とあるタイムパトロール隊員の特殊任務   作:本城淳

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前々からこういう話を漠然と考えていました。
お付き合いいただけたら幸いです。


プロローグ
タイムパトロール隊員 日野怜雄


23世紀 旧東京東練馬区

 

23世紀もしばらく経って久しい時代、かつては東練馬区と呼ばれた地区の住宅地、集合高層マンション下層階にある日野家。そこの一室の奥では元タイムパトロール隊員、日野怜雄が自室の椅子に座って何するわけでもなく、森林浴を楽しんでいた。

かつてはタイムパトロール隊員として第一線で活躍していた玲雄も、定年退職して数十年。

長年鍛えてきた肉体を維持し続ける事は叶わず、徐々に衰えてしまい、今では道具なしでは自力で立つのも厳しい。

妻に先立たれ、子供達ももう定年後はどうするとかという年齢に差し掛かって来ている。

自分など、もういつお迎えが来てもおかしくないだろう。

こうして自室で森林浴を楽しんでいるのがお似合いだと玲雄は思っていた。

何故自室で森林浴なのか?

それは「ひみつ道具」の「室内旅行機」を使って部屋に森林のホログラムを作り出しているからだ。

室内旅行機とはいろいろなロケーションの仮想現実を立体映像と環境音で作り出すことで、部屋に居ながらにして旅行気分を味わえるというひみつ道具。

これは玲雄が若い頃から既にあったものだが、最近では改良され、タイムテレビの技術も取り入れられている。

それによって時差も関係なく、現代の地球では全く無くなってしまった「人手が全く入っていない完全なる自然の環境」の情景も映し出すことが出来るようになり、その謳い文句である「部屋に居ながらにして旅行気分が味わえる」という説得力も、より完全となった。

 

(ワシの若い頃でも「野比のび太の時代に比べれば便利な時代に生まれたものだ」と思っていたのに、更に便利な時代になったものじゃな………)

 

今、腰掛けている椅子だってそうだ。

今は「椅子」として使っているが、車椅子のように反重力で浮いて移動することはもちろん、変形して小型のベッドとして使うことも出来る。

老齢でめっきり足腰が弱くなってしまった今の玲雄には欠かせない便利な生活用品だ。

この万能椅子は、今の玲雄のように「自力で歩行が難しくなった」と医師から診断された者のみが使用を許されている道具だ。

便利な道具に頼りきりになりがちな現代、若年層の体力低下が問題視されたからだろう。

今から約200年前、チャモチャ星と呼ばれる惑星で実際に直面した問題の1つであった。

 

(最近、昔をよく思い出すのぅ…ワシももうそろそろか)

 

自嘲する玲雄。

サヤカ、タケル、スネト、ヒデキ………若かった頃、共に一番辛かった時期を駆け抜けた戦友達も一人、また一人と先立ってしまい、今では玲雄だけになってしまった。

風の噂では野比家で何度もオーバーホールを繰り返し、大切に使われていたネコ型量産型お世話ロボット、「ドラえもん」も老朽化によってとうとう完全に動かなくなってしまったとか…。

 

「レオおじいちゃぁん!」

 

もの思いに耽っていた玲雄のもとに、曾孫の「日野ハルカズ」が勢いよく入室して来て玲雄に抱き付いて来た。

 

「おお、ハルカズや……どうしたんじゃ?」

「また御伽噺を聞かせてよ!」

 

キラキラとした目で玲雄を見る

ハレカズ……漢字で表記すれば「晴和」と書く曾孫の年齢は今年で4歳。

4歳と言えば色々な事に興味を持つ年頃で、何を見聞きしても真新しいと感じる年頃だろう。

 

「良いとも良いとも。今日は何を聞きたい?」

 

柔和な笑みで曾孫を見て快諾する玲雄。

怜雄の返答を聞いたハルカズはしばらく考えてから………

 

「ん~………『未来の国からはるばると!』」

「ハルカズや、それは一番最初のお話じゃないかのう?」

「また聞きたいの!ねぇ、良いでしょう?」

 

ねだる曾孫。

もちろん、目に入れても痛くないほど曾孫を可愛がっている玲雄が断るはずもない。

 

「ええ、ええ。昔々、今から200年ほど昔の東練馬に、『野比のび太』という、それはそれは心優しい少年が住んでおった……」

 

ポツリポツリと話し始める玲雄………。

今、怜雄が話している物語はただのおとぎ話ではない。

まだ怜雄が若い頃の………駆け出しの新人だった頃、実際に怜雄が見聞きしてきたお世話ロボットの『ドラえもん』と、『野比のび太』、そして彼らの親友達がおりなした不思議な物語……。

決して歴史の表舞台では語られる事はない、本当にあった物語………。

日野怜雄は、その不思議な物語を語りながら、在りし日の自分を思い出していた………。

 

(そう、すべての始まりは………)

 

 

 

 

22世紀

野比家

 

「はぁ………今年もお年玉が50円かぁ………」

「仕方が無いよ………セワシくん………」

 

お年玉袋をひっくり返して出てきた金額を見て、野比セワシは深く………それはそれは深くため息をついた。そんなセワシを、彼のお世話ロボットであるドラえもんが肩を叩いて慰める。

野比セワシの家計は非常に苦しい。

セワシの高祖父にあたる野比のび太。

彼が事業を立ち上げ、彼が社屋内で花火遊びをした火の不始末で発生した火事を皮切りに事業悪化による倒産。そこで発生した莫大な借金は、22世紀のセワシの父親の代になっても返済しきれていない。家は『街一番の貧乏一家』と言われてバカにされている始末。

一般家庭におけるお年玉の平均相場が5000円前後なのに対し、セワシの両親から渡された金額は平均の1%。子供にとって、正月に配られる特別なお小遣いであるお年玉ですら、この有様では普段のセワシのお小遣いがどうなっているか………など、考えなくても悲惨な状況だと想像するのは難しい話ではない。

実際、行政からの生活保護等で最低限の生活は送れているものの、セワシの家庭はのび太の代からセワシの父までの3代に渡って極貧生活を強いられている状況だ。

野比のび太の人生は散々たるものだ。

高校卒業後、大学受験にも就職にも失敗して起業。

剛田ジャイ子と結婚して6人の子宝に恵まれるも、起業から5年後、前述の火災が原因で業績の悪化により2年後に倒産。

それからは地獄の借金生活。

6人の子供のうち、セワシの曽祖父にあたる長男の野比ノビスケ以外は嫁や婿養子に出て相続を放棄。

借金は野比ノビスケの直系子孫が代々返済をしている状況にある。

ちなみにその莫大な借金は義兄の剛田武を始めとした古くからの親友達が肩代わりしてくれたようで、特に当時現骨川グループの社長だった骨川スネ夫は、好意からほぼ無利子で肩代わりをしてくれたそうだ。

その肩代わりをしてくれた借金を、ノビスケを始めとした子孫達は細々と返済している訳なのだが………

世代が変われば状況も変わる。

最近になって骨川グループも社長が交代して厳しくなったようで……

尤も、のび太の代からセワシの父親の代までの4世代、良くもそこまでの好条件で骨川家は待ってくれたとも取れる訳なのだが、子供のセワシにはそんなことがわかるはずもない。

特に同級生に骨川グループの社長次男がいるわけなのだが、ソレがセワシには凄く嫌味な男で、散々苛められている。

そんな状況も相まってセワシが愚痴をこぼすのも無理は無いだろう。

 

「はぁ……何で僕の家ってこんなに貧乏なんだろう。僕はのび太おじいちゃんの事を恨むよ………というか、ママもそうだけど、借金苦に苦しむ家によくお嫁に来てくれたよね?僕が野比家にお嫁に来る立場だったら、絶対にプロポーズを断るけどなぁ」

「セワシ君、それを言っちゃあお終いだ………良いかいセワシ君。君のママも、君のおばあちゃんも、借金地獄があるとわかっていた上で、それでもこのセワシ君の家にお嫁さんになってくれたんだ。それだけの魅力がパパやおじいちゃんやご先祖様にはあったんだ。君もいつまでもボヤいていないで、パパ達を見習って立派な大人になるべきなんだ」※1

(うわぁ、始まっちゃったよ。ドラえもんのお説教………始まると長いんだよなぁ………)

 

一度説教スイッチが入ってしまうと、ドラえもんは長い。

 

「大体、のび太おじいちゃんが借金を作った過去は変わらないんだ。君が生まれる前の過去の事を考えるよりもまずは君自身が………」

「ドラえもん!今、なんて言った?」

 

突然のセワシの大声に説教を遮られ、口を3の字に変えてキョトンとするドラえもん。

少し前の自身の発言を思い返すべく、目線を上に上げ、その特徴的な丸い手を口に当てるドラえもん。

 

「ええっと………『君が生まれる前の過去の事を考えるよりも』………」

「その前だよ、その前!」

「その前?『のび太おじいちゃんが借金を作った過去は変わらない』……だったかなぁ?」

「そう!それだよ、それ!」

「???」

 

大はしゃぎするセワシに困惑するドラえもん。

 

「のび太おじいちゃんが会社を倒産させなければ良いんだよ!いや、いっそ大学にも合格して貰って普通の人生を送ってもらえば良いんだ!」

 

セワシは「ご先祖様を調べる」という学校の課題でタイムテレビで撮影したアルバムを指差す。

セワシが指差した写真は何度目かの大学不合格で落ち込むのび太に、父親である野比のび助がビールを注いで慰めている写真だった。

 

「そんな無茶な………どうやってのび太おじいちゃんの過去を変えるって言うのさ………」

 

あまりにも荒唐無稽な現実味のない話にドラえもんが呆れながらセワシに尋ねる。

 

「簡単だよ。ドラえもんが僕の面倒を見てくれたように、君が20世紀に行ってのび太おじいちゃんの面倒を見てくれれば良いんだよ」

「そんな無茶な提案が通るわけないじゃないか………そもそも、僕だって元々は優秀なロボットだったワケじゃ無いし………のび太おじいちゃんの未来を変えるなんて事が出来るわけないよ」

 

そもそもドラえもんだって元々はネジが外れて欠陥品のレッテルを貼られている。製造されてからすぐに入学するロボット養成学校では出来が悪すぎて問題児が集まる特別クラスに編入されてしまった程だ。※2

そんな自分が野比家の黒歴史とも言える野比のび太の未来を変えるなどと言う、大奇跡を起こせるとはとてもでは無いが思えない。

 

「それに、時間移動管理局がこんな歴史を変えるような申請を許可するとは思えないよ」

 

タイムマシンで過去に行き、歴史の改編を行う事は時間旅行を管理する法律、『航時法』によって禁止とされている。

厳密にはまったく禁止という訳ではないが、『歴史的な重要事項に関わる過去改編をする事を厳禁とする』となっている。

例えば中国大陸と陸続きになっていた日本列島を祖先が移住しないようにして日本人の誕生を阻止したり等がこれにあたる。

これを破った場合はタイムパトロールによって逮捕され、厳罰に処される事になる。

セワシの提案のような、過去を改編する行為を行う場合に関しては、事前に時間移動管理局という公的機関に届け出を出し、審査を受けて許可を貰う必要がある訳なのだが、基本的に下りることはまずない。

些細な過去改編がどんな歴史に影響を与えるのか分かったものでは無いのだから。

特に、何世代もの返済が必要になる程の高額借金の発生を未然に防ぐなどという超個人的行為など、以ての外だとドラえもんは思っていた。

 

「大体、そんな過去を変えてしまったらどうするんだい?タイムパラドックスが起きて、もしかしたら君が生まれなくなるかも知れないじゃないか!」

「大丈夫だよ。だって、テレビに出ていた出木杉博士の説明があったじゃないか。スタートとゴールが同じなら………ええっと」

 

セワシが言っているのは天才時間物理学学者の出木杉ヒデキ博士だ。

セワシが在住している東練馬出身の天才で、海外・星間交流留学を経て大学を飛び級。特に発明されて間もないタイムマシンから新ジャンルの時間物理学に興味を持ち、専攻。今では時間物理学の第一人者として世界に名を轟かせている。

セワシは街の有名人、出木杉ヒデキの研究発表の受け売り知識をドラえもんに話す。

 

「うーん………そんなに上手くいくのかなぁ………」

「とにかく、時間管理局に届け出を出してみようよ。出してみてからじゃないとわからないじゃないか。やるだけやってみようよ。許可が下りればラッキー程度に思ってさ!」

「まぁ………絶対に無理だとは思うけど、出してみるだけなら…」

 

後にドラえもんは思う。セワシのこの発想の柔軟さとねだり上手は確かに先祖の野比のび太の血を引いていると………

 

「ただし、ダメだったらキッパリ諦めること。良いね?」

 

ドラえもんはどこかで高を括っていた。どうせ通るわけが無い………と。

 

続く




※1
「それを言っちゃあおしまいだ!」
ドラえもん………特に旧のぶドラ時代のドラえもんの名言。
大山のぶ代さんの「爆発寸前の怒りを溜め込んでいます」というドラえもんの表現は、一種の名人芸とも言えるでしょう。

旧劇場版ドラえもん、『2112ドラえもん誕生』より引用。
旧設定の原作設定でのドラえもんの生い立ちは、マツシバ製造ラインで規格検査により弾かれた欠陥品のガラクタとしてデパートのジャンク売り場に売り出されていたところをセワシが間違えて注文し、野比家へ。
ドラえもんが欠陥品扱いされた理由は基準値を超えるほど人間臭い個体として判定された為。
この設定から考察するに、『2112ドラえもん誕生』の冒頭の事故でドラえもんの頭から取れたネジは、人間臭さ(自我)を抑制するためのリミッターであったのかも?

後半は旧版ドラえもんの前日譚みたいになり、主人公はでてきませんでしたが、次回はタイムパトロール側のお話になります。それでは次回もよろしくお願い致します。

のび太の結婚前夜編についてのベースは?

  • STAND BY MEドラえもんルート
  • 旧のぶドラ映画版ルート
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