ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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二話 平穏の終わり

 月曜日、日本では一般的に休日が終わり通学通勤が始まる曜日である。それを嘆くか喜ぶかは人によるだろう。仕事や学業にやり甲斐を感じていれば喜び、億劫に感じていれば嘆くのだろう。

 

 ならば自分は、 雹堂 九嶺にとってはどうなのか。

 答えは億劫に喜ぶといった、一風変わったものになる。

 

 授業は退屈で学ぶ事等は無い、通常のカリキュラムより高度な内容をとうに履修済みだ。友人もいない、世界の裏事情と無縁に生きている人間と過度に関わり、裏側に巻き込むのは後見人の言う仁義に悖る。

 だが、それでも”身の危険を感じない平穏”を体験できるだけで喜ばしく、価値がある。自分がそんなものを経験できるとは想像だにしなかったから。

 

 詰まる所、一般の学生とは違う感性ではあるが楽しんではいる。

 

 それに交流が全くないという訳ではない。線引きをしないのが問題なのであって、関わる事自体は問題ないのだから。クラスメイトと他愛のない話もするし、先輩や後輩にも知り合い程度の相手はいる。

 

 よって今日も学生生活を楽しむため、高校に通うのだ。

 

 

 

 十分な余裕をもって教室に入っておく。どこぞの誰かの様にギリギリに来て余計な注目を浴びる必要はない、まぁ このクラスにいる訳ではないが。

 

「「「おはよう! 雹堂!」」」

 

「ああ、おはよう」

 

「「「すまんが、宿題教えてくれ!」」」

 

「丸写しはさせんぞ、解き方は教えるけど」

 

「「「あざーすっ!」」」

 

 無駄に声をハモらせて挨拶からの懇願をしたのはウチのクラスの三馬鹿だ。気のいい奴らなのだが成績は良くない、進級が危うい程に良くない。真っ当に授業を受けているし、本人達なりに解く努力はしているのだが。

 

「今日は数学と物理か、必要な公式はこれで考え方は──」

 

 理解力が足りていないだけなので、教えるのは五分もあれば済む。

 

「「「なるほど! そう解くのか」」」

 

「それじゃ、後は頑張れ」

 

「おう! 頑張る」

「助かったぜ!」

「これで何とかなる!」

 

 ちなみに名前は応えた順に高松 勉、竹本 英、梅田 聡である。

 気が付けば、この三人に勉強を教えるのも毎度の事になっている。

 

 自分の席に戻ると、隣の女子生徒が頬杖をついてこちらを見ていた。

 

「何だ? 霜月、そう見詰められても困りはしないが」

 

「見詰めてないし、名字で呼ばれるの嫌いなんだけど?」

 

「悪かったから、そう睨むな。氷重」

 

 霜月 氷重、図書委員で剣道部員。剣道で女子個人戦の全国大会を連覇中だが、部活にはあまり顔を出していないらしい。素人にはわかるまいが、立ち居振る舞いだけで学生のレベルではない実力の持ち主だと判る。

 黒髪黒眼でショートヘア、スタイルもよく容姿端麗ではあるのだが、少し目付きが鋭く可愛いや綺麗よりも、いっそ怜悧と言える美貌から近寄り難い雰囲気をだしている。

 今まさに睨まれているが、凄みがある。

 

「それで、こちらを見てたが何か用か?」

 

「別に、用なんて無いけど。変な奴と思って観てただけ」

 

 氷重はそう答えると視線を外して、外の景色を眺めだした。

 

「変? 僕がか?」

 

「ええ。取っつき辛い雰囲気をだしているクセに、面倒見がいい様な素振りを見せてる」

 

「裏表もなく助けを請われれば、手を貸そうって気にもなるだろ」

 

「へぇ、そう」

 

 興味無さげに答える氷重だが自分に冷たくあたっている訳ではない。誰が相手でも基本的にこんな対応をしているのだ。

 

 そんな事を話してる内に始業のベルが鳴り、教師が入ってくる。

 HRを終えたら、退屈な授業の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、昼食をとるために席を立つ。

 普段なら昼食は自分で弁当を作って来るのだが今日は学食を利用する理由がある。

 

 廊下に出た所で三馬鹿が声を掛けてきた。

 

「おっ! 今日は弁当派の雹堂が学食か?」

 

「ああ、お前らもか?」

 

「いんや、オレ達は購買だよ」

「今月のバイト代も貯めないといけねぇし」

「さすがに学食は少し高いしな」

 

 この三人、三馬鹿と呼ばれてはいるが決めている進路があるらしく、高校に受かった時点からずっと希望進路のためにアルバイトをして費用を稼いでいるのだ。学力に関しては本人達が最も四苦八苦しているが。

 

「にしても、雹堂が学食なのは珍しいな」

「いつも弁当なのにな」

「作るの忘れたとか?」

 

「いや、南雲に奢る約束してたからな」

 

「こないだのラノベか!」

「南雲の紹介で読んでみたんだったな」

「かなり面白いって言ってたっけ」

 

 自分がマンガやライトノベル等の娯楽に手を出したのは趣味と実益が半々といった所だ。そんな折にこの手の娯楽に詳しい同級生と交流ができたのだ。

 

「そうそう、その礼にってことさ。つう訳であいつのクラスに行ってくる」

 

「「「そんじゃまたな~!」」」

 

 南雲のクラスはウチの隣の隣だ。

 席の確保は後輩に頼んであるのだが、混み出すと面倒だ。早めに南雲を連れて行くべきだろう。

 

 

「おーい! 南雲、居るかー!」

 

 教室の扉を開けると同時に呼び掛ける。教室に居た生徒のほとんどの視線が自分に集まった。

 本人から昼休みは大抵、教室にはいないと聞いていたが今日は居た。とはいえ約束を覚えていたのではなく、面倒なのに捕まっていただけの様だ。

 

「って何だ、この空気? まぁどうでもいいか。南雲、約束通り学食奢るから さっさと行こうぜー」

 

 クラスの空気を思いっきり無視して教室に入り、南雲の席に歩み寄る。

 どうにもこのクラスでは南雲はかなり嫌われているらしい、他のクラスではそこまでではないのだが。本人に非が全く無いとは言えないし、解決しようという気概も無い様なのでどうこうしようとも思わない。

 

「雹堂君、約束って...?」

 

「おいおい、忘れたのかよ。言ったろ?この間お前が紹介してくれたラノベが面白かったから今度の月曜に学食奢るって」

 

「......あっ!!」

 

 やはり、忘れていたらしい。大方、さっきまで寝不足で突っ伏していたのだろう。

 

 この南雲 ハジメとゆう少年は父親がゲーム会社の社長、母親が少女漫画家といった、いわゆる人生勝ち組と言える家庭である。そのため両親の影響を十分に受けて育ち将来もどちらかの職に就きたい様で、その為の努力もしている。だが影響はそれに留まらず趣味もオタクだ。

 これだけならば多少の妬み僻みはあっても、あからさまに嫌われる事は無いだろうが、本人の態度に少々問題がある。登校は遅刻ギリギリ、授業中は熟睡、提出物も疎ら、要は不真面目なのだ、誰がどう見ても。それでも容姿又は成績か運動神経のどれかでも秀でていれば受け入れられたろうが、どれも優れているとは言い難い。

 これでは大なり小なり嫌われる。と言っても、これ等は理由の三分の一に過ぎないのだが。

 

「雹堂君、ありがとう! そういうわけだから僕は雹堂君と食べてくるよ」

 

「ううん、南雲君がちゃんと食べてるならいいんだ」

 

「南雲は約束があったみたいだし、俺達と食べよう香織」

 

 南雲の感謝の言葉は明らかに“この場から離れる口実をくれた事”に対してのようだ。

 まぁ、周りの面子を見れば仕方ないと言える。

 

 昼食に南雲を誘っていた女子生徒は白崎 香織。

 学年を問わず絶大な人気を誇っている美少女であり、余りの人気から学園二大女神という仰々しい呼び名がある。

 そして南雲の嫌われている理由の三分の一が彼女だ。

 端から見れば丸わかりなのだが、南雲に好意を寄せている。その為、南雲にアプローチをかけているのだが伝わっていない上に、逆効果だ。

 何せ学園の人気者がクラスの嫌われ者を好いている構図は周囲からすれば面白くない訳で、南雲への風当たりは強まるが彼女はその辺に無自覚なため火に油を注ぎ続ける。

 悪意が0%な分、質の悪さは尚更だ。

 

 次に、白崎が南雲を昼食に誘うのを止めようとしてた男子が天之河 光輝。

 高身長でイケメン、成績優秀かつ運動神経抜群で正義感が強いクラスの中心人物、とモテ要素の塊だが彼女持ちではない。おそらくは幼馴染みである学園二大女神に無自覚な好意でもあるのだろう。

 しかし、正義感が独善的な為に南雲が嫌われている理由の三分の一を担っている。

 白崎が南雲を構うのが気に入らないとは無意識に思っているだろうが、不真面目な南雲に対する注意は単純な善意だ。しかし一種のカリスマがあるにも拘らず、周囲に与える影響を考慮しないので結果的にイジメを扇動してしまっているのだ。

 尚、ご都合主義な思考回路をしている為、本人にその自覚は皆無だ。こいつも質が悪い。

 

 自分には大して関係ないとはいえ、このまま空気を乱すだけ乱して行くのも後で拗れそうなので気休め程度には空気を取り成しておこう。

 

「ん~と。何か邪魔でもしちまったか?」

 

 周囲の状況を理解していない振りをして、この場の仲裁をする所だったのであろう女子に疑問を投げ掛ける。

 

「いいえ、そんなことはないから気にしなくていいわよ」

 

「そうか? ならいいんだが」

 

 予想通りの返答だが、このやり取りをしておくだけでも後から蒸し返す輩は減るだろう。何せこの女子もクラスの中心人物の一人だからだ。

 

 この女子は八重樫 雫。白崎の親友で天之河とも幼馴染みだ。

 学園二大女神の一人。長髪をポニーテールにしていて、女子としては高い身長と凛とした雰囲気から、可愛いよりも綺麗や格好いいといった印象を受ける美少女である。世話焼きで面倒見の良い性格をしており、その魅力は女子にこそ刺さるらしく、彼女をお姉さまと慕う"義妹結社"(ソウルシスターズ)等というファンクラブがある程だ。(現在も拡大中)

 実家は八重樫流と言う剣術道場を営んでおり、本人も剣道大会で一人を除けば負けなしと優れた戦績を誇る。ちなみに天之河もこの道場の門下生だ。

 

 自分のクラスでもないのに事情を把握しているのは、生徒教員問わずに学園の関係者の素性は調査済みだからだ。

 何時どんな形で裏の問題が飛び出すか分かったモノでは無い以上、周辺環境の把握は必須の事だ。

 

(……実際、八重樫流には裏の顔があったしな)

 

 とは言え今はその事は関係ない、そろそろ学食も混み出す頃だろうから向かわねば。

 

「それじゃあ行くぞ南雲、後輩に席は取らせてるけど混むと面倒だ」

 

「そうだね! 早くいこう」

 

 南雲は余程この場から離れたいのか、忘れてた割に食い気味に席を立った。

 

 そうして、教室を出る直前に異常は発生した。

 

(ッ! この感覚は魔力!!?)

 

 即座に振り返れば天之河の足下に魔法陣が出現していた。自身の知り得る魔法体系ではなく、明確な効力は解らないが一般人を巻き込む意図があると判断する。

 

(PSIで止められるか?!)

 

 対処する為にPSIを発動しようとした瞬間──ー

 

(なッ!?)

 

 自分の制御を振り切りP()S()I()()()()()()()()()()()()()

 

 瞬時に制御に集中し暴走は免れたが、魔法への対処は手遅れとなった。

 

 魔法陣から放たれた光が教室を照らした。

 それに気付いた教師が避難を呼びかけるも間に合う訳もなく、自分もPSIの制御に集中した為に逃れられず、教室全体が光に包まれた。

 

 光が止んだ後の教室には誰一人残ってはいなかった。

 

 

 こうして雹堂 九嶺の平穏は終わりを告げた。

 

 

 

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