ありふれた複合世界線   作:混合化合物

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七話 オルクス大迷宮 訓練

 

 

 実地訓練当日──ー

 

「これより迷宮での実地訓練を行う! 同行する俺達でフォローできる二十階層までの予定だが、危険があることは変わりない。気を引き締めて臨むように!」

 

 メルド団長の先導の下、迷宮に入る。

 

 今回の訓練でオルクス大迷宮に潜るのは召喚された生徒全員とメルド団長、有事の際の保険として騎士七名。保険にしては騎士の人数が多めなのは、メルド団長がステータスを把握している人数が半数にも満たないからだろう。曲がりなりにも召喚者は国賓待遇、実戦投入する前に何かあれば責任問題だ。それを差し引いても、メルド団長自身が戦争参加を決めていない生徒達まで連れてくるのを内心では良しとしていなかった、とゆうのもある。

 

 まぁ 彼等の想定以上の有事は起こ(二十階層の転移トラップは起動)させてもらうが。順当に訓練を進められても、コチラには利が無い。

 

 

 

 戦争参加組は積極的に、不参加組は消極的に、指導と実践を伴って迷宮の探索が行われていく。基本的には数人括りでパーティを組み行なっているが例外はある。

 

「ハイ、魔法撃ち込めー」

 

 手加減して剣を振るい魔物の脚の腱を斬り、後ろの連中に合図を送る。一拍空けて魔法が放たれ、動きの鈍った魔物にトドメが刺される。とっくに二桁を超えたやり取り、自分からすれば訓練どころか単なる作業だ。

 

「悪いな、雹堂。前衛任せっきりで」

 

 後ろで魔法を撃っていた連中の一部が後ろめたそうに声を掛けてきた。

 

「気にすんな。訓練でも生産職に前衛はムリだろ」

 

 わざわざ一般支給の剣を使い手加減してまで、前衛をしてるのは単純に前衛が不足してるからだ。戦争参加組はいい、バランスのとれた編成に成っている。だが不参加組は大体が生産職を装っているので自動的に後衛の枠に入れられる、結果 前衛が不足する訳だ。しかし、同行してる騎士達を頼っては訓練にならないとのことで、止む無く自分(表向きは後衛寄りだが、ステータスは総じて高いと言ってある)が不参加組の前衛を一手に引き受けた。

 そもそも生産職を装ってる者達は戦闘自体を忌避しているので迷宮に連れてくる意味が無い。教皇も国王も余計な事をしてくれたものだ。

 

 そんな中、ガチの生産職の南雲は他に比べ積極的になっていた。地面から大きい棘を飛び出させ魔物を串刺しにして倒している、その度に息切れを起こすが直ぐに治める。表情を観る限り手応えは感じてる様だ。

 

 端から見ると土魔法を使い倒してる様に見える(実際に唱えてる詠唱も魔法名も土魔法のモノだ)が、それは違う。南雲が使ってるのは錬成魔法である。

 タネは昨夜に与えた切っ掛けと指針だ、まぁ そう御大層なモノでは無い。魔力の直接操作を教えたのと勝手な先入観を崩してやっただけだ。

 

(技術として教える積もりが技能として魔力操作が出たのは、少しばかり予想外だったがな)

 

 

 

 

 昨夜の事を少し思い起こす。

 

「いいか、取り敢えずお前が戦闘で使う魔法は錬成。これ一つだけで十分だ」

 

 南雲に魔力操作を教えた直後の自分の第一声だ。

 

「僕も戦いに錬成を使うのは考えたけど、射程距離が短過ぎて上手くはいかないよ」

 

「当たり前だろ、戦闘用じゃない魔法陣をそのまんま使えばな」

 

 トータスでは魔法を神聖視してるせいで魔法陣の術式に対する研究や検証が碌にされていない。それでも使い手の多い魔法は多少は試行錯誤されてる様だが、魔法を扱ってから日の浅い自分から見ても粗が多い。

 そんな中でも錬成の魔法を使い様々な物を作り出す優れた職人は多くいる。それはつまり、普及してる錬成の魔法陣は生産の為に調整された術式が刻まれた魔法陣であり、戦闘に使う事などは最初から考慮されてないとゆう訳だ。

 

「だから、ほい。この魔法陣を使え」

 

 適当な紙に魔法陣を書き込み、渡してやる。

 

「これって……錬成の魔法陣? けど教わった魔法陣とは全然違う………!」

 

「戦闘用に現状で出来る限りの術式の調整をしてある。これが最高とか完璧とかでは無いが、生産用に比べれば大分マシな使い方が出来るだろうよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

「僕がしてやるのはここまで。ただもう一つ教えるとすると………、変わろう 変えたいとそう思うのなら先入観や固定観念は捨てろって事だ。型に嵌ったままで得られる変化は大したモンじゃない」

 

「うん。…………魔力操作は魔物にしか出来ないとか、言われた通りに思い込むなって事だね」

 

 頷いてる南雲がどの程度理解してるかは定かでは無いが、まぁいいだろう。

 

「あぁ。ただし、カモフラージュはしておけよ? 魔力操作も魔法陣の書き換えも教会は騒ぎ立てるだろうからな」

 

 注意点だけ付け加えて自分は寝床についた。

 その後も南雲は何か考えていた様だったが、自分が預かり知るところではない。

 

 

 

 

(しっかし まぁ、白崎の好意に応えたいんなら別に戦おうとする必要も無いと思うがなぁ)

 

 錬成を土魔法にカモフラージュして魔物を倒す南雲、その南雲に熱い視線を送る白崎、それを見て歯軋りせんばかりの檜山。これらの状況を客観して内心でそう呟く。

 

 色恋沙汰の行方などはどうでもいいが、ある意味丁度いい。グランツ鉱石に触れる役(二十階層のトラップ起動)は檜山にやってもらうとしよう。

 

 

 そうこうしてる内に肝心の二十階層に到達した。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ〜く注意しておけ!」

 

 先頭の天之河達が身構える。

 壁が褐色に変わり動きだす。変色し擬態するゴリラの様な魔物 ロックマウントのお出ましである。壁に擬態していた事で勘違いしそうになるが固有魔法は『威圧の咆哮』、近くの敵の行動を阻害するモノだ。

 

「グゥガアアァァア────!!!」

 

「うっぐぅ!」

「のわっ!」

「!? っうぁ!」

 

 案の定、固有魔法を勘違いしていた天之河と坂上はモロに受け、反応しかけていた八重樫も動きが止まる。この間にロックマウントは他の擬態していたロックマウントを後衛に放り投げた。

 

「「「ひッ!!」」」

 

 驚いたのか何なのか、普通に魔法で迎撃すればいいものを後衛の三人は詠唱を途切れさせ硬直していた。しかし、メルド団長が割って入る前にロックマウントは石棘で貫かれた。自分の隣で南雲が錬成を使ったからだ、ただし土魔法の振りとゆうカモフラも忘れて無詠唱だったが。

 

「オイオイ、南雲。カモフラはどうした?」

 

「あ、……ごめん。咄嗟で忘れてた」

 

「はぁ、今回は誰も気付いてないからいいが。もう少し気をつけてくれ」

 

 翌日にコレでは少々呆れてしまう。まぁ 南雲よりさっきの後衛の方が悲惨か、今のが同格相手の実戦なら惨事は免れない。

 正直、メルド団長には同情している。上の為政者と自身の良心との板挟みになりながら、平和ボケしてる一般人に戦闘訓練を施さなければならないのだから。

 

「貴様……! 香織達によくも! 万翔羽ばたき、天へと至れ、〝天翔閃〟!」

 

 白崎達の反応にドコかズレた解釈をした天之河が過剰な魔法を撃ち、ロックマウントを後方の壁ごと両断した。当然ながら洞窟内の過度な破壊は崩落の危険がある、即座にメルド団長から拳骨と説教を頂く事となる。

 然し、天之河が自発的にぶっ放した一撃のお蔭で、手間が一つ省けた。丁度いい具合に壁が崩れて目当てのブツが見える。

 

「ん? メルド団長ー。壁が崩れた所にあるのって、珍しい鉱石じゃありませんでしたか?」

 

 全員の注意を向けさせる為に敢えて自分から声を上げる。

 

「確かに……あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々、この階層では珍しいな」

 

 メルド団長の口から希少な宝石である事や求婚用の装飾品に使われる事が説明される。そんな事を聞いた恋する乙女の反応は想像だにしやすい、後は少し檜山の背を押してやればいい。

 

 トランス 『コンバート・テレパス』

 

 通常の"念話(テレパス)"は発信者の声で思念が相手に届くが、これは言わば自由に変声した状態の思念を届ける事ができる。今回ならば白崎の声で檜山に"念話(テレパス)"を行えるとゆう訳だ。

 

((あんな宝石をプレゼントされてみたいな))

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 白崎の表情に見惚れていた檜山は疑問も抱かずにグランツ鉱石を回収しに壁を登っていく。メルド団長は不用心な檜山に注意をするし、他の騎士達もトラップの確認の為にフェアスコープを覗くがもう遅い。

 

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間。自分にとっては予定通りの、他の者達にとっては想定外の転移トラップに全員が巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 トラップフロアへの転移が終わり、即座に周囲を見渡したメルド団長が号令をかける。

 

「お前たち、すぐに立ち上がって階段の場所まで行け! 急げ!」

 

 だが実行は為されない。階段側からは大量のトラウムソルジャー、通路側からはベヒモスが湧くのだから。

 

 

「……まさか、………ベヒモス……なのか」

 

 

 流石のメルド団長も動揺を隠せていない、他の騎士達も同様、ならば生徒等が呆然とするのも道理だ。

 

「グゥルオオオオオオオォォォ!!」

 

 ベヒモスが咆哮を上げれば、そこからパニックになるのもあっという間。戦争の参加・不参加の面子を問わずに生徒等は我先にと階段側へ向かおうとするが、隊列も連携もない状態ではトラウムソルジャーの群れを突破は出来ない。

 然し、逆にメルド団長と騎士達は正気に返り行動する。メルド団長と騎士三人が生徒達を率いてトラウムソルジャーの突破を、残りの騎士三人が結界を張りベヒモスの足止めをする。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、〝聖絶〟!!」」」

 

 王国最高品質の魔法陣で三人同時に結界を展開する。ギリギリ撤退できるかどうかの時間稼ぎ、この間にどれだけ迅速に退路を確保できるかで犠牲者の有無が決まる。真っ当な戦術なのだが、ご都合主義の勇者様は理解しない。

 

「メルドさん、待ってください! 彼等を置いていくつもりですか!?」

 

「聞き分けろ、光輝! ベヒモスは今どうにかできる相手ではない!」

 

「嫌です! 人を見捨てるなんて間違ってる! 絶対に、皆で生き残るんです!」

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 八重樫が天之河を説得しようとするが、納得しはしないだろう。そもそも八重樫が天之河の手綱を握り切れるなら、ここまで幼稚なご都合主義者にはなる筈がない。

 

 

 と、ここまでの状況を俯瞰しながら自分が何をしてるかと言えば。テレキネシスで死者や重傷者が出ない様にフォローしつつ、迷宮の道中でくすねた魔石を使って足下にカモフラ用の魔法陣を描いていた。

 ワザと知ってた罠に掛けたのは死者を出す為では無いし、命の懸かった恐怖を与える為……は少しあるが主目的では無い。

 本命の目的は国や教会を黙らせらせる実績をだす事、但し自分がではなく戦争参加組の面子がだ。この実地訓練に戦争不参加組まで組み込まれた原因、それは召喚者達の実力や意思共々に対する国や教会の不信感だ。

 この先、いちいち奴等の都合に自分まで振り回されるのは非効率だ。故に昨夜の下見でこの罠を見つけた際に思い付いた、これを利用して易々とは口出し出来ぬ様にしよう、と。

 “最高峰の戦士でも倒せぬ魔物を戦争参加組の召喚者達で討伐”、中々にいい箔になるだろうさ。

 

(さて、もう少しで結界も砕ける。始めるか)

 

 バッジイイィィィィインッ!!!!

 

 柏手で、人間も魔物も関係なく怯む程の轟音を鳴らす。その直後に足下の魔法陣をカモフラージュに使い〝聖絶〟をベヒモスと騎士三人の間に発動させる。

 

「全員落ち着けッ!!! まず戦争参加組、しっかり隊列組んで訓練通りにやれ! 戦争不参加組はその援護! 騎士の皆さんは指揮と補助をお願いします!」

 

 その間隙に乗じ、大声で但し全員がハッキリと聞き取れるように指示を出す。ベヒモスの攻撃を受けてもビクともしない結界を見て、どうにかパニックから立ち直り騎士達の指揮に従いだす。

 

「それと天之河、お前も冷静になれ。別にメルド団長は彼等を見捨てるなんて言ってないだろう? 周りを見てみろ」

 

 続けて天之河を諭す。声を荒らげたり、物理的に圧力をかけるのではなく、落ち着いた声音で。さもなきゃ、どうせ反発してくるだけだ。

 

「この橋のド真ん中で、あんなデカブツと戦ったら、橋が崩れて奈落の底にまっしぐらだ。だから退路を確保しようって言ってるんだぞ? しっかりしてくれ」

 

「ぁ、ああ。もう大丈夫だ! すみません、メルドさん」

 

「構わん、反省は後だ光輝! 早く退路を確保するぞ。雹堂、結界はどれだけもつ?」

 

 だが、このまま退却されても困る。よって、虚々実々を入り混ぜて誘導する。

 

「暫くは平気ですが……少し困った事がありまして、僕が足下の魔法陣から離れると結界が解除されます。なのでココから動けないんですよ」

 

 確かに魔法陣を使い発動させているが、壁の如く屹立してる〝聖絶〟は見掛け倒し。実際にベヒモスを阻んでいるのは、PSIのバーストエネルギーによる障壁だから本当は普通に動ける。

 

「なら退路を確保した後、魔法で援護を──」

 

「おそらくですが、それは無理です。階段をよく見て下さい」

 

 メルド団長の言葉を遮り、視線を向けさせる。

 

「ッ──幅が大き過ぎる! あれでは壁を削りながらベヒモスが追ってこれてしまう!」

 

「「「「「「「なぁっ?!!」」」」」

 

 そう、よく見ればベヒモスの図体でもギリギリ通れそうな大きさの階段に見える。実際は違うが、他にはそう見えている。

 

 トランス 『W・H(ワイヤレス・ハック)

 

 "W・M・J(ワイヤード・マインド・ジャック)"を有線式トランスと呼ぶのなら、これは言わば無線式トランス。当然、燃費も悪いし内界への介入強度も劣るが、圧倒的に広範囲かつ多数に介入出来る利点がある。 

 コレで連中の視覚に介入し階段の大きさを誤認させている。先程まで全員が気が動転していたのだ、もしも違和感を感じたとしても気付けやしない。

 

「ええ。ですから安定した足場を確保したらベヒモスの迎撃は行わざるを得ません」

 

「だが、ベヒモスは現状確認されている中で最強クラスの魔物だぞ!?」

 

 戦略的には騎士数人を犠牲にして召喚者達を生還させるべき、とメルド団長は考えてるだろうが却下だ。

 

「やれなければ全滅です。一応、勝算もあります。ですから犠牲を覚悟するのはその後でもいいでしょう?」

 

「メルドさん、やりましょう! あの魔物を倒して皆で生き残りましょう!」

 

「……やむを得んか。わかった! 先ずは階段の周囲を確保するぞ!」

 

 ただ逃げれば犠牲がでる、そんな話を聞けば天之河は詳細も確かめずにベヒモスを倒す事に賛同すると分かっていた。そして何時までも話してる猶予がない以上、メルド団長も許可せざるを得ない。

 

 

 

 何分としない内にトラウムソルジャーを一掃し階段側の確保に成功していた。全員、このままではベヒモスが追って来る事に気付かされ、不安を隠せてはいないが少しは腹をくくった様だ。

 

「退路は確保したぞ! いつでも来い!」

 

 その言葉と共に障壁と魔法を解除して、不自然さの無い速度で走る。

 

「魔法、放て!」

 

 自分の合流を援護する為に頭上を数十の魔法が飛ぶ。魔法の一斉攻撃、その第二波の詠唱中に自分も合流する。

 

「勝算があると言っていたがどうするつもりだ? 魔法の一斉攻撃も大して効いてはいないぞ」

 

 メルド団長が勝算の具体的な内容を聞いてくる。どうすればいい、と他の者達も視線で訴えてくる。

 

「半端な魔法では足止めにしかならないってゆうなら、最上級魔法を叩き込むまでですよ! 〝錬成〟っと」

 

 自分はそう言いながら、魔石を砕くのと同時に錬成の魔法で足下に魔法陣を描く。

 

「この魔法陣は〝蒼天〟!? 普通なら複数人で発動出来るかどうかだぞ!?」

 

「発動に時間は要りますが使えます! なので戦争参加組と騎士の皆さんで時間を稼いでください。不参加組は次善策の為にこの魔法陣を持って待機だ」

 

 戦争不参加組に使わせる積もりの無い魔法陣を渡して待機を指示する。役目がある様に仄めかせば否も出せまい。

 

「天之河を主軸に直ぐに下がれる位置を保って戦え! 攻撃は脚を狙って機動力を削げ! 突進の素振りを見せたら南雲、足元を崩して阻止! 時間が稼げればいい、深く切り込み過ぎるなよ!」

 

 大凡の指示をだし、戦争参加組の面子をベヒモスにけしかける。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ! 〝天翔閃〟!」

 

「グゥアアウ!?!」

 

「やれるぞ! 皆、俺に続け!」

 

 天之河の〝天翔閃〟で傷付いたのを見て士気が上がり、怯えが消えて皆が続いていく。

 ベヒモスが前脚を振るえば坂上をはじめとした防御技能持ちが防ぎ、八重樫などの敏捷に優れた者達が一撃離脱を繰り返す。突進する為に踏み締めようとした瞬間に南雲が足場を乱し、天之河が仰け反らせる。角を赤熱させ固有魔法を使おうものなら、後衛が発動速度を重視した魔法で妨害する。

 

「………馬鹿な! ベヒモス相手に優勢、だと」

 

 驚愕した様子でメルド団長が呟く。如何にも集中してます、とゆう体で詠唱しながら自分はその呟きを聞き取った。

 

(まぁ、連中の実力では無いけどな)

 

 当然ながら現状の天之河達ではベヒモス相手に戦闘は成立しない。単純なステータスもそうだが連携の練度も判断力もまるで足りない。ならば何故に優勢なのか、答えは自分がPSIでお膳立てしてるだけの事。

 PSIはPSI能力者(サイキッカー)でなければ視認出来ない、それは魔力が有ろうが無かろうが基本的に変わらない。その原則を利用してテレキネシスでベヒモスの攻撃の勢いを殺し、連中の攻撃に合わせてバーストエネルギーを当てて傷を付ける。連携や判断が適切なのも"W・H(ワイヤレス・ハック)"でそれとなく誘導している。

 普通なら違和感を感じる奴もいたかも知れないが、切羽詰まった状況で優位な分には得てして流されてしまうモノだ。

 

「詠唱完了、全員下がれッ!」

 

 十分にベヒモスとの戦闘を見せつけた頃合いで、詠唱を終わらせ後退を指示する。連中がベヒモスから距離を取った所で、全力と言わんばかりに最上級魔法を放つ。

 

「〝蒼天〟ッ!!」

 

 直径三メートル程の炎の塊がベヒモスに直撃する。圧倒的な火勢に包まれながら焼かれるのを見て、歓声が上る──ー

 

「グゥルオオオオオオオォォォオオォォォ!!!」

 

 ──ー前に、体中を炭化しつつも炎を振り払ったベヒモスの咆哮が轟く。

 

「そ、そんな………!」

「あれでも倒せないのかよ!」

「これ以上、………どうしたら」

 

 次々と焦燥や悲嘆の声が生徒等の口から溢れる。自分は魔力が尽きたかの様に膝をつき、息を切らした振りをしながら指示する。

 〝蒼天〟は瀕死になる程度に加減した。自分が仕留めたのでは意味が無い、止めは"勇者様"にやって貰わなければ。

 

「フゥー……ハァー……天之、河。奴はもう…死に体、だ! お前の、……ゼェー……最大火力で……トドメを! 南雲……は脚を……ゼェ、ハァ………拘束、しろ!」

 

「「うん/ああ、わかった!」」

 

 天之河は自己の最速で詠唱を行い、南雲はカモフラージュした中距離〝錬成〟で半ば以上炭化したベヒモスの四肢を拘束する。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を清浄で満たしたまえ! 」

 

 既に瀕死のベヒモスは四肢の拘束を外せず、天之河の詠唱が完成する。

 

「神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪を許したまえ! ──ー〝神威〟!!」

 

 剣から放たれた光の奔流がベヒモスを穿き、光が収まると断末魔と共に倒れ臥した。

 

「やった………!」

 

「やったぞ!」

 

「「「「「天之河がベヒモスを倒した──ー!!!」」」」」

 

 完全に絶命しているのが分かると歓声が爆発した。

 

 騎士達は未だに信じられない様だが事実、ベヒモスは事切れている。それでも、もう少しすれば脱出を促すだろう。その前に討伐の証拠として、魔石は砕けてしまっていたので甲殻ごと角を剥ぎ取っておいた。

 

 

 生徒等が一頻り狂喜乱舞した後。やっとメルド団長達が我に返り、脱出を促し先導する。

 

(計算通りとはいえ、芝居をうつのは疲れるな……)

 

 だが、これで国や教会もコチラを軽んじる様な真似は出来ない筈だ。畑山先生が戻ったら実地訓練の件を伝えて抗議させれば今回の様な事も無くなるだろう。

 

 今後を考えながら、自分も後を続いていった。

 

 

 

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