二十階層のトラップからの脱出以降、オルクス大迷宮での実地訓練は狙い通りに一時中断となった。
いくら成果を揚げて生還したとはいえど、現状の人間族では死亡待ったナシの未確認トラップだったのだ。あくまでも訓練なのだから、まかり間違って『勇者一行、迷宮から帰還せず』等となってもらっては国も教会も困る。よって、一先ずはハイリヒ王国或いは聖教教会の騎士達に確認出来る範囲内での迷宮の精査を行なってからの訓練再開とする腹積もりらしい。
だが、実際に実地訓練が再開した所で参加するのは戦争参加組だけだ。元々、戦闘を忌避していた連中は今回の件で生命の危険を感じた事で完全に戦争への参加を拒否した。無論、国も教会も良い顔はしなかったが"作農師"である畑山先生の抗議と"勇者"天之河がベヒモスの討伐に成功している事実を踏まえ、渋々ではあるが容認した。
ここまでは計算づくだったが、思い掛けず良い事が重なった。
いくらエヒト教が種族単位で信仰されているといえど、聖教教会による"勇者召喚"は人間族の全ての国家に認められていた訳では無い。
人間族の国の中でも大国に分類される、ヘルシャー帝国は明確に認めていなかったそうだ。理由は単純に“実力至上主義”を標榜しているからだ。要は実力も得体も知れない勇者を人間族の旗頭に認める事は出来ないとゆう訳だ、まぁ 極々当然の事である。
その帝国が“ベヒモスを討伐した勇者”に興味を示し、使者を送る事を決めたらしい。王国や教会はこれを機に人間族全体の意思を統一したい、帝国は勇者が戦力となるのか確かめたい、そんな政治的な駆け引きの場に当事者たる勇者御一行も招かれる形になる。
結論として訓練の再開は更に延びる。
何せ、他国の使者が来る以上は相応の警備や歓待に人手が要る。そして迷宮の精査にも人手が要る。同時進行すればどちらも疎かになるなら、必然的に優先されるのは他国の使者への対応だ。
実地訓練再開は十日は先になる、少なくとも一週間は自由に動けそうだ。
この間にオルクス大迷宮の探索を終わらせる。何階層あるかは定かではないが人工物であるのは確かだった、それならば比較的に楽に済む。
探索の間は留守にする形になるが行方不明だなどと騒ぎ立てられては面倒だ。『他の最上級魔法の修得のために、資料を漁りながら魔法の研究をする』と、それらしい方便を口にして部屋に引き籠もらせてもらった。後は転移魔法で往復して食事の時だけ顔をだせば怪しまれはしまい。
そんな経緯を経て王都からホルアドへ自分だけトンボ返りしていた。
「さぁ〜て、今回は大真面目な探索だ。せめて何かしらの発見はあってくれよ」
例によって迷宮入口の受付はスルーして迷宮内に入る。
多少進んだ所で迷宮の壁に触れて立ち止まった。前回の訓練や前々回の下見とは違い、正真正銘の探索目的でPSIを行使する。
トランス 『
オルクス大迷宮の過去を覗く。だが、どれほど昔かも分からない製作当時を真っ当に時間を遡って見ようとすれば頭が壊れる。故に迷宮に残る製作者の思念を読み取る事で過去を視る。
(……………メガネをかけた黒を基調とした服装の男、オスカー・オルクス………コイツがこの迷宮を造った"反逆者"か。………他にも複数の人影がある、七人…………ダメだ、ココじゃ残ってる思念が弱い。これ以上は視えない)
この階層では残留思念が弱い、その上に製作以降に迷宮へ入っていった大量の冒険者達の思念が邪魔だ。然し、迷宮を造った"反逆者"の思念は想像以上にハッキリしたモノだった。ならば、もっと深い階層でなら詳細な過去も視れそうだ。
「一先ずは午前中に百階層を目標に行くか」
迷宮の深部を目指して走り出す。
道中で幾度も魔物が湧いて来るが、現れた時には既に通り過ぎた後だ。通るのに邪魔な大きさ或いは数の場合のみ相手をする、とはいえ一撃での瞬殺だが。
PSIは一度切って温存している。下見の際は一切の痕跡を残さない為にPSIで魔物を片付けたが、今回はそういった事を気にする必要は無い。現状で把握してる魔物程度はPSIも魔法も使うまでもなく、この身一つで事足りる。
(今回はまとまった時間があるとはいえ、この探索自体がただの通過点だ。早く済ませるに越した事は無い)
風を切る、とゆう表現が比喩では無い勢いで加速する。湧いて来る魔物は鎧袖一触、足を止める事すらなく奥へと駆け抜ける。
「ガアウゥルゥアアアァァァァ!!!」
「うるせーよ」
頭部への蹴撃一閃、それだけでオルクス大迷宮百階層の最深部にいた魔物は出現早々に絶命した。
「行き止まりだが、王国の記録じゃあ完全に未到達の最深部。ココならある程度はマシになる筈」
ここまでで反逆者の住処とやらは影も形もない。どころか、ただのファンタジーによくあるダンジョンでしか無かった。然し、浅い階層で行なった"
壁に手を触れ、再び過去を視る。
「良し、いける………!」
今度はかなり明確に残留思念を摑めた。多くの想念や情景、記憶が流れていく。
(………金髪ポニテのご令嬢、ミレディ・ライセン………赤茶の髪を逆立たせた苦労性の青年、ナイズ・グリューエン………水髪紅眼で海人族の女海賊、メイル・メルジーネ………緑がかった金髪の森人族の女王、リューティリス・ハルツィナ………鍛えられた肉体にマフラーを巻いた魔人族の男、ヴァンドル・シュネー………剃髪した老け顔の神殿騎士、ラウス・バーン………この人達が"反逆者"、いや"解放者"か)
現在では"反逆者"と呼ばれる彼等彼女等は自身達を"解放者"と名乗っていた様だ。
ソレもそのはず、想定内ではあるがエヒト神を名乗る存在は碌でなしのクソ野郎だった。エヒト神は神託を下し人々を互いに争わせ、その様を観て悦に浸り、人が不幸に苛まれ嘆いていれば尚良しと愉しんでいた。
その渦中で人々が崇める神の実態を知り、神の玩具にされているトータスの人々を神の手から解放しようと集まった者達の中心が先の七人。しかし結果は挑む事も出来ずに敗走、その果てに造ったのが"大迷宮"、最後の隠れ家にして後の者達に託す為の試練。
だが現代で七大迷宮と呼ばれる範囲はカモフラージュであり、その奥に"解放者"が意図する本物の"大迷宮"がある。
「つまり、この迷宮は百階層までがカモフラージュ。この先が本当のオルクス大迷宮ってワケか」
百階層の最深部は一見するとボス部屋とゆうだけの行き止まり、壁の一箇所にささやかな装飾がある程度だ。その装飾は床から四メートル程の位置に施されていて、何かの紋様に見える。
"
「〝錬成〟」
壁が崩れ、奥に続く通路が現れる。
通路を進むと転移魔法陣が刻まれた部屋に着いた。
これに乗る事で本物の"大迷宮"へ行ける。但し、“この先、空間の力を持たぬ者には一方通行なり”と注意書きもある。
(この先は一旦、王都に戻って顔を出してからだな)
自分の使っている空間転移は地球にいるPSI能力者 『
まず、転移先と転移元の座標を正確に認識する必要がある。それに転移の質量も制限がある、距離に関係なく精々が大人を数人分で限界だ。魔力の消費量も転移の条件によっては膨れ上がる。コレでは世界間転移は観測出来ても困難だろう、もっと詳しくこの世界の魔法について知らなければならないと思っていた。
エヒトの抹殺の為に何を遺したか迄は視えなかったが、"解放者"の隠れ家で"
昼時に顔を出した後に、本物の"大迷宮"に潜った。
「成程、造りからして百階層までとは違うのか」
注意書きの通りに戻る為の手段は用意されていなかった。空間転移は出来るので問題は無いが、確認の為に自分で道を作ろうとしたら途中で強度が跳ね上がった。破壊不能とは感じないが相当に頑強だ、これ一つとっても"解放者"の、現在のトータスとは比較にならない程の技術の高さが伺える。
一頻り感心した所で、背後から飛来した電撃を回避する。
「ん……!?」
電撃を放った魔物は二尾の狼だったが自分が迎撃する前に殺されていた。殺ったのは脚が異常発達したウサギ、空を蹴り跳ね回って自分にも向かって来る。
警戒レベルを一気に引き上げ、ウサギの蹴りを右腕を盾に防ぐ。
「何だ、ただの固有魔法か」
だが防いだ瞬間の手応えで空中を跳ねていたのが固有魔法だと解かると、警戒を緩め手刀で首を落とした。
素のスペックで空中を跳ねているのかと思って警戒したが、固有魔法なら大したモノじゃない。
警戒して損した気分だが、気を取り直して進んでいく。
先へ進めば進む程に多種多様な魔物が湧き、地下とは思えない空間が広がっていたりもした。
まともな光源の無い階層や可燃性のタールの沼だらけの階層はまだしも、密林や草原に荒野や砂地など。階層によって環境が大きく変化していた。
魔物に関しても、風を爪の様な斬撃にして飛ばす熊、眼から放つ光で何かしらの状態異常を与えるトカゲ、殺傷力のある羽を飛ばす梟、気配の無い鮫、毒らしきモノを撒き散らす蛙と蛾、何十匹にも分裂するムカデ、自立して移動する樹木、等など。王国の書物では見た事の無い魔物が次々と出てくる。
その尽くを踏破、即殺したが。
階層毎に変わる環境への対応、カモフラージュの百階層までと比べ格段に上がった魔物の脅威度、総合して考えると現在のトータスに攻略できる者が果たしているのかどうか疑問な難易度ではある。それでもPSIや魔法に頼らねばならない程では無い。
王都に戻るのは食事の時間のみ、それ以外の時間は全て大迷宮探索にあてた。
探索開始からニ日目、"大迷宮"の五十階層に妙なモノを見つけた。
奥へ続くルートから外れた場所に矢鱈に厳重な両開きの扉が鎮座していた。高さは三メートル程度、扉の両脇には一対の一ツ目巨人のレリーフがあり、今にも動き出しそうだ。
(魔法の技量が違う、この扉の周辺だけ後付だ。大迷宮とは違う意図がある………造ったのは"解放者"じゃないな)
辺りを観察しながら近づき、扉に刻まれた魔法陣を観る。
("解放者"程じゃなくともコレを造った奴も相当な技量。魔法陣の術式を観るに………封印、か。特定の術式が刻まれた指定の魔力塊を嵌めた場合以外は反発して、両脇のレリーフが迎撃するって所か)
探索目的である以上は、変化を見逃して先へ進むなんて選択肢は存在しない。何を封じたかは知らないが、感じ取れる残留思念は決死の覚悟と深い親愛。この手の感情に踏み入るのは無粋だが、この際は致し方なし。
術式まではどうにかなるが、指定の魔力塊は用意出来ない。迎撃を捻じ伏せてから開けるとしよう。
扉に魔力を当て、門番たるレリーフを起す。
「「オオォォォ────ー!!!」」
雄叫びと共に一対のレリーフが二体の魔物、暗緑色の肌をした一ツ目巨人に変わり、巨剣を構え扉の前に立ち塞がる。
無粋に対する詫びの意を込めて、門番が立ち塞がるまでは待っていた。
「気は進まないが、砕け散れ」
跳躍し頭部を蹴り抜く。が、しかし──ー
「あれ?………耐えた」
これまでの魔物なら頭が弾け飛ぶ威力だった筈。
吹き飛び壁に激突した上で明確に頭部は凹み流血しているものの、サイクロプスはしっかり耐えていた。
もう一体のサイクロプスが振るってきた巨剣を拳で叩き落とす。
「ナメてたつもりは無いんだが、随分と頑丈だな」
今のも巨剣を折る積もりだったのだが、罅が入ってる程度に収まっている。自分が攻撃する瞬間に固有魔法を使い耐久力を高めていた。門番らしく防御特化の様だ。
蹴り飛ばした方のサイクロプスが戻ってきて、扉の前に陣取る。最優先は扉の守護らしい。
この封印部屋を造った者はよっぽど中のモノを守りたかったのだろう、それが理解出来る要素が散りばめられている。そんな場所を何の縁もゆかりも無い自分が荒らす様な真似をする破目になるとは。
せめて適度に加減した攻撃では無く、本気で屠るとする。
「ライズ全開……!」
トータスに喚ばれてから初のライズの使用。PSIの中では一番不得手といえど、半月そこらの魔力操作による身体強化とは比にならない強化倍率を誇る。
「「オオォォッ!!」」
サイクロプスは警戒する様に身構えるが遅い。
一瞬の内に二体の間を通り抜け、すれ違いざまに叩き込んだ打撃は土手っ腹に風穴を空けた。
「悪いな。…………さて、どう開けるかな……?」
やはり力尽くか、と考えてた所で倒したサイクロプスの腹から何かが溢れ落ちる音がした。
「……半球状の魔石が二つ。成程な、この封印部屋も託す意図があるって事か」
扉の窪みに魔石を合わせる様に嵌め込む。すると、魔力による発光と共に封印の効力が失われる。
一息に扉を開ける。
部屋の中は等間隔に柱が並び、神殿風の造りをしている。明りの一つも無く、あるのは中央に立方体の巨石くらい。
ただ、巨石には上半身以外を埋め込まれた“誰か”がいた。
「…………だれ?」
その“誰か”から誰何の声を投げ掛けられた。
この封印部屋が造られたのはそれなりに昔の筈だから、現代とは違う言語の可能性も考慮していたが、誰何する言葉はトータスの標準語だった。
「クレイ、雹堂 九嶺だ。コチラは名乗った、ソチラは?」
「…………ッ、………………助けて!」
「要求の前に、名乗ったんだから名乗りを返すべきじゃないか?」
少々呆れつつ、相手を見やる。
“誰か”の外見は綺麗な金の長髪と紅眼をもつ、十二かそこらの少女。大分やつれてはいるが、それでもなお整った容姿をしている。
「…………、………………………!」
黙りを続けるので心を読もうとして、直ぐに断念した。思考がグチャグチャで碌に読み取れない、いくつかの情報を断片的に拾えた程度だ。
(王国、叔父様、裏切られた。他は何故どうしてと疑問が渦巻くばかりだな。仕方ない、過去を視るか)
封印部屋の建造者はアヴァタール王国宰相 ディンリード・ガルティア・ウェスペリティオ・アヴァタール。建造目的は娘同然に愛した姪 アレーティア・ガルティア・ウェスペリティオ・アヴァタールが神の憑代にされるのを防ぐ為。
ディンリードは"大迷宮"を攻略し神の実態を知り、姪のアレーティアの天職"神子"が神の憑代となるモノだと気付いた。だが、その時には既にアヴァタール王国の内部は狂信者の巣窟に成り果て、王位を継いでいたアレーティアと接触するのすら困難になっていた。
神が身体を得ればトータスには悲惨な結果が待っている。何より、国と天秤にかけても姪を見殺しには出来なかった。故に信頼の置ける少数の者達で国からアレーティアを攫い、神の目の届かぬ"大迷宮"の中に幽閉した。その後に自身が国が、神によって滅ぼされるのを承知の上で・・・。
(事の真相は知らせられなかったと。なら拘束を解いて、隠してあるメッセージを渡してやればいいか)
また随分と無粋な形ではあるが事情は把握した。
気付くと、彼女の表情は途方に暮れたものになっていた。
過去を視ている間は現在をあまり知覚できない。何事か口にしていたのかもしれないが、何の反応も示さなかったために困惑させてしまったらしい。
「まぁいいや。取り敢えず、その拘束を解けばいいか?」
前後に発言があったとしても関係のない言葉を選んで助ける意思を示す。
「………助けて、くれるの?」
「一応はな、っと!」
ゴッガァン!!
彼女が埋め込まれている巨石に近づき、巨石のみに衝撃が伝わるように拳を打ち込んで砕いた。
拘束は解いたが力が出ないのか、そのまま地面に座り込む。だが手はかさない、下手に情けをかけて依存されても困る。
「あとは服か? ………、寸法なんて分かんないからテキトーな」
石に埋め込まれていたせいで裸だった為、自分の上着と柱の一部を材料に〝錬成〟を使い、シンプルなワンピースと足首で固定出来るタイプのサンダルを作って渡す。
「…………ありがとう」
「礼はいいからさっさと着な。何か来るし」
真上に出現し、落下してきた魔物をバースト障壁で弾く。
離れた位置に着地した魔物は端的に言えばサソリだった。体長が五メートルで尾が二つでハサミが四つのサソリがいるならばだが。
「キィィイィィィィィィ!!」
サソリが啼くと、地面から円錐状の石棘が乱立し迫ってきた。
「ライズ……!」
ライズを発動させ、石棘を殴り砕きながら直進する。
このサソリもサイクロプス同様、無粋の詫びにせめて本気で屠る。
眼前に迫った自分に対し、サソリは尾から放つ毒液とハサミを振るい迎撃するが無意味。
バーストエネルギーをオーラ状に纏い、毒液もハサミも防ぐ。
「終わりだ」
口部に拳を叩き込み、纏っていたバーストエネルギーを手に集中し体内で炸裂させる。サソリは内側からの圧力に耐えられず体を四散させた。
今のサソリは守護者、正確には封印を解いたのが神の手先或いは悪意ある者だった場合の保険。ディンリード自身が戻れない事を前提にしたが故の徹底ぶりだ。
(メッセージもとい、実質的な遺書を隠した仕掛けはサソリが出現した天井部分だったな)
本来はディンリードが遺したメッセージはサソリを倒した上で特定の条件を満たしていなければ見つからない仕組みだが、過去のこの部屋の建造時点から視た自分なら今すぐに入手可能だ。
天井部分に仕掛けられた魔法陣の術式に介入し解除する。そうすると球形の結晶体が出現し落下していく。テレキネシスで彼女の目の前で停止させてやる。
「…………これ、は?」
「普通に考えればアンタ宛てのモノだろう? この部屋を造った人物からのな」
「!………叔父様、からの」
暫し葛藤していたが、彼女は恐る恐ると結晶体を手に取り起動させた。結晶は魔法で作られた記録装置、映像と音声が再生される。
『アレーティア。君がこれを────』
記録を再生させ始めたタイミングで自分は席を外した。内容はおおよそ知ってしまったが、親族の遺書を開ける時に部外者が立ち会うものではないだろう。
小一時間ほど、自分は部屋の外の壁にもたれかかっている。
正直、この場で得られる情報は得たので先へ進んでしまいたいのだが
更に数時間が経ち、もう真夜中。
過去や感情を整理するのに時間があった方がいいとは思ったが、これ以上は待ってもいられない。言伝てと脱出用の転移魔法陣を設置して先へ進もうとしたところで、
「クレイ殿、先程の名も名乗らかった非礼を御詫びします。私はアヴァタール王国、元女王 アレーティア・ガルティア・ウェスペリティオ・アヴァタール。助けて頂き感謝致します」
王族らしい所作で名乗り、謝意を口にするアレーティア。やつれているのは変わらないが、その振る舞いに先刻までの憔悴した姿は微塵もない。
「呼び捨てでいい。迷宮を探索してたら偶々見つけたってだけだ、感謝は受け取るが恩に着る必要はない」
「わかりました。………ではクレイ、少しお尋ねしてもよろしいですか?」
「構わないが、外の世界事情か? それとも僕についてか?」
「両方ですが、先に世界の状況についてお願いします。此処に幽閉されてから、どれだけの時が経ったのかもわからないのです」
「んー、そうだな。まず今の暦は────」
現在地に暦や情勢など、現況をかいつまんで教える。だが彼女が知りたい事は、アレーティアにとって一番重要なのは祖国が滅亡している事だろう。
「………アヴァタール王国は、吸血鬼の一族は滅んだのですね」
「そう聞いてる。アンタ以外の生き残りがいるかどうかまでは知らないけどな」
「………………。迷宮の探索をしていたと言っていましたが、クレイは何者なのですか? 先程の魔物は生半可な強さではありません。それを魔力も用いずに討伐した貴方は一体………?」
「まぁ ざっくり言えば異世界人だな。エヒトとかゆうのが元の世界からこの世界に“人間族の為に勇者を召喚だ〜”とかで拉致した何十人かの一人だよ。んで、帰す気が無いみたいだから自力で帰る手段を探す為に、周りの目を盗んで抜け出しながら迷宮探索してんのさ」
コチラの事情を大雑把に話す。
「なるほど。ではクレイはこのまま奥へ進むのですね?」
「ああ。けど、迷宮から出たいなら今すぐに出来るぞ? 待ってたのはその為だしな」
「いいえ、私も最深部に用ができましたので同行させて頂きたいのです」
はっきり言って面倒な申し出だった。
アレーティアはトータスの基準で言えば強い筈だ。おそらくは現代のトータスの住人では太刀打ち出来ないだろう。
それと自分について来れるかは別だ、主に移動速度の点で。PSIや魔力操作による身体強化を行うまでもなく、自分はかなりの速度を保って探索をしてきた。
アレーティアの同行を許すとゆう事は速度を合わせる必要がある。必然的に速度は遅くなり、探索時間と労力の増大を意味する。
「長いこと閉じ込められてたアンタが最深部に何の用がある?」
心を読めば済む話ではあるが、"
「大迷宮の最深部には"反逆者"の真実と神代魔法が遺されているそうなのです。私はそれを得たい」
神代魔法。神々が用いたとされる、神代に失われた魔法の総称。"解放者"が大迷宮の試練の後に与える積もりなのはそれの事だろうか。
「神代魔法、ね…………まぁ いいか。情報料代わりに同行は認める。たださっきも言ったが周囲の目を盗んで来てる。僕は日に三回は姿を消すぞ?」
「構いません、一人でも行くつもりでした。協力者を得られればと思った程度です」
「なら、決まりだな。短い間だがよろしく」
「ええ、宜しくお願いします」
そう言うと、お互いに警戒とも友好ともとれない微妙な距離を保って先へと進んだ。
原作の口調で王族として過ごしてたとは思えないんですよね。