他の生徒等の訓練の様子を視界の端に捉えながら、魔法陣を紙に書き込み詠唱を行い魔法を発動させる。
火球が飛び、的に着弾すると共に爆発する。
属性や種類を変え何度も魔法を発動させる。
自身の内側に意識を傾け、放った魔法を観察しながら何度も何度も発動させていく。
魔法が着弾する度に的が破損していき、粉々にした頃に一旦やめる。
「ふむ………成程なぁ」
魔力に対する造詣は然程深く無かったが、実際に行使した事で分析は大分進んだ。
前提としてトータスの魔法は能力では無く技術だ。適性に拠る差はあっても、正しく修錬をすれば誰でも扱えるだろう。しかし、そうは認識されていない。
(魔法自体が神から賜った、とか言って無駄に神聖視されてる弊害だな)
トータスに於ける魔法のプロセスは魔法陣を用意し、詠唱を行う事で発動している。一見すると普通だがその行為の持つ意味がどこかズレていた。
まず魔法陣についてだが操作の補助や効果を強めるのではなく、そもそも必須らしい。魔法陣に書き込まれた術式通りに魔法が発動する為、無くては発動出来ない。その上、魔法陣を書く素材は魔力を伝導する物でなければならない。
次に詠唱についてだがコレも必須で魔力を高める或いは集めるのではなく、魔法陣に魔力を流す為だけに行う様だ。
要するにトータスでは“魔力は操れるモノでは無い”とゆう認識が定着している。
だが、それは間違っている。魔力は操れるモノだ。
何故なら何度か試した際に同一の魔法陣・詠唱でも流す魔力の量を意識的に変える事が出来た。魔法陣に魔力を吸入する術式が組み込まれているとはいえ、本当に操作不可のモノならそんな真似は出来ない。
多分に感覚に依る所がある為にコツを摑む迄が難関と言える。しかし魔力を直接操作できれば魔法陣と詠唱の意味を大きく変えられる。効率も効果も遙かに上昇させられるだろう。
魔法技術を向上する上でプロセス以外にも外せない要素がある、魔力の定義だ。
トータスでの魔力は自らの内側から湧く事はなく、外部から摂り込むモノの様だ。
消費した魔力がどのように回復するのかを確かめる為に意識を傾けていた結果、召喚直後から感じていた大気中に漂う魔力に似た薄い何かを摂り込み回復しているのを感じ取れた。つまりは漂っていたのは魔力の素(魔素とでも呼ぶ事にする)だった様だ。
漂う魔素を摂り込み自身の内で堆積させる、それに由って生じるエネルギー。これがトータスにおける魔力の定義。
つまりトータスにおいては魔力を自らで生み出せずとも、魔素を受け容れる器さえあれば魔力を持つ事ができる。魔力を持っていなかった筈の自分に魔力がある理由がコレだ。
更にこの事から判るもう一つの違い、
これ程に差があると魔法を使う帰還方法は無謀な気もしてくるが、少なくとも魔法で呼びつけられたのは事実。ならば不可能では無い筈だ。
そう、今行なっている訓練は他の者達にとっては戦いの為だが自分には不要、帰還方法の確立が優先だ。その為に可能性は高いが不確定要素も多い魔法について理解を深める必要があった。
結果、世界間干渉するにはブレイクスルーは必要だがPSIで行うよりは容易だと判定する。
魔法技術向上の方針は決定だ。先ず魔力操作の修得と習熟、次に物資を用いない魔法陣の構築法の確立、最後に研究と検証の順に行う。
(魔法ばかりに時間をかけてもいられない。やるべきことは他にもあるしな)
時間は限られている。方針も決まった。ならば早速魔法の修錬を始めよう。
先ず自身の内にある魔力を認識する。
内に、ただ在るだけの魔力を確かに知覚する。
それを動かす、自らの意思で。
魔法を行使した時の、魔法陣に流れる感覚を意識しながら。
それを詠唱とゆう引き金に頼らず自らの意思のみで引き出す。
······。
············。
························。
················································。
································································動いた。
滑らかに、とはいかないが確かに動かせた。
その感覚を逃さず刻み、身体を巡るように動かす。
まだ、ゆっくりとした動きだが身体を巡らせる。
内側で動かす感覚は摑めた、なら次は外側だ。
内で巡らせていた魔力を身体の表面でも巡らせる。
·····っ。
身体の外にでた途端に霧散した、もう一回だ。
········ッ。
まただ、もう一回。
················!。
もう一回だ。
·················もう一回。
·····························もう一回。
·················································もう一回。
更にもう何回か失敗を重ねた。
回数を重ねる度に感覚を洗練させていった。
十回目········失敗。
ニ十回目············失敗。
五十回目·················失敗する。
七十二回目····················ようやく、成功した。
身体の内外で循環させられるようになる頃には操作も相当素早く滑らかになっていた。
魔力を体の内外で循環させるのは難易度高めだった様だ。気付けば自然に魔力を操れているし、魔力の回復速度も上がっている。
どうも魔力はそのままでは直ぐに魔素に還る様だ。だから魔法陣の術式による制御があり、術式を介さず魔力のままに外で操作しようとすると相応の制御能力を要してしまう。
だが結果的に魔力操作は修得できたのだから、寧ろ好都合だ。
魔法陣を物資を用いずに構築する方法だが、これは簡単な話だろう。先ず魔法陣は魔力の伝導性が強い物で作る程良いとされている。つまり陣の形をした術式を魔力がなぞる事で魔法は発動する。ならば
宙空に魔力で魔法陣を描く。
魔法が発動し風の刃が飛んだ。
魔力操作さえ出来れば難しい事ではない。
術式への理解が進めば無意識領域での構築もできるかもしれない。それを試すのはまた後にしよう。
実質的な前準備は終わり。本題の魔法術式の研究と検証に入れる。ここからはトライアンドエラー、ただ只管な試行錯誤の繰り返しだ。
早々に良い成果を出せる様に努めるしかないな。
「チィ、まいったな」
訓練場にて、もう幾度目かも数えるのが億劫な程の魔法術式の検証を行って独りごちた。
一週間、魔法の修錬を始めて経過した日数だ。
それなりの時間をかけたが成果は芳しくなかった。
トータスに於ける既存の魔法の行使等は最早造作もない、しかし主目的である異世界の干渉はおろか観測にすら至れていない。精々が自分の知る異能力の劣化再現程度しか出来ていない。
無論、何の進歩もない訳では無い。
魔力の総量も操作精度も向上したし、無意識領域又は仮想領域内で術式を構築する事で無陣・無詠唱の魔法発動も可能になった。魔法効果を付与してアーティファクトの作成も成功、座標の把握をすれば空間転移も出来た。現在のトータスで不可能とされる尽くを可能にしてはいる。
然し足りない、
現時点でも時空間や粒子レベルの物質に干渉してはいる。だが何と言えばいいか、漠然とした感覚で言語化しきれていないが、強いて言うのなら。
仮に、測りかねている点を放置して魔力でゴリ押す手段もあるが、その場合は安定性や確実性に欠ける。世界間干渉をするなら致命的だ。
(PSIで干渉する方向に切換えるべきか………?)
PSI能力は大きく三種に分かれる。直接的な物理現象を起こすバースト、意識や思念といった内界に干渉するトランス、肉体そのものを強化するライズ。しかし三種の内のどれをどの程度まで使えるかは、鍛練よりも素質に大きく左右される。
そして自分はトランス≫≫バースト≫≫≫≫ライズといった具合だ。
自分のPSI能力の資質では
そもそもエヒト神の干渉によりトータスに召喚される事でスペックが上昇する法則から外されてるから、魔法で帰還方法を確立する事にしたのだ。PSIで干渉するなら少なくともエヒト神の干渉を跳ね除け、件の法則が自分に適用されなければ不可能だろう。
世界間干渉の前にエヒト神が自分にかけた枷を外す事を目指すべきか。十中八九、魔法だろうが実態が明らかでは無い。
想定よりも時間が掛かる可能性がでている以上、本格的に戦争への回避策を執るべきかを思案する。
(………少し手を打っておくか)
自分にとってでは無いが、公にはし難い手段をとる事を決めた。
その日の夜―
自分に宛てがわれた部屋を抜け出し、真夜中の王都を音もなく駆ける。
これから行う事は現代地球の倫理的にはアウトだが、ハイリヒ王国では大して問題にならない。と言うか被害を訴える事も出来ないだろう。
(………彼処か)
目的地はある貴族の屋敷だ。
王都の中でも豪奢な部類に入る立派な屋敷、相当に位が高いことが伺える。事実、この屋敷に住む貴族はエヒト教の敬虔な信徒で誠実且つ優秀な人物として王城でも信頼されてるらしい。
だが貴族本人の人物評等は心底どうでもいい、この屋敷に隠してるモノに用がある。
早速、PSIを使い生体反応を探知する。
(良し、確かに居るな)
確認を取るなり即座に扉を解錠し忍び込む。
ハッキリ言って碌に技術が発達してないトータスのセキュリティはザルだ。侵入は欠伸がでる程容易い。
そうして屋敷の奥の奥、窓も無い所謂隠し部屋に辿り着く。
「ぅ………ぇ?」
其処に居たのは首輪を繋けられた亜人族の子供。見た事の無い人物が部屋に入って来たのを認識し、驚いたのかまともに声も出ていない。
この亜人族は首輪を繋けられてる時点でお察しの奴隷だ。聖教教会のお膝元であるハイリヒ王国では表向き亜人族の奴隷は居ない、視界に入れるのも汚らわしいと言う理由でだが。しかし暗黙の了解の類いであって、禁止されているのでは無い。
要は特殊な癖をもつ下衆や変態が密かに飼ってる事はある、とゆう訳だ。王城でカマかけしながら読心すれば幾人かの貴族達が奴隷として飼ってるのが知れた。丁度、人手が欲しかったので利用させてもらう。
騒ぐ気力がある様には見えないが、時間が惜しいので首輪を壊すついでに気絶させる。最低でも五人程使うつもりなので後、四人は要る。さっさと次へ行こう。
そうして他の貴族達の屋敷も回り、コソコソと隠していた亜人族の奴隷を掻っ攫った。
当たり前だが奴隷の解放が目的では無い、些細な工作に使う為だ。しかし、このままでは役に立たないので細工は施す。
トランス 『
通称"有線トランス"を発動し、攫った奴隷達のアタマを弄る。これまでの記憶の改竄と知識 経験 技能を刷り込み、そしてある指令を植え付ける。これで貴族の奴隷から自分のパシリへと早変わり。
最後に王都の外へ放り出して今夜の仕込みは完了。後は獲物が釣れるかどうかだ。まぁ、確実に釣れるだろうから何方に転ぶかでしかないがな。
それからは毎夜、隠れて亜人族の奴隷を飼ってる貴族の屋敷に忍び込んでは掻っ攫い、PSIで洗脳し魔法で飛ばすを繰り返した。網を仕掛けなくては餌を蒔いた意味が無いからだ。取り敢えずは王都内の貴族が飼っていた亜人族の奴隷をほとんど使わせてもらった。
そんな些細な工作を行いながら魔法の修錬を続け一週間が経った頃、訓練場にてメルド団長が迷宮攻略による実地訓練の開始を告げた。