「──では、柱合会議を始めようか。その前に、まずは彼女たちの紹介をしよう」
鬼を連れた隊士の裁判を終えてから出てきたのは、上弦の鬼に討たれ死亡したとされていた胡蝶カナエと、目元を隠す狐面を腰元に携えた洋装の麗人だった。
「花柱……胡蝶!?」
柱たちの目が見開かれ、そうしてすぐに隣の女へと視線が向いた。
洋装……スーツに身を包んだ彼女の表情は心底不機嫌そうではあるが。
「上弦の鬼と戦い死にかけていた私を彼女が助けてくださいました。彼女の治療によって血鬼術で傷ついた肺も何とか回復することができましたが、私の柱の後は既にしのぶが継いでいる。私は一隊士に戻り、再び鬼殺にあたります」
「血鬼術を治した……? 一般人が、か?」
「そこの方は鬼殺隊の隊士ではない! 本当に彼女が鬼と戦ったのか!」
女はにこりと微笑むが、カナエはそんな彼女を見て困ったような表情を浮かべる。
ああ、ダメよ。そんなこと言うと……
「──私は鬼殺隊などどうでもいい」
……ああ、だめだわ。これ、怒らせちゃった。
カナエは「あぁ……」とだけ言う。お館様には事前に言ってあるけれど、他の柱はしのぶを除いて何一つ聞かされていない。
風柱が青筋を浮かせ、音柱と炎柱がカッと目を見開くものの彼女──淡雪はにこりと微笑みながら口を開く。
「私は家族を鬼に殺されていない。鬼などどうでもいい。あなたたちにも興味はない。私は私の恩人のために鬼を騙してカナエを助けました。ただそれだけです」
「……彼女には無理を言ってここに来てもらったんだ。カナエとしのぶに頼んでね」
「私と姉さんは継子のカナヲに説得してもらうよう頼んだんです」
「カナヲ様に言われなければこんなところに来はしません!」
カナヲ、とは誰だったかと何人か考え、一人はどうしてカナヲちゃんの名前が?と驚いたり、あるいはカナヲを思い出して首をかしげていた。
そんな様子を見て、淡雪は殊更に機嫌を悪くする。
「──彼女はね、普通の人間ではないようだからね」
「人間ではない……? よもや、鬼か!」
「いいや。彼女は鬼ではなくて……狐なんだそうだ」
「……狐だァ?」
「女狐ということであれば、まあ派手に納得は行くがな」
この時、実をいうとカナエとしのぶは肝を冷やしていた。
それ以上余計なことを言ってくれるな。彼女の機嫌を損ねるのだけは望ましくない。
「彼女は、上弦の弐の動きを操ってカナエを助けたんだ」
「「「!」」」
「それは本当か!」
「どうやったんだ! 教えろ女狐!」
なんとも、実に失礼な物言いだろうか。
ピキリと青筋を立てる淡雪の前にしのぶとカナエが「まあまあ」と立ち上がって抑える。
カナヲがいない今、姉妹でありカナヲに直結するこの二人は、淡雪にとって優先事項の一つに等しい。そのうえ「暴れればカナヲに言いつけますよ」などと言われてしまえば、右の手のひらに握っていた狐火をに消さざるを得なかった。
「ふん。上弦の弐でも参でも壱でも、所詮元は人間。私の白狐としての妖術は鬼退治を得意とした鈴鹿御前様に教えていただいたものに、天照大御神様の御力を賜って天狐になったものです。あれ程度を化かすくらい訳ないのです」
「つまり、どういうことだ!」
「理解せずとも良いですよ、人間」
鬼殺隊の長として、鬼退治の逸話はいくつも集め読んだ。その中には確かに鈴鹿御前の名はあった。数多の鬼を坂上田村麻呂と共に退治したという女性の名。
嫌そうな顔をして説明を諦めた淡雪に対して、産屋敷は奥に控えていた神職……自分の妻であるあまねに彼女を見てもらう。
「……どうだい?」
「……ほんもの、ですね」
「……はは、そうかい。本物か」
彼女は当代で1番力の強い巫女だった。
霊力と呼ばれるべきそれがあるあまねには、目の前にいる淡雪と言う女は「人間」に見えていない。
纏っている空気が清廉すぎる。
肌をピリリと刺すくらいの「何か」がある。
「淡雪様」
「うん?」
だからあまねは前に出た。
真実を確かめるべく、頭を下げて。
「大変失礼な事とは思いますが、あなたのその力を分かりやすく見せていただけませんか」
「……ふむ。では、このようなものでどうでしょう」
すると淡雪はするんと耳と尻尾を生やしてみせる。
自慢の5本の尾がぶわりと膨らめば、柱は無意識に刀へと手を伸ばす。
「みんな」
それを産屋敷が制し、あまねは5本の尾をじっと見つめてから息を吐いた。
「どうしても我々にお力添えはいただけませんか」
「生憎、仕える主人はもう決めましたので」
「ではその主人が刀を取ると言えば?」
「……それを本人が選ぶと言うのであれば、私は主人の求めるものを差し出すだけです」
「……なるほど。ありがとうございます、淡雪様。我々からこれ以上は求めません」
「あまね様、よろしいのか」
「これ以上は踏まずとも良い尾を踏んで反感を買うだけでしょう。ねえ、」
あまねが途端に力を抜いて問えば、狐はにこりと笑う。
それを見てしのぶとカナエはキリキリと痛む胃を抑えながら同じように力を抜いた。
「あまね、でしたか。あなたの事は気に入りましたよ」
「光栄です」
……とは言え、あまねは気を抜いたわけではない。
古来より狐は嘘つきだと相場は決まっているものであるし、何より……彼女の言葉を信じるのであれば、彼女は神の使いの獣であるのだから。
(人を助けぬ、神の使いですか…何をされるか判ったものではありませんね)
続くとしたらカナヲちゃんの周りだけが救われる話になる。
最後は炭治郎とカナヲちゃんの取り合いをしてほしい。