ありふれた複合世界線   作:混合化合物

4 / 21
三話 異世界トータス

 

 

 光が止んだ時、視界に映る光景は一変していた。

 

 真っ先に目に入るのは大きな絵画だ。空も海も山も森も美しく描写され、それら全てが自身のモノと示すかの様な金髪の青年が一際目立って描かれている。明らかに一神教の宗教画だ。

 そんな物が壁一面に描かれている以上、ここは教会なのだろう。だとすると非常に大規模な宗教だ、この部屋だけでも教室の数倍の広さがある。

 

 自分が立っているのは台座の上の様だ。何段か下った位置で聖職者らしき連中が祈りを捧げている。そして、自分の周囲にはあの教室にいた生徒達と教師が困惑していた。

 

 状況から鑑みるに、どうやらあの魔法陣は転移系統だったらしい。壁の宗教画も建物の様式も現代のモノではないし、何より大気中に魔力に近いが薄い何かが漂っている。

 

 最低でも厄介事に巻き込まれたのは確定。ならば、迅速に相手の目的を把握し行動指針を決めなければならない。

 

 早速、周りの聖職者らしき連中から情報を抜き取ろうとした所で、一人の老人が進み出て来た。装飾の度合いから身分の高い者と判定できる。

 

 その老人が口を開き・・・・・・・・・

 

「※※###§§¤¤¤∆£¢€##$※※£§№∆¤µ」

 

 全く聞き覚えの無い言語で喋りだした。

 現代で確認されている言語なら全種会話可能な自分が知らない言語。しかし、敵意や害意は感じられない。つまり、この老人にとっては一般的な言語という事であり、それが意味するのは────ー

 

(異世界転移かよ!!)

 

 これは少し、困った。自分一人ならどうとでもなるだろうが、一般人でしかない教師と学生達をどうするかで行動が一気に変わる。

 何せ、自分は転移系統の能力は持っていない。即座に一般人を送り返す事は不可能だ。そして、目の前の聖職者連中にも恐らく出来ない。あの魔法陣から感じ取れた程の魔力を、コイツ等からは感じ取れない。間違い無く、転移させた術者は別にいる。そして、この状況下で転移させた現場に居ないなら、姿を現す気は無いって事だろう。

 ここまで思考を回した所で思わぬ形で事態が動く。

 

「£€‡‰¶※§§#$$∆¤∆††※」

 

 また老人が何事か喋り出した。これはいい、だが

 

「№§§†※※¶℉‰£¢∆¤µ※$#@‼」

 

 天之河まで同じ言語で応え、その言語のまま皆に呼び掛けた。そして老人の後ろをついて全員が歩きだした。

 

(どういう事だ?あの言語を理解してるのか?)

 

 最後尾を歩いている南雲に追い付き問いかける。

 

「なぁ お前はあの爺さんが何て言ったか、わかるか?」

 

「え? 雹堂君は聞いてなかったの?」

 

 南雲は普通に日本語で返してきた。

 

「いや聞いてたさ、だがあの爺さんもさっきの天之河も日本語どころか地球の言語ですら無かったぞ」

 

「嘘!? 普通に聞き取れるし理解出来るよ?」

 

「成程な、他の連中も同じか」

 

 転移以外にも何かしらの細工を施されたらしい。予想以上に厄介かもしれない。

 

「悪いが、さっきの会話の内容をそのまま教えてくれ」

 

「うん、分かった」

 

 要約する。

 老人はイシュタル・ランゴバルト

 聖教教会の教皇、事情説明するから付いて来い

 天之河、解りました皆 行こう

 という事らしい。

 

「OK、サンキュな南雲」

 

「ううん、それより言葉が分からないって大丈夫?」

 

「いや、重ねて悪いが事情説明の間だけで良いから通訳してくれないか?」

 

「説明の間だけでいいの?」

 

 南雲は気遣わしげに聞いてくる。本人も余裕なんて無いだろうに他人の心配とはお優しい事だ。

 

「会話程度ならそれで充分だ」

 

「えぇ………ハイスペックすぎでしょ」

 

 軽く引かれた。仕方ない事ではあるが。

 一般的に新しい言語の習得は一朝一夕で出来ないのだから、当然の反応ではある。ただ、裏の関係者に一般の定義が当て嵌まらないだけだ。

 

 

 

 

 

 イシュタルに案内されたのは、華美な長机と椅子の並んだ大広間だ。向い側にイシュタルが座り、コチラは教師を除きクラス内の影響力順と皮肉な座り方をしている。ちなみに南雲は一番端、よって自分はその隣だ。

 

 コチラが座り終えるとメイドが飲み物を配膳しに来た。ハニートラップを狙っているのが見え見えのレベルな美女揃い。こんな状況だとゆうのに男子生徒は鼻の下をのばし、女子生徒はそんな男子生徒に冷たい視線を向ける。

 

 やはり、平穏に生きて来た一般人に危機意識は皆無の様だ。移動中からPSIを発動させ周囲の思考を読んでいるが、真っ当な判断が出来てる者はいない。

 オマケがついて一つの宗教のトップに立つだけあってか、イシュタルは老獪な狸だ。自分が介入しなければ良い様に乗せられて終わりだろう。

 さぁて、どうするべきかなぁ。

 

 メイドが下がり終えた所でイシュタルが説明を始めた。

 

 イシュタルの口唇から発音を理解し、南雲の通訳とPSIによる読心(マインド・リーディング)で意味を理解する。

 

 要約する。

 この世界はトータス

 種族は人間族、魔人族、亜人族の複数種類

 人間族と魔人族で戦争中、亜人族は被差別種族

 戦争理由は宗教観の不一致、双方唯一神教が故

 人間族はエヒト神を、魔人族はアルヴ神を崇拝

 差別理由は神が与えた魔法を行使不可が故

 人間族は数で魔人族は質で対抗、争いは拮抗

 近年魔人族が大量の魔物使役、均衡は破綻

 エヒト神は上位世界から勇者召喚(学生)

 勇者よ世界を救うのだ

 という事らしい。

 

 口頭ではコチラを乗せるのに不都合な事実は伏せているが、PSIによる読心(マインド・リーディング)で自分には筒抜けだ。

 どうやら神にしか異世界干渉は出来る奴は居ないらしい。それに戦争中といっても開戦にはまだ猶予がある様だ。上位世界のモノは強い力を持っているとゆうのも伝聞情報、自分には変化は感じない。

 

 そろそろ方針を決めなければならないか。

 

 事情説明を聞き、戦争の為に喚ばれた事を知った教師が食って掛かる。

 

「ふざけないで下さい! 結局この子達に戦争をさせようって事でしょ! そんなの許しません! ええ!先生は絶対に許しませんよ! 早く私達を帰して下さい! きっと、ご家族だって心配してるはずです! あなた方のやっている事はただの誘拐ですよ!」

 

 現代の地球なら、比較的真っ当な抗議をした教師は畑山 愛子、担当科目は社会科。容姿は低身長かつ童顔なため、中学生程にしか見えないが歴とした成人女性だ。

 “教師は生徒の為にある”という志しを持って、威厳のある教師を目指しているが生徒に親しまれ"愛ちゃん先生"の愛称で呼ばれている。つまり、目標には程遠い。

 

 そんな畑山先生の抗議も想定内のイシュタルは単純な事実で返してきた。

 

「お気持ちはお察ししますが、しかし………あなた方の帰還は現状不可能です」

 

「ふ、不可能って……ど、どういう事ですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

「先程も言った通り、あなた方を召喚したのはエヒト様ですから。我々人間には異世界に干渉する魔法は使えませんのでな。つまり、あなた方が帰れるかどうかもエヒト様の御意思次第という事ですな」

 

「そ、そんな………」

 

 異常事態からの衝撃の事実をぶつけられ、畑山先生は力無く椅子に座り込んでしまった。

 それを切っ掛けに生徒の間でパニックが起きる。帰してくれ、これからどうしたら、と口々に騒ぎ出す。

 

 イシュタルは何も言わず観察している。しかし、その眼と思考に侮蔑が浮かんでいるのは隠せていない。気付いてはいたが、他の価値観を認めない狂信者の類いだ。

 このままパニックが続けば、適当な頃合いで“戦争を終わらせれば帰れる”だの“戦争に参加すれば衣食住を保証する”とか言って、ほぼノーリスクでコチラ側から戦争参加を表明させる気だ。

 

 まぁ、イシュタルの方から切り出さずとも、天之河が勝手に提案するだろうがな。

 

 バンッ!!

 

 天之河が机を叩き、立ち上がる。

 

「皆! ここでイシュタルさんに文句を言っても仕方がない、彼にもどうにもできないんだ。俺は戦おうと思う! この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ、それを知って放っておくなんて俺には出来ない。それに世界を救う為に召喚されたなら救済さえ終われば帰してくれるかも知れない。………イシュタルさんどうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

 これ程都合良く進むと、イシュタルも内心はほくそ笑んでるなぁ これは。

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲ってる感じがします」

 

「ええ、そうです。この世界の者と比べると数倍から数十倍の力があると考えていいでしょう」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う! 人々を救い、皆が帰れるように! 世界も皆も、俺が救ってみせる!!」

 

 天之河が堂々と戦争参加を宣言した、直後に

 

 

 バチイィィィッッン!!!

 

 

 音が盛大に反響する様に柏手を打った。流れを断ち、全員の意識を自分に向けさせる。

 

 畑山先生が沈黙し、天之河が宣言した時点でこのクラス内で違う意見がでる事はない。そして、二人の発言は悪手では無いが及第点でもない。

 この場ですべきなのは、コチラに都合の良い条件を引き出す交渉であって、請い願う事でも唯々諾々と従う事でも無い。無論、抗議も戦争参加も必須ではあるが、何の考えも無しでは意味が無いのだ。

 

「エヒト神の最も敬虔な信徒たる教皇猊下ともあろう方が随分と迂闊な事をなさる」

 

 席を立ち、ゆっくりと向かい側に周り込みながら仰々しく言い放つ。

 

「……どういう意味でしょうかな?」

 

「エヒト神が送ると仰られたのは勇者なのでしょう? そう勇者です! 勇者達、ではなく……ね」

 

「しかし! どうした事でしょうか? 実際に召喚されたのは御覧の通り一人ではなく数十人はいる!」

 

 丁寧かつ慇懃に、されど大仰に、まるで演者の如く言い含めていく。誰にも口を挟ませず、しかし全員に聞かせる為に。

 

「勿論、我々の誰かが勇者なのでしょう。ですが、まだ誰が勇者かを確かめてないではありませんか」

 

「にも関わらず! これだけの人数を救世の勇者相応の高待遇で受け入れて下さると? それとも、………既に猶予はなく我々に雑兵の如く戦場へ征けと仰るのですか?」

 

 性急に話を進めていた事実を指摘し、具体的な扱いを問い詰める。

 

「いえいえ、その様な事はありません。本格的な開戦までの猶予はありますとも。それに勇者以外の方々もエヒト様が召喚された救世の使徒です。神の使徒として相応の待遇は用意しています」

 

 イシュタルは一言も説明していなかった内容をスラスラと口にした。

 

「成程 捨て駒にするのでも無ければ、奴隷の様に従属させられもしないという事ですね」

 

 あからさまな言葉を使い、一般人共に僅かでも危機感を植え付ける。

 

「勿論です。エヒト様の使徒を損材に扱う等あり得ません」

 

 そんな言葉は信用するに値しない。

 

「然し、我々にも元の世界での人生と帰りを待つ家族がいる! 戦争が終わり、元の世界に帰れたとしても五年後や十年後では困るのです」

 

 これで自分達が既に損害を受けている事を主張した上で、コチラの要求である帰還も十全な対価ではないと認識させた。

 

「不利な戦況を覆すには能力の適切な運用が不可欠! 勇者が人類の旗頭として戦場に立つのだとして、他の者達の役割が定かではありません。それを知るのは急務であります! 何故なら勇者以外の者も救世の使徒として喚んだ以上、其処にはエヒト神の深き御考えがある筈!! それを推し測らずして、どうして相応の待遇等できましょうか?」

 

 実際はコチラの要求でしかない能力の確認手段の手配を、神を持ち上げつつ共通の命題かの様にすり替える。これでエヒトの狂信者であるイシュタルには、立場と信仰心から拒否が出来ない。

 

「確かにその通りです。ならば、これをお使い下され」

 

 そう言うと、イシュタルは名刺程の大きさの銀色のプレートを渡してきた。

 

「ステータスプレートと言いましてな。身分証であるのと同時に、能力や才能を可視化する物です」

 

 受け取ったステータスプレートを全員に渡しつつ、それぞれが表示させたステータスを確認しておく。当然この世界の言語で表示されている為読めないので、そこはPSIで思考を読み取り解決する。

 

「詳しい説明は後にしますがレベルは総合的な能力の修得率、天職と技能は言わば才能、ステータスの数値は基準としてレベル1の平均は10、人類最高峰の戦士はレベル60で平均は300といった所です」

 

 敵の数値ではなく味方の数値を言う辺、またコチラを乗せて戦争参加を確実にしようとしてるな。一般人共(特に天之河)が何かを言い出す前に、自分から切り出す。

 

「これでエヒト神の御考えを僅かだが測れた。勇者はこの、天之河光輝である!」

 

 芝居がかった身振りで天之河を指し示すが、即座に話を続けていく。

 

「されど、エヒト神は我々全員を戦士として召喚した訳では無い様だ! 戦闘系天職だけでなく、生産系天職の者達がいる。偉大な神に間違い等有ろう筈がなし………つまり、我々が果すべき役目は単純な戦力ではないとゆう事でしょう!」

 

 ここからは戦争参加の内容をすり替え始める。

 

「しかし先程、勇者ご本人が戦って下さると言っていたでありませんか」

 

 イシュタルは当然食い下がろうとするが、その程度なら問題なく封殺できる。

 

「そうですとも! 心優しき勇者は救済の為に戦う意思を持っています! ですが幾ら志があろうとも、彼はまだ最高峰の戦士達には届いていないのです」

 

「人類の切り札たる勇者は相応の実力を身に付け、戦場に出ねばなりません。他の者も与えられた役目を理解すらせずに戦場に出れば、エヒト神も嘆かれるでしょう。それ等の為の期間は必要です」

 

 神の名を盾にしてイシュタルの反論を封じ、勇者を持ち上げて天之河に口を挟ませない。

 

「それでも、あなた方が窮地なのも事実。戦力はより多くを欲しているのでしょう。なれば、勇者以外の者が戦場に征くかは志願制にしてはどうでしょうか? 我々が自ら決めたなら、役目と異なるとしてもエヒト神もお許し下さる筈です」

 

 勇者の戦場征きだけを確定、他の者は志願制にし、そして戦場に征くにしても準備期間を確約させる。

 宗教と政治が切り離された時代ならば、神の名を利用するやり方は通用しない。だが、宗教が大きな権力を持つ世界では有効だ。

 

「如何ですか、教皇猊下?」

 

「やれやれ、私としたことが勇者様が召喚され、舞い上がっていた様です。エヒト様の御考えを決めつける等、浅慮でしたな。分かりました、その様に取り計らいましょう」

 

 これである程度は真っ当な条件で戦争参加を取り付ける事ができた。ここで戦争参加の条件を詰める事が出来なければ、教師生徒共に僅かな身の安全の保証すら出来ない所だった。

 何せ、最大手の権力者一人と交渉するより、複数人の権力者を相手取る方が圧倒的に困難だからだ。そして、それは下準備無しではかなり厳しい。故に交渉のタイミングは此処しか無かった。

 

「賢明な判断に感謝します」

 

 形式的な辞令を口にしてから、何か物言いたげな天之河の傍迄いき、“お前のお蔭で皆の安全を確保できた、立派な行動だった”と耳打ちしてやれば、不満気な雰囲気は消えた。

 "神が召喚した勇者"の肩書きはトータスでは相当に便利な様だ。ならば精々体良く使わせて貰う為にも、自分への反感は少ない方が良い。

 

「改めて勇者 天之河、皆に宣誓を」

 

「あ、ああ! 必ず、俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 割と唐突にぶん投げたが、天之河のカリスマで歓声が上がり纏まった。

 

 

 一番面倒だった一般人の学生と教師をどうするか、という問題はこれで六割方は解決した。

 後は帰る手段をどうにかしなければ、な。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。