ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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六話 オルクス大迷宮 前夜

 

 

 【オルクス大迷宮】、多数の魔物が生息し全百層からなるとされているトータスに存在する七大迷宮の一つである。しかし迷宮から魔物が進出する事は無く、寧ろ魔物から取れる素材や魔石が良質な為に周辺に町ができ商業利用すらされている。

 ちなみに七大迷宮と言われているが人間族が確認しているのはハイリヒ王国にあるオルクス大迷宮、アンカジ公国にあるグリューエン大火山、大陸を南北に分断するライセン大峡谷、大陸の東に位置する亜人族の生息圏のハルツィナ樹海、この四か所までで残りは不明。一応は魔人族の領土の大陸南部にもあるらしいが未確認の状態だ。

 ならば何故"七"大迷宮なのかとゆうと、此れ等が人工物であるかららしい。記録も曖昧な大昔に神に刃向かい世界を滅ぼそうとした"反逆者"が戦いに敗れて落ち延びた先に造ったモノ、それが七大迷宮であり最深部には反逆者達の住処があると云われている。そういう逸話があるので全てが確認出来ずとも七大迷宮とゆう訳だ。

 

 そんなオルクス大迷宮が勇者御一行の実地訓練先に選ばれた訳だが、はっきり言って失敗したとしか言い様がない。

 

「まさかの召喚者全員を迷宮に放り込むとはなぁー。しくじったなぁー」

 

 そう今回の実地訓練は天職の区別なしの強制参加だった。おそらくは戦争参加が志願制なのを納得していない連中が訓練自体は全員参加してるのを知って手を回してきたのだろう。ここである程度の実績を出させ、“やはりエヒト様は魔人族と戦う為に彼等を喚んだのだ〜”とか言って戦争参加者を増やす心積もりだ。

 召喚されてからの二週間で現状、国や教会に畑山先生以外は何の利益も与えていない。自分も魔法技術の進展を具体的な成果として提供していなかった、下手に利益を与え過ぎればそれが原因になって周囲に謀略が渦巻き対処に時間を割く羽目になると判断したからだ。今回、その判断が裏目に出る結果になった。

 生産系天職の者達は置いていくように動こうとしたが、手は打たれていた。既に天之河は国王と教皇に乗せられ、畑山先生は農作地の巡回に出発した後だった。発言力のある二人を押さえられると自分に正攻法で切れる札はない。PSIによる洗脳で暗躍するのは無しだ、やり過ぎると地球から救援が来た場合や地球に帰った時に自分の首が絞まる。

 結果、内容の変更も出来ず実地訓練は決行された。

 

 

 現在地はオルクス大迷宮の周辺に造られた宿場町 ホルアド。そこで王国直営の宿に泊まる事になっているのだが、先程抜け出してきた。目的は明日の下見といった所だ。

 これ以上教会や国の思惑通りでは戴けない、戦意の無い生徒等も連れてきてしまった状況も出来る限り利用する位はしなければやってられない。

 

 

 オルクス大迷宮の入り口は公に管理されているだけあってゲートが建てられていた。とっくに日は暮れているが受付にはまだ人が居る、正規の手続きで入るつもりは無いので知覚されない速度で通り抜ける。

 

 

 迷宮の中は緑光石(発光する鉱物)の鉱脈を掘り抜いてあるため灯りは必要ない、まぁ そうでなくても夜目は利くので自分には関係ない。広さは単独で探索するなら十分、複数人なら狭いという程度だろう。

 公式の最高到達階層は六十五階層、詳細なマップがあったのは四十七階層まで。六十五階層までのマップもあるにはあったが曖昧な部分が多かった。取り敢えず明日の訓練では二十階層までの予定だそうだから、最低でもそこまでは確認しておく。

 

 しばらく進むとドーム状の開けた空間にでた。すると、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉、はっきり言えばデカいネズミの魔物ラットマンが湧いてきた。

 

「流石に初っ端から事前情報と違うなんて事は無いか」

 

 自分がわざわざ下見に来たのは未確認のトラップや想定外の魔物といった、イレギュラーの有無を見定める為であって魔物と戯れつく為では無い。よって即殺する。

 

 バースト 『テレキネシス』

 

 俗に言えば念動力。バーストに適性のあるPSI能力者なら基本的には誰でも使える基礎、当然ながら練度や素質によって出力精度に差はでるが自身のは大分高めだ。

 

 テレキネシスで全てのラットマンの首を折る。

 

 下見に使える時間は二時間程度、戦闘に時間を掛ける積もりは無い。それに自分が単独で迷宮に潜ったのも知られる訳にはいかない、返り血を浴びて痕跡を残す等は以ての外だ。

 死骸を魔法で燃やし、さっさと先へ進んで行く。

 

 

 時折り湧いて来る魔物を即殺しつつ、迷宮内のイレギュラーの有無を確認して行く。

 

 トータスの住人は魔力の感知すらまともに出来ない。ならどうやって魔法トラップの有無を確認するのかとゆうと、"フェアスコープ"とやらを使うらしい。無論それなりに貴重品だ、しかしこれも覗き込み注視しなければ判別出来ない。要は怪しい箇所を勘や経験で確かめながら進む訳だ。

 

 物理・魔法を問わず罠の識別には相応の経験と技術が要るのは当然ではある。だからこそ明日の訓練では安全を期して二十階層までなのだろうが、知識や技術が未熟なトータスで無くとも二次情報を鵜呑みする事自体が危険だ。

 故に自分が直に下見に来た、何せ異能力だろうが物理だろうが罠の対処はあの施設で散々やった。そして結論は来て正解だった。

 

 確かに表面的なのは網羅されていたが、壁や天井の内部に幾つかの未確認の魔法トラップが隠してあった。鉱石を発掘したりでもすれば引っ掛かる様になっている、しかもそれらに限って他のより明らかに危険度の高いモノばかり。迷宮を造った"反逆者"とやら性格悪くね?

 そして二十階層にもありました未確認トラップ。所謂転移罠、宝石として人気のグランツ鉱石に触れると発動する仕掛けだ。トラップを解析して転移先を調べ、その魔法陣を自分で構築し発動させる。

 

 

 転移した先は巨大な石造りの橋のド真ん中。

 およそ橋の横幅は十メートル、縦幅は百メートルといった所か。天井までは二十メートル以上、下は自分でも先が見通せない程に深く手摺りも柵も無い。少し降りてみたくもあるが、それは本格的な探索の時にしておこう。

 橋の両端は片方は上への階段、もう片方は先へ進む通路になっている。そして階段側には大量の、通路側には大きな一つの魔法陣。

 そこから湧いて来たのは複数の骸骨の兵士と一体の大型の魔物。骸骨の兵士はトラウムソルジャー、通常なら三十八階層に出現する魔物だ。大型の魔物はベヒモス、六十五階層に到達した冒険者達を壊滅させた現在確認されている中で最強クラスの魔物。

 橋とゆう心許ない足場、質と量を備えた敵、逃げ場は無し、もしかしなくても今までのトラップの中で一番殺意が高い。とはいえ、それは現在のトータスの基準であって自分単独なら問題は無い。寧ろベヒモスと遭遇できたのは好都合、トータスの戦闘レベルがはっきりする。

 

「骸骨共に用は無い。ご退場願おうか」

 

 階段側に視線を向けると、テレキネシスでトラウムソルジャーが持っていた武器を操り、持ち主と湧き出し続ける魔法陣を処理した。

 

「さて、ベヒモスはどんなものかな?」

 

 改めてベヒモスを観る。体長は十メートル程、鋭い爪と牙を持ち四足歩行で頭部には兜の様な甲殻がある。見た目を総括するとトリケラトプスとサーベルタイガーの間だろうか。

 

「グゥルオオオオオオオォォォ!!!」

 

 そんな事を考えてると、ベヒモスが咆哮を上げながら勢いよく突進してきた。

 

 図体が大きい分、体感では速く感じるが大型の熊よりは遅い。膂力はどの程度か、受け止めてみるとするか。

 

「グゥオオゥ!!?」

 

「止められたのがそんなに意外か?」

 

 真っ直ぐ突っ込んで来たので甲殻から生えてる角を掴み押し止めた。膂力はまずまず、しかしこの程度ならライズを使うまでもない。

 ベヒモスがジタバタと藻掻いてるが、自分を微動だにする事すら出来ていない。すると、

 

「グガアアアァァウ!!」

 

「って、熱ッ!」

 

 頭部の甲殻部分が赤熱する程の高熱を発し、咄嗟に放り投げてしまった。そして投げた先は──ー

 

「ギィアァァゥゥゥゥゥ!??」

 

「あーあぁ、落ちてったよ」

 

 橋の外側、つまりは奈落の底へ真っ逆さまだ。断末魔を響かせながらベヒモスは呆気なく落ちていった。どうやら飛行能力は無いらしい、固有魔法は最後の甲殻の赤熱化だった様だ。

 成程、地球の文明レベルで言えば中世に届くかも怪しいトータスなら強大な魔物だったと言える。これを討伐出来ない程度がトータスの戦闘レベルか。

 

「今ので六十五階層クラス、本当に百階層までだったらこの迷宮で得られるモノって……あるのか?」

 

 帰還方法確保の為の探索の第一候補が七大迷宮だった。神に刃向かった"反逆者"とやらならば何かしら有益なモノを遺しているかと予想してたのだが、本当に反逆者の住処があるのならここの防衛レベルは期待ハズレだ。然し、誰も確認していない以上は迷宮が何層構造かは分からない、まだ結論を出すには早いか。

 

 考えつつ階段を上ると、転移罠が仕掛けられていた二十階層に戻った。

 

 未確認だった罠も発見したし明日の下見としては十分な成果だろう、流石にそろそろ宿に戻らないと怪しまれる。帰りは魔物を無視し最短ルートで迷宮を後にした。

 

 

 

 

 宿に戻る頃にはとうに夜も更けていた。

 国のお抱えの宿とはいえど、流石に生徒それぞれに個室を用意できる程の部屋数はない。自分の部屋割は他からハブられた南雲と同室だ。

 勝手に抜け出していたので真っ当に扉からは戻らない。抜け出た時と同様に窓から入室する積もりだったが、部屋に南雲以外にも白崎がいた。夜の部屋に男女が二人きり。今の状況で色恋沙汰など浮ついているとしか言い様がないが、本人的には真面目な話をしているつもりなのだろう。

 

 少し時間を潰してから戻るとしよう。

 

 

 部屋で寝るつもりだったから気にしていなかったが、迷宮の下見は夕食後に行なったとはいえ少々小腹が空いていた。少し、いやかなり行儀が悪いが厨房に入り込み、明日にも棄てられそうな傷みかけの食材を調理して軽食を作る。勝手に食材と器具を使ったことに関しては宿の料理番に翌朝にでも謝っておこう。

 調理が完了し、いざ食べようとした所で声がかけられた。

 

「雹堂?」

 

 視線を向けるとそこにいたのは園部だった。

 

「園部か。こんな夜更けにどうした?」

 

「私の部屋はここの真上。下から厨房を使ってる音が聞こえて、気になったから見に来たのよ。厨房を使う許可はもらってるの?」

 

「無断だな。誰も居ないんじゃ許可なんて貰いようがないだろう?」

 

「勝手に使わないの。厨房は料理人にとって大事な場所なんだから」

 

 料理店の娘だけあってか、そういうトコロは気にするらしい。

 

「料理番には明日の朝にでも謝るよ。勿論、謝ればいいとゆうモンでも無いけどな」

 

「そうゆう事ならこれ以上言わないけど……」

 

 一応は納得したらしい。仮に納得しなくても使った後ではどうにもならないが。

 

「疑問も解消したなら早めに寝た方が良いと思うぞ? 明日は迷宮に潜る事になってるんだしな」

 

 遠回しに立ち去るのを求めてから、軽食を摂る。恐らくは寝れなかったから調理の音に気付いたのだろうが、わざわざそこに踏み込みはしない。

 

「そうなんだけど……さ。眠れなくて、……少し話に付き合ってくれない?」

 

「まぁ 聞くくらいならしよう」

 

 そのまま素直に立ち去ると思っていた。正直、相談を持ち掛けられる様な信頼関係を築いた憶えは無いのだが。

 

「雹堂は皆の天職知ってるんだよね?」

 

「ああ。ステータスプレートを配った時に見ちまってるからな」

 

「なら、私が魔法職じゃないのも知ってるよね」

 

「ああ。知ってる」

 

 園部の天職は投術師、戦闘系ではあるが前衛では無い。そしてステータスの開示をしてない者達の訓練内容を決める際、園部は魔法職側に集まっていた。

 

「正直、戦争なんて行きたくなかったし魔法適正はあったから、訓練の振り分けの時は魔法職だってことにしたけど………今思うとそれじゃダメなんじゃないかって」

 

「別にダメって事は無いだろ。戦争に行きたく無いってのは至極当然の事だ、責められる謂れも無い」

 

「けどトータスの戦争が勝たないと地球に帰れないんだから、天職を誤魔化して戦争に参加しないのは間違ってる気がして……」

 

 軽食を食べ終え水を一飲みしてから、指摘する。

 

「園部。お前、根本的に勘違いしてるな」

 

「え?」

 

「そもそも、戦争に勝った所で帰れやしないぞ?」

 

 落ち着いて考えれば解る筈だが、仕方ないとはいえ希望を持ちたがるのは人間の性か。

 

「どうして!? だって私達は魔人族との戦争に勝たせるために喚ばれたって!」

 

「落ち着け、そう大声をだすなよ」

 

「あ……、ごめん。けど勝っても帰れないってどういうこと?」

 

「単純に事実を並べてくぞ? まずエヒト神とやらに召喚された、その後にイシュタルから戦争の為に神が喚んだと説明を受けた、イシュタル達に地球に帰す手段はなく神のご意思次第で決まる。ここまではいいか?」

 

「……うん」

 

「じゃあ 肝心の神のご意思だが、エヒトとやらと意思疎通した奴は召喚された側に一人もいない、つまり何の確認も保証も取れていない。戦争に勝ったら帰すなんてのはイシュタルの憶測でしかない。なら神の善性に賭けるしか無いが、異世界に無断で拉致パクする存在の善性なんて信じられるか? 無理だろう?」

 

 敢えて口にはしないが、万が一以下の確率でエヒトに帰す気があったとしてもトータスの人間達が大人しく見送るとは思えないがな。

 

「信じられない。それじゃあ、結局……?」

 

「そう。ほぼ間違いなく、戦争がどうなろうが帰れないって訳」

 

「地球に帰れないまま、一生この世界で生きていくしかないのね………」

 

 淡々と根拠を提示していく事で比較的ショックが小さくなる様に教えたつもりだったが、落胆を通り越して半ば絶望しかけてるな。・・・・・・仕方ないな。

 

「それも違うな」

 

「……今、帰れないって言ったじゃない」

 

「神頼みじゃ帰れないってだけの話。帰る手段はあるさ」

 

 ここまで意気消沈したのを放置すると周囲にも影響がでそうだ。教える積りなどサラサラ無かったが、少し根拠を提示しよう。

 

「教えてやれる根拠は三つ。一つは僕等が此処にいる事そのもの、大抵の移動は双方向なモンだ どうやっても帰れないなんてのは無い。二つ目は神しか異世界転移が出来ないってのはイシュタルの言い分、人間以外の種族もいるのならそうと決まった訳でも無い」

 

 超常現象が地球にもある事を隠したまま提示出来る、最大の理由を一拍空けて告げる。

 

「三つ目のこれが一番重要だな。得体の知れない権能では無く魔法で召喚されたなら魔法で帰れるのは道理だろ」

 

「だけどそんな魔法は神しか使えないって……」

 

「それはさっき言った、イシュタルの言葉の全てが真実とは限らない。現に……ほいっと」

 

 魔法陣を展開して食べ終えていた皿を流し場に送った。現在のトータスでは誰も出来ないとされてる空間転移をやって見せる。

 

「えっ!? 今のって!」

 

「魔法について調べて二週間ってトコだが、この位は出来る様になった。なら、いつかは帰れると思わないか?」

 

「そっか、そうだよね。………諦めたらそこでオシマイよね」

 

 帰還の可能性自体が零なのでは無いと示された事で何とか持ち直した様だ。

 

「ま、そーゆーこと。ある程度の事は生きてりゃ何とかなるモノだ、だからとにかく生き残るのを優先すればいい。その内に帰れるさ」

 

 話は終わり。そうゆう空気をだして流し場の食器を洗いに行く。

 

「ありがとね、雹堂」

 

「礼を言うトコでも無いと思うが?」

 

「こうゆう時は素直に受け取っておきなさいよ」

 

「ハイハイ、どういたしまして。流石にそろそろ寝とけ もう夜もだいぶ遅い、明日に障るぞ?」

 

 おざなりに感謝を受け容れ就寝を勧める。相談に対する答えももう十分だろうに。

 

「うん、……おやすみ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 部屋に戻っていく園部の気配が離れてから呟く。

 

「何故僕がカウンセリングなんぞしてんのかね、まったく」

 

 

 

 食器洗いを終えた後に部屋に戻る、今更に窓からとゆうのも面倒なだけなので普通に扉からである。いい加減に白崎と南雲の話も済んだ頃だろう。

 

「お帰り、雹堂君。随分遅かったけどどうしたの?」

 

 夕食後から姿を見せていなかったからだろう、部屋に戻ると南雲に質問を投げ掛けられた。

 

「ただの散策だ。それに、ここまで遅くなったのは白崎がこの部屋に入ってくのが見えたから時間潰してただけだけどな」

 

 当然ながら、窓から入ろうとして中の様子が見えたとは言わない。

 

「それはそのー、ごめん」

 

「謝る事はねぇよ。別に迷惑だって言った訳じゃない」

 

 南雲は少し気不味げに詫びを口にするが、それは受け取らない。そもそも同室になった時点で白崎が南雲に突撃していく可能性は考慮していた。なので事実、全く気にしていない。

 しかし、そろそろ睡眠をとっておきたいので寝床に向かおうとしたら、再び声を掛けられた。

 

「僕が強くなるにはどうしたらいいと思う?」

 

「ぅん? いきなりどうした、お前は争い事や揉め事は苦手な奴だと思ってたが?」

 

「確かにそうだけど、戦争に巻き込まれるなら自分の身を護れる強さは必要だよ。雹堂君はクラス全員の天職と初期ステを見てるんだから、僕がステータスの低い生産職なのも知ってるし相談してみようと思って」

 

 南雲、お前もか。自分はカウンセラーにも相談屋にもなった憶えは無いんだがな。

 

「ふむ、それっぽいコト言ってるけど本音でも無いだろう? 迷宮に潜る前夜に聞いたってどうしようもない質問、お前はそれが分からない阿呆でも無いだろ」

 

「うっ………それは……」

 

 南雲は言い辛そうに口籠るが、大体の察しはついてる。訓練を受けても思ったようにはステータスが伸びなかった。そして先刻の白崎の訪問時にようやっと白崎が精神的に距離を縮めた、その時に弱いが故の不甲斐なさを感じた。とまぁ、そんな所だろうな。

 

「それに知ってんのは初期ステであって今のステータスでは無いぞ? そんな中では助言のしようも無いな」

 

「それなら、これが僕の今のステータス」

 

========================

 

 南雲 ハジメ  17歳 男 レベル:4

 

天職:錬成師

 

筋力:13

 

体力:13

 

耐性:13

 

敏捷:13

 

魔力:26

 

魔耐:18

 

技能:錬成 言語理解

 

========================

 

 見せてきた南雲のステータスは確かに低い。

 確信に近い推論ではあるが、そもそも自分と南雲はエヒト神とやらの干渉でトータスに来た異世界人のスペックが上昇する法則から外されている。それでも二週間で魔力を倍に出来ているのなら、悲観するモノでもないな。

 それに南雲のスペック制限は自分の巻き添えの可能性が高い。ならば、多少の手助けはするべきか。

 

「前線で戦うのは諦めた方がいいな」

 

 オブラートに包む事なく、ハッキリと言い放つ。

 

「ここまでステータスが低いとやっぱり無理だよね。ごめん……無茶な事聞いて」

 

「まだ話は終わってないから、最後まで聞け」

 

 勝手に切り上げようとしてる南雲を留めつつ続きを話す。

 

「前線で戦えないってのは適正や技量の問題だ。そもそも喧嘩すらしたこと無いお前が近接戦のイロハを身に付けても精神性が向いてねぇ」

 

 但し、と付け加える。

 

「魔力を鍛え抜けば中距離なら戦えない事も無い」

 

「その……魔力も低いんだけど?」

 

「鍛え抜けばって言ったろ? 何もせずに身に付けられる強さは先天的なモンで一握りの奴等しか持ってねぇよ」

 

「だけど、今のレベルから計算すると200くらいで限界値になるよ」

 

 ステータスプレートが正確に完璧に潜在能力を測れるのならその通りだが、自身のステータスプレートの表示を踏まえればそこまで便利な代物では無いと分かっている。

 

「そう考えてるなら、ここで話は終わりだな。他人に決められて“ハイ、諦めます”って言うなら初めから諦めとけ、死ぬだけだ」

 

「なら、誰でもステータスの限界を超えられるの?」

 

 自分の辛辣な物言いに南雲の語気が僅かに荒くなる。

 

「ハァ、答え自体は“YES”だがそうゆうコトじゃねぇ。戦場では合理論も精神論も両方要るんだよ。冷徹かつ不屈の気構えが戦場に立つ必要最低条件だ、それが無いなら魔物相手の"狩り"ならともかく、人相手の"戦い"ならステータスが高かろうが犬死にして終いだ」

 

 南雲は生徒の中なら冷静な部類だが"戦う"とゆう事の意味は理解出来ていない。“ステータスが高ければ戦いに勝てる”と思ってるのがいい証拠だ。

 

「改めて聞くぞ、どうして強くなりたい?」

 

 軽く気当りを発しながら問い質す。

 最低限の気構えの一つも無い奴に力を与えても危険に晒すだけ、強くなりたいのなら相応の芯は示して貰わなければならない。

 

「っ! ………………………。僕を認めてくれてる人に、恥じない自分でいたいから」

 

 南雲は気圧されつつも方便に逃げず、はっきりと“誠”を口にしてみせた。

 

「ん〜、まぁ及第点だな。切っ掛けと指針をやる、その後はお前次第だ」

 

「ありがとう! 雹堂君!」

 

 南雲は喜色を浮かべていたが、自分は寝るのはもう暫し後になりそうだと内心で嘆息していたのだった。

 

 

 

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