ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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二十話 解放の残火

 

 

 オルクス大迷宮の最深部にて、数十のブロック状の肉塊が鮮血を撒き散らしながら崩れ落ちていく。肉塊の正体は本来なら最終関門らしく堂々とした啼き声を響かせる筈のヒュドラモドキ。出現と同時に自分が"塵糸"で拍子木切りにした為、存在の主張すら出来ずに退場となった。

 大迷宮の試練を攻略するにしては無体な行いではあるが、そもそも大迷宮の試練などどれもこれも自分には意味のある代物ではない。気にするだけ無駄であり、そんな余裕もなく時間も惜しい。

 

 ヒュドラモドキを倒した事で開いた大扉の先にあるオスカー・オルクスの隠れ家に入り、まっすぐに三階へ上がる。部屋に設置された神代魔法授与の魔法陣に乗れば、記憶の精査の後にオスカー・オルクスの記録映像が再生され、脳に奔る僅かな疼痛と共に生成魔法を取得した。

 今回も既に攻略の証が亡骸の指に嵌められている為、魔法陣は攻略の証を生成しない。白骨化した亡骸を弔いがてら攻略の証たる指輪を拝借する。

 

(まずは一つ、次だ)

 

 自分は魔法陣を起動させオルクス大迷宮を後にし、次の大迷宮を目指して移動を始めた。

 

 

 既に七つの神代魔法を技術として扱える自分が大迷宮攻略に着手しているのはグリゴリ02号へ対処するプラン実現の為、の下地作りの準備の下準備の工程の一つぐらいにあたる。

 プラン実現に欲しいのは札と駒、それを得るには環境と資源が必須で更には充分な時間が要る。一応の当てはあるが手にするには相当な労力がかかる上に不確定要素が複数と不明確な時間制限もある。

 

(仮定できる期限は約半年、魔人族の本格的な侵攻の前である事だけ。何をもってグリゴリ02号の目的が達成されるのかが分からない以上はそれが限度だろう)

 

 長期間持続可能な程度の出力でライズを維持。不眠不休無補給で七大迷宮を巡り、魔法技術の修練も同時進行していく。

 この強行軍を可能にしているのは施設で必然的に体得した高度な肉体の制御であり操作であり支配。系統や種類は多岐にわたるし所によって呼び名も様々だが、割とありふれた技術だ。一応 自分はバイオフィードバックと呼称している。

 

 大迷宮攻略は最高効率で終わらせる。オスカー・オルクスの過去を視た事で"解放者"七人の合作である七大迷宮のタネも仕掛けも把握済み、妨げとなるものは時間だけだ。

 距離と挑戦条件から攻略順はシュネー、グリューエン、メルジーネ、バーン、ハルツィナ、ライセンの流れで行く。

 

 

 

 氷雪洞窟の試練の関門は四つ。

 一つ目、触れた生き物に凍傷を引き起こす雪が吹き付ける極寒のミラーメイズで凍死体と氷のスタチューの群れを対処しながら元締めの魔物の討伐。

 二つ目、次の区画へ進む為の扉と四対一組の鍵を魔物と罠と精神干渉を退けながら巨大迷路の中で見付ける。

 三つ目、引き続き精神干渉に晒されながら光線が乱反射するドーム内で氷の巨兵を一対一で討伐。

 四つ目、精神的脆弱性を突く自己の鏡像の打倒。

 

 極寒環境はバイオフィードバックで対処可能。バーストオーラを纏えば吹き付ける雪にも触れる事も無い。既知の罠も迷路も無問題。魔物は相手にならず、精神干渉は"心鎧(マインド・コート)"で遮断。鏡像は生成された瞬間に"塵糸・弦刈"で刻んだ──ー終了。

 

 

 

 グリューエン大火山の試練の関門は三つ。

 一つ目、迷宮全体に流れる溶岩による灼熱環境に耐えながら、不規則な溶岩の噴出への対処とマグマの体をした魔物との遭遇戦。

 二つ目、良質なアーティファクトで武装したマグマのミノタウルスの討伐。

 三つ目、大規模な溶岩溜まりにてマグマの巨蛇を百体討伐するまでの持久戦。

 

 灼熱環境は氷雪洞窟と同様にバイオフィードバックで対処。溶岩の噴出を避けるのも容易。戦闘はミノタウルスを"塵糸"で他はバースト砲撃で尽く瞬殺──ー終了。

 

 

 

 メルジーネ海底遺跡の試練の関門は四つ。

 一つ目、激流が渦巻く水中回廊のギミックを解く。

 二つ目、優れた物理耐性の魔物達を退ける。

 三つ目、水中球形広間にて魔装潜闘艇の攻勢を一定時間耐え凌ぐ、或いは魔装潜闘艇を撃退。

 四つ目、いつかどこかであった惨劇の上映鑑賞会と物理の通じない幽体の駆逐。

 但し、前提としてグリューエンの攻略の証の所持と満月の日でなければ挑戦不可。

 

 潜水と水中活動はバースト障壁とテレキネシスの合わせ技でクリア。予期していた魔物との戦闘はなく、代わりにイレギュラーな貴重個体が待ち構えていたのでサンプルとして捕獲、その場で檻と〝宝物庫〟を作成し収納。魔装潜闘艇は加減なしのテレキネシスで破壊。幽体共は存在強度は皆無につき、射程のみに特化し他は度外視したプログラムへ組み換えた"塵糸"で殲滅──ー終了。

 

 

 

 バーン大迷宮の試練は攻略法が二通り。

 一つは神(エヒトとそれに連なる者)へ信仰をもっていない者が"神山"の麓に隠された魔法陣から内部へ入り、精神汚染に晒されつつ嘗ての教会戦力の模倣との戦闘に勝利する事。

 もう一つは神を信仰していない者もしくは神の影響に類する何かしらに勝った者、このいずれかが教会神殿内部に隠された魔法陣に辿り着く事。

 但し、どちらの場合も攻略の証を二つ以上所持しているのが前提となる。

 

 自分にとってはどちらの攻略法も難度は大差無し。よってエヒトの監視網の強い教会神殿内に入る必要のある後者の方法を避け、前者の過去の教会戦力の殲滅を選択。精神汚染は遮断、戦闘は蹂躙、信仰裁定など不信心な自分には無関係──ー終了。

 

 

 

 ハルツィナ樹海の試練の関門は四つ。

 一つ目、樹海の中で擬態能力持ちの魔物との遭遇戦と次の区画への扉になる樹木系魔物の討伐、仲間がいる場合は転移時に分断されるので合流も含む。

 二つ目、夢想空間からの脱出。

 三つ目、雨天時の樹海に偽装された毒溜まりの突破。

 四つ目、精神汚染を凌ぎ、莫大な虫型魔物の群れの撃退。

 但し、四つ以上の攻略の証の所持に加え、亜人族とその同行者しか通さない特殊な濃霧区域を越えなければ挑戦不可。

 

 濃霧区域は亜人族を同行させなければ感覚誤認と空間歪曲で道を阻むが、通過する為に亜人族を同行者として募るのも拉致するのも時間の浪費。よって感覚誤認はライズによる感覚強化で、空間歪曲はバーストエネルギーの放射と固定で、それぞれ対処し強行突破。

 夢想空間の脱出は一瞬で完了。毒溜まりはバースト砲撃で道を開いて通過。精神汚染と魔物討伐は以下略──ー終了。

 

 

 

 攻略していった各大迷宮の最深部で"過去視(サイコメトリー)"を使って解放者達の情報を補完した。流石にオスカー・オルクスの亡骸ほどの思念は残ってはいなかったが、当人の協力があれば何とか目標値には届くだろう。

 また、別件としてグリューエンの隠れ家とハルツィナ大迷宮の入り口に微妙に条件が異なる同一の細工を施しておいた。ハルツィナの方は空振りに終わるとは思うが一応 念の為に、だ。

 

 

 そうして、凡そ一月半でライセン大迷宮に到着。

 

(ここでしくじったらこの一月半は無駄になる。最低でも重い腰を上げてくれればいいんだが、さて………どうなるか)

 

 ライセン大迷宮は魔力分解作用の働いた半自動物理トラップ満載の半自立変形巨大迷路だ。ここでの半自動や半自立とは“手動での遠隔制御が可能である”という意味、つまりライセン大迷宮は現在に於いても管理者が存在している。

 まさしく今 迷宮内を移動する自分に次々とトラップが牙を剥いてくるが普通は作動する訳が無い。何せ自分は床 壁 天井の一切に手足をつける事なく空中を駆け抜けているのだから、センサー式でも無い限りは誰かが操作しなければトラップは作動しない。

 

(前提の破綻と言える万が一は起きてない。尤も、そうじゃなけりゃ僕が困るが)

 

 迷路の終点一歩手前の部屋で五十体の騎士型ゴーレムが重力を無視した挙動で襲って来るが、自動修復機能付きなので相手にせず通過。終点の球形大広間へ突入した。

 大広間には大きさも形状も様々なブロックが幾つも浮遊し不規則に移動している。

 その内の一つに着地しようとした瞬間、自分を避ける様にブロックの速さと挙動が変わる。着けようとした足が空を搔き体が泳ぐ。同時に辺りのブロックも挙動を変えて加速、 上下左右前方から殺到してくる。後方からは追って来た騎士型ゴーレム達が剣を構え、一塊となって突っ込んできている。

 咄嗟に足裏に小さなバースト障壁を展開し蹴りつけ、崩れた体勢の立て直しと強引な回避行動を両立する。回避方向は僅かに密度が低い右斜め前の上方。まともな関節可動域では抜け出せないブロックの合間を潜り抜け、騎士型ゴーレム達の突進も避けきった。

 直後、ライズの出力を引き上げ身を捻り、真上からの衝撃に備え防御姿勢をとる。至近距離にまで迫っていた赤熱した金属塊が激突し自分は叩き落とされた。

 

(初手が随分と手荒だな、普通の挑戦者なら死んでるぞ。何か気付かない内に地雷でも踏んでたか……?)

 

 予想以上に苛烈な対応への考察と驚きを脇に置き、身を捻ると床へ足から着地。衝撃で床が砕け陥没し破片が粉塵となって巻き上がった。

 

『ん〜〜〜〜………、ちょぉ〜っとやりすぎたかな?』

 

 大広間の中空で少女の声が呟かれた。どこか気の抜けた言い回しをしてはいるが警戒心が微かに滲んでおり、口にした言葉は思ってもいないだろう。

 

 声の元は自分を叩き落とした下手人の巨大ゴーレム。他の物と同様に騎士型で浮遊している。ただし下半身がなく上半身のみで二十メートル近い巨体、装備は赤熱化した右手と巨体に見合った大きさのモーニングスターに見せ掛けたフレイルだ。

 この巨大ゴーレムの操縦者こそがライセン大迷宮の管理者であり、道中から追って来た騎士型ゴーレム達と合わせて総勢五十一体のゴーレム騎士団がライセン大迷宮の最終関門。

 

 しかし、戦う理由も必要も自分には無い。腕を振るった風圧で粉塵を払い除け、無傷な姿を曝して言葉を投げかける。

 

「ああ、やりすぎだね。だからそんな高いトコから見下ろしてないで、下りてきて和やかに話でもしないか?」

 

『おやおや〜〜? まだ始まってもいないのにもうギブアップ? 大迷宮を駆け回っただけで疲れちゃったのかな〜? プークスクス!』

 

 人を小馬鹿にした口振りとは裏腹に油断も侮りも無く、コチラを悉に観察している。何故か随分と警戒されているらしい。

 

「まぁ、そうだな。ギブアップする程じゃねぇけど疲れてんのは確かにその通りだし、僕はここであんたと話が出来ればそれでいいんだよ」

 

『およ? ゴーレムさんをナンパかい?

いやー! 私ってばいい女だからぁ〜言い寄りたくなっちゃうのも分かるけど、その気持ちは受け取れないなぁ〜。ゴメンねぇ〜〜!』

 

「妙な方向に話を広げないでくれ。コチラは真面目な話をしに来ているんだ」

 

 巫山戯た振る舞いをしている巨大ゴーレムを横目にさり気なく騎士型ゴーレム達が陣形を組もうとしている。このまま彼女に会話の主導権を握らせていると勝手に戦闘開始しかねない。

 何千年振りの会話だろうから多少の悪巫山戯なら付き合っても良かったが、そろそろ少し軌道修正しよう。

 

「それにゴーレムの体じゃなかったとしても、他人の女を口説くような真似をする積りは無いよ。ミレディ・ライセン」

 

『えぇ〜、なんのことぉ〜? ゴーレムさんは大迷宮のガーディアンであって、ミレディ・ライセンちゃんじゃないんですけどぉ〜。なにを根拠にして言ってるのかなぁ〜?』

 

 警戒を強めながらすっとぼけた事を言っているが、間違い無くミレディ・ライセン本人だ。"過去視(サイコメトリー)"で得ていた情報、トランスで認識した魂、二重で確認済みである。

 

「根拠、ね。………これでいいかい?」

 

 自分が懐から取り出して見せたのは指輪、ペンダント、コイン、羅針盤といった六つの小物、ライセンを除いた全ての大迷宮の攻略の証だ。

 

『……みんなの大迷宮の、攻略の証………』

 

「そう。だから、そのゴーレムがオスカー・オルクスの作品な事も、ラウス・バーンが魂の定着をさせた事も分かる。そうまでして永らえる解放者がいるとすれば、リーダーだったミレディ・ライセンその人だって事もな」

 

『なるほどねぇ〜、じゃあ とぼけてもしょーがないか〜。その通り! 私がミレディ・ライセンちゃんなのだぁ〜、ヨロシク〜』

 

「納得してもらえたなら『してないよ』

 

 自分の言葉を遮ったミレディ・ライセンの声音は変わっていた。お道化た態度が鳴りを潜め、地の真面目さが露わになっている。

 

『君が言ったのはただの推察だ。みんなの大迷宮を攻略したことだって私の存在を示す根拠には繋がらない。どうやって知った?』

 

「魂魄と再生と昇華の三つの神代魔法を使えば、特定個人の過去を覗く事も出来る。十分な根拠だろう」

 

『それも神代魔法の深奥を知らなければでないセリフだよ。全ての大迷宮を攻略する前の君が言うのはおかしい』

 

(………警戒が強まってく一方だな。多少の信用を担保する為に大迷宮を巡ったんだが、無意味だったか。それにこの時代のトータスの住人や一般人共と違って簡単に流されてもくれねェ)

 

 気付けば騎士型ゴーレム達は陣形を組み終え、ブロックもいつでも落せる配置になっている。ミレディ・ライセンは戦闘体勢を整え終えていた。

 

『何より君が私の大迷宮を攻略する様子は観てた。速かったよ、早すぎた………完全に仕掛けも構造も知ってなければしない動きだった』

 

 ここにきて自分が警戒されている理由を理解した。どうやら急ぎ過ぎていたらしい。

 ミレディ・ライセンの視点からすれば自分は異様な実力を持ち、知り得る筈の無い情報に精通し、個人で"絆"を試す(ハルツィナ)大迷宮の攻略の証を所持している人物となる。エヒトの手の者かなんて関係無しに明らかな不審人物だ。

 その上で大迷宮の制覇及び〝概念魔法〟の修得に王手が掛かっているとなれば警戒も一入、“神殺しをしてくれるならどんな人物、結果でもオールOK”なんてお花畑な思想はしていないのだから当然だった。

 

『改めてきくよ。君は何者で、何が目的?』

 

 言外に伝わる、嘘偽りも誤魔化しも許さないと。

 

「不誠実が過ぎたせいで誤解を招いたのは謝罪する、すまなかった。…………質問に順に答えよう」

 

 自分は予期していた対話の組み立てを変えた。担保した信用を元にして最低限の情報開示で働き掛ける積もりだったが、そう上手くは行かないらしい。

 

「目的は最初に言った通り、あんたと話す事だ。そして出来れば助力を願いたくてここに来た」

 

「僕は雹堂 九嶺、クレイと言う。

トータスの文化様式に無い姓名から察して貰えるかもしれないが、トータスの住人じゃない。エヒトが異世界から喚び出した何十人かの内の一人だ」

 

「どうやって知ったかについては過去を視た。

ただ方法は神代魔法じゃない。異世界には魔法とも違う特殊な力が存在している。それを使った」

 

 まだ多少の暈しは入れているが、自分の目的、素性、手段を問われた逆順で簡潔に答えた。

 

『………なら、話っていうのは? あのクソ野郎を殺すのに力を貸してほしい、とは違うんだろう?』

 

「YESともNOとも言い難いな。あんた達の頃とは色々と状況が変わり複雑になってる。だから現況の共有を踏まえて"解放者"としての見解を聞き、その上で助力の可否を問いたい。

強いて一言でまとめるのなら“トータスとエヒトの決着の形について”って事になる」

 

『………………………………………』

 

 本題の触りを聞いてミレディ・ライセンは沈黙した。コチラの言い分を吟味しているのか、それともコチラを討ち倒す手段を検討しているのか、或いはその両方か。

 理想を掲げる者の考えは理解し難くて参る。

 

『…………わかった、聞くよ。まだ少しはぐらかしてる様だけど、聞いた方が良い話みたいだからね』

 

「ありがとう。少しばかり長い話になるが、まぁ ゆっくり聞いてくれ」

 

 ミレディ・ライセンがここでようやっと戦闘体勢を解き、浮遊していた高度を会話に困らない程度に下げた。

 尤も ブロックの配置や騎士型ゴーレム達の陣形を解いていない辺り、まだ警戒や不信はある様だが仕方無いか。

 

「初めに現代のトータスについてかな。

割りとあんた達"解放者"の決起にエヒトは慄いていたらしい。"解放者"の記録や痕跡を殆ど消し去り、世界全体で魔法技術を一気に衰退させだした。信仰、思想の流布を更に強めて、反乱の芽に成りそうな力ある者は種族単位で滅ぼす事も厭わなくなった様だしな。

結果、現代では様々なものが劣化・退化してる。

嘗ては豊富だった種族も人間族、魔人族、亜人族の三種族にまでなってる。樹海で国を興していた亜人族の結束は見る影もなく、集落の集まりにまで落ちぶれた。魔人族はエヒトの眷属に統治されてるせいで傀儡も同然になった。教会の直接的な力は落ちたが権威は寧ろ強まる一方、誰も彼も逆らうどころか疑問や不満すら抱かない。人々の思慮はどんどんと浅はかになってしまってる。

魔法技術の衰退は最早 魔力操作も覚束なくなり、魔法術式は杜撰に成り果て研究すらしない。個人の力が著しく劣化したせいで、"大迷宮"の攻略はおろか発見すら出来ない有り様。

残念ながら、トータスの人々はあんた達の期待に応えられる状況じゃない」

 

 自分はトータスの過去と現在で大きく変わった点の中でもミレディ・ライセンに伝わり易い点を拾い上げて話した。

 

「これらは明確にトータスの人々にとって悪影響だが不幸中の幸いかな、エヒトにとっても大きな悪影響があった。

知っての通り、エヒトは自らの肉体を失ってる。自身の器足り得る肉体を創れないが為に、いつか自らの器に成り得る存在が生まれるのを待っていた。しかし、トータスの人々を著しく弱体化させてしまったせいで反乱の芽と一緒に自らの器が生まれる可能性も摘んだ。

現に今日に至ってもエヒトは現界していない。趨勢は決さず膠着状態に陥っていた、と」

 

 長々と語りはしたが、ここまでの内容はミレディ・ライセンも予想し得る事態の一つに過ぎない。意志を託した解放者にとっては歓迎は出来ない事態だろうがな。

 

「そんな状況のトータスに僕を含む異世界人はエヒトに拉致同然で喚ばれた。しかも状況説明は教皇に丸投げ。魔人族を討ち倒せだの、神の御意志でしか帰れねぇだのと、手前勝手な都合しか話さねぇ。まるで信用に値しない。

だから、状況把握の為に自分で色々とやった。最終的にオルクス大迷宮の攻略時にオスカー・オルクスの過去を視て諸々を把握した訳だ」

 

 過去と現代の差異を語った時と異なり、意図的に召喚者側の事情は軽く浚う程度に留める。

 

「で、複雑な状況ってのはここからになる。

ここまでの共有を経て一つ尋ねるが、エヒトが急に異世界にまで手を伸ばした意図は何だと思う?」

 

『君達の中の誰かを器にする為と……あのクソ野郎のことだから後は玩具感覚だろうね』

 

「僕も同意見、だったんだけど…………ある違和感から強い疑念が湧いた。

聞く所に拠るとトータスには“異界からの来訪者は元の力より強くなる”なんて逸話があるらしい。理屈はさて置き、事実として僕を含めた一部を除き、喚び出された連中の大半が強くなってた。

後から検べてみれば、一部はエヒトの小細工で影響が出ない様にされてただけなんだが、ソコは一応 解決済みだ」

 

『ちょっとまった! 制限をかけた……? あのプライド激高のゴミ野郎が、本当に……?!』

 

「ああ。間違い無い、このアーティファクトが証拠だ。ついでに言うと、僕は"神の使徒"の襲撃も異端者認定も受けてはいない」

 

 自分は身に着けている〝常世の環〟を見せ付ける様に叩いきながら補足を述べる。

 

『…………だとしたら、アイツは何を……?』

 

「それが違和感。そして疑念はエヒトが異世界人に手を出したのは僕等が初めてなのか、だ」

 

 我ながら知った後からだと、酷く簡単な仮定で信じ難い見落としだった。

 

「エヒトの器の条件は詰まる所、“自身を受け入れられる程に強靭で充分な魔法適性を持っている事”でしか無い。それは異世界からトータスへ喚び出すなら簡単に満たせた筈、ならより良い器を選定するのが自然だ。

そして、あんたの前でこれを言うのはなんだが、単純な戦闘能力ならエヒトを超える奴が僕等の世界には割といる。

もしエヒトがそんな奴等に手を出して屈伏させられているのだとしたら………色々と説明がつく」

 

 自分には確認済の事実であっても、ミレディ・ライセンからすればただの推論にしか聞こえないだろう。しかし、信憑性の高い証拠は提示可能だ。

 

「この推論の裏付けは可能だ。僕等以外の異世界人がいるのかどうか、あんた達がハルツィナ大迷宮に遺した〝導越の羅針盤〟で確かめればいい」

 

 互いに結果が分かる様に羅針盤を捧げ持ち、“エヒトとアルヴを除いた、自分より前からトータスにいる異世界人”の座標を探知した。

 

『────────っ………!!』

 

 自分は表示された座標を確認した後、努めて表情を変えずに話を続ける。

 

「ご覧の通りだ。信じ難いかもしれないが、これを元に僕はこの推論が正しいと断定した」

 

 現況の共有が長かったが、ようやっと本題に入れる。

 

「つまり、現況は“エヒトは今もいるものの、エヒトの上に立つ者が現れた事でその支配は終わっている”とも取れる。或いは“支配者が変わっただけ”ともな。

"解放者"のリーダー、ミレディ・ライセン。あんたの見解を聞きたい。今のトータスは既に神の支配から人々が解放された、と言えるか?」

 

『オー君の過去を視て、私たちの想いを知った上で、それを本気で聞いてるのかい……?』

 

 自分の不躾な問いに、ミレディ・ライセンは抑え切れない感情で声が震えていた。

 

『言う訳ないだろう………! 私達が戦ったのは懸命に生きる"今"を守りたかったからだ! 何かに一方的に支配されて弄ばれる世界を変えたかったからだ!! エヒトが支配してなければそれでいい訳じゃないっ!!』

 

 永い時を経ても尚 揺がぬ意志と決意が、嘗て 人々を動かした原初の叫びが、大広間を震わした。

 

「………すまないな。所詮、僕は事情を知っただけの部外者に過ぎない。あんた達の想いの丈を正しく理解は出来なかった………が、それを聞けて安心した」

 

 ゴーレムの身空では判然としないが、生身なら眉根を寄せているだろう。今の心中を確かめる為に意図して神経を逆撫でされたからだ。

 助力が望めない可能性が消えた所で話を次に進める。

 

「僕としてもこの状況を放置したまま帰れはしない。けれど戦力がまるで足りない。だから、あんたに助力を頼みたい。今一度 表舞台に立ち、旗印になってくれないか?」

 

 率直に自分が求める助力を告げた。

 

『…………………ダメだね……………悪いけど私が今更 動く訳にはいかないよ。旧い時代の人間が今を生きる人達を駆り立てるのは、駄目だ』

 

「あんたの意思は尊重しよう。だが、戦力の一つとして動くのも不可か? さっきも言ったが戦力は本当に足りないんだ」

 

 自分は真摯に振る舞いながらも食い下がる。

 

『…………そう言う割りに、君以外の一緒に喚び出された人達は戦力として数えていないね。どうしてかな?』

 

「あんたが察してる通りだよ。他の連中に僕程の実力は無い。はっきり言って足手まといだ」

 

 ミレディ・ライセンは何かを見透かす様に僅かな沈黙を挟んでから、再び質問を投げ掛けた。

 

『君は出る犠牲を選んでるね。そこに私を宛てがおうとしている、違うかい?』

 

「………確かにそうだ。僕が求める戦力は“囮役を担えて、なおかつエヒトを殺し得る者”だからな」

 

 やはり聡明だ。自分の意図を正しく見抜かれた。開示する積もりは無かったが、仕方無い。

 

「正直に言えば、僕はエヒトを従えてる異世界人が何者なのか察しがついてる。だから馬鹿正直に戦う積もりなんて更々ない、勝ち目は皆無だからな」

 

『勝ち目がないって言うくせに放置もできないって言う。じゃあ 君はどうする気なんだい? 』

 

「勝利方法は一つ。概念魔法で僕等の世界へコンタクトを取り助けを求める、これしかない」

 

 結局はこれが一番確実なのだ。トータスの住人も自分達 召喚者も誰もグリゴリ02号に敵う者等はいないのなら、敵う者の手を借りるのが手っ取り早い。尤も、世界を隔ててる上に相手もそれを阻止してくるから、至難困難 極まるのだが。

 

『後の時代に託すしかなかった私に、後世どころか無関係な世界の人達に縋れ、って………?』

 

 ミレディ・ライセンにとっては敵が如何に強大であったとしても自らの理想を、背負った仲間達の想いを諦める理由にはならない。立ち上がる前は兎も角、立ち上がった後は戦力差など言い訳にもしていない。

 解放者達が自らで神殺しを成すのを諦め後世に託す選択をしたのは、あくまで当時の人々に多大な犠牲を強いる事を許容出来なかったからだ。しかし、再び立ち上がる者達が現れるまでの被害を許容する事にも繋がってしまう。

 彼等彼女等には選び難い苦渋の決断だったにも関わらず、何千年の歳月の末に異世界の力を当てにしようなんて受け入れ難い筈だ。

 

「色々と思う所はあるだろう。それは当然だ。しかし、だからこそ力を貸して欲しい」

 

 それは耐え忍んだこれまでが、自身らの紡いだ軌跡が無意味だったかの様に感じるのかもしれない。

 

「託すと決め諦めたのではなく、自分達の世界の問題を他所に擦り付けたのではなく、無思慮に縋ったのでもなく、懸命に足掻き藻掻いた末の事なんだと示す為に────」

 

 決断に伴った葛藤と苦悩が再び動く足枷になっているとしても、嘗てとは状況が変わり前提が変わった。

 

「────何より、あんた自身が成したかった事を成せたと胸を張れる様にな」

 

 故に過去の選択をやり直す機会でもあるのだから。

 

『────ー!!』

 

 自分は天秤が傾いたのを感じとった。これ以上の言葉を重ねるのは悪手とみて、大人しく返答を待つ。

 

 返答は直ぐには来なかった。間の長さはそのまま懊悩の大きさと言える。ただ もう結論は出ていたのだろう。少しして巨大ゴーレムが自分の前まで下りて来た。

 

『いいよ、君に力を貸そう。ただし、クソ野郎共を滅殺した後 異世界の人達がもしもトータスの人々を弄ぶような真似をするなら──』

 

「その懸念は一切不要だ。助けを求める相手は僕なんかよりもよっぽど道徳も人道もある人達だからな」

 

『……わかった。信じよう』

 

 自分の言質を取り終えると、大広間の一角が発光し門に変わった。同時に騎士型ゴーレム達が撤収し、配置を固定されていたブロックも不規則な浮遊機動に戻る。

 

『重力魔法をあげるからこっちにおいで』

 

 ミレディ・ライセンがそう言うと巨大ゴーレムの動きが止まり、兜部分の隙間に灯っていた光が消える。完全に操作を切った様だ。

 別に重力魔法の取得は無しでも構わないのだが、お言葉に甘えておくとしよう。

 

 跳躍一回で門を通過し、先の通路も空を蹴って進む。

 普通の攻略者には浮遊ブロックでも使って案内するのだろうが、自分相手にはする気が無いらしい。

 短い通路が終わり、隠れ家に着地する。

 

『やほ〜、魔法陣はこっちだよ。チャッチャと渡しちゃうから早くおいで〜』

 

 隠れ家に着いた自分を手招きしているのはローブに身を包んだ小柄なゴーレム。

 簡素な顔絵を表示する頭部位しか特徴の無い華奢なゴーレムだが、巨大ゴーレムではなくこちらがミレディ・ライセンの魂が定着されたメインボディだ。

 

 お道化た態度に戻ってるミレディ・ライセンの案内に従って神代魔法授与の魔法陣に乗る。

 攻略過程の査定は省略され、主観で都合八度目となる僅かな疼痛と共に重力魔法の取得。更に神代魔法の本領の情報と概念魔法の概要が流し込まれたが、既知な為に軽く流す。

 

『それで〜、概念魔法を使える前提の話だったと思うんだけど………この微妙な適性で使えるの? ホントに?』

 

「扱える確証はあるから杞憂だな。まぁ、気になるなら証明がてらあんたの貧弱なゴーレムボディをどうにかするか」

 

『むむ! いかがわしい目的でミレディちゃんの身体には触らせないぞっ!』

 

 真面目な話から急転直下で巫山戯だすアクの強さは、地の性格を知っていると却って感心する。

 

「はぁ……悪巫山戯に付き合うのも多少なら構わないが方向性は選んでくれないか。想い人いるだろ、あんた」

 

『そういうマジレスされると、私もちょっとセンチな気分になるんだけど………』

 

 少し大げさな身振りをしつつも割と本気で感傷的になってる様だが、だったら尚更に方向性は選べとしか言い様が無い。

 

「兎も角、真面目な話に戻すぞ。あの巨大ゴーレムを戦闘に使うかは任せるが、メインボディが貧弱なままじゃ不自由だろう。少なくとも生身の頃と遜色無い程度にはして見せよう」

 

 軽く二度 手を叩いて空気を切り替え、話を戻す。

 隠れ家の思念を検めて観たが本人がずっと居たせいか、生身の頃を視るには適さない様だ。

 

「そうだな………何か生身の頃の思い入れが強い物品は無いか? 無ければあんたの頭を覗かせて欲しい」

 

『いやいや、何をする気なのさ。説明が先でしょ、説明が!』

 

「あんたの肉体を再現……いや、復元する。その為に過去を視て主観的な情報を得る必要がある。

他の大迷宮で親しい者達からの視点や第三者視点での情報は得られたが、当人の視点からの情報が無いとどうにもならない」

 

『だとしても会って間もない相手に頭は覗かせないよ。まぁ 思い出の品を見せるくらいはいいけどね』

 

 通された部屋には細々と私物が保管されている。話し相手すらいなかった反動か、ミレディ・ライセンはその品々に関わる仲間達との思い出を様々語りながら取り出していった。

 

 思い出話を聞きつつ自分は思念を観る。過ごした歳月を踏まえれば物品の数は余りに少ない。しかもこの部屋の物品もゴーレムの体となってからの思念が混ざっている。

 やはり本人の頭を覗かねば駄目かと思い始めた所で、一つの写真立てに目を留める。中に収められているのは"解放者"七人が揃った集合写真。混ざり方も相応だが、これだけ殊更に強く思念が残っている。

 

 集合写真に"過去視(サイコメトリー)"を試すと、生身の頃とゴーレムの体となってからの思念を選り分ける分だけ負荷が増したが、求めていた情報は得られた。

 

 

『おーい、おーい、聞いてるかぁーい!』

 

 自分は覗いていた過去から意識を戻すと、ミレディ・ライセンが軽く小突きながら声を上げていた。

 

『君の希望でミレディちゃんがせっかく、思い出の品々を引っ張りだしたのに急にボーっとして〜。過去を視るんじゃなかったっけ?』

 

「あぁ 丁度 終わったトコだ。ありがとう」

 

『うん? 君の言ってた特殊な力どころか魔素の流れすら変わってなかったけど……?』

 

「ふむ………成程、感じ取れてないと」

 

 どうやらミレディ・ライセンでもPSIを知覚する事は叶わないらしい。こうなるとトータスの法則に於いて、PSIがどう定義されるのか検証が必要かもしれない。

 

「まぁ いい。肉体の復元を始めよう」

 

『いや、勝手に流さないでほしいんだけど………それに神代魔法を揃えたからって人の身体を創るのは簡単じゃないし……』

 

「なら講釈をしながらやっていくとしよう」

 

 周囲の魔素を制御下に置き魔力を底上げしつつ、空中に魔法陣を構築していく。複数の魔法陣を重ねて組み合わせ円柱を象った。

 

「今も昔もトータスでは魔法が文明基盤であり超常現象でもある。けど僕がいた世界では違う。超常現象を起こす力は複数種あるし、文明を発達させたのは全く違うモノだ」

 

 円柱形魔法陣の内側で人体の基本構成物質が生成され、反応し、活性化する。小さな肉塊が発生し、みるみる人の形に近付いていく。さながら培養カプセルを早回ししているかの如くだ。

 自分は術式を適宜 調整をしながら語る。

 

「科学、そう呼ばれる技術が文明を発達させた。簡単に言えば色んなモノの原理や法則を解き明かして再現する代物、って感じかな。詳細や具体例は割愛する。今 重要なのは解き明かし再現する性質から様々な知識や知恵が得られ広まる事。

要はトータスと僕がいた世界とで共通する事象であったとしても、知識や理解には大きな隔たりがある。それこそ人体についてもだ」

 

 とは言ったものの、トータスの人類を解剖した訳では無い以上は全てをそのまま活用とはいかない。特に魔法使いの肉体を復元するのだから魔力や魔素に関する箇所は重要だ。

 故に"過去視(サイコメトリー)"で生身の頃を多角的に捉え、魂魄魔法と昇華魔法で純粋な情報として出力し直し、それを基盤に体組織を形成する。

 無論 人体に関する詳細な専門知識を必要とする事は変わらないが、自分は施設で充分に修めさせられている。

 

「よって、十分な情報が揃ってさえいれば個人の肉体を作成する位は可能の範疇だ。尤も本来 掛かる筈の時間や労力や資源は神代魔法で思いっ切り踏み倒してるがな」

 

 既に肉体そのものの復元はほぼ終えた、後は最終調整。語りながらさり気なく有線トランスを媒介に、復元した肉体と今のミレディ・ライセンの魂を繋げる。別個となっている魂と肉体との波長を合わせ、同調させて結び付ける。

 無理矢理に定着させるだけでは、ただ容れ物を変えたのと変わらない。ゴーレムから肉体へ移った或いは憑いたのでは無く、正しく自らの体としてもらう為に必要な事だ。

 

「僕の力に関してはそんなに詳しく説明する気無いんだけど………強いて言えば、体系だった一種の潜在能力ってトコか。特徴の一つとして同様の能力者以外には知覚するのが難しい事が挙げられるな。あんたが感じ取れてなかったのもそのせいだろう。

…………と、講釈はこの辺りで充分だろう」

 

 円柱形魔法陣に復元されたミレディ・ライセンの肉体は解放者達の活動全盛期の頃のモノ。特に狙って誂えた訳ではなく、単純に集まった情報がこの頃が主だっただけである。オマケで衣服の再現もしておいた。

 

「復元完了だ。後はあんたがそのゴーレムから意識を離すだけ………あ、ここにきて受け入れ無いってのは勘弁してくれよ? 扱いに困るから」

 

『流石に冗談のタイミングは選んでるよ」

 

 返答は途中から発生源が変わっていた。前半は傍らのゴーレムのソレだったが、後半は肉声で目の前からだった。

 

「………まるで身体だけあの頃に戻ったみたい」

 

 ミレディ・ライセンが一頻り身体を動かしながら確認している様子を見て、自分は問題無しと判断した。

 

「特に不満が無いならコレも受け取りな」

 

 役を終えた円柱形魔法陣の魔力を流用して別の魔法陣を組み上げ発動する。

 

「ちょっ! だから先に説明を……!」

 

 抗議の声が上がるが発動された魔法を理解して途中で止まる。見間違いようが無い程に馴染みのある魔法陣が即座に組み上がったからだ。

 神代魔法授与の魔法陣、但し与えられるのは本人が所有する重力魔法を除いた残りの六種だ。

 

「……みんなの神代魔法に、今の魔法陣………そうか、君は適性じゃなく技術と知識で魔法を使ってるんだね」

 

「そ。だから僕からすれば概念魔法も同一線上に扱い得るモノ、確証があるってのはそういう事さ」

 

 自分からすれば余計な講釈のオマケが付いたが、これで概念魔法が行使可能である事に納得は得られた。

 

「説明おわり!って空気にしてるけど、まだするべき説明あるよね。そもそもどんな作戦を用意してるのか〜とかさ」

 

「まだ準備段階だ。あんたの助力の有無は大きい要素の一つだけど、再び旗印になる気が無いなら仕方ない。予定は多少変える」

 

 自分のプランを部分的に話す。

 

「先ずは端から見ても"神域"に殴り込んでも違和感の無い絵面の用意。次にエヒトの監視網をすり抜ける場の構築。最後に諸々の対策や仕込み。これらを約四カ月で済ませて決戦、だな」

 

「ふ~ん………考えはあるけど話す気はなしってことかな?」

 

「違う。“エヒトの視点でも"神域"に殴り込んで違和感の無い絵面の用意”があんたにやって貰いたかった事の中で二番目の大仕事だったんだよ」

 

「……ま、そういう事にしておこうか」

 

「しておくも何も、そうなんだがな」

 

 自分は嘯きつつ手元で魔法行使、二つのアーティファクトを作成した。水晶型魔力式通信器と物資提供用に共有型宝物庫を渡す。

 

「……さて 僕としても聞きたい事は色々あるが、予定を変える都合で時間が押してきた。僕は次の準備の取り掛かる。

あんたはここに居たっていいし、何千年振りの外を見回ったっていい。戦力として動いて貰う時までの行動は好きにしててくれ」

 

「あれ? ミレディさんに他に頼みはないのかい?」

 

「表舞台に立つ気は無いんだったら、聞きたい事はあるがやって貰う事は特に無いよ」

 

「それでも聞きたい事はあるんだろう? なら、ミレディさんもついて行ってあげようじゃないか!」

 

 お道化た態度を装っていても互いに信頼があるとは言い難い間柄だ。腹の内は善意、協力、観察、監視、好奇、と色々あるだろうが何れも自分には利にならない。

 回答は拒否一択。但し、相手側に自然に取り下げさせる形にするべき。

 

「是非とも頼もうか。()()()()()()()()()()()()()について来てくれるとはありがたいね」

 

「…………まだこの身体に慣れてなくって聞き間違えたかな。不眠不休って言った?」

 

「言ったな」

 

「一月以上の強行軍で?」

 

「そう言った。ちゃんと聞こえてるな、聴覚も正常に作用している様で何よりだ」

 

 軽く皮肉りながら手を差し出す、誇張無しの事実なのを真っ直ぐな眼差しで訴えながら。

 

「偉大な解放者のリーダーが同行してくれるとは心強い。よろしく頼もう」

 

「いやー! ついて行ってあげたいのは山々だけどなぁー! 身体に慣れるまで無茶はできそうにないなぁー! ゴメンねぇ──!!」

 

 ミレディ・ライセンは早口で捲し立てながら素早く後退り、足下のパネルを浮遊させた。その先には天井から吊り下がった紐がある。

 

「じゃあ いってらっしゃーい! 頑張ってね!!」

 

 紐を引っ張ると迷宮脱出用の仕掛けが起動する。四方から勢い良く水が流れ込み、中央に空いた人位は通れそうな穴へ押し流そうとする。

 

「ああ、またな。近々連絡する」

 

 自分は小さく手を振り応えると、敢えて水流に逆らわずに流される。互いに意図を察したが故の茶番だからだ。

 

 押し流された先は水脈に繋がっており更に遠くへ流される。大凡の経路は分かってるので溺死の心配は無い。

 

(ミレディ・ライセン………分かってはいたが優秀な分だけクセの強い人物だったな。扱いは気を付けねェと墓穴を掘る事になりそうだ)

 

 自分は大人しく流されながら、これからの注意点の一つとして頭に留めた。

 

 

 

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