セーフハウス
「あー………何やってるんだよ、あの二人は………」
「気持ちは分からなくないわ。スネトさんもふさぎ込んじゃったし………」
呆れてしまっているヒデキの視線の先には、スネトが膝を抱えてブツブツとうわ言を呟いていた。
「ほら、スネト君もしっかりして。レオ君もタケル君も混乱して結局のび太君を見失っちゃってるし、君にまで塞ぎ込まれちゃ困るんだけど」
「大丈夫よ。いざとなったら私達がちゃんと考えるから!」
サヤカが叫ぶと、混乱して玲雄に喚いていたタケルが反応する。
『本当だよな!?武おじいちゃんがスネ夫と子孫を繁栄させるなんて事はないよな!?こんな形でスネトと親戚になるなんてゴメンだからな!』
(それを言ったら、君とレオ君も親戚なんだけど………ややこしくなるから今は黙ってよう)
「落ち着いて!方法はいくらでもあるんだから!とにかく早くのび太くんを追って!」
『や、ヤバいぞレオ!ドラえもんとのび太を見失った!』
『わかってるよ!た、『たずね人ステッキ』はあったっけ!何かないか何かないか!』
慌てるとポンコツになるのはむしろドラえもんだろうと額に手を当てて呆れるヒデキ。
「スパイ衛星でこっちはキチンとドラえもん君達を見張っているから大丈夫だよ。彼らは自宅に戻ったから、早く追って!」
『了解!』
タケコプターを付け替え、慌てて野比家へと文字通り飛んで戻って行った。
「いざとなると、この人達って頼りにならないわよね………」
「僕とサヤカ君が付いて来ていて正解だったね………取り敢えず………」
ヒデキは木手博士への報告レポートを起動させる。
実験ひみつ道具報告レポート①
刷り込みたまご
強制力が強すぎる。危険度大。量産、実用化は見送るべき。
強いて挙げる改善点及び実用性。
恋愛に影響を与える部分は撤廃するべき。
強制力を弱め、親子関係で使用する程度等での使用ならば実用性も見込める可能性があり。
(こんなところかな?まぁ、それだったのならば他にも良いひみつ道具があるわけだし、やっぱりこれは量産は見送るべきひみつ道具だね。それよりも、この手のひみつ道具が他に無いか、しっかりチェックしないと危ないなぁ………)
他にも刷り込みたまごのようなひみつ道具が存在し、度々トラブルが発生するのだが、それはまた、別の話だ。※1
すすきヶ原図書館
玲雄とタケルが混乱し、のび太達を見失っていた頃、静香は英才は仲良く家路を歩いていた。
二人は街の図書館で勉強しており、夕方になったので英才は静香を家に送り届けようとしていたところだった。
「じゃあ、またね」
家の前で英才と別れ、玄関に向かう静香。しかし、途中にポッカリと開いていた穴に気付かずに、落下してしまう。
「あああっ!」
スッポリと穴にはまった静香は、四次元空間を通り、そのままのび太の部屋の天井から落下する。
静香はそのまま穴の下に仕掛けられていた『刷り込みたまご』にホールインワン。たまごのフタが閉まり、起動を開始する。
「やった!ドラえもん、あれ何?何の穴?」
「ストレートホール。しずかちゃんの家の玄関前と繋がっているんだ」
「ハハッ!すごいね!これで15分待てば良いんだね?楽しみだなぁ。あ、ドラえもんはどっかに行っててね?しずかちゃんが出てきたとき、最初に君を見たら大変だから」
「はいはい」
そう言ってドラえもんは頭にタケコプターを付けて部屋からでて行った。
のび太はその間、デレデレした顔でその時を待つ。
その時、玄関からスネ夫の悲痛な叫びが響いてくる。
「おーい!のび太ぁぁ!」
「何だよこんな大事な時に………」
のび太はしぶしぶと部屋をでて行った。
のび太が部屋を出た後に、玲雄とタケルは通り抜けフープを使って部屋に侵入する。
「いつの間にこんな物を仕掛けてたんだ?」
『君達がバタバタやっている間にだよ。それにしても、これも一般に流通させるには危険な道具だね。どこでもドアと通り抜けフープを掛け合わせた道具だけど、こういう使い方は怪我人を出してしまうね。逆を言えばタイムパトロールや警察組織が犯人を逮捕する時に罠として使うのは良いかも知れない』
ヒデキはストレートホールの実用について、分析を始める。
確かにヒデキが言うように『ストレートホール』はドラえもんのような使い方は倫理的にアウトだが、警察やタイムパトロールなどで犯人逮捕のトラップとしてはかなり有効なひみつ道具だろう。
「ヒデキ。分析は後にして。どうしよう!」
『そうだった。………ん?』
ヒデキが何かに気が付いたようだ。
「どうした?ヒデキ」
『いや、静香おばあちゃんと一緒にいた英才おじいちゃんが何か迷っているようなんだ』
スパイ衛星で先祖の英才を追っていたヒデキは、出木杉英才か帰路の途中で立ち止まり、静香の家の方を気にしているようだ。
それを玲雄に伝えると………
「それだ!」
玲雄はタケコプターでストレートホールの天井を通り抜ける。ドラえもん達の仕掛けを逆に利用し、英才までの距離をショートカットしたのだ。
ストレートホールは源家の玄関前に設置されていたので、玲雄はそのまま上空に出る。
上空まで出ると、それほど離れていなかった英才はすぐに見つかった。静香の家から英才の家までの道筋を追えばいるだろうと当たりを付けていたのもあるだろう。
「うーん………伝え忘れていたことがあるけど、どうしよう。明日にでも伝えれば良いんだろうけど………」
英才は何か静香に言い忘れた事があったようだが、静香にすぐに伝えるか、翌日の学校で伝えるかを迷っているようだ。
「すぐに伝えるんだ」
玲雄はハサミ型の何かを取り出した。
『思い切りはさみ』
迷っている人間に対して使うと、迷いが消えて即座に思い切った行動ができるようになるひみつ道具だ。
「うん!やっぱりすぐに伝えよう。万が一にも忘れてしまったら困るからね!」
英才は踵を返して源家に駆け出した。
『レオくん………まさか………』
「ヒデキの思った通りだよ。このまま出木杉英才君が静香さんの家に向かえば、ストレートホールに引っかかるだろ。そうすれば刷り込みが終わった静香さんは………」
刷り込みたまごは野比のび太だけを好きにさせる道具ではない。
作動してから15分後、表に出た後に初めて見た人間を好きにさせる道具だ。
『ちょっとレオさん!』
「良いじゃないか。出木杉英才君と源静香さんは元々結ばれる運命なんだ」
『だからって、こんなやり方は僕は認めないぞ!それが例え本来の歴史通りになるとしても!まさか……君はそうすることで自分が消える運命を………』
『………え?』
サヤカとヒデキが抗議してくる。
ヒデキとサヤカだってのび太が刷り込みたまごで静香を強制的にさせるやり方は反対だった。いくら子供だとはいえ、そんなやり方を選択した野比のび太に対して嫌悪感が覚えた事も確かだ。
だからって、のび太に制裁を加える為にひみつ道具で英才と静香を歴史通りにくっつけるのはやり過ぎだと思った。
特にヒデキは玲雄がのび太の子孫であることを知っていた。
(レオ………もしかして君はこうする事で消えることを避けようとしてるのか?でも君は言っていたじゃないか………のび太君が努力の果てに静香おばあちゃんと結ばれるのならば、どんな結果だって受け入れるって!なのに………それで英才おじいちゃんと静香おばあちゃんをくっつける様な真似をするなんて!それだったら野比のび太君と変わらないじゃないか!それだけはやっちゃ駄目だ!レオ!)
『やめるんだレオ!例え英才おじいちゃんと静香おばあちゃんが結ばれるのが歴史通りだったとしても、こんなやり方は僕は認めない!子孫の僕が言うんだ!止めろ、レオ!』
叫ぶヒデキ。しかし、玲雄は動かなかった。
「サヤカちゃん、ヒデキ。君達の先祖、出木杉英才は出木杉家の伝説なんだよね。頭脳明晰、運動神経抜群、そして性格に至るまで、完璧な人間だったって………」
『え?ええ………英才おじいちゃんは、出木杉家の中でも、完璧の中でも完璧と言われているわ………だからこそ、私達出木杉の人間は、あらゆる面で………特に人格の面で英才おじいちゃんを見習うように言われているけど………』
「だったら、信じよう。出木杉英才君を………君達の先祖を。僕は出木杉英才君だから、野比のび太君の暴走を止めてくれると思ってるんだ」
話しながら、玲雄は英才を追う。
玲雄の思惑通り、英才はストレートホールに落下。
「この部屋は静香君の家の地下室か?でもここは2階。どういうことなんだ?時空が混乱している………」
のび太の部屋に落下した英才は、自らの身に起きたことを不思議に思いながら、混乱せずに分析を始めた。
更にストレートホールの上を見上げる。
「これは………2つの空間がつながっているのか?」
この独り言1つで出木杉英才という少年が、ただの天才ではないことが伺える。
玲雄達未来人やドラえもんとそれなりにひみつ道具に触れてきたのび太達ならば、空間を繋げる系統の出来事に慣れている。
原理がわかっていなくても、そういうものだと納得してしまうだりう。
しかし、初めて空間を繋げるひみつ道具に触れながら、混乱せずに興味を持ち、分析を始める10歳程度の小学生が多くいるだろうか?
「さすがはヒデキの先祖………僕だったら大混乱だよ」
『そうかなぁ………?普通だと思うけど………』
『そんなの、英才おじいちゃんやヒデキさんだけよ………それよりもレオさん!たまごが!』
そんなことをしている内に、刷り込みたまごが開き、大量の蒸気とともに静香が出現。バッチリと目を合わせてしまう英才と静香。
そしてラブラブ光線を送りながら英才に抱き付く静香。
そこにスネ夫に呼ばれていたのび太が戻ってくる。
「野比くん、どうなってるんだい?これ」
「あああああ!」
絶望的な表情を浮かべるのび太。同時にタケコプターで戻ってきたドラえもん。
英才は多少困惑はしているものの、嫌がっている感じではない。
「どうしてくれるんだよ!これ!」
「だから止めておけって言ったのに………」
涙目でドラえもんに泣き付くのび太。その最中でも静香は英才に抱きついていた。
だが………
「お願い!何とか元に戻して!」
「え?」✕複数
その場にいたのび太、ドラえもん、静香、玲雄、ヒデキ、サヤカが声をあげた。
ドラえもんはポケットから透明のヘルメットを取り出した。
「これを被れば元に戻るけど」
この言葉を聞いてこんどは静香が絶望的な表情を浮かべていた。
「だめなの?出木杉さん、あたしに好かれたら、迷惑?」
「そうじゃないさ。僕だって静香君の事は大好きだよ。でも、こんな機械に頼って君の心を動かすのは嫌なんだ」
「出木杉さん!」
この言葉で静香はなお顔を赤らめ、のび太は対象的に顔を真っ青にしていた。
青を通り過ぎて、既に白い。完全に石像となっていた。
「そうだ。思いしれ、のび太。これが君がやろうとしていた事だ。そして、現実なんだ。出木杉英才と君の人としての大きさの違いだよ」
解除ヘルメットにより、元に戻った静香。
男として完全に格の違いを見せつけられたのび太。
「ますます出木杉さんの事が好きになったわ」
そう言って野比家から去っていく静香と英才。
それを惨めに見送りながら、のび太は呟く。
「やっぱり出木杉にはかないっこないよ………。それに比べて僕は………」
「ドジで、のろまで、勉強が嫌いで」
「うるさいよ………」
次々とのび太の駄目なところを挙げへつらい、のび太の心にトドメを刺しまくるドラえもん。
「君は道具を使っても駄目だってわかったでしょ?君自身が何とかしないと」
「何かねぇ………ウ~ン。銀河!」
のび太は机から紐を取り出し、瞬時にオリジナルあやとりを作り出した。これにはドラえもんも玲雄もビックリした。
玲雄の時代にはあやとりが廃れていたこともあるが、例えあったとしても玲雄にこんな特技があるとは思えない。
「って、これだけじゃなぁ………」
(人間、何かしら特技があるものだなぁ。何かの役に立つとは思えないけど………)
玲雄はこう思うが、まさかあやとりが惑星を救う決定打になることがあることを後に驚くことになる。※2
閑話休題
「どうせ何をやっても僕は駄目なんだ………」
「どうせ、なんて諦めていたら、いつまでたっても君はこのままだよ?それでもいいの?」
「………………」
(もうこれ以上、今日は何もしないだろう………ハァ、しんどい1日だった………)
そう言って、玲雄はつづれ荘へと戻る。
戻ると、ヒデキとサヤカが待ち構えていた。
ちなみにタケルとスネトは精神的な疲れから、既に寝込んでいるらしい。
「ねぇ、レオ。君はこの結果が予想できていたのかい?」
ヒデキが開口一番に聞いてくる。
「結果が予想できていた………っていうよりかは、信じていたって気持ちが強いかな」
「信じていたって………君はそれほど英才おじいちゃんを知っている訳じゃ無いだろ?」
ヒデキに笑いかける玲雄。確かに玲雄は英才を良く知っている訳ではない。
しかし………。
「知っているさ。『出木杉』の事はね。だから、信じたんだ」
玲雄はヒデキを通じて『出木杉』の事を知っていた。その誠実な人間性も。それに玲雄は賭けた。その誠実さに。
(人に対して誠実であれ………日野の理念を示したのは、出木杉の方だったぞ?野比のび太………この家訓を日野家に残した、正しい歴史の君は、ドラえもんが来たことで無くなってしまったのかい?これ以上、
ドラえもんが来たことで、何が世界崩壊のストッパーになるのかは分からない。
10歳の子供が未来の力を手にすれば、調子に乗るのは仕方が無いのは玲雄も理解していた。しかし、のび太は玲雄の許容できる線を踏み越えてしまった。
今ののび太は、玲雄を感動させた彼とはほど遠い存在だった。
ドラえもんはコンピューターペンシルの一件でこう言っていた。
『僕がいない方が、君にとっては良かったのかも知れない』
………と。
(超えてはいけない一線は、最後の最後で超えない男だと思っていたのにな………)
野比のび太に対する日野玲雄の評価は、落ちるところまで落ちていた。
続く
※1
友達の輪、キューピットの矢
友達の輪は神成さんの姪っ子が登場した時に登場したひみつ道具。輪が書かれたシートの中に入った者同士を友人関係にする。神成さんの姪っ子と仲良くなろうとしたのび太だったが、偶然静香と姪っ子さんが輪に入ってしまい、結局どちらとも仲良くなれなかった自業自得の結果に終わる。浮気は良くないですね。
キューピットの矢は『南海大冒険』で登場。矢が刺さった者は、放った対象に対してラブラブ状態に。刷り込みたまごほど強制力はなく、簡単なショックで正気に戻る。作中では海賊が面白半分で矢を放ち、ドラえもんに突き刺さった。
こんな物を持ち歩いていたドラえもんもドラえもんだが、試し撃ちで矢を人に向けて放つ海賊も海賊である。
※2
のび太の宇宙英雄記
中盤まで、まったく役に立たなかったのび太の特性だったあやとり。
しかし、最終決戦において勇気で覚醒したのび太がパワーアップしたあやとり能力でラスボスであるイカーロスを倒した。
しかし、何故宇宙英雄記では射撃ではなくあやとり?と思ったのは本城だけではないだろう。
それでは次回もよろしくお願いいたします。
のび太の結婚前夜編についてのベースは?
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STAND BY MEドラえもんルート
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旧のぶドラ映画版ルート
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その折半ルート