ベルくんに洗いざらい吐かせる一番の手は、アイズレフィーヤティオナとベルの四人で適当な喫茶店でお茶でもしながら談笑することです。
ベルくんを矯正()する方法も同上です。
「そのどうするかというのは、如何にしてあの鬼畜兎を真っ当な人間へと矯正するか、ですよね?」
「うん、他にある?」
「ありませんね」
最早ウダウダ考える時間は過ぎ去ったというアイズに同感のレフィーヤはふむぅと顎に手をやって悩む。自信満々に見えるレフィーヤだが、実のところ具体的なプランは無かった。
いや、場所は決まったのだ。三人の目による意思疎通によってホームか市壁の二択で決まった。そこで洗いざらい吐かせるのは決まった。吊るすかについてはアイズとティオナが反対したから、レフィーヤの意見である状況を鑑みてすべきか判断するに決まった。
言うまでもなく時間は直ぐに、だ。
だから、時と場所と誰をは決まったのだ。
だが、具体的に何処をどう矯正すべきなのかが出てこない。なので聞くことにする。
「アイズさん」
「うん」
「意図も打算も無く助けを求める声や願いや涙に対して、種族さえ問わずに躊躇わず手を伸ばす青臭強情断行兎。その辺はどうしようと思いますか? 私はこの辺は矯正すべきところだとは思いませんけど?」
「そう、だね。うん、そこは、ベルのベルらしいところだから変わってほしくないな」
「うん、アルゴノゥトくんのいい所だからねー。危なくなったらあたしたちが手伝えば良いんだし」
「はい、では、その辺はそのままにしておくとして……アイズさんはそういうことを呼吸同然に行って老若男女種族問わずにたらしてのける人に対して、私達がどんなアクションを取るべきだと思いますか?」
「私?」
「はい、まずアイズさんの意見を聞きたいんです」
「……ちょっと考えさせて」
「はい」
「え? 矯正すべきじゃない、そこ? すぐ死にそうなところってそこだと思うんだけど」と、大望に身を焦がしながら全てを受け止めて進もうとするフィンに身も心も捧げる自分を顧みないティオネさんが呟くが他の三人の心どころか耳にさえ届かない。
ティオネの言葉が耳に届かないアイズは半生を振り返り、こういうときにどうすべきかを知識経験記憶から検索した
──ヒット
「……………………首輪」
実父に用意していた実母を思い出す。
そう、首輪なんてどうだろうか。
母が父のトレードマークとなったマフラーを編みんでいる時、私も欲しいとねだった時に「アイズは良いのよ、これはお父さん用の首輪だから──私のモノだという宣言の首輪」とほほ笑んだ母を思い出す。
額に太い青筋を立ててほほ笑む母の言葉。「まったく、アイズという子供が居るのに粉ばっかりかけてかけられて、いい加減にして欲しいわ……意図も打算も無く助けを求める声や願いや涙に対して手を差し伸ばすのは良いけど何で落とすのよ。えぇ、分かっているわ。そんなふうにしてもらった上に結果を出されたら落ちないほうがおかしいって、でも(以下略)」そんな、当時のアイズには聞き取れなかった言葉を聞き取れるようになったアイズは強く頷く。
そうだ首輪だ。
これならいける。
髪に合う白か瞳に合うルベライトかそれとも別の色かという問題があるが、これならばいける。
母に見習って髪の毛をマフラーに編み込んで渡して首輪にする。
完璧。何の問題もない。これでいこう。
期待に目を輝かせてレフィーヤを見る。
「…………首輪、ですか」
コクコクと頷いたレフィーヤは、
まず微笑み
次にニヘラと笑み崩し
それから眉をひそめ
そうして顔をしかめて
「──ハっっっっ」
鼻で嗤った
「れ、レフィーヤ」
「あ…………す、すいませんアイズさん。アイズさんの提案を笑ったんじゃないんです。アイズさんの提案を想定して一瞬イケる! と思ってしまった自分の甘さと未熟さが悔しくて、つい」
「そう、てい」
自身の良案を嗤われた。ショックに身を震わせるアイズをフォローしたレフィーヤは「ええ」と頷く
「アイズさんの言う通りに、あの兎に首輪とリード付けて私達から強制的に半径2M以上離れられないようにしたという状況を想定したんですが」
そこで一度区切ったレフィーヤにアイズは困惑した。
あれ?
私、そんな風にするつもりだったっけ?
ベルに、首輪付けるだけで、別にリード付けるつもりじゃなかったような、気が…………
ちら、と横目でベルの方を見る。
そうだ。ベルにそんなことする必要はないだってベルは──
「少しは見れるようになったな」
「ま、師匠」
「ヘディンも素直じゃない。ベルは本当によくやっているよ。新たな理を与えるたびに幽世に狂おしくなる(鍛えていてこっちも楽しいんだ)」
「ヘグニさん」
ヘスティアファミリアの中庭で、ヘディンとヘグニの二人によって褒められながら手を貸されて身を起こす少年。
キラキラと輝く満面の笑みを浮かべる少年。
それがアイズにあこがれていると言ってくれた時にはヘディンという師を得ていた少年の姿だった
──リード握りしめてなきゃダメな二股兎。
「とってもいい想定だと思うよ」
困惑は死んだ。
地獄の底から聞こえてくるような平坦な声で同意する。なぜ今までそうしなかったのが疑問だ。今のようなアイズから見たベルの矯正すべきところが封じることが出来る方策の一つ──『飼う』という選択をしていなかったのかが。
ベルを飼うことを想定してみると、チビアイズが真新しいシーツとパジャマを用意して同じベッドで寝るための準備を整えた。
いい。とてもいい。とても暖かくて優しい気持ちになれる。ちょっと、いや、かなり、ううん、とても恥ずかしいけど、抱きしめるか抱きしめられるかしてベルと一緒のベッドで眠れるのは間違いなく恥ずかしい以上に幸せだ。
早急に実施すべきと、ベルのゼウスしぐさに内心ブチギレているアイズは何度も力強く頷く。
なのにレフィーヤは首を振った。
「駄目です」
「え」
「意味がありません」
「な、なんで」
「アイズさん」
「うん?」
「あの兎にリード付きの首輪付けて一緒に歩くとき、離れないようにと何度も言い聞かせます。で、あの畜生兎は素直に頷きますね。はいって」
「そうだね」
「うん」
羞恥のあまり真っ赤になって嫌です止めてくださいとベルが抵抗する可能性を排除する『首輪なんて人として駄目でしょ』と薬+拘束具でフィンに迫った自分を棚に上げて呟くティオネを除く少女たち。
「そのまま一緒に歩いていると、まあ、優しいです。素で。嫌味なく馬車道側を歩いてくれたり、店の席をさりげなく確保したり、そう、街娘さんとのデートのときのように、一緒に居て楽しくさせてくれる垂らし兎の真骨頂を見せてくれるでしょう」
バギリ
「そうだね」
「うん」
レフィーヤの手によりバギリと悲鳴を上げて砕け散った窓枠を気にしない『デート見ちゃったり聞いたのかぁ、なら暴れるくらい仕方ないわね』と余裕の嘆息をするフィンがリリとデートした際には共に果てる直前まで行った自分を心の中の別の棚に移したティオネを除く少女たち。
空間が軋むのは目をつぶってベルの行動を想定しているからだろう。きっと。決して、シルとのデートを思い出しているわけではない。
「そこで聞こえるんです」
「何が」
「……助けてくれという悲鳴が聞こえるんです。今のような街中でも、深層並みの何が起こるかもしれない所かなんて問いません。助けて。ただこの一言があの畜生兎の耳に聞こえるんです。
……どうなると思います?」
「……………………とりあえず一緒に突っ込もう」
一瞬の瞑目の後、アイズは据わった目で宣言した。
「リードは?」
「アルゴノゥトくんが切り離すかファイアボルトで焼き切るかだねー。街中なら兎も角、深層でそんなことあったら、離してくれって頼まれて応えてる暇ないし……何よりも一時を争ってるアルゴノゥトくんが頼むなんて迂遠なことことしてくるわけないしね…………突撃しよう一緒に」
同じく据わった目でティオナが誓う。
「うん、そんな暇あったら突っ込まないと……確かに意味ないね」
「無意味だね」
「ええ、口惜しい限りですが……」
脳裏に、リードを無効化して悲鳴が聞こえる方にぴょんぴょん飛び跳ねていく兎を浮かべて「はぁぁぁっ」と同時につく三人の溜息が、どこか暖かなものなことに呆れて「ベルがノータイムで助けに行くことに異論が一切ないとか、どれだけ調教されてんだろうこの娘たち」と呟くフィンのために何度も瀕死の身であがいたことのあるティオ(ry
「じゃあ……どうしよう?」
そう呟くアイズの顔は、マフラー付けた父が子持ち未亡人を助けて連れてきた時の「やっぱり意味無かったわね」と呻く実母と同じく途方に暮れたモノだった。
飼うという選択肢が無意味なものになってしまったのは、残念だが、そう極めて残念だが、仕方ない。じゃあ他の手段をと考えているうちにふと脳裏に浮かんだ疑問。
──ひょっとしたらベルに矯正すべきところは無いのでは? という色も混ざった途方に暮れたモノだった。
それに対して同感なレフィーヤとティオナも困った笑みで返す。
「えっと……」
「う、あはは……」
いや、矯正すべきところは有るのだ。放っておいたらウィーネと出会ってからのファイアボルトとか、放っておいたら街娘とデートしてるところとか、放っておいたらヘディンと師弟関係結んでいるところとかが有るのだ。
だが、そこを抜かせばベルには不満はあれど矯正すべき所が見つからないし、矯正すべきと見なしているところも、端的に言って『もっと自分に構って欲しい』という、かまってちゃんみたいで、認めるのが、その……
それに、何で膝枕してると直ぐ離れるのとか、私が先生だと宣言したのはスルーしておいてヘディンはアリなのとか、約束の鍛錬ずっと待っているのにとか、私に憧れていると言ったその口で同時期に師匠なんて酷いとか、何で何時も何時も綺麗な女の人か可愛い女の子が傍にいるのとかのベルへの不満も、『もっと自分に構って欲しい』に収束されてしまうようで、冒険者の先達にして年上にして先生のプライド、が、なくて、はずか……
『照れて恥ずかしがってちゃダメっ!? ベルっ! もっと私にかまって! これ以上放っておかないでっ! もっと一緒にいよぅっ!!』咆哮を上げながらベルダイブキメようとするチビアイズを封印しつつアイズはもう一度呟く。
「どうしよう?」
「えっと、その、アルゴノゥトくんは、もっと……あはは」
「そうですね。もう少し、こう……そうすれば何時もみたいに小言で許して……いえ、その」
アイズの言葉に、同じく飼うという究極の手段をもってベルと四六時中一緒に居る自分を想定した結果、そのあまりの幸せっぷりに。自分たちの願いが『もっと自分に構って欲しい』に収束されてしまうことに照れて恥ずかしがり認められない少女たちが唸る中、ぽんとレフィーヤが手を叩いた。
半分自棄で叩き、目を見開く。
「あっ……あぁっ!?」
半分自棄っぱちに叩いた瞬間、天啓が下りてきた。歓喜に目を光らせ天啓のままに口を動かす。
「ここは発想を転換しましょう。矯正は後回しにして、まずはこのままだと死にそうな危うさを何とかするほうに」
「てんかん?」
「なんとか、する?」
ん? と首を傾げるティオナアイズにレフィーヤはええと大きく頷いて、自分が得た天啓を口にする。
「ベルを私たちの傍に居させるのではなく。私たちがベルの傍に行くんです」
はっ!! とアイズとティオナの目が開かれる。
へっ!? とティオネの目が困惑に染まる。
「そうか、ベルの傍で備えておけば」
「何が起こっても対応できるね。アルゴノゥトくんを助けられる」
「住むところも元フレイヤファミリアの人達と同じように居候すればいいですし」
「ヘスティア様なら、良いって言ってくれる」
「だよねー。よしっ、早速帰って荷造りしよう」
「はい、そうしましょう」
そういう所はしっかりしているヘスティアが、居候を受け入れつつ保護者に連絡する主義だと知らない少女たちは問題無いと盛り上がる。
そんな都市の顔たるロキファミリア幹部としての自意識が欠片も無い姿にティオネは胃痛を覚えた。直接指摘してもダメだ。何か知らんがこの子達は腹を決めている。指摘したり止めても荷造りして突っ込んでいくだろう。
そして、激昂するであろうロキはまだしも、フィンとガレスのヘスティアファミリアへの心を込めた謝罪と、自分も含めた四人に対するリヴェリアの激怒とお叱りの時間と何らかの罰へと移行してしまう。
叱られるのは構わないが、女の子としての感情だけで動いてしまっている三人が公の場所で罰せられるのは可哀想だ。ヘスティア様のことだから軽い罰で済ませてくれるだろうが、ただ女の子として動いている三人が罰せられるのは忍びない。
ならば──
「そうね。団長に話すべきだわ。早急に」
もはや、保護者というか責任者に報連相するほかない。
「フィン、に?」
「団長、ですか?」
「なんでフィン?」
ねえ。ちょっと、自分たちがロキファミリアの幹部だって自k
「団長に話さなくてどうするのよ。ヘスティアファミリアっていう外に絡むことなんだからちゃんと団長に話して許可を得なきゃ。でしょ」
思わず内心の想いがすぐに出そうになり一瞬唇が震えはしたものの。ティオネは何とか当たり障りのない常識的な言葉に丸め込んだ。
「団長なら悪いようにはしないと思うわよ。(主神同士の仲は別として)ヘスティアファミリアとの仲は良好だし、これからも協力し合いたいって前言ってたから。だから、ね」
「確かに」
「そうですね。団長に相談しましょう」
「そうだねー。フィンの所に行こう」
最期の「ね」に力を入れると三人とも素直に頷き立ち上がった。
ここまでは、良い。後はフィンがどう判断するのかだが、そこはもう祈るしかない。
(団長。ちょっとばかり年頃の想いが暴走している三人に、どうか冷静かつ穏やかな判断を!)
そして、相談されたフィンは一度笑みを引き攣らせると直ぐにベルと待ち合わせて喫茶店でお茶しながら色々聞きだし合同でのダンジョンアタック協力を約束し合った。
最速のレベル5、一局面を任せられる指揮官兼サポータ、クロッゾの魔剣を打てる鍛冶師、頭おかしいバフが出来る妖術師、探索とデバフに優れた忍、それら全員がマトモな人格をしている信頼できる稀有なファミリアとより仲良くなろうと自陣の幹部が言い出した好機をフィンは見逃さなかった。
奇貨居くべし。
年頃の女の子のナイーブな相談は自分の手に余ると、ティオネを含めた四人をリヴェリア年頃の女の子お悩み相談室に任せつつ、都市最大ファミリア団長として正道を歩むのである。
そして――
「フィン」
「あ、リヴェリア。お疲れ様、で、どう「今からしばらくの間私とアイズとティオナとレフィーヤはヘスティアファミリアのホームで寝起きする」はい?」
ガレスと一緒に部屋に入って来た背中に荷を背負ったリヴェリアの言葉に、耳がおかしくなったかと首を傾げて耳を澄ませるフィン。だが、その耳にはファミリアの生活音以外には「ドチビんとこのヤッベェのに可愛い可愛いウチの娘たちがぁぁぁっっ!!??」主神の泣き声しか聞こえない。
──まて、ロキの泣き声。
「ロキと神ヘスティアの許可は得た。これはチャンスだ」
「リヴェリア? 何を?」
「年頃の女の子としての確かな経験をあの娘たちに積ませるチャンスだ」
「…………え???」
疑問の笑顔で固まったフィンを目にしても、三人からベルに対して思うことしたいことして欲しいことを全て聞き出したリヴェリアに迷いはない。
「話し合って気付いた。思えばティオナやアイズは勿論のことレフィーヤにも年頃の女の子としてあるべき時間を過ごさせていなかった、と。ロキファミリアの一員の冒険者として私の後継者としてのスキルを培うことを最優先にさせてしまっていたとな。そうだ、あそこまで悩んで自棄になって可愛らしい純粋な想いを拗らせる前に、もっと、違う時間を過ごさせてやるべきだったんだ……情緒を豊かにするために環境を丸ごと変えるべき時が来たんだ。フィン…………では、ガレス。後は、頼んだぞ」
そうだ。『これ以上危なっかしいベルを放っておけない。一緒に居るのが最善だけど一緒に居れないのなら、もう此処まで来たら非常時以外ベルを飼うしかないのではないか』なんて事を三人に澄み切った眼差しで口揃えて言われてしまった今、迷ってなどいられない。根本的な対処が必要なのだ。
ヘスティアに頼み込んで住み込み許可を貰ったリヴェリアは、道々説明しておいたガレスに後を任せてフィンの返事も待たず立ち去ろうとする。
「ああ、任せておけ」
相談を任せたはずなのに向こう側についた副団長と、達観半分応援半分でひらひらと手を振るガレスを見て、激しい胃痛と頭痛と戦いながら種族の潔癖を拗らせたらしいリヴェリアを呼び止めて一から説明してもらうというタスクが増えてなお正道を歩むのである。
最初は渋ったヘスティア様ですが、リヴェリアから三人の現状を洗いざらいぶちまけられて仕方ないなあロキの許可貰ったらいいよと頷きました。
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