ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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四話 考察と誘導

 

 

「ふむ、文明も技術も大したレベルではない……か」

 

 そう結論を出しながら何百冊目かの書物を閉じる。

 

 元の世界への帰還方法の確保の為にも、識らなければならない事は山積みだった。

 会話には問題無いレベルで言語を修得したが文字の読み書きは別だ、言語の解読を並行した形で学ぶ。文化、歴史、技術、地理、気候、価値観、生態系、法律、国家、情勢、世界が違うと一からでは無く零から学び直す破目になったが、それも今一段落した。

 結局、帰還方法に関しては自分で何とかする、以外は無さそうだ。初めから期待して無かったが、エヒト神とやらが帰してくれる可能性は完全に零だ。

 

(それどころか、敵である可能性が高い)

 

 種族単位で一つの神しか信仰しない歪な宗教観、ステータスプレート等のアーティファクトを作成できた過去の文明の痕跡が碌に存在しない違和感、技術そのものを停滞させている研究職の不在、挙げていけばキリが無い程に超長期間で何者かの干渉が透けて見える。そして、基本的に“エヒト様が何々しました、めでたしめでたし”しかない杜撰な神話が自然と受け容れられている事実。と、ここまで揃えばエヒト神が頻繁に干渉してる上に、碌で無しなのは確定したと言っていい。

 

 こうなると具体的な手段は、

  1.地球からの救援を待つ

  2.地球へコンタクトを取り迎えに来てもらう

  3.誰かが世界間転移を出来る様にする

  4.世界間転移が可能な者または物を探す

 の何れかとなる。

 

 正直1は余り当てにはできない、異世界間では様々な理や法則が異なる。この場合は時間の流れが違う可能性だ。同一か或いは早いなら一週間もあれば来るだろうが、圧倒的に遅いという事も有り得る以上は得策ではない。

 4はかなり望み薄だ。技術が停滞して久しく、過去の文明の痕跡すら微かでは期待すら出来そうにない。

 2と3はほぼ同義(技術や能力を発展させるという点に於いて)、現況では異世界干渉を出来ないなら、PSIを発展させ干渉するか、魔法を発展させ干渉するか、となる。

 総括すると、救援を期待しつつ探索と自他の強化を並行して行うべき、である。

 

 殆ど自分頼みだな、こりゃ。

 

「………本っ当に面倒だ、学生生活を終えるまで平穏に過ごしたかったのに」

 

 

 

 書物を読み漁っている内に一夜が明けていた。今の時刻は早朝、トータスに召喚された翌日だ。

 

 イシュタルとの交渉を終えた後、元々勇者一行の受け入れ先として話が通っていたハイリヒ王国へと案内された。地理的には自分達が召喚された場所が聖教教会の総本山"神山"、その麓に栄えた王国である。

 

 其処で国の王族や重鎮達による勇者御一行の歓迎の宴が開かれたが、表面上は友好的に振る舞う気がある事以外は然程重要ではない。

 イシュタルに取り付けた戦争参加の内容を国王等も承諾した。当然だ、政治の上に宗教がある世界で、教皇が認めた事を為政者が拒否は出来ないのだから。

 

 宴もたけなわ、といった段階で天之河を経由して国王に、トータスの事が解る書物や資料を分野を問わずに片っ端から要求した。

 自分で言っても良かったが、"勇者 天之河"を使った方がスムーズだと判断した。天之河を唆すのはそんなに難しい事ではない。“自分を中心に世界が回っている”とでも思ってる独善的なご都合主義者。だからこそ()()()()()()()()()()()()()、“自分の思い通りに物事が進んでいる”とさえ思わせておけば容易に制御できる。

 

 そうして得た書物を夜徹し読み続け、現在に至る。

 

(行動を起こすのに必要なだけの知識は得た。手掛かりも方策もあるのは不幸中の幸い……か)

 

 昨日、渡された時点では読めなかったステータスプレートを見る。

 

========================

 雹堂 九嶺  17歳 男 レベル:???

 

天職:

 

筋力:52200

 

体力:54100

 

耐性:51400

 

敏捷:52300

 

魔力:1000

 

魔耐:4000

 

技能:

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 トータスの住人や他の生徒達が見れば目を疑う様な数値だが、自分も驚いた。

 

 ()()()()()()()()に、だ。

 

 魔力があるのはまだ良い、理由の推察は出来る。

 魔耐もレベルも、天職・技能も同様だ。

 しかし、筋力・体力・耐性・敏捷はおかしい。

 

 トータスの住人のステータスは比較対象として成立しないが、他の生徒達は違う。最低値は南雲のオール10、最高値は天之河のオール100、生徒全体の平均は約80~60前後だ。

 この数値が正しいとするなら、地球の一般学生達の700~500倍程のスペックが自分となる。正直に言って違和感しかない。

 確かに何人かは元から優れた才を持ってはいた。とはいえ、未だ一般人の尺度に於いてでしかない。仮に異世界転移という超常に巻き込まれ才能が開花し始めたとしても、今度は逆に他の生徒との差が少ない。

 極め付けは南雲のオール10だ。戦闘系天職ではないにしろ同じ地球からの転移者だ、何故ここまで露骨に低い数値になるのか?

 

 異世界転移者の力は数倍から数十倍という伝聞情報

 

 確かに上昇してる生徒達のステータス

 

 他と比較しての自分のステータスの違和感

 

 南雲の極端に低いステータス

 

 自分のみ無い言語理解の技能

 

 召喚直前のPSIの増大と暴走

 

 現在のPSIの安定と自然さ

 

 これらの事柄から導き出す解答は・・・・・・

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、と推測する。

 

 正確には異世界人がトータスに来た際に得られる恩恵の封印だろう。

 

 エヒト神が他の生徒達の力を底上げした、というのも考えたが二つの理由から否定する。

 一つは“異世界転移者は数倍から数十倍の力を持つ”という話がエヒト神のお告げでは無く、御伽話や都市伝説の類いと同じ民間伝承だったから。以前にも異世界人がトータスに訪れた事があり、そういった逸話が残ったと思われる。しかしこれだけでは根拠としては弱い。

 決定的なのは二つ目の理由、即ち“召喚直前に増大したPSIエネルギーが召喚後は通常に戻っている事実”の方だ。トータスに来てから何度かPSIを発動したが地球の時と何ら変わらずに扱えている。然し、召喚直前は制御に集中した途端に反動も負荷もなく収められたといえど、暴走する程に増大していた。今思えばエネルギーが増大しただけでなく、制御能力も相応になっていたのでなければあり得ない事だ。

 この二点から、異世界転移者の力が増すのはトータスの理或いは法則でありエヒト神が地球に干渉した事で局所的に流出した、と判断する。

 

 そしてトータスの法則として異世界転移者の力が増すと判断するなら、エヒト神のステータスへの細工は自分と南雲に行われた事になる。自分に変調が無い事からこの法則の適用外にする魔法でもかけたのだろう、南雲は巻き添えで半端にかかった為にステータスの数値は碌に上昇しなかった。推測ではあるが大きく外してはいまい。

 

 これは根拠の薄い憶測ではあるが、エヒト神は自分を召喚するつもりは無かったのかもしれない。召喚の魔法陣は天之河を起点に広がり教室内の人間を対象にした、そして自分はあと一歩で教室から出ていた。召喚したかったのは天之河とその周囲であって自分は予定外であった為に制限をかけた。

 

 然し自分程度に制限をかけたのは何かしらの不都合があったという事、表向きは人間族救済の為に召喚したのだから強くて困る等は無い。もしそうだったならエヒト神の正体にも当たりをつけられる。

 行う事のスケールの小ささや杜撰な神話から透ける虚栄心と狭量さ、どれも神よりも人のそれだ。つまりは()()()()()()()()()、とそんな可能性が出てくる。

 

(…………流石に馬鹿馬鹿しいな)

 

 そんな子供染みた思想の存在が世界一つの頂点だとするなら、自分も教師生徒等一般人も言わば、餓鬼の我儘に振り回されて異世界なんて厄介事に巻き込まれた事になる。だとしたら余りにも下らない話だ、馬鹿馬鹿しいにも程がある。可能性の一つとはしても無いものと思う事にする。

 真相がどうあれ、エヒト神が全能存在ではないのは確定だ。警戒はしても恐れる必要は無いだろう。

 

 とにかく使えるモノは全部使って地球に帰り、この世界の問題は()()()()()に放り投げよう。そう思考を締め括った。

 

 ただし、無いとは思うが、もしも本当にエヒト神の正体が只の異世界人だったなら・・・・・・

 

 この手で始末をつけよう

 

 そう決定し、少しの間 仮眠を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 皆が集まった大部屋で食事を終え、一息ついた頃に天之河が話を打ちだした。

 

「皆! 聞いてほしい! 戦争への参加は志願制になった訳だけど、訓練自体は一先ず全員に参加してもらいたい」

 

「?、俺は戦争にもいくぜ? お前にだけいかせて待ってるなんてガラじゃねぇ」

 

 訓練参加の呼び掛けに対し戦争参加を答えたのは、坂上 龍太郎。筋肉質で大柄な体格をした男子生徒で、天之河の幼馴染み且つ親友だ。シンプルに言えば頭では無く体でモノを考える人種だ。

 

「ありがとうな、龍太郎。けど訓練に参加してほしいのは戦争の為じゃない。トータスの常識は地球とは違う、最低限の身を護る力を身につけておくべきだ! 戦争の参加はそれぞれの判断に任せる、勿論参加してもしなくても俺が守る! 安心してくれ!」

 

 この天之河の呼び掛けに幼馴染み面子(特に八重樫)は目を見張っていた。それは驚くだろう、基本的に天之河は周囲を引っ張りはしても判断を任せはしない。なのに“それぞれの判断に任せる”と来たのだからな。

 

 実態は事前に自分が吹き込んで置いただけだがな。『正しい行いは自ら進んでやってこそだろう? 世界を救うなんて立派な善行をするんだ。これを機に皆にもそれをわかってもらおうじゃないか!』といった具合に。

 他にも召喚されるのは勇者だけの筈で他の者達はただの巻き添え、生産系天職が複数人いる、トータスの倫理観が未成熟である、ステータスプレートの情報は悪用される場合がある、勇者の役目は人々を正しく導く事〜等など、全てを天之河にとって耳触りの良いよう吹き込んだ。

 

「生産系天職の人達も何か役目があるにしても訓練は受けておいた方が良い。力があるなら使い方は知るべきだ」

 

 この呼び掛けの目的は天之河に吹き込んだ事とは全く異なる。一つは全員を訓練に参加させる事で国や教会から余計な反感を買わずに時間を稼ぐ為。

 

「そうは言うけどよ〜、はっきりさせようぜ! そもそも生産職のヤツって誰だよ? 俺は軽戦士だったぜ」

 

 誰が生産職かの疑問を口にしたのは檜山 大輔。不良やチンピラというには些かみみっちい性格の小悪党、因みに南雲のイジメの主犯格だ。

 

 この疑問が出るのは予定内、寧ろ出なければ困る。

 

「それはダメだ、檜山! ステータスプレートはトータスでの身分証、地球で言えば個人情報だ。無暗に詮索するモノじゃない!」

 

 もう一つの目的がステータスの開示を避ける風潮を作らせる為だ。こうすれば戦いたくない連中は生産職の振りをして戦争参加を拒否するだろう。

 

「だから全員に訓練を受けてほしいんだ! 全員で受ければ、それぞれで戦争参加を考える材料になるからね。皆もそれでいいかい?」

 

 天之河にこれ等のやり取りをさせる事で、自然とクラス全体が賛同する。結果、戦争参加の是非に問わず全員が訓練に参加する事に出来た。

 

 

 

 

 

 そんな一幕を経て訓練と座学が始まる。

 

「お前達の教育係を仰せつかった。騎士団長のメルド・ロギンスだ、よろしくな!」

 

 どうやら騎士団長が直々に指導役になったらしい。手間が省けて好都合だ。

 

「ステータスプレートは既に配られているそうだな。訓練内容の参考にするから見せてもらえるか?」

 

 ステータスの詳細を求められるのは想定内、既に対応は決まっている。

 

「すみませんが、ステータスの開示は拒否します」

 

 断られるとは思っていなかったのか、騎士団長殿は面食らっていた。

 

「うぅむ、拒否すると言われてもな。訓練を適切に行う為にも必要なんだが…………」

 

「はい、勿論理解しています。しかしながら、我々の世界では身分証の様な個人情報は信用の置ける相手にしか開示しません。初対面でいきなり信用しろと言うのは難しい話です。それに訓練内容を決めるだけなら、直接見る必要はありませんよ」

 

 ここで自分がステータスプレートの配布時に他の者達のステータスを知っている事を告げ、生産職以外は前衛職と魔法職であったと伝える。

 

「そうか。なら大まかに前衛職と魔法職に分かれてもらえるか?」

 

 ここで前衛職は天之河の方へ、魔法職は自分の方へと分かれさせる。但し、()()()()()()()()()()()()()付け足して。

 比率は前衛1:魔法2になった。

 この場で生産職と言って魔法職の側に来た連中は戦争に参加したくない者達だと確定した。今まで生産職が何人もいるかの様に発言していたが、実際は南雲と畑山先生の二人だけなのだから。

 戦う意志のない者を排斥されないように振り分けるのは必要な事だ、戦場で戦意の無い者が居ては他まで死にかねない。しかし、コチラの有用性を示さず完全に戦争への不参加を決め込むのも召喚者全員の立場を悪化させる要因になる。だからこそ、生産職とゆう宙ぶらりんの立場を作ったのだ。

 

「よし! 分かれたな。だが、やはり戦争に参加する者達だけでもステータスの詳細は確認させてくれないか? 共に戦場に立つ者としても知っておきたい」

 

「そういう事であれば、いいか天之河?」

 

「他の皆はともかく、俺なら構わないさ。仲間として戦うなら信頼は大切だ!」

 

 こうして戦争参加が決まっていた天之河と坂上がステータスを開示し、この二人を放って置けなかった八重樫と八重樫に追随する形で白崎がこの場で戦争参加を決定。更に白崎が参加を決めた所で釣られる様に、檜山とその友人三人(斎藤良樹、近藤礼一、中野信治)が参加を決めた。

 

 正直自ら進んでやると言うなら自己責任なので、勝手にすればいい。流石に諭してやる程の義理はない。

 

 あちらは放って置いて"勇者 天之河"以外では確実にステータスの開示が必要な人の元へ向う。

 

「畑山先生、少し良いですか?」

 

「あ………、雹堂君、どうしましたか?」

 

 畑山先生と一緒に集団から少し離れる。

 

「確か先生の天職は作農師でしたよね」

 

「………はい、先生は生産職という事です。これでは大事な生徒達が戦争に巻き込まれるのに、守る事も出来ません」

 

 思った以上にメンタルにダメージが入ってしまっている様子だ。励ましつつ思考を誘導しよう。

 

「そんな事はないですよ。ここだけの話なんですが、実は生産職は先生を含めて二人しか居ないんです」

 

「え?」

 

「生産職として魔法職側に集まってる何人かは、戦争に行きたく無くて天職を誤魔化してるんです」

 

 現在自分しか知らない事をそっと教える。都合の良い方向へ立ち直ってもらう為に。

 

「まだ皆が皆、この状況を受け止められてる訳では無いですよ。受け止めても戦争なんてしたい筈がありません」

 

「………それはそうです。皆さん平和な日本で生きてきたんですから」

 

「はい。ですがいくら参加を志願制にしても、何れはその約束は反故にされます。だって戦争中ですから、いざとなれば口約束なんてお構い無しに駆り出されます」

 

 まぁ、有無を言わさずに破られる時は敗戦間近だろうけど。

 

「そう、ですよね………。無理矢理に喚びだすくらいですもんね」

 

「けど、先生なら不確かな口約束を確かなモノにできます」

 

「ど、どうすれば!?」

 

 不安を煽ってから希望をチラつかせる。

 

「作農師の天職は戦争に不可欠な兵糧も、この世界に元々あった食糧問題も、全てを解決し得る存在です」

 

 ゆっくりと分かり易い価値と重要性を説き。

 

「作農師としての役目を十全に果たせば、国も教会も先生の意向を無視出来なくなる」

 

 虚偽は含めず、可能性だけを示す。

 

「そうなれば、戦争に行きたくない生徒も守れる上に地球に戻る方法を探す助けにもなる!」

 

 目に希望が灯ってきた。更にダメ押し。

 

「これは()()()()()出来ない事なんです。………どうか僕達を()()()()()()()

 

「!!、勿論です! 先生に任せて下さい!!」

 

 畑山先生が完全に熱血教師モードに入った。

 

「さぁ畑山先生! 訓練なんて受けてる場合じゃありません、騎士団長殿に先生の価値を売り込みましょう!」

 

 この言葉と共に畑山先生は作農師として活動するべく、メルド団長の所に駆け込んでいった。

 

 火を点けすぎた気もするが良しとしておこう。

 

 どうやら先生の思考を誘導している内に戦争参加を決めた連中が何人か増えた様だ。半数に満たない位か、恐らくはこれ以上の志願者はもう出ないだろう。

 これで一般人達の中で戦う者と戦わない者の仕分けが出来た。此処から先の連中の行動は自己責任だ。

 

 後は訓練と言う名の時間稼ぎの間に自分がどれだけ状況を動かせるか、だな。

 

 

 

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