とあるタイムパトロール隊員の特殊任務   作:本城淳

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サヤカの説得

つづれ荘

玲雄の私室

 

ピロロン♪ピロロン♪

夜中、日野玲雄は自室で射撃の訓練をしていた。

昔から射的が得意だった玲雄は、機嫌が悪いと射撃ゲームを起動させ、憂さ晴らしをする。

 

「荒れてるわね、レオさん」

「サヤカちゃん……」

「相変わらず大した銃の腕よね。機1も機2も惜しがっていたわよね。その才能を遊ばせているなんてって………」

「知ってるでしょ?僕の欠点」

 

玲雄のタイムパトロール養成学校時代、体力・射撃での成績は優れており、特に射撃に関しては養成学校の歴代記録の中でも群を抜いてトップの成績を誇っていた。

玲雄の成績を見て、犯罪者と対立する事が多い機動1課と機動2課は特に玲雄をスカウトしていたのだが、玲雄が希望したのは機動隊と名を打つのもおこがましい機動3課。

元々、警察で言えば地域課のような勤務を希望していた事もあるのだが、最大の理由は玲雄の欠点が1課や2課でやっていくのには致命的であったからだ。

 

「そうね。あなたは的が相手なら必中だけど、何故か人が相手だと必ず外す。射撃だけじゃないわ。運動神経は良いし、意外と力はあるのに、ケンカでも武道でも、本気になるとあなたは勝てない。機1や機2には確実に向いてないわよね。まぁ、それだからこそレオさんだけど」

「わかっているなら言わないでよ。子供の頃からケンカに勝ったことがないし、格闘でも連戦連敗。射的では無敗でも、人に向けて射ったら何故か外れる。そんな僕が機1とかに配属?役立たずですぐに追い出されるよ。頭も悪いし、欠点持ちの僕が唯一役に立つのは機3か補給担当の輸送課くらいだよ」

 

玲雄はどんなに本気を出しても対人で勝つことは出来なかった。

せっかくの射撃の腕も、これでは宝の持ち腐れである。

サヤカ曰く、『だからこそ玲雄はそれで良い』らしいのだが、タイムパトロールとしてそれで良いのだろうか?と考えてしまう。

ちなみに推理力が重要な警察でいうところの「刑事課」に相当するスネトが所属する「捜査課」からはお声がかからなかった。理由は察するべきだろう。

 

「でも、そんなレオさんが射的ゲームをしているなんて、よっぽど怒っているのね?のび太さんに対して」

「………わかるだろ?僕がああいうのが嫌いだっていうのがさ」

 

解除ヘルメットがあったとはいえ、人の心を無理矢理操る洗脳系ひみつ道具を使い、意中の相手を自分に振り向かせる………そんなやり方は、玲雄がもっとも嫌う行動だった。

人に対して優しくあれ、真面目であれ、誠実であれ………

幼い頃から両親に教え込まれ、そのルーツも知った日野家の家訓。

今回ののび太の行動は、玲雄が重んじるその三箇条を徹底的に踏み躙られる行為であった。

 

「それでも珍しいわね?レオさんがここまで相手に失望するなんて。普段なら、そういう人に対しては悲しそうにはするけど、怒るなんて事はないでしょ?あなたの場合」

 

そう。玲雄は悲しみこそすれ、怒ることは滅多にない。

何故今回、のび太に対して玲雄は怒っているのか。

 

(日野家家訓の礎を作った野比のび太………それが、あんな物を使うなんて………)

 

失望。それが今の玲雄が抱いている一番当てはまる感情だった。

 

「確かに、今日ののび太さんの行動は最低だったわ。男性のあなたやヒデキさんでもあんなに怒ったのですもの。女性の私からしてみれば、なおさらよ。でもね………?」

「?」

「そんなものじゃないかしら?子供の時なんて。あそこまで出来た英才おじいちゃんが、大人びていすぎると思うの」

「そうかなぁ………」

「そうよ。レオさんの場合、ご両親が厳しかったから、そういうのは考え付かないかも知れないけど、普通ならばそうよ。10歳の子供ならば、誰だってどんな手段を使ってでも振り向かせたいって思うもの。レオさんはそういうの、無かったの?」

 

まったくなかったとは言い難い。ましてや玲雄は子供の頃からサヤカの事が好きだった。

のび太が静香の事を狂しく好きだったように。

ただ、どんな手段を用いようかと思えば、玲雄は家庭環境から考え付きもしなかった。

人に対して真面目であれ………日野家の家訓は世代を重ねるにつれ、その気質がエスカレートしていっていたのだ。

頭が悪くても良い、力が弱くても良い、だけれど人を裏切る事だけは厳しい。それが日野家という家だった。

 

「………今回ののび太君のような卑怯な行動ほどでは無いにしても、確かにそういうのはあったかも知れないね………」

「そうでしょう?人間、誰もがそういう汚い心があるものだわ。それにね………もし、のび太さんの思惑が上手くいったとしても、あの子は自分の間違いに気付くと思うの」

 

玲雄はサヤカの言葉に驚き、思わず使っていた電子銃を落としてしまう。

 

「コンピューターペンシルの時なんかもそうでしょ?確かにのび太さんはすぐに調子に乗って、物事を楽な方へと流されてしまうところがあるけれど、悪い人じゃない………最後には気が付いて、人としての道を踏み外さないのが彼だと思うわ」

 

ちょうど、ドラえもんがのび太を見捨てかけた事件であるコンピューターペンシルの一件を思い出していた玲雄。

ドラえもんから汚物を見るような目を向けられた事で良心というものを取り戻したのび太は、最終的には直前でコンピューターペンシルを投げ捨て、敢えて普通にテストを受けた。

結局は投げ捨てたコンピューターペンシルは武が作った偽物で、使おうと使うまいと結果は変わらなかったのだろうが、自分で自らの過ちに気がついたことに意義があったのだとサヤカは言いたいのだろう。

因みに、武は不正が父親に見抜かれ、今(22世紀)の時代ならば問題になるような酷い折檻を受けることになり、それを見ていたタケルは情けなさで涙していたのだが、それはそれで効果があり、武は『百点なんて懲り懲りだ』と言ってコンピューターペンシルをドラえもんに投げ返す。折檻よりも、父親の失望の涙が相当堪えたのだろう。

 

「だから、例えのび太さんは静香おばあちゃんを自分に夢中にさせたとしても、満足するのは一時的で、最後には自分で過ちに気が付いていたと思うわ。コンピューターペンシルの時のように」

 

確かにそうかもなと思う玲雄。

刷り込みたまごの件が顕著すぎるだけで、のび太は最終的には悪人になりきれずに終わっている。そうはならないにしても、ドラえもんの道具を扱いきれずに自業自得で終わってしまう。そして、ドラえもんによって毎度釘を刺されるのだ。

道具によって楽をしようとしても、結局は最終的に必要なのは便利な道具ではなく、日頃の行いなのだと。

 

「だから、のび太さんを見捨てないで見守りましょう?きっと、のび太さんは少しずつ、変わってくれると思うわ」

 

サヤカは玲雄の手を握り、まっすぐにその目を見つめる。

 

(かなわないなぁ………子孫の僕よりも、のび太君の事を信じているなんて………サヤカちゃんに言われてしまえば、僕はのび太君を見捨てることなんて出来ないじゃないか………)

 

玲雄は一度目を閉じて深呼吸をし、への字だった口を普段の柔らかいものへと変える。

 

「分かったよ………サヤカちゃん。もう少し、信じてみるよ。野比のび太君を………」

 

握られていない方の手をサヤカの手の上からそっと重ね、意思を示すように少しだけ力を込める。

 

「それでこそレオさんよ。というよりも、さっきまでのレオさんの方が、あなたらしく無かったのよ。普段のあなたなら、もっと広い心でのび太さんを見ているはずだわ」

「そうかな………買い被り過ぎだと思うけど………」

 

玲雄だって人間だ。

決して聖人でも無ければ、サヤカやヒデキのように出来た人間ではない。

今回だってサヤカに指摘されたように、少し短気すぎたと自己嫌悪に陥るような醜い感情に陥る事だって度々ある。

 

「ふふ………良いの。私は少なくとも、レオさんはそういう人だって信じているんだから。ね?」

 

サヤカは良い微笑みを玲雄に向け、その手を離す。

大好きなサヤカの笑顔に一瞬だけ見惚れるも、彼女の手の温もりが離れたことで、玲雄は名残惜しさから思わず「あ………」と声を漏らしてしまう。

 

「ありがとう、サヤカちゃん。少し、心が軽くなったよ」

「良かったわ、いつものレオさんに戻って。じゃあ、明日も早いんだから、ゆっくり休んでね?おやすみ、レオさん」

 

サヤカはヒラヒラと手を振り、玲雄の部屋から出ていった。

 

「………おやすみ、サヤカちゃん………」

 

彼女を見送り、使っていた器具を片付けてからシャワーを浴び、歯磨きなどの就寝準備を終えてベッドに横になる玲雄。

普段なら、生来の寝付きの良さですぐに意識が暗闇に落ちる玲雄なのだが、中々寝付けない。

玲雄は窓から差す月明かり(窓も月明かりも本物ではない。立体的な映像)薄暗い群青の闇の中で、手を眺める。

その手には、先程のサヤカの手の温もりが少しだけ残っているようで………。

 

(今更だけど、すごくドキドキする。普段はガードが固くて、相手が僕達であっても密室で男の子と二人きりになるなんて事をする人じゃないのに………)

 

出木杉サヤカはガードが固い。幼少期ならともかく、大人となった今では、玲雄達が相手でも決して密室で二人きりになる事は決してない。

サヤカ程の美女を周りが放って置くことはなく、嫌でも身を守る必要が学生時代からあったのだから。

 

(それだけ心配してくれたんだな。ヤッパリサヤカちゃんは優しいや………)

 

サヤカの優しさを改めて認識し、心を温める玲雄。

しばらく眠れそうに無いなぁ………等と考えていたのも束の間で、その僅か数分後には温かい余韻に包まれながら、ゆっくりと深い眠りへと誘われるのであった。

 

 

サヤカの部屋

 

玲雄が心地良い眠りへと落ちて行くのとは対象的に、出木杉サヤカの心はざわついていた。

原因は今日の夕方での一件だ。

玲雄が思い切りハサミで出木杉英才を焚き付けた際、従兄弟の出木杉ヒデキが珍しく慌て、そして思わず漏らした失言。

 

(消えるって何?絶対にヒデキさんとレオさんは何かを隠しているわ。私達に知られたくない何かを………)

 

女性特有の勘の鋭さとでも言うのだろうか。

ほんの僅かな失言をサヤカは聞き逃さなかった。そして聞き流さなかった。

気づいてこそなお、サヤカはヒデキを問い正さなかった。

根は正直で真面目なヒデキ。それでもヒデキは子供の頃から腹黒い科学者達と渡り合って来た人間だ。

サヤカが問い詰めたとしても、ヒデキは失言したという事実を認めた上で、それでも上手くノラリクラリとかわすだろう。

それがわかっているからこそ、サヤカはヒデキから何も聞かなかった。

ならばとサヤカは玲雄の行動を観察し、思い返す。

野比のび太に対しては何故か他の人よりも厳しい。確かに今日ののび太の行動は、玲雄の信条からすれば許せない行動ではあっただろう。

しかし、普段の玲雄ならば、ここまで辛口な評価はしない。

精神が成熟していない子供のやった事なのだと割り切っていたことだろう。

 

(なのに、レオさんはのび太さんに対して凄く怒っていたわ。まるで大人に対して評価するように……普段のレオさんからは考えられない………いったいどうしてしまったの?)

 

何かあったとするならば………

 

(研究所でヒデキさんに会った時?ヒデキさんはレオさんに何を伝えたのかしら………?とてもイヤな予感がしてならないわ……)

 

その晩、出木杉サヤカは中々寝付くことが出来ず、翌日の朝は寝不足で迎えることになる。

 

 

 

翌朝………

 

骨川スネトは昨晩の当直を担っており、監視室で野比のび太の行動を監視していた。

といっても、警備会社がそうであるように、当直といっても仮眠時間はある。野比のび太が就寝している時間(昼寝は除く)は仮眠時間に充てられており、のび太が起床すればアラームが鳴って知らせてくれるようになっている。

就寝中ののび太の身に何かあれば、『虫の知らせアラーム』が作動するように仕掛けるのも忘れない。

普段ののび太は幼い事もある上に趣味が「昼寝」という事もあってか寝付きが良い。当直はのび太の就寝を確認してから入浴を済ませ、読書等で少しの余暇を過ごしてから自分の生活リズムで思い思いの時間で仮眠にはいるのだが、昨日のショックがあったからからだろうか。のび太もまた、中々寝付くことが出来なかった。

モニターしていた当直のスネトは、のび太が熟睡しないと仮眠が取れない。スネトもスネ夫と武のショッキングな場面を見せられる原因を作ったのび太の事を少しだけ怒っており、「こいつ、今日に限って眠らないなぁ………早く眠れよ」とイライラしており、そして日付けが変わってしばらくしてからやっと仮眠に付く事が出来た。

やっと眠れたと思って入浴を済ませ、コンクフードを夜食にして仮眠に入ったのが午前1時半。のび太の起床を知らせるアラームが鳴り響いたのが朝日が昇った少し後、午前5時を少し過ぎた頃の事だった。

 

「な、何だ何だ!?何か非常事態か!?」

 

中途半端な仮眠は下手な徹夜よりもたちが悪い時がある。

上手く頭が回らないスネトは慌てて靴を履き、モニターに貼り付く。

 

「はぁ………?」

 

スネトはモニター越しに見る野比のび太の光景を見て、しばらく硬直した。時間にして約1分と行ったところか。

 

「ハハハ………夢だよね?これ………」

 

呆然としていると、居眠り防止の為に設置してある『夢たしかめ機・改(居眠り感知センサー搭載)』が作動。

戦車のようなキャタピラにマジックハンドのような手が生えている、存在意義も含めてふざけた見た目のひみつ道具がカラカラと音を立ててスネトの近くまで接近し、そのキツネ顔をムンズと掴みあげた。※1

 

「いっったぁぁぁ!」

 

あまりの激痛に大声を上げ、涙目になるスネト。

 

「もう!僕の美貌が台無しになったらどうするんだ!」

 

慌てて『夢たしかめ機・改』のスイッチを切り、掴み上げて床に叩きつけるスネト。ナルシストぶりは先祖のスネ夫と大差ないようだ。

夢たしかめ機・改を叩きつけたところで夢では無い事に気付き、スパイ衛星の映像を見る。

 

「こ………こ………これは大変だぁ!」

 

混乱したスネトは、各部屋のスピーカーに連絡を飛ばすマイクの一斉放送のスイッチをオンにし、叫ぶ。

 

「起床!起床!各員、緊急事態発生!緊急事態発生!」

 

スネトの叫びが、つづれ荘に響き渡った。

 

続く




※1
夢たしかめ機・改(居眠り感知センサー搭載)
本文に書いてあるとおり、存在意義そのものも含めてふざけているとしか言えないひみつ道具、『夢たしかめ機』にスネトが居眠り防止機能を搭載して改造したオリジナルひみつ道具。
元の存在意義が問われる『夢たしかめ機』ではあるが、『南海大冒険』ではラスボスに相当する改造生物、『リヴァイアサン』を倒すという偉業をやってのけた。
世の中、何が役に立つか分からないものである。

果たしてのび太の身に何が起きているのか!?
『STAND BY MEドラえもん』を観た方にはバレバレでしょうが………

それでは次回もよろしくお願い致します。

のび太の結婚前夜編についてのベースは?

  • STAND BY MEドラえもんルート
  • 旧のぶドラ映画版ルート
  • その折半ルート
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