ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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十六話 企図した結果

 

 

 "神山"襲撃から始まった一連の騒動は、幾つかの目的をまとめて消化する為に自分が企図したモノだ。

 

 目的の一つ目は一般人共の戦線離脱。理由はこの戦争が異世界を巻き込んでまで解決する必要がある様な、そんな御大層な事柄では無かったからだ。

 所詮、少しばかり強い力を持って驕り高ぶった只人(エヒト)の娯楽に過ぎない。地球で世界の裏を知らず平穏に生きて来た一般人が命を懸けるモノでは無いし、自分の手に余る程の事態でも無かった。

 

 二つ目は愚挙、暴挙に出かねない者達の制御。該当者は中村と清水。檜山も有り得るが余程の事でなければ一線を越える気概は無いだろうから、一応は除外している。

 ここで自分が言う愚挙、暴挙とは殺人だ。ただしトータスの人類を……ではなく召喚者内の一般人同士での事だ。

 地球において表向きはともかく、裏では異世界は認知されている。社会で認知される、それは詰まりルールが設けられてる事を意味する。国家・民間や無法者を問わず組織から個人に至るまで、幾つもの勢力が関わる以上は事細かに定められてはいないが、原則はある。

 要はトータスでの行いに関して“地球で何の審理もされない”なんて事は無い為、一切の情状酌量の余地の無い事をされては困る。

 

 三つ目は集まり始めていたエヒトの手駒の排除。

 以前の推測で、自分はエヒトからトータスに転移した異世界人のスペックが上昇する法則から外れる魔法をかけられた(南雲は巻き添え)と考えた。故にわざわざ制限したなら何かしらの干渉はあると予期したが、召喚されて三週間以上過ぎて尚も目立った干渉は無かった。あったのは、如何にも“モデルがあります”とばかりに同じ容姿をした銀髪の修道女が一人二人と増えながら教会に紛れ込み、王都にいる自分を遠間から視ていた程度。

 その銀髪の修道女達はエヒトの手駒だと察してはいた。だが直接的な行動を起す素振りは無かった為、エヒトの高を知るまでは手を出すのは控える判断をしていた。ただそれもエヒトを始末を決定した事で話は変わり、先手を打って排除する事にした。

 序でに神託一つで敵に回る聖教教会も対象にする。

 

 四つ目は自分がある程度の実権を握る事だ。これに関しては地球へ帰還する際と した後の為だ。

 トータスの人々から見た召喚者の立ち位置は、神に遣わされた使徒と謂う賓客扱い、つまり軽んじはしないが実権も無い。それでは帰還の際に、あの手この手で引き留めてくるのは目に見えてる。仮に話をつけずに帰還した場合は地球で多くの手間や面倒が生じてしまう。

 だから、事前に実権を握る事でその辺りをスムーズに済ませる下地を作っておきたい。

 

 

 これらの目的を処理するにあたり必要なのは意識と認識を変える事、主に権力者と天之河のだ。

 トータスの権力者達はこの戦争が勝率20%未満と見積もっていたが、実際はほぼ負け確。何せ、連中の想定する戦力運用では覆せない程の戦力差だ。しかし、そんな事は露知らずに暢気な構想を描いてる。これではどんな成果を上げようと実権を与えはしないだろう。

 天之河については言わずもがな。梃子でも戦線離脱などしないだろうし、そうなると芋蔓式で他も参戦し続ける。カリスマと云うのは厄介だが、逆に言えば()()()()()()()()()()()全員の一般人を戦線離脱させられる。

 

 

 その為に色々と手間を掛けた。

 

 

 清水を飼い馴らす為の演出の仕込みやガワを取り去った中村と話す為の人払い工作。

 魔人族の斥候 三人をPSIで洗脳して行動をプログラム。二人はワザと捕らえさせ拷問コース。残る一人に救出目的で襲撃させる。

 襲撃役の魔人族には真っ向から教会を潰せる戦力を与える為に、変成魔法で魔物を生み出して頭数を増やし、更に魔法で劣化再現した『爆塵者(イクスプロジア)』を会得させた。

 教会に集まっていた銀髪の修道女(通称"神の使徒")達の排除は、エヒトに警戒される要素を増やさない為に直接 手を下すのを避ける。本来なら精製には相応の設備が必要な致死性ガスを生成魔法で作り、襲撃役に与えた魔物に仕込んだ。

 教会を襲撃させた魔人族を捕らえた際、天之河に処刑させる展開に持っていく為に、王侯貴族へ不信感を煽る情報を流布。

 帝国を始めとした他国への情報伝達が阻害されない様、王都や教会に派遣されている各国の密偵や間諜の動きを誘導。

 仕上げに事が順調に運ぶよう、諸々のタイムスケジュールの調整。

 

 

 こうした暗躍の甲斐があり成果は上々。

 

 

 中村と清水は自分の制御下に。

 神の使徒と教会の排除は魔人族を実行犯に仕立て上げ、自分は矢面に立たずに完了。

 脅威を見せ付けて権力者から選択肢を奪い、自分に実権を与えさせた。

 甘い絵空事を信じる天之河に現実の残酷さを突き付けて心を折り、他の生徒等共々 戦線から遠ざけた。

 

 

 些細なズレはあれど企図通りの結果を得られた。

 

 

 そして、こうなれば後はトントン拍子。王国や教師生徒等に承認させた作戦遂行へ向けて行動した。

 

 

 

 手始めに、王国の兵士全員に魔力の直接操作を教えた。但し、南雲にしたような一から感覚を掴ませる指南は、万単位の兵を相手にしてられない。昇華魔法を使い、技能として一片に習得させた。

 それでも、一般に普及してる魔法陣のままでは〝魔力操作〟を大して役立てられないので、自分が改良した魔法陣を共有させる。当然だが共有させたのは異能力を劣化再現したモノや神代魔法ではなく、トータスの既存魔法のみだ。

 その成果を元に、帝国等の他国にも作戦の協力を求めた。既に聖教教会が潰滅した情報は渡っており、大半の国は二つ返事で受け容れた。

 一部の国はどうにか少しでも利益を掠め取れるよう話を持っていこうとしたが、『魔力操作の普及や高度な魔法陣の共有は協力的な国家を優先する』と言えば大人しく従った。戦争後に他国に水をあけられる事態を望む国はない。

 

 結果、人間族全体の協力体制が整う。

 

 それと並行して清水、中村、南雲には働いて貰う。しかし適性があっても、流石にそのままでは非効率。よって既に与えてある清水以外の二人にも、相応のアーティファクトを作製して渡し魔法陣も提供した。

 三人の働き振りは、清水は嬉々として、南雲は割り切って、中村は演じて、といった具合だ。

 

 清水は大衆から称賛や畏敬を向けられる事で、名誉と栄誉を得て大喜び。自らの承認欲求が満たされて有頂天とすら言える様子。

 

 南雲は多少は思う所もある様だが、必要な事と割り切って動いてる。

 物資は国を挙げて行う以上は問題無い。しかし、幾ら何でもいきなりポンと銃火器の作製が出来る筈も無い、詳細な図面を書き下ろして見本も作ってみせた。その際に『何で王国の錬成師じゃなくて僕に頼むの?』と問われたが、“トータスにとって科学技術が異物だから”と答えた。

 魔法技術は多少進めた所でエヒトの過干渉による遅れを取り戻してるに過ぎないが、銃火器等の科学技術は違う。元々トータスの文明に存在しないモノを齎す責任なんて負う積りは無い。だから、トータスの人々には触らせないし処分方法も見越して作らせた。

 

 中村が演じて、とゆうのはいつも通りではあるが少し違う。“自分に従うなら天之河を手に入れさせてやる”ってのが中村との約定、故にそれに沿った形で演じてる。

 契約成立した時点で履行の手段は開示した。『天之河の心を徹底的に折った後で依存させればいい』と概ねこの様な事を言った。これに対し中村は可能か否かには疑問を呈したものの、天之河が欲しい割には良心の苛責の類は見受けられなかった。

 本人の計画では魔法で洗脳する気だったのだから不思議でも無いが。然し何故、こうも中村は天之河に執着するのか?………これは本人の半生と性質に因る。

 

 学園関係者の素性を洗った際に自分が知った"中村 恵里"が隠している経歴はこうだ。

 幼少の頃に自身を庇って実父が事故死した事から始まった母からの虐待。暴力に耐えていた折に母はどこぞの碌でなしと再婚し、義父ができた事で虐待は暴力から放置に変わる。だが義父は倒錯した趣味の持ち主だったようで、性的に見るには幼過ぎる中村を襲うが失敗しお縄。それを母は“自分の男を誘惑した性悪”と見なして更に苛烈な虐待が再開され、諸々に絶望した中村は投身自殺を図るが、そこに偶々居合わせた天之河が自殺を止める。

 中村と天之河の間でどんなやり取りがあったかまでは知らないが、おそらくは天之河の独善性全開なモノだったのは確かで、その言い分を鵜呑みにした中村は恋にでも落ちたのだろう。以降の中村は精神的な拠り所を得た事で母との立場を逆転させた上に、義父は務所行きなので実害ある問題は無くなった。

 これで終わりなら現代社会ではありふれた悲劇が解決してめでたしめでたし………で済めば良かったのだろうが、天之河に恋した中村には受け入れ難い現実が一つ。天之川にとって中村は友達の一人に過ぎず、当人の心が向いてるのは白崎と八重樫、挙げ句の果てにそれが当然って環境だった事だ。

 そうして歪んだ執着心が生まれた。周囲からヘイトを買わないように天之河の近くにいる為に、控え目な図書委員の少女なんて仮面を付けたり、クラスのムードメーカーの親友ポジションを得たり。天之河に言い寄る奴が現れれば、尽くを陰湿な方法で手を回し排除したり。果てには天之河の心が向いてる白崎と八重樫を引き離す算段を練ったり。といった風に“天之河を手に入るなら手段を選ばない少女”と化した。

 

 要するに、天之河を自身のものに出来るなら誰がどうなっても構わない価値観を持つ、と()()()()()()()()()()

 

 まぁ 兎にも角にも。各国の墓という墓を暴いて死体を兵にする作業を中村は、元の仮面に重ねる様に“皆(特に天之河)の為に辛い役目を引き受けた悲劇のヒロイン”を演じながらしてる訳だ。

 心が折れても絵空事染みた正義観を捨てられない天之河に、そんな中村を宛てがえば高確率で依存する。そうなる様、他の連中には仕事を割り振り二人から引き離す。

 例えば、畑山先生は王国内だけでなく他国の農作地にも巡回を。白崎は一人で大量の銃火器作製を任された南雲のフォローを。坂上や谷口みたいな行動する気力のある奴等は、魔物の軍勢をつくる清水のアシストや畑山先生の護衛を。八重樫は動く気力も無い奴等のケアを。そうして二人に構う余裕を奪った。

 これで契約の履行は完了と言える。

 

 

 人間族全体に及ぶ軍事増強を行なっている間に魔人族の攻勢はほぼ無い、あっても散発的に偵察隊が来た程度。そして、それ等は以前 放った元奴隷の亜人族の網にかかった事で、自分に見つかり殲滅されている。

 魔人族側の行動が偵察程度なのはアチラも本格的な侵攻に向けて、戦力を拡充してる真っ只中だからだ。整い切らない戦力を逐次投入するのは愚策中の愚策。しかし、業を煮やして攻めて来る可能性も考慮していたのだが、フリード・バグアーはそんなヘマを犯す将では無いらしかった。

 

 エヒトからの干渉も引き続き無かった。

 辿れる痕跡は出来る限り潜めたとは言え、教会の壊滅に神の使徒の排除もしたのだから、何かしてくるかと思っていたのだが何も無い。神の使徒は量産品だから、ネタ切れは無い筈なのだが。

 これは気付かれずに上手くやれたと捉えるべきか、それともエヒトが自分の想像以上に驕っていると捉えるべきか。実際、解放者達の時も些事と判断して放置されていた期間はあったらしいし、好都合と捉えておこう。

 

 

 順調に、王国や一般人共に語った通りの作戦遂行へ向けて行動してはいるが、自分の本題は異なる。

 

 当然だがエヒトからすれば見世物として愉しめればそれで良いのだから、人間族と魔人族の戦争など勝とうが負けようが痛くも痒くも無い。それに帰還方法である〝概念魔法〟は自分が大々的に動いてるせいで試せてはいないが、神代魔法の検証結果から問題なく行使できると確信している。

 

 ならば作戦の本題は何かと言えば、エヒトを始末する為の殴り込みと帰還の下地作りの同時進行だ。

 

 正直、オスカー・オルクスの過去を視てもエヒトが居座る【神域】とやらの座標は曖昧だった。これでは何時まで経っても手が出せない、よって正確に調べる必要がある。

 方法は三つあり、どれでもいいが個人的に手間の少ない手法を取る。詰まり、エヒトの手駒のアルヴを始末する序でに案内させる、だ。

 それに表向きの喚ばれた理由である戦争は勝って終わらせた方が、比較的に後腐れなく帰還できる。

 

 まとめると、戦争を人間族側の勝利に導くのと同時にエヒトの抹殺を済ませる算段だ。

 

 ただ、始末するにしても筋は通しておきたい。あくまで必要な、そして可能な限りの、とつけはするが。

 流石にエヒトと因縁浅からぬ吸血鬼の女王を放ったまま、片を付けるのは不義理だろう。大迷宮を巡ってるアレーティアと侵攻を始める前に接触を図る。

 

 と言っても、待ってれば向こうから来るのだが。

 

 現存してる資料では不明だった七大迷宮の所在も、オスカー・オルクスの過去を視て判明している。大陸南部 魔人族領のシュネー雪原にある氷雪洞窟、大陸西部に面する海の底にメルジーネ海底神殿、そして"神山"にバーン大迷宮がある。

 アレーティアには全ての大迷宮の所在と挑戦条件を記した地図は持たせてある。どういう順序で巡ったしても必ず"神山"には来るのだから、少し人を動かして連絡体制を作り待ってればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 自分が実権を握り、二ヶ月半が経過した頃。

 

 

「久し振り。アレーティア」

 

「ええ。久し振りですね、クレイ」

 

 "神山"を訪れたアレーティアと再会した。

 

 再会したアレーティアの装いは、旅や戦闘に適した活動性と王族らしい品位を両立したモノになっていた。しかも、魔法効果が付与されてるあたり自作したようだ。

 それに魔力の気配や佇まいからも格段に腕を上げたのが分かる。予想通り、大迷宮を巡るのはアレーティアにとっては有意義だった様だ。

 

「故郷への帰還は叶っていないようですが、お元気そうで何よりです」

 

「そこはお互い様だな。"神山"に来たって事はバーン大迷宮に挑むんだろう? それとも、もう終わったか?」

 

 挨拶もそこそこに経過を問う。

 

「終わりましたよ。これで七大迷宮も残す所は樹海と氷雪洞窟です」

 

 どうやら残りは二箇所らしい。制覇してるのが理想だったが、流石にそう上手くはいかないか。

 

「ところでクレイは今は何を? …………それにここの荒れようは一体……?」

 

 アレーティアは瓦礫の山と爆撃痕だらけの"神山"を見渡し、質問してきた。

 

「魔人族の先遣隊との戦いでね………ご覧の通り。こんな有り様だから、おちおち帰る方法も探してられなくてな」

 

 自分が仕組んだ事である等、おくびにも出さずに話を進める。

 

「仕方ないから、戦争に乗っかって手荒い方法で帰る事にした」

 

 わざわざ自分が“手荒い”と注釈した事に、アレーティアは首を傾げた。

 

「何にせよ方法が見つかったのは良かったです。しかし、手荒い方法とは?」

 

「エヒトの配下の魔王を締め上げて居所を吐かして、そのままエヒトも締め上げて帰らせる」

 

 自分が余りに事も無げに宣ったものだから、アレーティアは一瞬ポカンとした顔をした。だが同時に、自分がここに来た理由を理解し、静かな笑みを浮かべた。

 

「ふふ………確かに手荒いですね。では、その時には私にも声をかけて下さい。エヒトは私が討つのですから」

 

「ああ 勿論、分かってるさ。だから、これを持って行きな。時期が来たら伝える」

 

 自分は用意しておいた水晶型魔力式通信器(アーティファクト)をアレーティアに渡した。

 

「凡そ一ヶ月後に始める予定だ。問題無いか?」

 

「構いません。その頃には残りの大迷宮も攻略を終えているでしょうから」

 

「なら決行の時に会おう。………んじゃ、またな」

 

「ええ。また」

 

 そう言って、アレーティアと共闘の約束を取り付けて別れた。

 

 

 

 諸々の仕込みは完了。後は準備が整い次第、侵攻して片を付けるだけ。

 

 

(無用なリスクを避ける為とはいえ、随分な労力を払った………本当に異世界は厄介事の塊だ)

 

 トータスに召喚されてからの労力を思うと、まだ終わってないにも関わらず、溜め息を吐きそうになる。

 

「せめて神気取り(エヒト)がサンドバッグ代わりになってくれる事を期待しようかね」

 

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月後、侵攻開始 ────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 其処で自分は初めて、気付く事になる──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………嘘だろ?………冗談じゃねェぞ、オイ…………?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────根本的にして、致命的なミスを。

 

 

 

 

 

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