とあるタイムパトロール隊員の特殊任務   作:本城淳

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静香に嫌われる為に!

のび太が静香と絶交を決意してから数分後、のび太は本を風呂敷に包み、彼女の家の前にいた。

玄関のチャイムを鳴らし、待つこと数秒。出てきたのはパイプを咥えた彼女の父親だった。

来訪客がのび太だと確認した静香の父は、家の中に声をかける。

 

「しずかー。のび太くんだよー」

「今、お風呂なの〜」

 

家の中から静香の声が聞こえてくる。

静香は風呂好きだ。趣味の領域で風呂好きだ。急いでのび太が静香に用がある場合、『どこでもドア』の出口が入浴中の源家の浴室だったケースがままある。

「キャー!のび太さんのエッチ!」

の叫び声と共にお湯をかけられ、追い出されるのが様式美だというのが玲雄達の認識だ。

時には逆ギレして「こっちの都合も考えずにいつもいつもお風呂に入っていて!」等とのたまう事もあったが。

つい最近までは、最近のび太の風呂覗きはわざとでは無いのか?という議論が良く1日の解除ミーティングがあがっていたのだが、その話題をするとサヤカの機嫌が悪くなるのでやらなくなった。

『JBG』がまだ彼女の手元にあるのも議題にあがらなくなった理由であろう。

閑話休題

 

「いえ、良いんです。借りていた本を返しに来ただけなので」

 

のび太は静香の父に風呂敷を押し付け、彼が何かを言い出す前にまくし立てる。

 

「僕はしずかちゃんの幸せをずーっと願っていますから!」

「あ、ああ………」

「さよならって伝えておいて下さい!」

 

言いたいことを一気に言い、のび太は泣きながら走り去る。

本当はのび太も一目、静香を見ておきたかった。もしかしたらこれが静香と一対一で向き合える最後のチャンスかもしれなかったからだ。

しかし、もしここで静香と言葉を交わしてしまったら、せっかくの決心が脆く崩れ去ってしまう。のび太は断腸の思いでこの場を逃げ去ることにしたのだ。

 

「………のび太さん?」

 

のび太と父親との会話を湯船で聞いていた静香は、のび太の不可解な行動に嫌な予感を抱いていた。

 

 

 

つづれ荘、特別チーム本部

 

「休憩から戻りました」

 

休憩と言ってヒデキにオペレーターを交代して貰ったサヤカが本部に戻って来る。

 

「お帰り。どこに行っていたの?」

「女性の休憩時間に、どこへ行っていたのか聞くのは、デリカシーが無いわよ。いくらいとこ同士でもね」

「それは申し訳無かったね」

 

ヒデキはワイヤレスマイク付きヘッドホンをサヤカに渡す。

サヤカはヘッドホンを受け取ると、自分の事務机でもあるオペレーター席へと戻る。

 

「………モニターは見てなかったわよね?」

「静香おばあちゃんの方はね。入浴中なんだから、当然だろう?それよりも、書いておく書類があるんじゃないの?」

「………何のことかしら?」

「今ならば、事後承諾ということで僕が許可を出したことにしておくよ」

 

ヒデキの言葉で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるサヤカ。

玲雄達から勘が冴えていると言われるサヤカではあるが、このいとこには遠く及ばないと思ってしまう。

捜査課が苦労しているドルマンスタイの事件も、ヒデキがタイムパトロールの本属にいればあっという間に解決してしまうのではないだろうか。

 

「………はぁい。その代わり、聞きたいことがあるんだけど?」

「交換条件を出せる立場じゃないでしょ?本来ならば処分ものなんだから。『JBG』の事も含めてね」

「意地が悪いわね。ヒデキさんらしくないわ」

「君の聞きたい(・・・・)事について正直に話して良いものか、迷っているから先延ばしする口実に使ってるんだよ」

「本当にらしくないわね」

 

プイッ!とヒデキから視線を逸し、スパイ衛星の映像へと……業務に戻るサヤカ。

ピピッと業務日誌という名の監視記録を付けるのがサヤカの業務だ。スパイ衛星の監視記録、現場班との交信記録、会議議事録、エトセトラエトセトラとサヤカがこなす業務は多岐にわたるのだが、サヤカは若輩でありながら、なんて事が無いように涼しい顔でこなしてしまう。

出木杉の血筋としては普通と言われる彼女だが、常人の物差しで見れば何でもこなせてしまう才女なのだ。

 

「タイムパトロールの各部署が嘆いているよ。何で機動3課なんだってね………」

 

臨時出向とはいえ、今回の任務で彼らの上司という立場になっているヒデキ。当然、隊員の身上把握の為に研修学校時代からの評価記録は申し受けている。

サヤカの研修学校の評価は全科目が満点に近く、彼女が望めばどの部署にもフリーパス状態だった。

タイムパトロール本部の意向でスカウトを受けていたのは広報課だったが。

 

「私の勝手です」

(早くくっつけば良いのに………そうも言ってられなくなってきたけどね)

 

 

 

源家から逃げるように飛び出したのび太は、最初こそ走っていたものの、徐々にスピードを落とし、やがてトボトボとした歩みに変わっていた。

 

「これで良いんだ………これで………」

 

ぶつぶつと呟きながら、のび太は歩く。

 

「まるで自分に言い聞かせているようだな」

『実際そうなのよ。ほら、足取りが重いでしょ?本心では未練が残っていて仕方ないのよ』

「よく見ているなぁ、サヤカちゃんって………」

『あなた達が鈍すぎるだけなのよ』

 

少し離れた位置でのび太を追っていた玲雄とタケルはいつも以上に声を潜ませて会話をする。

ほぼ並走と言える位置にドラえもんが飛んでいるからだ。

 

「のび太さぁん!」

 

「ん?」

 

トボトボと歩くのび太を追う静香の声が届く。

嫌な予感を覚えた静香が大好きな入浴を早々に切り上げ、急いで着替を済ませて追ってきた。

 

「凄い早着替えだね………特別な訓練を受けたわけじゃ無いってのに………」

「タイムパトロールにスカウトしたいくらいだぜ………それに比べてのび太は………」

 

もう十分に肉声でも静香の声が届くというのに、のび太は相変わらずトボトボと歩いている。

 

『それだけ傷付いているのよ。同じ男の子なのに本当に鈍感ね』

「う………」

 

昔からサヤカには鈍感鈍感と言われているので、玲雄も自分の鈍感さ加減には多少の自覚はあるようで、何も言えない。

 

「のび太さん!待って!」

 

一方で静香はどんどんのび太との距離を詰める。

ここに来てやっと、のび太は自分が静香に呼ばれている事に気がついたようで、驚いている。

 

「もしかして、聞こえてはいたけど気のせいだと思っていたのか?」

「まぁ、静香さんは入浴していたわけだし、のび太くんは最初走っていたんだから、追い付くわけが無いと思うのが普通か。今回は静香さんが異例なんだろうな………何気に身体能力が高いよね、彼女は………流石はサヤカちゃんの御先祖様………完璧モンスターなのは彼女の………」

『レオさん』

 

サヤカの声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には玲雄の体が何か

の力に引っ張られるように。

タケコプターで空を飛んでいた玲雄は、踏ん張ることも出来ずに飛ばされていく。

 

「ああぁぁぁぁ!」

 

ドップラー効果を残して飛んでいく玲雄。

 

「ん?何か近くで悲鳴が聴こえたような………まさかね」

「あっぶねーなぁ………危うくドラえもんに気がつかれる所だったぞ………何をしたんだ?サヤカちゃん」

 

実はサヤカはオペレーター用のマイクとは別に、『JBG』のマイクで玲雄を呼んだので、玲雄は『JBG』を吹きかけられた場所まで飛んでいったのだ。余計な例えを出さなければサヤカを怒らせずに済んだのに、その辺りは人一倍デリカシーが欠けているのび太の子孫らしい玲雄だった。

ドボン!

 

『ゴボゴボ………何でこんな所に………』

 

『JBG』が吹き付けられた場所は源家の浴槽。危うく玲雄は静香の入った残り湯で溺れてしまうところであった。

変○趣味の人間なのならば色々な意味でご褒美なのだろうが、生憎と玲雄には幼女趣味も被嗜虐趣味も無いので、ただただ痛くて呼吸困難になっただけだった。

閑話休題

 

一方で相棒がどこかに飛んでいってしまったタケルが見守るのび太の方では………

静香が追ってきている事に気が付き、一瞬だけ決心がぐらついたのび太だったが、それを何とか踏み止まり、静香を無視してズンズンと歩き出す。

逃げ出そうにも静香が本気でのび太を追えば、静香の方が体力が上なのですぐに追い付かれてしまう訳なのだが。

 

「どうしたの?のび太さん、何か怒ってる?」

 

無視を決め込んでいたのび太だったが、とうとう静香に追い付かれた。

 

「聞かないで!僕達はもう、会わないほうが良いんだ………」

 

ギュッと拳を握り込み、本心では真逆の言葉を紡ぎながら、より早足で歩き出す。

しかし、静香は引かない。

 

「ますます気になるわ」

 

そう言ってのび太の前に立ちはだかり、両手を広げてのび太を睨みつける静香。

 

「言うまで離れないから!」

 

静香の立場からしたら当然だろう。

理由もわからず幼馴染が離れていこうとしているのだから、意地でもワケを聞かなければ納得できるわけがない。

静香の性格からのび太が彼女を避けている理由について徹底的に追及してくるだろう。

 

「あーっ!どうしたら良いんだ!もっと嫌われなきゃ!そうだっ!」

 

何かを思い着いたのび太は目を閉じて一歩前へ戸静香に近付く。

 

「あー………酷い目に遭った…僕がカナヅチだったら溺れていたね…」

「おうレオ。戻ってきたのか?」

 

丁度戻ってきた玲雄がタケルに話しかける。

玲雄達がのび太を監視する位置は決まっているので、石ころ帽子で見えなくなっていても、どこにタケルが待機しているのかはわかっていた。

 

「うん。酷いんだよ?何故か『自動ぶん殴りガス』が源家の浴槽の壁に仕掛けられていてさ…タケコプターが1つ壊れちゃうし……あ………」

 

玲雄が戻ってきたタイミングで、のび太の手が動いていた。

のび太は勢いよくその手を動かし………源静香のスカートをブワサッ!と思いっきりめくったのだ。

当初は驚きの余りにフリーズしていた静香とタイムパトロールの面々。スカートめくりをされた………その事実を静香………と、サヤカが認識した時、その後の行動が反射的に出た。

 

『「キャー!」』

「のび太さんの………」『レオさんの………』

『「エッチ!キライ!」』

 

静香はのび太にバチンと平手打ちをし、涙を溜めて走り去り、玲雄は再びマイクで名前を呼ばれた為に源家へと逆戻りをする羽目になった。

 

「わっ!わわわっ!今のは不可抗力でしょ!うわぁぁぁぁ!何で僕だけ!助けてぇぇぇ!」

「………悲惨だな………レオ………」

 

悲鳴をあげて飛んでいく玲雄。

 

「さようなら………しずかちゃん」

 

再び源家の浴室の壁に頭をぶつけ、その浴槽にホールインワンとなっている子孫の事などつゆも知らないのび太本人は、泣いて走り去っていった静香をヒリヒリと痛む頬を擦りながら見送っていた。

のび太の考えはこうだ。

スカートめくりをしたのは当然、スケベ心の為ではない。

その証拠にスカートがめくれていたあいだ、のび太はギュッと目を瞑って中身を見ないようにしていた。それ以上のモノを直接見ているだろうという茶々は入れてはいけない。

一応は故意ではない普段の風呂のぞきとは違い、今回ののび太は意図的に静香のスカートをめくった。

これまでとは違い、意図的に………というのがポイントだ。

こうする事により、静香は確実にのび太の事を心底嫌い、いずれはのび太という友達がいた事も忘れるだろう………。のび太にとっては辛い選択であるが、確実に静香に嫌われる為の秘策だった。

 

「これはかなり本気だぞ………」

 

そんなのび太を空から見守っていたドラえもんは、のび太の本気さに気が付き、その表情を深刻にしていた。

 

「それにしても………今日はヤケに悲痛な叫びが聞こえているなぁ………」

「お前らのせいだろう………」

 

ドラえもんの呟きに、思わずツッコミを入れてしまうタケル。

 

「そうなんだ………僕達のせいか………あれ?」

 

ドラえもんはキョロキョロと周りを見渡す。当然、石ころ帽子で姿を消しているタケルの姿を見ることはなく………

 

「気のせいか………それよりものび太くんだ!」

 

と、のび太を追って飛んでいった。

 

「あぶねぇあぶねぇ………」

『気を付けてよタケル君。石ころ帽子だって音や匂いは消す事が出来ないんだから』

「悪い悪い………それよりもレオは大丈夫なのか?」

「………痴話喧嘩中だよ」

 

通信機からは玲雄とサヤカの言い合いが聞こえてくる。

 

「みたいだな………。早くくっつけば良いのに………」

『しっ!痴話喧嘩に夢中でこっちのホットラインは気付いていないけど、二人の事は見守ろうって三人で決めたじゃないか』

「しばらく復帰はして来ねぇな………のび太の監視は任されよ!」

「頼んだよ、タケルくん」

 

タケルはのび太とドラえもんを追いかけ、東練馬の空を駆けた。

 

 

つづれ荘・壁掛けひみつ基地

特別対策本部作戦司令室兼事務室

 

タケルとのホットラインを切り、ため息をつくヒデキ。

気分転換にコーヒーサーバーからコーヒーを淹れ直して一口すすり、言い合いをしている従妹に目を向ける。

 

『何で僕ばかり『JBG』の餌食にするのさ!二度目は僕のせいじゃないじゃないか!』

「どうだか。小学生の下着を見て鼻の下を伸ばしているレオさんが悪いんじゃない!レオさん、静香おばあちゃんの事が大好きだもんね!ふんっ!」

『いや、そりゃ静香さんはサヤカちゃんのご先祖様だけあって可愛いけどさ!いくらなんでも僕はそういう趣味はないからね!』

「お世辞を言われても嬉しくありません!大好きな静香おばあちゃんの残り湯を堪能していて下さい!レオさん!」

 

ゴチーン!

 

『うわぁ!』

 

「えっと、タケコプター3台損害、石ころ帽子3つ損害っと………復元光線を使うから請求はしないけど、ホントに始末書を命じようかな………サヤカ君も本当に嫉妬深いなぁ…早くこの二人、くっつけば良いのに………」

 

ちなみに玲雄が邪推するヒデキとサヤカの仲だが、二人は完全に兄妹感覚で思慕の念は一切持ち合わせていない。

というよりも、意外と嫉妬深いサヤカの本性を知っているヒデキからしてみれば、時々シャレにならない事をするサヤカに少し引き気味だったりする。

もっとも、時々シャレにならない事をするのは先祖譲りだと、後に知るヒデキであった。※1

 

スネトの部屋。

 

「ムニャムニャ………最近、何か僕だけ影が薄くない?ムニャムニャ」

 

部屋のベッドでスネトが寝言を言っていた。

作品が違えばとある擬音が鳴っていたであろう。※2

 

続く




※1
時々シャレにならない事をする静香
顕著なのは『リフトストック』の時だろう。
知らなかったとはいえ、何とかキツい傾斜を登ってきたのび太がリフトストックと間違えて静香の足にしがみついた時………。
なんと静香はのび太の顔面に思いっきり後ろ蹴りで蹴り上げる。
いくらセクハラをされたと勘違いしても顔面蹴りはやり過ぎですぜ、静香さん………。

※2
メ○タァ!
ええ。そっちの方も早く続きを書かなければとは思っています。
そちらをお待ちの読者様には非常に申し訳ありません。
言い訳をすれば、キレイな心で書く必要があるドラえもんワールドを続けていると、性悪なあちらの主人公を書くにはメンタルを性悪&サイコパスに傾けなくてはならないので………


今回は結構重めの話だったので、タイムパトロール組にはオチ&ギャグ要員に徹して貰いました。
大長編になるまで、基本チョイ役ですしね………(^_^;)
それでは次回もよろしくお願い致します。

のび太の結婚前夜編についてのベースは?

  • STAND BY MEドラえもんルート
  • 旧のぶドラ映画版ルート
  • その折半ルート
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