地獄の中でそれでも生きろ   作:夕藤

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【鬼ばかりが鬼とも限らない。
 人間の方が、想像の悪魔や鬼より容易く地獄を作り出す。】


【単発】鬼になることが不幸ばかりとは限らない(R-18G)

 その日、冷酷無比とまで呼ばれた鬼の首魁が見たのは、地獄でさえ生温いと思えるような光景だった。

 

 一見すると山奥に建てられた美しい別荘に隠されていた地下室。

 木板だけでなく、石を塗り固めたような外壁のその部屋からは、死臭とも呼び難い腐敗の匂いが立ち込めていた。

 部屋の持ち主は何かに夢中になっているために、首魁には一瞥もくれずにぶつぶつと薄明りの中恍惚とした笑みを浮かべて手元のそれに手を伸ばしていた。

 

「……もうそろそろこれも限界か?」

 

 高価な硝子瓶をことりと置いて手元の紙に文字を書き詰め、そうして手元のそれが限界に達しようとしているのを見て溜息を吐くと、部屋の主はガチャガチャと手に錆び付いた刃を持った。

 手元にいるのは──椅子に縛り付けられた、反応の薄い女だ。

 

「……貴様、何をしている?」

「!」

 

 息をひそめその光景を見ていた鬼が、そこでようやく言葉を発した。

 咄嗟に声を掛けられ驚いた表情を浮かべた部屋の主は、瞬時にその錆びた刃を鬼に向け、

 

「ふん、くだらん」

「グギャッ」

 

 鬼は途端にその男から興味を失い壁へと叩きつけた。

 こいつから直接聞ければ良かったが、と思いながら男が熱心に書いていた紙を拾い上げて目を通し……鬼は絶句した。

 

 太陽と藤を天敵とし、数多の人間を食らい、殺してきた鬼が。

 今、壁に打ち付けてひゅぅひゅぅと息を漏らすだけの肉の考えていたことに理解を少しも示せなかった。それどころか……。

 

「…………」

 

 そこからは、ほんの少しの哀れみだった。

 千年を生きた鬼がかける、最初で最後の哀れみだ。

 椅子に縛り付けられた女にズブリと爪を指し、血を流し込む。もしこれで耐えられなければ、この女は死ぬだろう。だが、もし血に順応し「鬼」となれたなら。

 

「……生きていたら、この言葉を思い出せ。お前の命だ。私がかける、最初で最後の情けだ。勝手に死ぬことは許さん。陽光の下へ出るな。藤を避けろ。それだけできれば、私はお前を生かしてやる。他の鬼に望むことを、お前にだけは望まない。こんな『醜悪なもの』と同じ土俵に立っていないことを、私が私のためだけに証明する。だからお前は生きろ」

 

 ──鬼にも鬼なりの怜侍がある。

 

「潰してくれるなよ」

 

 それは千年生きた鬼の首魁の、最初で最後の善行だった。

 

 

 

 

 

 

「隊士を助けた鬼を保護しているんだ」

 

 半年に一度の柱合会議で行われた、鬼を連れた隊士の裁判の後、御館様と呼ばれる鬼殺隊当主の口から告げられたのは、柱の頭をさらに悩ませるものだった。

 

「……鬼を連れた隊士に人を食わない鬼の次は、隊士を助けた鬼ですか」

「こちらの鬼は隊士の身内というわけじゃなくてね。鬼の言う限りは人を食べていないらしい。ただ、私もこればかりは無条件に信じられなくてね。ただ、どうにも特殊な鬼だったから、皆に意見を求めたい」

 

 奥の座敷から隠三人と隊士二人がかりで連れられてきたのは、鎖をぐるぐるに巻き付け口枷を付けた洋装の少女だった。

 犬の躾に使うような鉄の口枷の向こうには僅かに牙が見え、瞳孔は縦に開いている。どこからどう見ても鬼の少女は、向けられた殺意と値踏みの視線にほんの少し怯みながらも影の下でぺこりと頭を下げた。

 

「説明をしてくれるかな」

「は、はいッ」

 

 産屋敷の言葉に隊士の二人が頭を下げ、この鬼に助けられた経緯を簡潔にまとめて口にする。

 

 任務にあたっていた時に上弦の鬼に遭遇したこと。

 壺のような気味の悪い鬼を前に死を覚悟していれば、この鬼が現れて自分たちを抱えて逃げ出したこと。

 鬼の足は驚くほど速く、朝陽が登ると木陰に隠れ自分たちを日の光の下に押しやったこと。

 そして、

 

「だい、だいじょうぶ?」

 

 そういって、木漏れ日でじゅうじゅうと焼けながら自分たちを気に掛けて、薬と包帯を分け与えてくれたこと。

 

「それで、私たちがこの鬼の処断を御館様へ仰ぎ、ここへ連れて参りました」

「と、言うわけなんだ」

 

 先程までであれば、すぐに鬼の首を撥ねただろう。

 しかし竈門禰豆子という前例がある以上、頭ごなしにそうともできないのが今の鬼殺隊なのだ。

 

「今、鬼殺隊は特殊な鬼の事例が多すぎて判断に困っている。君のことを聞かせてくれないかな」

「……おい、お前だ。こっちを見るな。御館様に聞かれたことに正直に答えろ。嘘は駄目だぞ」

 

 鬼は迷ったように助けたという隊士に目を向けるが、そういわれてにこりと笑うばかりだ。

 にこにこ、自分の命がすぐにかき消されるであろう状況なのに。

 

「……君の名前は、なんていうのかな」

「……なま、え? なまえ、なまえ……なまえ、ないよ」

「……名前が無いだァ?」

「う、うん。ないよ。えとね、なまえは、なまえ……なまえ? なまえって、なんだっけ。よ、よばれる、やつだっけ、よばれるやつだ。んと、だったら、ここに、あるよ」

 

 たどたどしく、どこか危うい話し方でじゃらりと鎖を引きずって鬼が首元をはだけさせる。

 柱と隊士が刀の柄を握るが、白い洋装の中から現れたのは──

 

「……数字?」

「それは……書かれてるのではなく、彫られているのですか?」

「ほら、れ……うん、そ、そう。よんじゅ、さんばん、だよ」

「……それは名前ではないよ。私の名前は産屋敷輝哉。君にも、同じような名前があるはずだ」

「……そ、かな。そ、うだといい、ね。でも、わ、わたし、わすれちゃった、から」

「……そうか」

 

 にこにこと笑顔を浮かべる鬼は、今ここにいる者全員がどんなに悲痛な表情を浮かべているのか見えていないようだった。

 首元に彫られた数字に、たどたどしい話し方。それに名前を思い出せないなんて、この鬼は一体、

 

「君はいつ鬼になったのかな?」

「……いつ? いつ、いつ……わ、わかんない」

「人間を食べたことは?」

「にんげん……たべ、たべ? にんげんは、たべ、たべものじゃ、ないよ?」

「……食べたことは無いのかな」

「?」

 

 たべたら、しんじゃう、でしょ。かがや、ばかだね。

 くすくすと笑いながらそういう鬼を、信じられない目で見る。

 この時点でこの鬼にほぼ害はない、とみていいだろうか。容易く引きちぎれるであろう鎖の拘束を甘んじて受け入れている。

 

「……オイ鬼ィ、人間の血だぞ」

 

 風柱が耐え切れず、先ほど傷つけた血濡れの腕を差し出してみる。

 しかし、鬼はまたきょとりとしてくすくす笑うばかりだ。

 

「わかる、よぉ。血くらい」

「……いや、そうじゃなくてよォ」

「……お前よ、鬼になる前の話、できないの。なんか、話してたじゃんかよ」

 

 隊士がぽつぽつと鬼の肩に触れて言えば、鬼はうーんと唸った。

 

「し、しり、たい?」

「それ、わからないとさぁ、俺、お前に助けてもらったのに、助けられないんだよぉ……」

 

 鬼は迷う。

 言うべき言葉を迷っているのか、それとも思い出せないことを嘆いているのか。

 しかし、鬼は次の瞬間に思いもよらない言葉を紡ぐ。

 

「み、みる?」

 

 けっきじゅつ。

 その言葉に刀が九つ抜かれて、

 

「──追憶」

 

 次の瞬間、その場にいた全員が見知らぬ地下室にいた。

 

 

 

 

 

「おいテメェ、何しやがった!!」

 

 普段であれば風柱か音柱のどちらかが感情のままにそう鬼に問い詰めていただろう。

 けれど、今彼らにあるのは目と、耳と、鼻だけだ。刀どころか、それを振るう腕も駆け抜ける脚も無い。

 

「ここはねぇ、わたしのいたばしょなんだ」

 

 鬼が光の届かない地下室の中を歩く。

 暗く、じめじめとした空間は血生臭く、どこからか悪臭がして耐え難かった。

 

「このひとがね、ひと、ひとだっけ。いいや。わたしの、もちぬしだよ」

 

 地下室で唯一煌々と明るくされた部屋にでカチャカチャと何かを弄る男がいた。

 ぶつぶつと何かを呟きながら、万年筆を紙に滑らせている。

 

「あれが、わたし」

 

 あれ、と指さされて目を向ければ、地下室の奥には鉄格子の檻がいくつも見えた。

 その中に、人間が押し込められている。

 

「ッ……」

 

 簡素な布を身に纏っただけの少女や少年が横たわり、首にはそれぞれ番号が振られている。

 悪臭の原因は彼らの垂れ流した排泄物や腐りかけている何かが原因だということがそれだけで分かった。

 

 キュルキュル、何かの音がして場面が異様な速度で進んでいく。

 檻に入れられていた人間が一人、また一人と減って、台座に寝かせられたり椅子に括りつけられた少女が様々なことをされているのだけが見えていた。

 

「おなか、割かれてね、みせてくれたんだよ。あのねぇ、もとにもどすと、しねないんだ」

「のど、のどにねぇ、あなをあけたの。ひめいが、うるさいから、こうすると、しずかで、いいんだって」

「きれい、だから、こうかんこ、したの。あまった、あまったやつ、あそこのびんのなかで、わたしの、こと、みてるの」

「でんき、びりびりして、いたいんだよ。こげて、こげたにおい、ひどい、けど」

 

「あ、これ、さいごだよ」

 

 にこにこ、鬼が笑う。

 目の前の彼女はもうボロボロで、反応が薄くて、

 

「さ、始めようか。四十三番。今日のは特別だぞぅ!」

 

 ジジジ、見える景色が置き換わる。まるで吹雪の中のように、砂嵐の中に立っているみたいに。

 男が彼女の手を引いて二人がにこやかに歩いている。

  ──本当は、泣き叫んでいる彼女の髪の毛を乱雑に掴んで、男が笑顔で引きずっている。

 

 ふかふかの椅子に優しく腰かけた。

  ──本当は、鉄の椅子に拘束具で括りつけられている。彼女の左手と、右足はもう無い。

 

 それからしばらくして、彼女の目の前にガラス板が置かれた。向こう側には見知らぬ女の子がいる。

  ──本当は、彼女の前に置かれたのは鏡だ。

 

「わぁ、いたそう!」

 

 向こう側の少女はかぱりと頭が開いていて、脳みそが見えていた。

 ピンク色の、きれいなもの。

 男はそれを見て嬉しそうにしていて、次の瞬間、バヂンと想像を絶する痛みが彼女を襲い、けいれんが止まらなくなる。うるさい、なんだ。これは、そうか。悲鳴だ、自分の、彼女の、

 

 

 

 それから、それを、男が嬉々として切り取って、焼いて、

 

「さ、君、しばらくぶりのごはんだぞぅ」

 

 口の中に、得体の知れない味が広がった。

 

 

 

「はい、おーしまい!」

 

 

 

 鬼の少女の無邪気な声だけが、屋敷に響いた。

 

 




四十三番 / ヨミ
ある日誘拐され人体実験の素材にされた。
首元には被検体番号の入れ墨が彫られている、白髪赤目の女の子。顔はめちゃくちゃかわいい。
あまりにも非人道的な人体実験を繰り返し医学界を追放された男に誘拐され、地獄でさえ生温い日々を過ごしていた。
自分の脳みそを食べさせられて反応も薄くなってきたところで処分される予定だったが、無惨が来たことによりある種救われた(脳みそ食べる下りは有名ホラグロ映画ハン〇バル。見るのも調べるのも自己責任でどうぞ)
鬼になって傍にあった男を食べる気がしなくて、今までの記憶に耐えられなくてところどころ記憶が置き換わっている。
人間を食べる気はしない。食べられるのは自分だけだと思ってるので、お腹が空いたらぶちぶち自分をちぎって食べるよ。

自分のことを思い出すのはつらいので、思い出したくない。
無惨の「生きろ」という言葉に従って生きているだけで、何かをしたいとかそういうのはない。ただ、怪我をしている人間を見ると檻の中にいた別の子を思い出から、治してあげなたいなぁと思うだけ。

鬼組にもヨミの情報は開示済み。
下手に触ると血気術の影響でヨミの受けた拷問を側から見せられたり追体験させられるのでマジでやめた方がいい。

▼血気術「追憶」のあと
(文字通り自分の体験したことを見せたり、追体験させられる。他の能力などない)
過呼吸だの何だのになる全員の面倒を甲斐甲斐しく見る。
何とか自分を保てたのは宇髄と産屋敷のみ。しのぶは真っ青だけど何とか何とか。本当に何とか。
全員に「ごめんねぇ」って謝るけど「ごめんねじゃないが???」ってなる。

この鬼は鬼じゃない、というのがその場の全員の総意。
その後「おなかすいたねぇ」って自分のことぶちぶち引きちぎって食べてるの見て阿鼻叫喚。
とにかく優しさに触れさせて、暖かくして、幸せにしてあげなければならないと決意した。

実は胡蝶カナエを救済している。
産屋敷亭と蝶屋敷の往復で心のケアなどをする時にカナエに大層可愛がられる。
「元気でよかったねぇ」

産屋敷、柱、助けた隊士二人とその場にいた隠にでろでろに甘やかされたり教えてもらう。
人間になることを選ばない。
鬼になれたから、みんなにあえたね。すこしだけ、しあわせだったね。
無惨さまありがとう。いっしょに、おひさまのした、あるいていこうね。
馬鹿者、私は陽の光が嫌いだからこちらへ行く。代わりに、お前が私の分までそちらへ行くのだ。



キメツ学園軸
夜見朝陽
本名で生まれる。出席番号四十三番。
黒髪碧眼、色素が薄めなので毛先が青っぽい。線が細く病弱っぽく見えるが、実は先天性の無痛症なだけ。痛いことは嫌いなので。
稼ぎの良い両親がいて、セキュリティのいいマンションに住んでいる。
高校生になるまでにストーカー8件、誘拐未遂5件、週3で痴漢被害に遭っている。
現在スマホにGPS機能を持たせて防犯ブザーは5個持ち。撃退スプレーは3本使った。

無惨は遠い親戚だったりするし、おじいちゃんのお葬式で会った時に目をかけられて可愛がられている。
前世の記憶は思い出さない。
その代わりにまたずぶずぶのでろでろに甘やかされる。この子が幸せでありますように。痛い思いをしませんように(無痛病だとわかるとさらにでろでろに溶かされる)

ヨミは朝陽。
朝陽はみんなが愛すもの。
もう二度と沈みませんように。
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