ダンまち短編   作:サリエリキキ

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 皆様、ここすき、感想、評価、誤字報告、何時もありがとうございます。

 この娘さんも相当追い詰められているというか。苦しんでます。


精霊との契約について verアリアドネ

 はぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ

 

 夜が更けたラクリオス王城の一室で疲れ切った溜息が響き渡った。

 見事な溜息だった。

 可聴領域、吐いた時間、ベッドで仰向けになり白目を剥いた姿勢。

 それらすべてが溜息を吐いているのは疲労しきったおっさんだと万人が確信する見事な溜息だった。

 後は、傍らに麦酒があれば完璧なのだが、残念ながらそれはない。

 溜息を吐いているのは可憐な妙齢の少女。それも妊娠したばかりだと医師に太鼓判を押されたばかりの少女だからだ。部屋からの人払いだけは納得されても、当然酒類は一切合切持って行かれている。

 ノロノロと顔を横に動かし、机の上に置かれた果実水と水と果実と侍女呼び出し用の鈴を目にやり、もう一度思いっきりため息をつく。

 

(疲れた…………)

 

 未だ公務に励む夫や家臣を思うと口が裂けても言えないが、少女の頭の中はそれ一色で埋まる。

 疲れた。本当に疲れた。

 今日一日だけで、王城周辺だけでも城壁事業、河川事業、開墾事業、灌漑事業、引水事業、用水事業に避水事業に対する決済をしなければならなかった。

 それらに対して、夫が纏めて調整してくれているから、女王である自分は頷いて許可を出すだけとはいえ。だからこそ精神的に疲労を極めている。

 水がそんなに危機的な状況にあると思っていなかった。だって噴水があるのだからと能天気に考えていた自分をアリアドネはぶんなぐりたい。妊娠しているから出来ないけど。

 まさか、このままでは渇水になる危機的状況だとは思っていなかったのだ。

 お忍びで一緒にデートした夫が、職人や商人や農民から唄歌いながら水に関して聞き出し、顔色を変えた夫に引っ張られるように王城に戻ったのがつい一昨日。

 それからは、端的に言って大騒ぎだった。

 文字通り、眠らずに計画立案を纏めてくれた夫と家臣と水の専門家に対して妊娠しているからと強制的に眠らされている罪悪感も精神的な疲労がたまるが、夫たちが討論していることの殆どが理解できなかったのが辛かった。

 王は専門家ではないのだから、専門家や家臣に頼ればいい。家臣に出来る事は家臣に振れ。一人で全部監督してはならない。王がすべきことは計画立案及び管理運営に関する理解と決断と人事だ。と慌てて引っ張り出した王の指南書は書いている。

 素晴らしい。そうできれば良いだろう。

 

「どうやって、やれと…………」

 

 のろのろとうめく。

 理解しようにも水量がどうの堤防がどうの水路がどうの下水がどうの城壁がどうの植林がどうの必要物資がどうの必要人員がどうのと言われても、さっぱり分からない。帝王学を学び知識はあれど、経験がないので光景が浮かばないのだ。

 夫であるアルゴノゥトが自分にも分かりやすく計画立案を纏めてくれたから、女王として決断して許可が出せたが、自分だけでは未だに右往左往していただろう。いや、水の問題に気付きもせず気付いた時には王都が荒野になっていたに違いない。

 このままではいけないのは重々承知だが、王の指南書は先の通り参考にしておく程度の物しかない。

 

「教わろうにも……」

 

 誰かに師事しようにも、誰も彼も忙しく、女王の勉強時間などという仕事を割り振れば貴重極まりない休み時間を使わせ身を削らせることになるだろう。自分の我儘で頼りになる家臣を追い詰める事なんてできるはずない。

 自分の我儘に夫であるアルゴノゥトが応えてくれているだけでありがたいのだ。

 夫に腕枕してもらって抱き着いている至福のピロートークの時間にまで、そんな野暮しなければならない事に泣きたくなる。

 お腹の子供に悪影響があってはならないので声を出して泣くことなどしないが。

 再度大きくため息をついて目に溜まった涙をこぼす。

 

「そもそも──」

 

 そもそも、頼れる家臣と専門家って誰よ何処に居るのよ。とアリアドネは声を大にして言いたい。お腹の子供に何かあるかもしれないから絶対にやらないが。

 ミノタウロスへの生贄のために牢獄閉じ込めて迷宮に連れて行った連中しか今まで周りに居なかったんだけど。

 今仕えてくれている侍女が、女王なのに料理着替え化粧掃除洗濯と身の回りの事一通り出来る事に驚愕するくらい侍女さえ居なかったんだけど。

 外に出れたのもアルと出会ったあの時が初めてだったんだけど。

 オルナくらいしか信頼出来る人いなかったんだけど。

 そのオルナも脂汗流して「うわあ、こんなことになってたの」と震えた声出しながら何時もと同じく配布用の計画立案書を書面に写していただけなんだけど。

 綺麗な文字書ける人って貴重だからそれでも有難くてたまらないんだけど。

 そんな彼女が以前から居てくれた自分の周りにいる人の中で一番政治に精通している信頼できる人というので察してくれと声を大にして言いたい。

 言わないけど。

 

「だから──」

 

 だから、今王城に勤めている侍女含めた信頼できる家臣も、アルゴノゥトが連れて来たり推挙したり口説いて復帰してくれた人だ。

 彼ら彼女らの忠誠を疑うことはない。色々アレな人たちに囲まれていた自分の数少ない誇れるところは人を見る目だ。言葉ではどう言おうともその瞳を見れば相手が自分にどんな感情を抱いているか分かる。

 彼ら彼女らの目には純粋な敬意がある。

 そう、国家の象徴としての敬意が。計画立案及び管理運営に関する理解と決断と実行と人事を完璧に夫がやっていてくれているからこその敬意が。

『ぶっちゃけ、女王陛下に望むのは、血統による正当性と、その見栄えがする綺麗な容姿と性格の良さによる優しさで城内の雰囲気良くしてくれることと、次代の後継者を産んでもらうことだよ。王としての仕事は王配であるアルゴノゥトがやってくれているから心配しないで』

 それなりの将来の展望に関する計算を持ってはいるが、皆基本的に純粋な善意で敬意を持ってくれているのだ。

 再度、大きなため息が漏れる。

 

「私って…………女王何でしょうか」

 

 今も王都周辺の城壁事業、河川事業、開墾事業、灌漑事業、引水事業、用水事業に避水事業の管理運営を行い。別件に関する計画立案を王城の一室で行っている夫と夫に従う家臣団と比べて、ベッドに倒れこんでため息をついているだけの自分に思わず弱気な声が漏れる。

 分かっている。アルが居る限り自分が周りが求められる女王としてやっていけているのは。

 ただ、愚痴が出てしまうのだ。

 何で、気の合う愛し合っている旦那が頑張って時間作ってくれたデートの時間に最重要課題が出てくるんだと愚痴が出てしまうのだ。詰みすぎているだろうこの国とか、他にも色々と愚痴があるのだ。

 誰かに愚痴りたいことが沢山あるのにその誰かがいな──

 

 ──瞬間、部屋に光が満ちた。

 

「…………えっ!?」

 

 咄嗟に机の上に置いてあるベルを手に取り鳴らそうとしたが、辞めた。

 水を連想する蒼を帯びた光、どこまでも蒼く煌めく美しい光が、まるで絵本から飛び出してきた幻想的な光が──『水の幻影』が人の輪郭をとったからだけではない。

 その光が

 

『さて、ようやく来れましたね』

 

 聞く者すべてを虜にしそうな程に幸せそうで、これでもかというくらいの多幸感を帯びていた、妄執とさえ呼べる情念に満ちた声をだしたから。

 あ、刺激したらヤバいと確信できたから。

 

「精、霊」

『ええ、その通りよ。夫の契約者の奥方』

 

 言葉は丁寧だが、極々自然と見下ろす気配を濃厚に漂わせる声に反発は湧かない。

 この相手にとってはこれが自然体だと分かるから。

 夫の契約者の奥方という一言にとてつもない情念が篭っていると分かるから。

 刺激したらヤバいという確信を信仰の領域にアリアドネは上げた。

 

『率直に聞くわ』

「なんでしょう」

 

 次の一言を間違えれば自分は死ぬかもしれない、だから後悔しないように想いのまま言葉を出そう。その信仰のまま本能的にお腹をかばうアリアドネは言葉を吐いて

 

『あなたは、夫に対して何か不満はないかしら?』

「そうですね……まず、こっちがもう妊娠する気満々なのに仕事仕事で結婚するまで一カ月くらいかかった挙句、結婚してからも仕事に差し支えが無い時にしか意識が飛ぶまでたっぷり愛してくれないところ。それから『ちょっと、待ちなさい』? 何でしょう」

 

 不満なんてない夫を愛していると答えるような盲目か、仕事で忙しいのだから一緒の時間を過ごせないのは仕方ない等と宣う頭ケーキ女であれば、アルゴノゥトと視界をリンクした天界に居る夫に褥を覗き見させた償いをしてもらうと決意していた精霊のハートを鷲掴みにした。

 

『名を名乗らず問い詰めた無礼を許してちょうだい……私の名前はジュノー。あなたの名前は?』

「アリアドネです。よろしく、ジュノー……どうぞ、お座りになって」

『ええ、よろしくお願いするわ』

 

 何かしら通じるものを抱いた二人は席をともにした。

 




 ちなみに、覗き神ゼウスくんは覗きバレしたので激昂する奥さんからオリンポス唯一の中立オブジェクトヘスティア神殿に逃げ込み、覗きの件について姉に怒られてます。
 えぇ、掌編3 巻の春姫と同じやりかたで怒られ、こちらは最後までぱふぱふぐりぐりされて浄化されました。

「姉ちゃん」
「ん」
ボク、間違ってた(バブゥ)
「うん………………………………(何処までも優しく弟の頭を撫でる姉)それなら」
「うん、ヘラに謝るし(彼らの褥は)もう覗かないよ」

 後世のヒロインズが「「「ベル(くん)(さま)(さん)(アルゴノゥトくん)(クラネル)そっくり」」」と戦慄するレベルで浄化されました。
 ベルの祖父らしくキラキラした純粋な眼で誠実かつ真摯に謝られたので、ヘラ様怒れなくなってます。てか、許しました。
 それもあって、地上に凸しました

 そして、やはり叱るのにはコレが一番だとヘスティア様は確信を深めてます。
 オリンポスの神々皆に効くならね。仕方ないね。


 中途半端ですが、この続きが書けるかどうかはリアルの状況次第です(涙
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