ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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十八話 『ーーー』発動

 

 

「まさか………グリゴリ実験 被験体02号……?!」

 

 戦慄と共に絞り出した自分の声は掠れかけていた。

 

「お〜、そんな有名じゃない筈なのによく知ってんなあ。グリゴリ02号、確かにそれは俺のことだ」

 

 青年はほんの少しだけ目を丸くし、驚いた様な素振りをしながら認めた。

 

「グリゴリ……? ………被験体……?」

 

 アレーティアが困惑気味なのも当然だ。地球での事柄であって、トータスの住人には何の事か分かる訳も無い。

 

 

 グリゴリ計画──ー

 

 日本国政府が莫大な予算を投入し、極秘裏に行っていた非道な実験を総括したプロジェクト。目的も内容も到ってシンプル。主に軍事利用方向でのPSIの研究と開発だ。

 PSIは誰もが扱える可能性がありながら、同時に絶大なる力を秘めている。国益か我利かは兎も角、知れば欲する者達が現れるのは必然だった。

 基本的にPSIは思念の力であり、生物の脳細胞に備わる一種の潜在能力。故に研究材料には脳を持つ動物が使われていき、最終的に人間となる。

 それは即ち、徹底的な人体実験の開始を意味した。解剖や改造などの手術は当然として、非合法な薬剤の投薬や遺伝子操作に到るまで。表に出せば世界中から叩かれる程に、人道も人権も無い実験の数々が行われていった。しかし、それすらデータの集積段階に過ぎず、本格的な被験体は計九体しか存在しない。

 プロジェクトと機関、両方の名称でもある『グリゴリ』厄災を招いた悪魔の名を冠する通り、被験体達は才能あるPSI能力者と比較してすら尋常ならざる力を保有するに至った。

 グリゴリ計画は第一次と第二次が行われたが、何れも被験体の暴走と脱走により失敗。結果として禍根を残したままに計画は放棄、凍結された。

 尚、被験体は第一次が01〜03号であり第二次が04〜09号までである。一体たりとて死亡は確認されていないが、現在も半数が行方知れずのままだ。

 

 

(グリゴリ計画 被験体02号、僕達のアーキタイプ! 脱走後の足取りが完全に途絶えていたが、こんなトコにいたのかよ……!!)

 

 トータスにグリゴリ02号がいる理由。先ず間違いなくエヒトが器に選んで喚び出し、失敗して逆に隷属させられたのだろう。

 

(異世界間での転移や干渉の手段がある事を理解していたのに、何で僕は黒幕がエヒトだと思い込んだ。畜生……!!)

 

 もっと早く気付くべきだった、少なくとも可能性を考慮するべきだった。

 

 真に隔絶した強者の存在を。

 

 自分に制限がかけられていると考察した時に、或いはエヒトの人格に対する推察の裏付けがとれた時に。いや、もっと言えばエヒトの目的が判明した時点で察するべきだった。

 己の力を過信した傲慢で浅薄な愚か者が、他者に枷を嵌める筈など無い。上物があるのに粗品で妥協する筈が無い。もし そうしたのなら、過去に失敗したか本意では無いかの何方かなのだから。

 

 だが、ミスを悔やんでもいられない。

 

「アレーティアッ! 逃げるぞ!!」

 

「ここまで来て何を言って──っ!?」

 

 説明してる暇は無い。自分はアレーティアを掴むと即座に反転、ライズを全開にして全速力で駆け出す。今もアルヴに開けさせたままの【神域】のゲートを潜ろうとする。

 

「エヒト。閉じろ」

 

 グリゴリ02号が命じると、白一色だった【神域】が黒一色にみるみる塗り換わっていく。それと共にゲートも消えようとしていた。

 

「チィ! 仕方ねェ………間に合えっ!」

 

「えっ、ちょっ──ー」

 

 掴んでいたアレーティアを消えかけているゲートへ向けて、テレキネシスによる加速込みで全力で放り投げる。

 

「きゃああああぁぁぁ────!」

 

 およそ体感した事の無い速度で投げ込まれたアレーティアは悲鳴を上げるが、ぎりぎりゲートが消える前に通過していった。

 

「わざわざ一人だけ逃がす意味あるか? 間に合わないと思ったなら二人掛かりで俺に立ち向かった方が良くないか?」

 

 理解が出来ないとばかりに02号が問う。

 

「敵がエヒトなら兎も角、グリゴリ被験体(アンタ)を相手取るなら足手まといにしかならねェ。いなくていい」

 

 振り返りながら言った自分の答えを聞くと、02号は眉をひそめ目付きを鋭くした。

 

「お前、グリゴリについて随分と詳しそうだな。後輩ってことはない筈だろ、つまり機関側か………」

 

 グリゴリ計画について直接的な意味では無関係なのだが、あらぬ誤解を招いたらしい。02号のPSIが高まり、一気に空間が張り詰める。

 

(分かってたが、やっぱ対話の余地は無いか………!)

 

 このまま戦えば勝機は万に一つどころか、那由他に一つも無い。準備していた魔法陣を少しだけ改変すると、直ぐ様 行使に移る。

 

「なら死ね」

 

 言うが早いか。02号はバーストエネルギーを視界を覆い尽くす程の広範囲、超高出力の砲撃として放った。

 

 とてもじゃないが、今の自分に避け切れる範囲と速度じゃない。咄嗟に張ったバースト障壁が砕かれ、体を吹き飛ばされ何度も地を跳ねる。

 

「イッテェけど、ギリセーフ………っ!」

 

 だが、五体満足で生きている。骨は軋んだが折れてはいない。直撃の寸前、既の所で魔法行使を終えていなければ即死だった。

 

「ほー。エヒトに掛けさせた〝常世の法〟を解いたか」

 

 名称は今 知ったが、トータスへ異世界から訪れたモノのスペックが向上する法則を適用外にする魔法〝常世の法〟を解除した。

 エヒト相手には不要だと思っていたが念の為、戦闘中だろうと解除できる様に魔法陣を組んで用意しておいて正解だった。

 さっきまでは02号だけがトータスの法則が適用されてる状態だった。元から実力差があるのに加えてそれでは、敗北は確定したも同然。

 

 しかし、これで条件は対等。ステータスプレートの確認はしていられないが、自分のスペックも十数倍は上がった。

 

(と言っても、敗色濃厚に変わりは無いが………)

 

「…………それでも、やるしかねェんだよなァ!」

 

 気炎を吐くと共に地を蹴った。自分は距離を詰めながら、お返しとばかりに圧縮したバースト砲撃を乱射する。

 

「全部 返すぞ」

 

 02号が片腕を振るうと、自分の放ったバースト砲撃が全てテレキネシスに絡め取られ、02号の遥か手前でU字を描いて跳ね返ってくる。

 

 瞬時に呼吸の深度を上げて加速、返ってきた砲撃の隙間を抜ける。

 

「そらよ。オマケだ」

 

 再び02号のバースト砲撃が放たれるが、今度は躱せる。範囲外まで跳躍し、回避するなり即座に前進に戻る。然し、避けた先にまた砲撃が撃ち込まれる。自分は回避に専念させられ、まるで距離を詰められない。

 ならばと攻撃を躱しながら魔法による空間転移を試すが、やはり無駄だった。魔法を行使しようとした次の瞬間には、02号の"W・H(ワイヤレス・ハック)"で術式が乱され不発に終わる。明らかに自分の思考が読まれている。

 

(当たり前の様に"読心(マインド・リーディング)"を使ってやがる。しかも僕より精度が上すぎて読み合いにもなってねェ!)

 

 無詠唱・無陣で魔法が使えても、魔力の制御や術式の構築が要らない訳では無い。そして、内界に干渉できるトランス使いからすれば妨害は容易い。程度にもよるが自分だって出来るのだから、02号が出来ない道理が無い。

 自分の魔力と魔法の扱いはトータス基準なら洗練されてると言えるだろうが、地球基準なら粗雑もいい所。PSIを使いながらの片手間では、02号を相手に無詠唱・無陣の魔法行使は至難だ。

 今 必要なのは発動までの速さ、故に詠唱の選択肢は無い。しかし、敵の想定はエヒトだった為に魔法陣の用意は少ない。既に使った〝常世の法〟を解く為の魔法陣を除けば僅か数枚だ。

 

(PSIで劣ってるのは自明。なら魔法を少しでも有効に使わなけりゃならねェが、出し惜しんでもいられないか……!)

 

 六発目のバースト砲撃を限界まで引き付けてから、魔法陣を使って空間転移する。

 自分の思考を読み取り、転移先を知った02号は眉間に皺を寄せた。

 

「っんのヤロウが、させるか」

 

 転移先はエヒトの玉座の二十メートル後方、ここなら広範囲高火力の砲撃はこない。目的も理由も不明だが、02号はエヒトを始末されては困るらしいからだ。

 この位置からエヒトを巻き添えに攻撃すれば02号は避ける訳にはいかず、反撃は最小に抑えられる。

 

「バーストストリーム展開、プログラム起動……!」

 

 バーストストリーム。PSIエネルギーを自身の周囲に発散しつつ体の内と外で循環させた状態をつくる事で、PSIの反動や負荷を軽減させる制御法。

 プログラム。PSIを発動させる前の段階で、具体的な行動や法則を決めてからPSIを組み上げる。そうする事でより強力に、或いはより精密に、PSIを扱う技術。

 

 単純なバースト砲撃ではまたテレキネシスに絡め取られる、もし届いたとしても深手にはならないだろう。故に技術を用いてのPSI攻撃を見舞う。

 

「エヒト諸共、ブッタ斬れろッ!」

 

 自分が両腕を振るうと、バーストエネルギーが極細のワイヤー状となって飛ぶ。その細さはライズを使っていても視認困難な程だ。

 

 それは自分のPSIの本質に由来しない戦闘手段を得る目的でつくったPSIプログラム。

 プログラム.1。展開したバーストストリーム範囲内の塵埃に自分が出来る限界まで圧縮したバーストエネルギーを纏わせる。

 プログラム.2。バーストエネルギーを纏わせた塵埃を糸状に繋げる。

 プログラム.3。糸を振るいバーストストリーム範囲外の塵埃に触れる度に、糸を伝ってバーストエネルギーを纏わせ設定した長さまで糸を延長する。

 プログラム.4。糸を延長していく過程を織り込んだ軌道を設定して放つ。

 汎用性を高める為に何箇所か変数にしてあるが、基本的には上記の四つで組み上げた

 

 バースト 『塵糸』

 

 玉座を回り込んだ02号は、威勢のいい叫びに反して一見 何も起きていない状況に対し防御を選択。自らとエヒトをカバー出来るだけの大きさをした半球面形のバースト障壁が張られた。

 

 ビシィッ!

 

 障壁に"塵糸"が衝突するが切断しきれず、正面に切れ込みが入るに留まる。だが、想定内。一本で切断しきれるとは思っていないし、そもそも放った"塵糸"は一本では無い。

 

 ビシ ビシ ビシ ビシ ビシ ビシ ビシ ビシ ビシ!

 

 障壁が傷付く音が連続して鳴る。同一の軌道を描く"塵糸"が寸分違わず同じ箇所へ衝突し、障壁をより深く切り込んでいく。

 十本目が障壁を切り裂き、阻む物の無くなった十一本目以降の"塵糸"が02号とエヒトを襲う………………筈だった。

 

「"思念結晶(クリスタライズ)"Form:Trident」

 

 02号が手を翳した先へ蒼白い光が集い、穂先が端子(ジャック)の形状をした三叉槍が出現する。柄の中心を掴むと、高速で回転させて全ての"塵糸"を弾き飛ばした。

 直後。02号は回転の勢いそのままに槍を逆手に持ち替え、先程まで軽々に放っていたバースト砲撃を遥かに上回る速さで投擲。

 

「速──ッ!?」

 

 障壁を張る間も迎撃する間も無く飛来する三叉槍。まともに受けるなど論外、どうにか避けようと体を捌くが間に合わない。

 だが、既の所で纏ったバーストオーラで僅かに軌道を逸らせた。その際に間近で三叉槍を視て、異常に気付く。

 

(この槍 バーストじゃねェ!? トランス結晶だと?!)

 

 次にどうなるかを察しても もう手遅れ。

 

「Bang!」

 

 02号の指令で三叉槍が爆ぜた。

 

「ぁガッ──ー!!」

 

 三叉槍の正体は精神爆弾(マインド・ボム)。形成していた思念波(トランス)を粒子状にして拡散し、対象を巻き込む事で思念波(トランス)による干渉を行うモノ。

 込められていたのは膨大な量の廃棄情報(ジャンクデータ)。真っ当な生物が処理しきれない、そして知覚すべきでは無い情報量、それが強制的に流し込まれた。

 

「──ーっグぅ、………はぁ ハッ、はっ …………!」

 

 普通なら脳を或いは魂や精神を破壊され、廃人確定となる所を辛うじて耐えれた。当然ながら精神論や根性論では無いし、処理能力の範囲内だった訳でも無い。

 自分が耐えれたのは、直前に纏っていたバーストオーラと"読心(マインド・リーディング)"を防ぐ為に走らせていたプログラム。その二つによって干渉を軽減できたからだ。

 

 トランス 『心鎧(マインド・コート)

 

 "読心(マインド・リーディング)"を始めとした内界干渉の防御手段として組んだPSIプログラム。

 トランスはバーストで防ぐのがPSI戦闘の基本だが、"W・H(ワイヤレス・ハック)"や"読心(マインド・リーディング)"といった一方的な送受信は防ぎ辛い。それも織り込んだ駆け引きでもって制するのがトランス使いの常。しかし、余りに掛け離れた実力差の前に、駆け引きは意味を成さない場合が多かった。

 そこで拒絶の意思のみを抽出して自身の内界をコーティングするプログラムをつくった。これによりトランスに対する抵抗力が飛躍的に高まり、干渉を遮断できる。欠点は無差別に遮断する為に、味方からのテレパスも届かない事や自らのトランスの出力効率が低下する事等だ。欠点は大きいが釣り合うだけの効果がある。

 

(逆に言えば………それでも尚、このザマか………!!)

 

 鼻、耳、目から血がドロリと流れ落ちる。廃人となるのを免れただけで致命傷には変わりなかった。意識が落ちる前に魔法陣を取り出し〝再生魔法〟を使う。

 

「"思念結晶(クリスタライズ)"Form:Trident」

 

 身体を治した時、02号はもう一度 三叉槍を形成して追い撃ちをかけようとしていた。

 投擲を阻止するべく02号の五体目掛けて、咄嗟に五十の"塵糸"を放ったが全て切り裂かれる。槍を振るう動作に迷いはなく、"塵糸"が見切られているのを悟った。

 

「バケモンが……!!」

 

 グリゴリ被験体の異常さは身に沁みて分かってはいたが、それでも毒づくのは止められなかった。

 全力のバースト攻撃で傷すら付かない程の強度をした精神爆弾(マインド・ボム)、くらえば瀕死or即死。挙げ句に連続して発動可能、大した消耗も見受けられない。

 

 やはり、勝つには賭けに出るしかない。

 

 せめて能力の詳細くらいは暴いてからにしたかったが、そうも言っていられない。次も精神爆弾(マインド・ボム)を耐え切れる保証も無ければ、〝再生魔法〟の魔法陣ももう無い。

 

(後手に回れば詰む、仕掛けるしかねェ!)

 

 二枚の魔法陣を使い、劣化再現した『爆塵者(イクスプロジア)』で絨毯爆撃を仕掛けた。続け様に"塵糸"を連ねて放ち、02号の選択肢を狭める。

 

「また巻き添え狙いか。しょーもないし、ウザったい」

 

 迫る攻撃の全てを02号は容易く三叉槍で打ち払った。"塵糸"はまとめて裂かれ、光条は払われた先で爆発を巻き起こす。

 

 自分は立ち込めた爆煙を突っ切りながら、再び二枚の魔法陣を使い作った刀で斬り掛かる。

 

「遅いな」

 

 槍と刀は一合も斬り結ぶ事なく、自分は喉笛を真正面から穿たれた。が、瞬間 身体はPSIの粒子となって霧散する。

 

「思念体。デコイか」

 

 思念体。物体ではなくエネルギーによって構築された体の通称。PSI能力で作る場合はバーストとトランスの双方に深く精通していなければならず消耗も激しい。故に使い所も使い手も限られる代物だが、状況さえ整えれば撹乱に使う程度は自分にも可能だ。

 

 思念体を追走していた自分は霧散する粒子を払い飛ばしながら、突き出された槍の内側へ踏み込む。同時に思念体が取り落とした刀を掴み取り、再度 斬り掛かる。

 

「Bang!」

 

 02号は槍を振るえぬ間合い入られても微塵も動じず、一歩下がりながら三叉槍を手放し起爆させた。超至近距離で爆ぜた精神爆弾(マインド・ボム)に02号共々呑まれたが、自分の身体は再び粒子となって霧散する。

 

「これも思念体。本体は……」

 

 あの精神爆弾(マインド・ボム)に指向性が有るのかは定かでは無いが、何れにせよ02号には無害に等しい様だ。淡々と呟く様子を見て、そう理解する。

 

「……上──」

 

 霧散する直前に思念体が真上に放った刀を片手に、落下の勢いをのせて斬り掛かろうとする自分を、02号は見上げて呟いた。

 

「──じゃなくて、後ろだ」

 

 かと思いきや後ろを振り返り、爆煙に紛れて背後に回っていた自分を見遣る。

 

「っ!?」

 

 自分は驚愕の表情を貼り付けたまま、渾身の一糸を放とうとする。それは"塵糸"の変数箇所を調整し、隠密性と操作性と射程を犠牲に威力と速度に特化したプログラム、"塵糸・弦刈"。

 

「だからな、遅いっての」

 

 ドチュッ!

 

 然し、"塵糸・弦刈"を放つよりも早く踏み込み、02号は自分の首を手刀で刎ね飛ばした。今度は身体が霧散する事はなく、断面から血飛沫を上げながら倒れる。

 

「これで終わり。と思ったら手が込んでんな」

 

 振り返りながら視線を上げた02号の眼に鈍色の刃が映る。

 

 自分の本体は刀を片手に斬り下ろそうとしてる方であり、背後を取っていたのは〝変成魔法〟で生み出した生体人形。PSIの配分を偏らせ、人形を本体かの様に偽装した。

 "心鎧(マインド・コート)"を維持したままでの、思念体の複数形成によるフェイントを重ね、漸くこの至近距離にまで迫れた。

 負担を度外視のPSIの行使で作った、千載一遇の好機。ここで決める為に全霊のバーストを刀に込める。

 

「"思念結晶(クリスタライズ)"Form:Estoc」

 

 先程までの三叉槍の形成に要した時間なら間に合わない距離にまで詰めたが、02号はそれを超える速さで刺突剣を形成してのける。

 

 だが、それ位はやるだろうと思っていた。

 

「はあぁあアアァ!」

 

 刺突剣と刀を交える直前、自分は瞬時に刀に纏わせていたバーストオーラを解除。PSIも魔力も込められていない一刀に切り替え、裂帛の気合いと共に純然たる身体技術を以て振り下ろす。

 02号のPSIは確かに全てが異常の高水準だが、真実 得手とするのはトランスの筈だ。そして、どれだけ高度なトランスであろうと、トランスは純粋な物理の現象や物体を透過するのは変わらない。自分が振るっている刀は魔法で作ったが〝生成魔法〟で本来の用途とは逆に、魔力による効能を取り除いてある。

 

 故に刀は刺突剣をすり抜け、02号へ届く。

 

「ッ!」

 

 刀越しに伝わった鈍い手応えに歯噛みする。

 ライズで強度を増した02号の肉体を斬るには、自分の技量が不足していた。振り下ろした刃は僅かに薄皮を裂くに留まってしまう。

 

「惜しかったな」

 

 言葉の割に02号は脅威を感じてはいない様だ。

 

 

 だが、それでいい。

 

 

 自分の本命は駆け引きによる一撃決着ではなく、02号の背後に躙り寄る、壊された生体人形の手にあるのだから。

 

 首を刎ねられて自律起動不可となり、今 テレキネシスで動かしてる生体人形の手には、戦闘を始めた直後から仕込んだ起死回生の一手がある。

 トータスへ異世界から訪れたモノのスペックが向上する法則を適用外にする魔法〝常世の法〟は、ただ解除したのでは無い。解除用の魔法陣を使用前に改変し、発動時の範囲対象指定となっていたのを、装着者指定に変えたアーティファクトに落とし込んだ。

 〝常世の法〟の効力を宿した腕環型アーティファクト、言うなれば〝常世の環〟を02号に装着させる事。それこそが自分が狙っていた勝ち筋………!

 

 

 あともう少しで〝常世の環〟を02号に着けられる。そう希望を抱いた瞬間

 

 

 

 バキャッ!!

 

 

 

 絶望の破砕音が鳴った。

 

 

「──全部 筒抜けじゃなけりゃあワンチャンあったかもしれないのに、な」

 

 刀をすり抜け空振らせた筈の刺突剣は勢いそのままに、背後の生体人形の持つ〝常世の環〟を刺し穿っていた。

 

 それは紛うことなく、自分の敗北を意味した。

 

「じゃあな。ゴキブリ組織の生き残り」

 

 02号がそう吐き捨てるのと同時、バーストオーラを漲らせた貫手が自分の胸部に風穴を開けていた。

 

 

「グ……ごボォ゙、ぁ゙……!!」

 

 

 自分は止め処無く血を流して仰向けに倒れていく。

 

 

 

 

 視界が霞み、意識が途切れ、絶命する瞬間。

 

 

 

 

 自分の中の()()()()()()()()()()()()()()()()P()S()I()が、身体から抜けていくのを感じた。

 

 

 

 

(…………あぁ…………()()、か……………)

 

 

 

 

 そんな感慨を最期に、自分は死を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死と共に暗転し離れた筈の意識が唐突に帰着する。

 

 

 

 

 触覚には胸部を穿たれた激痛も、大量の流血による失調も伝わらず、身体が健常である事を示す。

 

 

 

 

 視覚が捉えたのは壁一面に描かれた一神教の宗教画。

 

 

 

 

 聴覚に届くのは困惑する教師生徒等の声。

 

 

 

 

 其処は紛れもなく、三ヶ月半前の襲撃で崩壊した"神山"の教会神殿。

 

 

 

 

 自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 





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