ダンまち短編   作:サリエリキキ

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 お久しぶりです。


 この時代、恩恵は無論の事、魔物から獲得できる魔石を利用した技術は勿論、ポーションなどの万人が使える治療技術すらなく、魔物を材料にして武器にすることさえフィオナ騎士団が困窮により手を出し始めてたくらいだから、本当詰んでいる。人類の生存圏という意味を『海』と仮定しますが、その『海』からほぼ叩きだされた状態でここから良くぞ大穴まで攻め込みましたよ人類。
 流石は英雄時代。
 というわけで、船頭として、船を造る材料収集運搬と工作技術を育成して乗員となる英雄たちに払える金を作って金の使い先の生活必需品及び娯楽品を産出する拠点づくりを始めて、『海』に出ることさえままならなくなった人類を再度始まりの船で『海』へ出港してくれアルゴノゥト。それが始まりの英雄である君の仕事だ(鬼畜並感

 冷静に現実を見据える優しさを持つアルゴノゥトって本質は王なんだなあと思います。だから、国は崩壊し希望を失い頼れるのは元王子しかいないイルコスの人々を見捨てるなんてことは出来ないだろうなあ。



 冗長になったから色々切ったのにこの長さに泣けてきます。



精霊との契約について verアルゴノゥト

 

「精霊とどうすれば契約できるのか?」と問われた場合様々な回答が返ってくる。

 これは迷わず「意気投合」と答えた英雄の場合。

 

 

 

 王族とは何か? 

 目の前の光景──大広間に広げられた地図に日時及び出来事及び最大最小の振れ幅有りの物資が書かれた様々な紙が貼られていく光景を見ながらラクリオス新大臣は自らに問いかける。

 入室できる人物は限られているとはいえ、目の前の地図を見れば他国の者は驚愕するだろう。目の前の地図を見ればラクリオス周辺情勢が一目瞭然となるのだから。

 

「殿下、コリダロス村の食糧が不足しています。最大の数字でもこのままでは冬を越せません」

「コザニに駐留しているドワーフの部隊に連絡を、蔵三つ分即座に持って行かせるように。その分は王都から持ち出して埋める」

「何処から──」

「七番倉庫から、あそこなら塩と布がふんだんにあるからね。来年の事を考えるとコザニに一度ある程度塩と布を貯めておきたいんだ。量はこれだけで……ユーリー、君の所で頼めるかな。そのまま、ガルムスたちと交代してくれ」

「引き受けよう」

 

 獣人の青年が端的に答え部屋から出ていくと同時に古い内容を書いた紙が地図からはがされ新しい内容を記した紙が地図に貼られていく。

 魔物の出現状況及び街道と町や村の状況が更に整う。後世でいうデポの役目がコザニが負うと誰の目にも明らかになった。

 あそこの代官は、かつてのラクリオスでもほどほどの私腹を肥やすだけでそれ以上は完璧に平等に扱っていた人物。

 給料がたっぷり払われている昨今ならば危うい橋は渡らない。

 そして、ユーリーやガルムスたちは途路に必要とする分だけを使い残りの物資は目的先に全て届けて書面に明記してくれる稀有な存在。

 他と違ってコザニに届けられた物資は最大量に近い状態で計算できる。

 脳裏に情報を並べつつ、七番倉庫から持ち出した物資の補填、物資運搬における給金含めた経費を弾き出し側にいる官僚に手渡す。

 地図に貼られ、コレばかりは精確極まりない王都近郊残物資の数字が減った。

 厳しい。

 そう判断せざるを得ない。

 ミノタウロスを打倒して一年。

 王都から連絡の取れなかった(見捨てていた)地方町村への街道整備及び治安維持及び王都への不信感しかない町村の意思疎通は成功したが、それ故に王都の財を町村へ放出しているに等しい現状に。

 何よりも人類で最も物資の余裕が有るはずのラクリオス王都でさえ崖から半分身を乗り出しているに等しい現状に、皆の口から絶望の溜息が──

 

「うん。倉庫で埃被ってた物資は上手く回り始めたね。飢えは減り笑顔が増え、将来的には莫大な利益をお互いに生む」

 

 ま、一番富が集まるのは王都だろうけどね。と、現状を端的に表した王配の(化粧により完璧に疲労と隈を隠した)誰よりも柔らかな笑顔と不屈の意志に絶望の溜息は散り希望の苦笑になる。

 

「自分達が払った税金は自分達が豊かに暮らせる為に使われて欲しい。ミノタウロス討伐の熱狂から王都の民が覚めて、率直な思いを抱くようになるのが先になるかもしれませんよ。今のような多少の疑問に収まるのは何時までやら」

「はっはっはっ。王都の民がラクリオス領と思ってない場所。ほぼ外国に投資というか援助するなんて批判しないほうがおかしいよね。援助の理由を説明できてもメリットまでは説明できないし。今からラクリオス経済圏に取り込んで行く行くは元通りラクリオス領に戻すんだよって下心、正直に宣言なんてできないよ」

「なら、どうするので?」

「ふっふっ……詩ってそのためにあるよね。各地の話を歌うと他の土地を身近に感じてもらえて助かる。いやー、詩にすると皆聞いてくれるし色々言ってくれるし超助かる☆」

 

 この時代の歌が巧く身分保障がしっかりした詩人というのは、後世でいうマスコミである。

 しかも、ゴシップ記事飛ばし記事スキャンダルを当たり前に作成する存在。

 新聞さえない対抗不可能な唯一の情報発信能力保持存在である。

 やってようがやってまいが関係なく、とてもうまい歌作る奴に悪役にされてそれが各地で流行ったりしたら後々まで悪名が広がり歴史書にまでそう書かれてしまう。

 それが詩人という存在ということを、熟知して組織化するだけでなく自分から情報発信操作を行っている王配はどこまでも正しく政治家していた。

 ……「アルの物語を各地で広めている私たちも同類。いや、でも、あそこまでは徹底してないわ、よね」とオルナ嬢と「まあ、こういう広報というか情報操作も詩人の仕事。こうすることで、人が明日を向くことが出来るのなら構いませんとも。ええ、エルフとして思うところがありますが構いませんとも」リュールゥ氏から諦観の目で見られるくらいには正しく政治家している。

 

「本当に色々と聞けた……よ。援軍を送ったハイダリ地方の情報はずいぶん錯綜しているね」

「はい、殿下ならご存じでしょうが、魔物との戦闘が絶え間ない戦時において正確な情勢を確認する作業は非常に困難です。特に、官僚組織がほぼ崩壊してしまったこの国においてはベテランと新米の格差が激しすぎて報告を同列には扱えません」

「それらを加味して分析して決断するのが王城の仕事だからね。戦時の報告には迅速さこそが求められる。決断も。

 ……うん。

 ここ五年のハイダリ地方における魔物による襲撃頻度の状況から鑑みて当該地方に存在する魔物は(数字を書いた紙をある官僚に手渡しながら)おおよそこのくらいと想定される。

 想定した魔物の襲撃に対して援軍が到着するまで住民を守るには、土嚢土壁木柵に隠れながら盾と弓を中心として迎撃する在郷部隊が常時これだけ必要だ(数字を書いた紙を他の官僚に手渡しながら)。現状から考えて、一カ月以内に形にする必要がある。

 だから、ハイダリ地方における必要物資は振れ幅の最大に二割加えて補充する。

 鉄製の武具については製造拠点が壊滅しているから王都で制作するとして、制作費や訓練期間その他を考えるとおおよそこれだけ(数字を書いた紙を別の官僚に手渡しながら)の資金と物資と人員が必要と思われるから、その確保と育成に対して財源と場所と人員をこうして(さらに別の官僚に違う紙を渡す)製造は兎も角武具の補修はハイダリ地方で出来るようにする。そのために、これだけの人員を含めた設備をハイダリ地方に運搬する必要があるからこれだけのことを──」

 

 うん、と頷くと同時に自らを囲んだ官僚団に対し、二週間前にラクリオスの旗を再度仰ぐようになった地域に対する初動の目標を王配は固めた。

 ならば、後はこちらの仕事だ。必要な部署に人を走らせながら大臣は応える。

 

「了解しました。この方向で各所に落とし込んできます」

「うん、頼むよ……それにしても、法で定めているとはいえ、危険な地域を命がけで走り抜けてた人たちに、責を負わせてなくて良かったよ。彼らに与えるべきなのは休息と報酬だからね」

「作って一年も経ってない法がそうそう破られますか?」

「一年近くも、経った。だよね。消しているけど幾つかボヤは起きてる」

「ボヤ、で済ませていいのいいのですか。ある程度加味しているとはいえ、運搬中の物資、とりわけ食料を使いすぎています。規定量の一割ほど。ここまでの量になると、一種の横領です。王政府が把握していると注意するだけでなく、何らかの処分「済ませなければならないんだよ」」

 

 横から言葉を入れた官僚に対して、何処までも穏やかな笑みと共に吐き出された言葉に大臣は官僚と共に背筋を張る。

 

「この問題の根本は魔物との生存闘争が起因する貧困だからね。生活が苦しい、飢えてしまう、だから奪おう、だから騙そう、だから殺そう。現状において、魔物からは人が求めるものが得られないから人から奪う。それが今の時代だ」

 

 普段通りの何処までも優しい笑顔で王配は言葉を一度区切り淡々と続ける。

 

「貧困を解消しなければ、余裕が無くなる、自分たちだけで手一杯で、他人に優しくできなくなる、笑顔になれなくなる。貧困を解消するには富を殖やす必要がある(大穴まで攻め込んで何とかしなければならないが、人類社会そのものに資本も知識も意識も戦力も足りなさすぎて時期早々すぎる上に過重労働で余裕がない臣下のキャパを超えるため言わない)。

 そのために、ラクリオスを王都ではなく王国として蘇らせて、ようやく一歩進める。

 だから、注意で済ませるボヤで済ませないとならないんだ……全て自分たちとその家族の腹か飢えた民衆の腹の中に入れているのだから、特に、ね。規定通りに物資を運んだ者との報酬の格差で二度としなくなったボヤで済ませるべきなんだ。

 ……食料及び生活必需品に関する規定量以外の使用に関しては事後報告を僕の名前で許可したし、しばらくは大丈夫だろう。追々聞いていく必要はあるけど」

「わかりました」

 

 この盲目の詩人にして王配は、盲目の身でまめに移動しては生の情報を集めていた。生の情報は、ときに王族にとって聞きたくない情報を含んでいるが、それこそを欲して唄を歌い聞いていた。

 言いたい事を言うのではなく、唄を歌い民衆や兵が言いたい事を「聞く」のである

 そして、聞いた情報は常に国政という結実となって反映されていた。

 ラクリオス王都の民が一見無駄に思える投資に多少の「疑問」程度に収まるのは、こうした王政府にたいする信頼が根元にあった。

「王都はクソ」と見捨てられ必死に生き延びていた町村も

「兄さんを助けるのに理由は要らないんですよ。ええ、そうですよ。元王子だということずっと黙っていたことも、今までの旅の日々でやっていたことの意味を黙っていたことも、ちょっっっとド畜生というか政治的狡猾さがエグ過ぎないかこの鬼畜情報操作兄と何時も思いますけど理由なんて要らないんです、ええ、そうなんです」

 色々吹っ切れた顔の義妹と一緒に来た王配という超偉い人が、新女王の気高さ優しさ慈しみと孤立無援で魔物の群れに対して奮闘した自分たちの故郷の誉れをたたえる上手い唄を豊富な支援物資をバックにして唄い、自分たちの要望を聞いてくれた上で継続的に物資を送られ続け、軍により治安維持をして収穫を増してくれれば「新女王と王配だけは信じて、またラクリオス王国の旗を仰ぐか」までは改善された。

 そう、信じ難いことに増えた収穫(のうちいくらか)を納めてくださいと町村が護衛を雇い自主的に年貢を納めようとする程度にまで改善されたのである。

 それに対して優しい笑顔で出迎えた女王は「税は上げていないので、増えた収穫の分はあなたたちの好きに使ってください。そうはいっても、作物だけでは交換するのも大変でしょうから、王都まで来るのに必要だった護衛費用などを含めて一度王政府で買い上げという形にしますので、その分を好きな農具や道具などの物資に変えて持って帰ってください。勿論、帰りは騎士団が護衛するので安心してくださいね。これからも、皆さんの生業に励んでください」無料で護衛して帰し、賄賂を要求せず略奪しない駐留部隊を町村に置いて、定期的な護衛付き商隊による商路を復活させ町村民のハートを鷲掴みにする。

 結果として、自分の国で略奪しなかった将兵が絶賛され記録に残るほど略奪が当たり前なこの時代において「自発的に納めに来たってことはもっと持ってるだろう。さあ出せ」と言ったり見せしめに何人か殺したりして収穫以上に持っていく、旧ラクリオス王政府含めた一般的王侯貴族との違いを見せつけた現王政府は、脱税したり他殺したり不作と偽り援助を求めたりした者に対しては予告した通りの法に則り処罰する国内法下にある土地。

 ──即ち領土として再支配するところまで改善した。

 そのほかにも──

 

「殿下、魔物の群れがペラマ周辺に!? ベラマは早急な援軍を求めています、難度は──」

 

 難度。部屋に駆け込むと同時に悲鳴を込めた報告を絶叫する伝令に対して、何時も通り笑顔を浮かべながら一杯の水を飲ませ落ち着かせると穏やかにうんうんと頷き、盲目であるが故に地図に書かれた数値の読み上げなど様々な事柄を義妹にフォローして貰いながら対処する王配が作り整備し始めた魔物に対する基準。

 まだまだあやふやな所があり大雑把ではあるが、魔物の危険度がだれにでもある程度分かるようになった。

 

「なら、ヒオス領から──」

 

 そして、すぐに対処可能な部隊や戦士がラクリオス領から出撃する。支援物資をもって。

 このことがどれ程の人間の命を救っている事か。どれ程の人間がラクリオスへの帰属意識を持ったことか。

 

 というか、「((独立したというのは無しで)我家は七代ラクリオス王家に仕えた忠義の家。様々なすれ違いや誤解が有り、勘違いさせてしまいましたが、我家の忠義がラクリオス王家に有ることは間違いありません。だから、継続して物資と援軍送ってください。あ、忠誠を誓いますので、今まで通り領地経営の裁量権は我々にあることを認めて理由のない口出しをしないでくださいねキリッ」する独立領主貴族が続々と押し掛けて来ている。

 そして、末期状況においても生き延びた強靭な貴族を取り込む利益を見逃さない王配は、貴族には関所や城で取る関銭を撤廃させ王都は入都料を撤廃する条件で受け入れている。

 そして、その条件を守った貴族領に対し、護衛付き商人により物流の活性化することで物資を充足させ物価を低下させて歓喜する貴族領の民衆に飛びつかせながら、商人に対する場所代課税を関銭の代わりに貴族の収入とする税制の制度化を行い、経済圏を育成し始めた。

 その結果、『あくまで傘下に入っただけ、自分たちの貴重な収入源の関銭を奪って場所代何て訳分からないもの押し付けられたのは剛腹だが、領地の経営権は今まで通り完全に自分たちにある。援軍と物資貰うだけ貰って、自分たちの得にはならない命令には従わなければ良いだけだ。ミノタウロスが暴れて王都から独立する前までの通り、戦の命令が出たところで自分たちの得にならないなら遅参するか病気になってサボろう』という、極々一般的な独立領主の思考をする貴族たちは

 ――三カ月も経たずに王政府に逆らう気を無くした。

 何故か。

 そもそも、この時代において護衛付き商人達──商隊以外が魔物の群れを相手にしながら商路を維持するなど出来ず、それだけの商隊を組織して差配出来るのも王政府以外に存在しない。そして、何よりも他の場所に回せるだけの余剰物資があるのは王都しかない。

 そのため、万一王政府に逆らおうものならば、せっかく再構築した物流の停止が起こる。

 その結果、物資は不足し必然的に物価は高騰する……独立していた頃の値段に。

 領民が喜んで飛びついて購入する前の値段に。

 領民が喜んで飛びついた品物の多様化が以前と同じく無くなって、品物の値段が上がる。

 領民が喜んで飛びついた食料や塩や布などの生活必需品が少なくなる。

 つまりは、良くなった生活が苦しくなるのだ。以前と同じく辛うじて生き延びていた頃くらいに。

 ……貴族が王政府に逆らったせいで。

 

 ――当たり前だが、暴動が起きる。

 

 生活が苦しくなった領民が、最近よく聞く巧い唄の通りに逆らった貴族の屋敷を貴族ごと燃やして代わりに王政府への忠誠を叫び受け入れられることになると、幸せや豊かさを求める民衆なんて誰にも止められないことを良く知る貴族たちは認識した。

 これだけでも貴族の逆らう気が失せるのに十分だが、狡猾極まりないことに新たに王配が制度化した場所代課税は関銭などより遥かに高額な収入を貴族の懐にもたらしている。物流が途絶えほぼゼロに近かった関銭と、定期的な商隊と商隊を相手する在領商人(小売業者)がもたらす場所代とでは比べるのも愚かしいほどに貴族の懐を温めている。

『もう、この収入を手放すなんてできないし、市に並ぶ品物が遥かに増えた上で以前の半額くらいになったから領民も自分たちも格段に生活が良くなった。あの王配に逆らうとこれが全部無くなって以前の無々尽くしの生活に戻ってしまう』と想像するだけで貴族が蒼褪めるくらいに身も心も温めている。

 つまり、復帰した貴族には王政府に逆らって良い事など何もない。むしろ、今の希望が見えてきた生活に慣れてしまったので、昔の絶望しかない暮らしに後退する事を何よりも恐れるようになった。

「飢えた狂犬を従順な闘犬にするとは、エグイことを」「えげつないのう。それ以外の選択肢を奪い取って、喜んでハイしか言えんようにするとかドン引きするわあ」商隊を率いて一連の流れを見たユーリーとガレムスが王配をからかう程度に、貴族たちは恐れるようになった。

 だから復帰した貴族たちは、王都の命令には可能な限り応えている。そして、命令に応えている限り王配は常に利益を与えているし、並々ならぬ理由で命令に応えられない場合は補填さえしている。

 そうすることで王配の望み通り、貧困が僅かとはいえ解消され皆が笑顔でいるのだ。──そして、旧王領を領土として再編しつつ貴族領を経済圏に取り込み育成しつつあるラクリオス王政府の税収は、今まで通り貴族領には一切税を課せず王領民には減税した状態で昨年の八割増となった。

 感嘆の吐息を噛みしめながら大臣は、一年でラクリオスをここまで建て直し、これからも建て直し発展させる王配が後の世でどう評価されるのか、ふと、疑問を抱いた。

 

 

 

 

 後の世の話になるが、この王配の実績を評価するのは難しくなった。

 ミノタウロスを打倒したなどの、個々の戦場で活躍した人物は勇将英雄と評価できるが、適材を適所に配置し、官僚を育成し、情報を共有し、流通経済を整備し、事案の評価基準を整え、治安を維持し、国民所得をあげ貧国を少なくする。その結果として経済圏の育成、すなわち人類の生存圏拡大発展という遠大な理想が理解出来る者は極めて少ないなのだから仕方がないが。

 直接説明され共に実施することである程度の結果をその目で見る事ができた者たち。理想を理解し共有し未来への希望を抱くことが出来たこの場に居る者ですら未だ少数なのだから仕方がないが。

 だが、何よりも、評価が難しくなったのは、この王配の業績を知った後世の人物は「凄い偉人だと教わるけど、王配がやっていた政策って一部歴史に残るもの以外はありきたりな内容ばっかりだよね。大体がこういう情勢になったらこれやってたら無難な結果になるものばっかりじゃないか」と笑い合うようになったためだ。

 王配が始めた政策が人類の標準と化してしまったがゆえに。

 

 勿論評価できる人物も居る。そのうちの一人、「組織に対する標準化及び人類生存圏確立の異才」と王配の実績を研究し、所属する組織においてガンガンパクりながら洗練させ結実しギルド長に任命されたロイマンは王配を極めて高く評価し戦慄している。

「身近な例に例えるならば彼がしたのは料理方法の確立です。

 どのように、適切な素材を集めて洗うのか。

 素材を生かした焼き方と焼き加減はどれか。

 素材のよさを最大限に生かせる茹で方はどのくらいか。

 どのくらいの火力でどれくらいの時間で素材を炒めるのか良いのか。

 どの油でどのくらい揚げれば素材の旨味や風味を閉じ込められるのか。

 どのくらいの温度でどのような調味料を使えば素材を旨く煮ることが出来るか。

 どのような下ごしらえした素材にどんな調味料をからめれば旨く和えるのか。

 どんな器材を使ってどれくらい蒸せば素材の良さを引き出せるのか。

 彼は素材を一度も自分のミスでは無駄にせず、一代で確立させたのです。魔物と争いながら人類の生存圏を発展する為の適切な政治という料理方法を。

 後世の我々では、隠し味しか見いだせないレベルで確立したのです。特に財政と演説と組織標準化において」

 ロイマンが戦慄と感嘆を宿しながら王配を端的に評価した言葉は、それを聞いたウラノスの他に漏れることが無く、王配の評価は後世では難しくなった。

 

 

 

 

 王族とは何か? 

 後世についてを脳裏から消しながら、当該難度魔物に対する対処可能な部隊の出撃命令文を作成し終えた目の前の殿下。ラクリオス王配にして滅んだ祖国イルコス王子に報告しながら大臣は思う。

 国が滅びてなお元イルコス民の生活圏を用意するために、はぐれた元イルコス民の所へ行き道化の笑顔を浮かべながら励まし安全な村へ義妹と共に皆で旅をし、自分の足でイルコス残存の民の住処を歩き続け様子を見続け物資や情報を交換し続け、危機が迫れば先導して生き残れる場所を見つけ笑顔と希望を与え続けた亡国の王子を、イルコス残党に希望を見せ続け遂にはラクリオス王配という確固とした地位を手にしてイルコス残党を迎え入れた相手を見ながら思う。

 絶え間なく駆け込んでくる伝令や配下に対し笑顔を浮かべて対処しつつ希望を誰の目にも分かりやすくしながら責を担う。

 そんな、王たる職を全うしつつも巧みな立ち位置で陛下ではなく殿下と呼ばれ続ける王配。

 誰の目にも一目瞭然に情勢を分かるように組織の標準化をイルコスの滅びから学んだ王族。

 道化として『英雄ごっこ』を成し遂げ『道化』に出来て『オレたち英雄』に出来ない筈がないと魅せ。女王の王配として迎えられる姿に『地位』や『富』や『名誉』目的でも英雄たちを奮起させ立ち上がらせ続ける青年。

 

 絶望のなか笑い、希望を見せ続けるアルゴノゥトこそが生粋の王族だと。

 

 …………全てを知った義妹にボッコボコにされたが。敬愛すべき王族なのである。間違いなく。

 土地も物も金も無くなったが亡国の民を護る。というあまりにも重い覚悟故に何も知らせず、その上で護り続けた亡国の民の一人でもある義妹に「この馬鹿兄っ!? 何時もっ一人で抱え込んでっ!? 道化しながら誘導してっ!? 何不自由なく生活させてくれてっ!? こんな重いもの抱えておきながら何時も笑顔でっ!? 何時も笑顔にさせてくれてっ!? 傲慢でっ!? 高潔でっ!? 確信犯っ!? 全部っ!? 言いなさいっ!? 説明しなさいっ!? そうじゃないと何も分からないっ!? 助けられないっ!? 頼りなさいっ!? このっ馬鹿兄ィィィィィィィィ!!!???」と気絶するまで殴られたが。

 残当なのである。

 黙っていたアルゴノゥトが悪いのである。

 男の自己中なのである。

 間違いない。自分の妻もそう言っていたし。

 アルゴノゥトの意識を飛ばしてからしがみつき、その胸の中で「でもっありがとうっ兄さんっ」と呟いたフィーナは健気なのである。シッシッとその場から男勢を追いやった女勢の一人である妻がそういうのだから間違いない。

 家庭の平穏のためだ。

 間違いないのである。

 

 

 

 一度目をつぶり心を落ち着かせる。

 誰の目にも一目瞭然で情勢が明らかになる地図と魔物の危機など様々なことに対する基準化。盲目の身でこれほどの仕組みを整えてのけた人物に対して敬意と忠誠を新たにしつつ、大臣はわずかに目線を上にした。

 声が聞こえない高い所にある席に座るのは、臨月近い身でありながら様々な相談を夫と同じ優しい笑顔で対応するアリアドネ女王。夫とは違い周りに居るのはミノタウロスに怯え王宮から去り戻ってくれた女官。

 と、「(独立したというのは無しで)我家は七代ラクリオス王家に仕えた忠義の家。様々なすれ違いや誤解が有り、勘違いさせてしまいましたが、我家の忠義がラクリオス王家に有ることは間違いありません。だから、継続して物資と援軍送ってください。あ、忠誠を誓いますので、今まで通り領地経営の裁量権は我々にあることを認めて理由のない口出しをしないでくださいねキリッ」と言っただけで傘下に入っていない貴族の夫人たち。

 公に傘下に入るのを迷うそれぞれの夫に頼まれた彼女らが内々の相談を女王にしている。

 そう、訴えではなく相談を。

 本来は、それこそが王配たる人物がすることなのだが、ラクリオス王家ではそれぞれの気質や資質や経験から王と王配の仕事が逆転してしまった。だが、問題はない。

 誰もが女王を陛下と呼び。王配を殿下と呼ぶのだから現状に問題はない。それだけの計算が出来ない者はこの部屋に入れない。

 今も──

 

「アル、ピルゴス伯領とペフキ伯領の現状を教えてください」

 

 王配の手が空くのを見計らった女王がにこやかに立ち上がって王配に声を掛け

「おや、これは失礼を──」と王配が言いながら官僚に頷くと新しく机が運ばれピルゴス伯領とペフキ伯領に当たる場所の地図が置かれ、幾らかの物資が書かれた紙が貼り付けられた。

 ピルゴス伯領とペフキ伯領はラクリオス王国に復帰し、女王に内々に相談していた物資支援を公に王配が認めたのだ。

 露骨なパフォーマンスだが、これで自領が救われ陞爵した両伯爵(元子爵)夫人は口々に感謝と直ちに夫を連れてくることを女王と王配に誓う。

 有事の際に伯爵としての負担を担う責任は負うが、生き残る過程でそれだけの人口と領地を持つことになった両家には実情の追認でしかない。

 物資不足による餓死・物資不足による凍死・抵抗もできずに魔物に殺される。この時代における人間の三大死因要因から、一時的とはいえ領民共々解放された両伯爵夫人の横顔には希望がある。

 貴族や戦士や職人など特殊なスキルを持ったものでなくとも腹を満たすことが出来ると、それも毎日食べることが出来るという希望が。

 二日に一回一食しか食べられず働いたら人がバタバタ倒れそのまま死ぬことがなくなるという希望が。

 これで人としての尊厳を保って生き延び戦えると希望が抱けた。

 両伯爵夫人を見る女王の傍に居る女達、王都の現状を調べに来て部屋に通されるだけの信用を得たが、未だラクリオス王国に復帰する決断ができていない貴族夫人たちは目に見える希望に顔色を変えた。

 そんな貴族夫人たちに、女王は再度席に座りながら穏やかに茶を進めながら丁寧な世間話を続ける。言葉の端々に国家機密が明らかになるこの部屋に通すほどに信用していると匂わせながら。

 ……今まで傘下に入った貴族たちと同じく彼らも直に夫である王配に逆らえなくなるんだろうなあ。でも、皆豊かになって幸せの笑みを浮かべられるようになるから良いか。こういうのが王の仕事だし、と生来の善良さを何とか納得させつつ、女王は笑顔で世間話を続ける。

 

(女王陛下も強かになられた)

 

 生贄にされる筈だったために、殆ど公務に携わった事がない経験不足と生来の善良さが、本来王配の仕事である内々の調整に発揮されている。

 公の多忙が極めるため内々の事が疎かになってしまうアルゴノゥトと組み合わされた首長機能は高い。

 女王に成ってから少しの間は王たる職を全う出来ず盲目のアルゴノゥト頼りになってしまう自分に苦悩していたが、結婚後少しした後、自分ができることをできるだけしようと吹っ切れたようだ。

 

 

 

 

(大精霊ジュノー、か)

 

 丁度、女王が吹っ切れた頃に契約した精霊の化身である短剣を見つめる。

 お忍び(夫婦揃ってフットワークが軽すぎる!)か公務で外に出る時以外、城に居る女王が突如大精霊と契約した時には、城内騒然とした。

 聞いた話によると、女王の寝室に突如現れ、そのままなし崩し的に契約したらしい。突っ込みどころしかない大精霊の化身である短剣。契約者に呼ばれれば飛んでいける、だから此処が私の居場所だとばかりに、雷霆の剣と共に夫婦剣の如く立てかけられている短剣。旦那と常に一緒で嬉しい楽しい私今幸せ、そんなオーラで煌めく短剣を見つめた。

 満更でも無さそうな雷霆の剣と仲良く専用のソードラックに立てかけられている短剣を見ると埒もないことを考えてしまう。

 

『夫の高位分霊と契約した者とその妻というなら、夫の高位分霊の傍に居るのだというならば、妻である私の高位分霊が見極める必要がある。勿論、アルゴノゥトとアリアドネ二人とも。そして、アルゴノゥトが夫の高位分霊の契約者に相応しい者であるならば、私が妻のアリアドネとけいやk──否、アリアドネがアルゴノゥトの妻としても私の高位分霊の契約者としても相応しい者かを見極め、相応しいならば契約しよう。

 ──いいえ、相応しくなければ許さない! 

 (ゼウス)と契約した男の傍に妻以外に美しい女がいるのを許すなんてっ。それも複数、しかも、そのうち二人は義妹と腹違いの姉……など、と……両親ともに同じである姉以外信じて頼れる家族何て存在しないのに。

 そう、お姉さま(ヘスティア)以外、誰も……夫が浮気して泣き叫びたいときには、何時も豊満な柔らかい乳房で包むように抱きしめてくれて、その胸の中で嘆いて愚痴らせてくれて、夫を窘めて叱ってくれて……夫と浮気した色々な相手とトラブル起こしてお姉さまの神殿に逃げ込んで逃げ込まれて暴れて荒らして迷惑かけても、何時も優しく抱きしめてくれながら慰めて叱り付けてくれる相手何て、誰も居ない……何時も、当たり前の姉として居てくれた善良極まりない神格者なんて居ない…………

 なのにっ、義妹と腹違いのきょうだいっっ!? 

 聖女面して私の目を盗んで夫と子供作るヒステリック復讐鬼女や何も考えずに愛欲ばらまいてトラブル持ち込む洗脳アーパー女や能力だけ高い社会不適合者を育てるだけ育てて尻拭い押し付けて来る社会不適合者源流汚染といいっ! 

 ロクなモノじゃないっっっ!? 

 そんな存在を夫のそばに居させるなんて、いったい何を考えているの。

 相応しくなければ、その報いを受けさせてやるわ』

 

 ……はぁ、埒もないことを。

 夫の高位分霊と契約した男の妻以外に美女が居ることに疑義を呈する。

 肉体関係の有無など関係なく、高位分霊とはいえ旦那(ゼウス)と契約した人物の傍に妻以外の美女が居ることに焦燥する。

 それを許すのかとアリアドネに是非を問い詰めると咆哮する。

 アリアドネが旦那の契約者の妻として、自身の契約者として、相応しいくなければ赦さないと憤慨する。

 

 それら全てが二の次で、本心はただ旦那(ゼウス)の傍に妻たる自分(ヘラ)が居たいから追いかけてくる。

 高位分霊であっても、否、あるからこそ旦那の傍には妻である自分が居るべきと追いかけてくる。

 

『あなた、愛しいあなた、今、参ります』

 

 ジュピターをジュノーが追いかけてくる。

 

 こんなヤンデレ臭漂うくっそ重拗らせ人間臭い感情を神が持っている訳ないではないか。そんな神の高位分霊とアリアドネ女王が合意して契約し、人間的に強かになるわけないではないか。

 疲労による妄想がすぎる。

 神とは何もせず、ただ優しく人の愚かさな生を見守るだけの存在だ。そうでしょうと、竈の女神に大臣は信仰する。

 女王が、強かになったのはその腹を見れば明らかではないか。

 

 

 

 妄想から離れ、現状の王政府に考えを戻す。

 ミノタウロスに生贄を出してミノタウロスにより安寧秩序を得る統治に反対した気骨ある家臣をミノタウロスに食わせるという自殺行為を繰り返した結果。

 逃散潜伏した家臣をある程度再雇用出来た今でさえ、当て字でも文章を作成読解し正確な数を数える事が出来るという王政府官僚足る家臣団のうち、生粋のラクリオス家臣団は3割強となっている。

 ほか7割弱はイルコス残党と呼ぶべきイルコス家臣団である。

 こんな、ほぼイルコスが乗っ取った状態の王政府である。内紛、お家騒動、縄張り争いなどが起きなければおかしいはずだが、少なくとも大臣が知る範囲ではそれらの事は起きていない。

 誰の目にも問題しかない状態なのに問題が無いのは、誰もが頭を抱えて蹲る程の絶望的な状態でも「大丈夫。腹案がある」と力強い笑顔の王配が今日より良い明日を構築し続けているのと、女王と王配の関係が良好極まりないのと、女王と王配が互いの家臣団を完璧に平等に対応したことと、ドワーフや獣人など優れた身体能力をもつ亜人と共に仕事をすることでイルコス側はもとよりラクリオス側も受け入れるハードルが下がったことと、ラクリオス王家及び家臣団がイルコス残党無しでは国政が営めないほど弱体化しきっていたため反発する余裕さえないことと、天敵である魔物の脅威と、二度の滅びを全力で回避するため良い意味で大人になったイルコス残党と

 

(何よりも)

 

 実務を行っている官僚も玉座の周りの女性たちも皆が偶にちらちらと女王を見る。

 もとより傾国の美女と呼べるほどの美しさが、愛されている幸せによってさらに磨き抜かれている女性。

 だが、ここにいる者たちが気にしているのはそのお腹。正確には臨月間近のお腹に居る新しい命。

 

(ラクリオスとイルコスを合わせる命だ)

 

 近々産まれる次の王になる人物が両方の家臣団及び亜人たちも納得しか出来ない人物なのだから反発など起きるはずがない。それよりも安寧こそを求めるために手を組んだ方がよっぽど良い。

 だからこそ、現状。王配が王の仕事をして女王が王配の仕事をしつつ人類の生存権を維持発展する命題を果たそうとする現状は上手くいっている。

 新たな伝令に対しての対応をしつつ、いくつかの件についてはこの目で確かめた方が良いと優先順位を着けながら、大臣は王族の最も重要な仕事、忠誠対象となる確固たる次代の用意を、女王と王配が直ぐにしてくれたことに感謝する。

 ……ミノタウロス討伐の英雄に加えて家臣団持ち元イルコス王子という取り込む以外の選択肢が無い存在と判明次第、即座に腹括ったというか惚れたアルゴノゥト以外の相手と孕む気が無いとっとと結婚しましょうと攻めたのは女王で、王配は押されたらしいが、まあそういう押しの話になると男性は割と弱いのだから仕方ない。

 それはそれとして、イザとなると手を出して孕ませるの速くね。あんた目が見えないんでしょ。根っからの女好きが惚れた女の裸体が見れないのによく我慢できたなと。幼い頃からよーく知っている元イルコス王子に少しばかり訝しみながら

 

 

 

 

 

 

 

 それは結婚式の夜の事だった

 英雄と女王の婚儀に夜でも賑わう王城の一室で静かな慟哭が響いていた。

 

『もう、峻厳な山々も吐く息も凍りそうな湖も居るだけで安らぐ木々も見えない。それは良い。皆の笑顔を見ることが出来るのだから。

 だが、友よ。同胞よ。ジュピターよ。

 姫の肢体を。アリアの艶やかかつ豊満な肢体をこの眼で愛でることが出来ない。

 初夜に恥ずかしがるアリアの愛らしい火照った顔も、アリアの歳並外れた豊満な乳房も、アリアの括れども成熟していない腰も。

 手で、腕で、足で、腿で、否、全身で愛でるべきだっ。ぁぁ、なのに、なのに僕にはこの眼では愛でることが出来ないんだっ。

 ジュピター。ジュピターっ。そんなことっ、有り得ないっっ。でもそれが現実なんだっ

 ああ…………ジュピターァァァ。

 僕には、僕にはこんな現実っ、耐えられないっっっ』

 

 初夜の前に雷霆の剣を抱き、他の誰にも明かせない心の裡を慟哭するアルゴノゥト。

 ただの愚痴だった。心の底からの嘆きを愛剣に明かしたのだ。

 だが、奇跡が降りた。

 

『そんな馬鹿なことがあってたまるかぁぁぁっ。初夜を過ごしたあくる日、昇る陽の光に夜の間隠していた肢体を照らされ、羞恥に頬を染めながら隠そうとする腕や脚を抱きとめその全てを目に焼き付け愛でる。それこそが男の存在意義。男の性っ。男の本懐よっっっ』

 

 アルゴノゥトからしてみれば紛れもない奇跡が。

 傍の雷霆の剣が光り輝くと自らの脳裏に愛する女子の肢体が映るようになるという奇跡が。

 後天的な盲目のため肉体的な視神経は死んでいても脳に視界を処理する基盤は生きている。その基盤に直接電撃を流し込んでいるに等しい奇跡、圧倒的な情報量によりとてもとても脳が疲れ頭が痛くなるがそれが何ほどの事だろうか。

 自らの相棒が。精霊ジュピターが起こした奇跡を躊躇うことなくアルゴノゥトは掴んだ。

 これで愛する女子の肢体と生まれてくる子供達と皆の笑顔を再び見れるようになるならば何ほどでもない。

 ジュピターとの意気投合レベルが足りないのか愛する女子の肢体以外は見れないが、これからだと意志を燃やす。

 

 かくして、寝室において鞘に居れた状態でも意気投合した雷霆の剣は光り輝くようになり、最近では『愛し合う夫婦の邪魔をしないで下さい』とジュノーの化身である短剣に抑え込まれ始めたのである。

 




 書いていて思いましたけど何だこの詰みっぷり。何で人類滅んでないんだろう。


 このくらい初動を上手く行かせないと20年後に10万以上の軍勢で魔物の棲家と化した大山脈に遠征なんて無理でしょう(滝汗)
 10万の人間は水と食糧だけで一日500トン必要し、軍事行動なため武具や消耗品合わせれば一日2000トンは最低で必要です。遠征、それも人間が必要とする物資の現地調達不可能な地への遠征ということは、最低で半年分を前提として用意して継続した運搬をする必要があります。
 それだけの物資を用意し、ほぼ馬か徒歩による陸路で運搬するには、普段からそれだけの能力がある生産力と流通網が無ければならず。それだけの生産力と流通網を必要とし人々が売買決済が出来る共通の信用を持つ存在。つまりは経済圏が無ければ不可能です。そうでなければ従軍した兵士への給料も払えませんし、装備含めた様々な物資を支給できず娯楽を用意できません。食事が保証されていても大義だけで給料無し娯楽無しの諸経費手弁当野宿しながらでは、月単位の期間10万人を動かせないのは自明でしょう。こういった事柄、即ち兵站を確りと整えない場合、略奪という報酬無しでは歴史が証明している通りアッサリと軍隊は崩壊します。少なくとも私は嫌だ(笑)
 そして、魔物経由の魔石やドロップアイテムの活用法を確立していないし恩恵も無い当時の人類では魔物の勢力圏では略奪どころか生存のための食料や水を含めた物資を調達できないので、全て人類圏から持って行く兵站を擁する組織、遠征軍が必須です。
 そして、そんな遠征軍を整えるにはラクリオスだけでなく、遠隔地である他国との貿易が無ければなりません。遠い場所に集団で移動して指定された場所に指定された期間に集まる。現代ですら大変な事です。アルゴノゥトのゲームの絵や小説を読む限り、あの世界は大凡中世クラスの技術です。そのレベルの技術で成すには、軍や商人など経験を積んだ組織とそれを実行する意志と調整、即ち政治力が無くてはどうしようもありません。20年後実施してのけたのは紛れもない『偉業』でしょう。
 しかも、アルゴノゥトの小説を読む限り、アルゴノゥトが着いた当時のラクリオス王都にはそんなキャパは無いと断言せざるを得ません。貨幣経済さえ崩壊し王政府は壊滅していたのだから。
 だから、アルゴノゥトとアリアドネ女王は、一から建て直さなければなりません。(白目)しかも、生贄用箱入り少女であるアリアドネ女王にはどれだけ資質があっても経験と信用が無いに等しいので最重要の初動が出来るのは英雄にして元王子のアルゴノゥトだけです。ええ、盲目の(震え声)
 先ずは官僚含めた王政府の立て直し及びミノタウロスに怯えて立ち去り独立した貴族階級との交歓及び現状の把握及び見捨てられていた領地の再支配を一年弱という狂気の短期間で建て直したのがSSの範囲です。妊娠したため周りが半強制的に十分休ませているアリアドネ女王はともかくアルゴノゥトと大臣さんたちはマトモに休んでません。仕事のために交代で睡眠と食事と息抜きしてます。メンテナンスとも言いますね(目逸らし
 一番働いていている上に、ワンミスで国どころか人類圏が崩壊する博打を打ち続けなければ魔物に滅ぼされるという状況を唯一痛感して責任を負っていても、プレッシャーなんて有りませんと疲労のヒの字もない満面の笑顔を浮かべることが出来る生まれながらの政治家である王族アルゴノゥトに、義妹たち仲間や家族が懸命に協力してますが、このレベルの政治スキル持っているのアルゴノゥトだけなので代わることは出来ず、皆もどかしい想いを噛み締めてます。
 しかも、こんな死んだら育成中の経済圏が空中分解崩壊する要の人物は、後々仲間を庇って獅子に喰われかけるらしいですね。
 それでこそアルゴノゥト。そりゃあ皆キレる。首輪とリードが必須だ(滝汗)

 このSSの後は、「あの国、農民が毎日食事できるくらい豊かだったんだ土地付き農民ごと奪わないと」と当然攻めてくる他国をマンパワーにそこまでダメージを与えないくらいに殴り飛ばしたりして何とか丸め込んでから、物々交換から再開して流通経済を再開し、信用を積み貨幣経済(日本のように石高制でも可)の復活と、それに伴う経済圏育成が待っています。
 中世レベルの世界観でそれを成すのは一生の仕事です。日本で言えば、織田家系譜の織田信長とか大内家系譜の毛利隆元とかのチートがやりました。後者は毛利隆元の死とともに作成途中の西国経済圏は空中分解崩壊し、濃尾勢経済圏を成し近畿経済圏へ発展中である織田信長の『部下の一人でしかない』羽柴秀吉に西国経済圏を成せなかった毛利家は蹂躙されましたが、それはさて置き。豊臣秀吉が前者を引き継いで近畿経済圏を確立する事でようやく10万単位の兵力を遠征できるようになりましたが、大本の信長の祖父から大体70年くらい掛かってます。
 だから、20年で10万以上の兵力を遠征できるようにするには、これだけの政治力持ったアルゴノゥトと王政府の人々に20年間ブラックしてもらって、他国との外交が非常に上手くいって何とかなるレベルでしょう。多分、きっと(だから、邪魔なコーマック王は死んだんだなあと納得)
 やっぱり、英雄としてのアルゴノゥトは死んだことにして、政治家兼詩人のラクリオス王配としてブラック業務に携わっていたんでしょう。
 その方が皆が笑顔に成れるから。

 大遠征の時には、アリアドネ女王や大臣含めた官僚と一緒に書類に埋もれながら後方を整え、戦後は万単位の死者が英雄ディムと共に逝った事後処理に奮闘したでしょう。管理職は終わりが見えないブラック労働になるから。かわいそうに(涙
 でも、その方がアルゴノゥトファンとしては美味しいなあ
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