても、数十人ぽっちの魔力じゃ何ヶ月分も貯蓄してやっとだな」
勝手に不可能と判断して、喧しかった連中がさっきと打って変わり落胆と失望を露わにした。
つくづく主体性が無く、自身の頭を使わない連中だ。だからこそ扱いやすい訳だが。
「と言っても、それは安全に集められる魔力の話だ。もっと多い魔力の持ち主達が大勢いるだろう?」
自分からの問いに、頭を働かせている少数の者達はちゃんと気付いた様だ。
「えっと、もしかして…………」
「………まさか……」
「ま、魔人族………?」
「正解、魔人族から根こそぎ魔力を奪えば必要以上が集められる。だから戦争には関わろう、それもコッチから打って出る形でな」
戸惑いがちの回答を肯定した上で意見する。
「雹堂………それは無茶だ。魔人族は一人ですらあんなに滅茶苦茶なんだぞ………? それなのに攻めても勝てないだろう」
永山が消極的な姿勢で皆の心中を代弁する。
「何言ってんだかな。魔力さえ集められれば戦争の勝敗なんてどうでもいいだろ? 集まったら戦争の最中だろうが何だろうが帰っちまえばいい。
それに打って出るとは言ったが、お前等が戦場に行く訳じゃねェよ」
「それは、どういう………?」
コイツ等を本格的に提案とゆう体で丸め込む。
「最低限の危険で魔人族の国へ攻め込み魔力を奪う、それが出来る作戦がある。協力してくれないか?」
余りにも都合が良すぎる話に怪訝な表情を浮かべる者が殆どだ。しかし、連中に聞かないなんて選択肢がある筈もなく詳細を促される。
「やる事はシンプルだ。多くの魔力を集める為に魔人族の国、出来れば本拠になってる都市がいい、に攻め込んで必要量が集まり次第に魔法を使って地球に帰還。とまぁ、そんだけ」
思考停止している連中に理解しやすいよう、順を追って説明していく。
「お前等が疑問に思ってる点は“なぜ攻め込むのか”、あと“戦力をどうするのか”、“本当に僕が帰還の為の魔法を使えるのか”の三つだろ?
一つ目の“なぜ攻め込むのか”だが、これの理由は魔力を蓄えられない以上、必要分の魔力は一度に集めなければならないから。つまりは集収手段の都合ってこと。
二つ目の“戦力をどうするか”、ここが協力して貰いたい点だが………その説明の前に三つ目の“本当に僕が帰還の為の魔法を使えるのか”に関して言わせてもらう。
魔力不足で実演不可だから証明は出来ない。けど、信じてもらえるだけの根拠は出そう」
この部屋の床全面を覆う大きさの魔法陣を展開して起動、全員を空間転移させる。
「いきなり何を──っ!」
突然の魔法行使に文句をつけようとする者もいたが、その先は続かなかった。目に映ったのは先程までいた王城の大部屋の中ではなかったからだ。
「──ーうそ………」
「………ここって、ホルアドだ」
転移した先はホルアド。別に行き先はどこでも良かったが、どうせなら全員が知ってる場所の方が理解が早いだろうと判断した。
「じゃあ、さっきのは転移魔法!?」
「失われた魔法の筈じゃあ………?」
何が起きたのかを理解し呆気にとられている連中を認めた後、もう一度 空間転移を行い元の部屋へ戻る。
「ざっとこんな感じだ。証明にはならなくても信じてもらうには十分だっただろ?」
自分の問い掛けに返事は無いものの、連中が浮かべていた怪訝な表情は欠片も無い。
「今のを踏まえた上で、“戦力をどうするのか”について説明を始めようか。魔人族は多くの魔物を使役し、且つ強力な魔法を無詠唱で撃ってくる。ならコチラも同じ事をするまで」
このまま自分の主導で進行させる。
「人間族の兵に僕が魔法の指南をして戦力の底上げをする。そうすれば兵士同士の戦力比を拮抗してた頃に戻せる。ただそれだけじゃ、使役魔物の分の差が埋まらない。
だから、対抗する軍勢をつくる為に協力してくれ。て言っても、手を貸して貰いたいのは清水 幸利、南雲 ハジメ、中村 恵里、の三人だけでいい」
"協力"の内容を告げる。
「清水には魔物の使役を、南雲には個人兵装の銃火器作製を、中村には死体を傀儡の兵に、これから渡す魔法陣を使ってやってもらいたい」
結構な人数が“死体を兵にする”の件で顔を強張らせたが、構わず説明を続ける。
「そうすりゃあ、コッチの戦力は人間族の兵士に使役魔物と銃火器で武装した屍兵。後手に回らずに戦端を開けば確実に優位が取れる。
オマケに魔物も屍兵も制御がマニュアルな以上は術者は安全な後方に配置され、その守備を召喚者が受け持てば前線に出る必要も無い。後は魔力の集収が終わり次第に地球へ帰る。
…………何人かには苦労を掛けるが、命の危険は最低限で帰還の確率も高い。良い作戦だと思わないか?」
説明を終えて最後に賛意を求める。
自分が提示した作戦はローリスク・ハイリターンだが、“死体を兵にする”点に倫理的・道徳的な忌避感はあるだろう。大半の者が賛成しようとはしないが、同時に反対しようともしない。
しかし、そもそも明確に賛同して貰わなければならないのはその他大勢では無い。
「……俺はやる。無闇に戦うよりよっぽど勝てそうだ」
自分が"コンバート・テレパス"で唆せば言いなりの清水が少しの間を入れて賛同。
「道徳的に問題有りだと思うけど…………他の案も出せないし、みんなの安全には代えられないとも思う。僕も雹堂君の作戦に乗るよ」
続いて若干の非難を口にしつつも南雲も同意する。
「さて、後は中村だけ………協力してくれないか?」
「…………わ、………私は………」
とても否とは言えない雰囲気に猫被り状態の中村が口籠る。断りたいけど断れない、とそんな素振りを見せた。
「ちょっと待ってよ! エリリンは降霊術を使えないんだよ!?」
そんな中村を一人の女子生徒が庇い立てる。
庇ったのは谷口 鈴。おさげをした小柄な女子で、何時も笑顔を振りまいてるクラスのムードメーカー。それと、中村とは親友(中村の本心はさておき)と言える間柄だ。
「それにいくら何でも死体を操って戦わせるなんて、どうかと思う!」
谷口の発言によって、堂々と賛同するのを躊躇っているだけの連中が視線を彷徨わせる。そして、ここまで柄にもなく沈黙していた男が腰を上げた。
「雹堂、谷口さんの言う通りだ。お前の作戦なら………確かに危険を冒さずに勝てるのかもしれない。けど、その為に死者の尊厳を貶めるのは間違ってる」
天之河が一見 何時もの調子を取り戻したかの様に反対する。
「しかも、銃火器まで作るだなんて………。作るにしたって頼む相手がなんで南雲なんだ? 生産系天職の人達に頼むべきだし、そもそも王国の錬成師でもいいはずだろ」
重箱の隅をつつくような事すら冷静に述べているが、これは寧ろ正常では無い証左だ。
本当に立ち直れてるなら発言は概ね変わらなくても、声を荒らげて感情的に噛みつく筈だからだ。
「何で南雲かって? そんなもん、他の生産系天職なんて畑山先生しかいないからに決まってるだろ」
「え? ………そんな訳が………」
自分の言葉で不参加組の連中が悉く俯き、視線を巡らす天之河と誰も目を合わせようとしない。
その様子を見て事実だと理解した天之河は考えもしなかったとばかりに唖然とする。
「そんなに驚く事かね………身の安全を第一にするのは普通の事だろうに。だからこそ、中村を気遣った谷口とお前しか反対してねェだろ?」
それに、と付け加える。
「これはお前の為でもあるんだぞ? 魔物の使役と銃火器の支給をした程度だと前線行きは避けられねェ、また手を血で汚す羽目になる。………まぁ もう
殊更に人殺しの部分を強調すると、天之河は露骨に反応した。血の気は失せ、体は小刻みに震えだす。
「一回殺れば次は楽になるって聞くしな。処刑の時みたいには躊躇わず、何百人でも何千人でも斬ってくれるのか。天之河?」
「──ーぅぁ………!」
自分のあからさまな物言いにフラッシュバックを起こしたか、天之河は口元を押さえて蹲った。
先の公開処刑は天之河の信条や価値観を丁寧に踏み躙り、精神に暗い根を下ろしてる。
「……谷口。この有り様の天之河と、降霊術に忌避感があるってだけの中村、友達として慮ってやるべきなのはどちらだろうか?」
もう人を斬る等出来そうも無い天之河を、皆に見せ付ける様に振舞い、答え難い問いを投げ掛けた。
「っ、だけど………!」
「僕だって酷な事を言ってる自覚はある。他により良い手段があるなら、その方が良いと思ってるさ。だから、反対ならせめて代案を出してくれないか?」
あたかも歩み寄っている振りをして畳み掛けた。
代案を求めた以上、返答は無い。直前まで口を挟もうとしていた畑山先生も閉口したし、谷口も口籠るが中村の負担の大きさを無視できないからか、引く様子も無い。
そんな谷口に刺さる周囲の目は険しい。
天之河の状態を晒した事で、視線を彷徨わせていたり俯いていた者達の姿勢が変わっているのだ。依然として賛成と口にはしないが、口にしてないだけで天秤は完全に傾いてる。大義名分が与えられた事で集団意識が決まった。
「や、やる! 雹堂君の作戦、私も協力する………!」
ここで中村がようやく受諾する。あたかも“自らを庇い立てしたせいで針の筵に追いやられた谷口やトラウマを抱えた天之河を見てられなかった”ように見えるタイミングでだ。
「………エ、エリリン」
「大丈夫だよ、鈴。降霊術は………私の天職なんだから、きっと上手くやれるよ」
言葉とは裏腹に中村が無理をしてるのは、誰が見ても明らかだった。
「雹堂……何か別の方法はないのか………?」
フラッシュバックが治まった天之河が自分に代案を求めようとする。
「主な協力者の同意が得られた時点で、僕から言う事は何も無いな…………心配ならお前が支えてやればいいじゃないか。それともたった一人の支えにもなれないのに、"勇者"だなんて気張ってたのか?」
当然、自分は取り合わずに切って捨てる。ただし、少しばかり焚き付ける言葉を添えた。
「っ! ……そんなことは、ない………」
「だったら良いだろう? お前にとっては何の不都合も無いじゃないか」
何かを揶揄した言い回しに、天之河はどこか葛藤を抱えつつも引き下がる。
大っぴらに協力者を得た。出てきた反対意見は黙らせた。これで話し合いは終わりだ。それでも自分の判断で締めるのではなく、一般人共の総意とゆう形で締める。
「……決まりだな。僕は国王陛下に改めて献策してくる。細かいトコはその後に伝えるから、この場は解散ってコトでいいな?」
あまり胸を張れない方法に対する後ろめたさからか。殆どは声ではなく首肯で応じたが、賛意を示した事に変わりは無い。
もし、仮に、万が一、まず有り得ない事だが、全員の総意で反対したとしても………既に王国側の承諾は得ているので無意味ではあるのだが。
「よし。じゃあ解散」
そんな含む所は一切明かさないままに話し合いは終わった。僅かなズレは有りつつも自分の企図するままに。