また、のび太の結婚前夜についての進行は「STAND BY MEドラえもん」でいくか、のぶドラ劇場版「のび太の結婚前夜」でいくかをアンケートしていますので、よければ投票お願い致します。
青空が澄み渡るある日の街中の交差点にのび太はいた。
信号待ちをしていたが青に変わり、通りゃんせのBGMと共に歩行者の波が動き出す。
のび太もその流れに乗って歩きなから、ウキウキと笑顔を浮かべている。
その手には「どらや」と書かれたビニール袋がぶら下がっている。
「ドラえもん喜ぶぞー!早く帰ろっと」
のび太は横断歩道を歩きながら、ビニール袋を開けて独り言を言う。
ドラえもんがやってきてから数日。のび太とドラえもんの仲は日を追うごとに良くなっていった。
「どらや」はのび太が住む町の中では美味しいと評判の店で、のび太の脳裏には喜ぶ彼の顔が浮かんでいた。
そんな彼とすれ違うように風呂敷を首に回して背負った老婆とすれ違う。
「あっ!」
老婆に気が付いたのび太は歩行者用の信号の方に目を向けると、青信号は点滅を開始していた。
「信号が変わりそうだ」
のび太は老婆の風呂敷を少し持ち上げ、老婆にかかる負担を小さくする。
「大丈夫ですか?」
「すまないねぇ………」
のび太は老婆の補助をしながら横断歩道を渡りきる。
「ありがとう、ボウヤ」
老婆は振り返り、笑顔をのび太に向ける。
「あなたは良いお婿さんになるよ。じゃあね」
互いにいい気分になって別れるのび太と老婆。
多少のお世辞もあったのだろうが、往来が多い中で、唯一助けてくれた優しい少年に対する感謝の言葉の大部分は老婆の本心からだろう。
「イヤァ〜。お婿さんだなんてぇ」
老婆に褒められ、すっかりその気になってしまったのび太は、顔を真っ赤に染め、わかり易いほどデレェ〜っと顔を崩す。
元々しまりのない顔が余計にしまりがなくなってしまっている。
静香との幸せな結婚生活を送っている妄想でもしているのだろうか?
デレデレの顔のまま、帰宅しようと横断歩道を渡ろうとしたところで気が付く。
元々信号が点滅したことに気がついて老婆を助けたのだ。
「ん?赤になっちゃった………」
信号はすっかり赤へと変わってしまっていた。
丸々一回分、信号待ちを余計にしなければならなくなったのび太であったが、そんな事は気にしていなかった。良い事をした後の清々しい心地に比べれば、信号の待ち時間が増えたことなど些細な事だ………と。
いまだにデレデレクネクネと一人タコ踊りをしているのび太の姿を、背後の雑居ビルから見下ろす存在がいた。
毎度お馴染み特殊任務中のタイムパトロール隊員、日野玲雄と剛田タケルである。
「いつまでクネクネしているんだ?アイツは………」
タケルの言う通り、傍から見ていれば気持ちが悪い表情と仕草をしているのび太。まだ幼い子供だから微笑ましいものなのだが、これが成人した男の仕草だった場合、良くて怪訝な顔をされ、悪ければ通報されてしまうだろう。
それほどのび太のクネクネは不審者そのものの動きであったのだが、タケルの表情はすこし優しげだ。
「勉強もダメ、運動もダメ、芸術的なところも壊滅的………根性もないし、ケンカも弱い。数字的なモノは軒並み悪い人だけれど………こういうさり気ない優しいところがあるから、のび太君は憎めないんだよな」
玲雄達がドラえもんやのび太の行動を見守るようになってから短くない時が流れた。
それなりの時間を見守ってきた彼らには、既に野比のび太の人となりは理解してきているし、一方的であるとは言え愛着も湧いてくる。
玲雄が言うように、のび太は何をやらせても上手くいかない。当初はコレが自分の先祖だと思いたくなくなる程に欠点だらけだ。
しかし、そののんびりとした性格はどこか憎めない。
そして、最大ののび太の良い所は基本的にどこまでもお人好しであるところだ。
そういった所は今回の老婆に対する優しさであるところだろう。
「そうだな。色々迷惑をかけられるけど、のび太は良い奴だ」
最近では他のチームメンバーもそれがわかってきているのか、『刷りこみたまご』の時のようなワリとシャレにならない行動を起こしたとしても、『バカだなぁ………のび太は………』程度で本気で怒り心頭になる事はない。
最近では距離が縮み、遠慮がなくなったドラえもんが、時折「おまっ!そこまで言う!?気持ちはわかるけど!」と言いたくなる毒舌が炸裂するので、それでスカッとしているのかも知れないが。※1
信号が青になり、ルンルンと鼻歌を混ぜて小躍りしながらのび太は横断歩道を渡る。
今日も東練馬は平和だった。
『虫スカン事件』の夜、野比のび太の未来は源静香と結婚する未来にかわった………と思われていたが、実際は少し違った。
ジャイ子と結ばれる未来と静香と結ばれる未来は、実は微妙な匙加減でどちらに傾くか分からないシーソー状態だった。
そこでのび太は静香との婚約した少し前の様子をタイムテレビで見たのび太。
そこには静香に雪山登山へ誘われていた青年のび太の姿が映っていた。青年のび太はそれを断る。
そして登山当日、大人静香は一緒に遊びに来ていた友人達とはぐれてしまい、遭難寸前していた。
肝心の青年のび太は運悪く風邪をひいていてダウン。
そこで少年のび太は『タイム風呂敷』を使用して大人のび太になりきり、静香を救出し、好感度を稼ごうとする作戦を立てる。
いつもの見切り発車なのだが、結果は………やはりいつも通りであった。
そもそも、遭難者の救助などという行為は大人でも簡単な事ではない。山岳救助隊という専門のプロが存在するほどだ。
それが知識も専門訓練を受けていない素人………しかも中身が子供………更に失礼な事を言えば『あの』のび太が救助に向かったところで結果はお察しと言うところだ。
格好良く大人静香を救助するどころか、見事にのび太の自滅のオンパレード。逆に静香に助けられてしまう始末だった。
しかし、その時静香は言った。
『本当にのび太さんは変わらないわね。放っておいたらどうなってしまうんだろうってハラハラしちゃう。良いわ。この間の話、オッケーよ』………と。
後にわかるが、それは雪山登山の少し前に青年のび太が静香にプロポーズをしており、静香はそのプロポーズを受け入れたという内容だった。
言った直後、静香は倒れてしまう。その時、少年のび太はそこにはいない青年のび太に呼び掛ける。『この時の事を思い出せ!』っと叫ぶ。
その時、本当にのび太の声が届いたのか、スノーモービルに乗った青年のび太が現れ、静香を救出することに成功する。
もちろん、この時青年のび太を動かしたのは玲雄達だったのは言うまでもない。※2
後日、タイムテレビで改めて静香と青年のび太の婚約のやり取りの様子を見ていたのび太達(と玲雄達)。静香は『あたし、のび太さんと結婚するわ。そばに付いていないと、危なっかしくて見ていられないなら………』と、静香の逆プロポーズのような形が映っていた。
少年のび太はこの結果について不満を持っていたようで、ドラえもんは『もっとマシな未来になるように頑張るんだね』と言って締めくくられる。
しかし、玲雄達は知っている。のび太と静香の緊急事態だったという事もあり、当然虫スカン事件の時と同様に『非常事態対応』が適応される。
非常事態対応=あらゆるひみつ道具の使用が許される=さとりヘルメットの使用許可が下りる………という事になる。
静香が洞窟で『ハラハラしちゃう』と言っていたときの心情は、元々持っていた静香の強い母性本能をくすぐられた事による言葉通りの意味もあっただろう。
しかし、それ以上に危険を顧みずに静香を助けに現れてくれた、変わらないのび太の優しさが何よりも嬉しかった事が大きい。
実際に駆け付けたのは少年のび太だったのだが、最終的に(玲雄達が暗躍していたとはいえ)静香を救出したのは青年のび太だった。
玲雄達も陰ながら手助けをしたが、その手助けは青年のび太が過去の自分の行動を思い出させる事と、静香が遭難している地点にたどり着くまでの障害を排除しただけ。
実際に行動を起こす勇気を奮い立たせ、実行を決めたのは青年のび太自身だ。
素人がひみつ道具を使わず、少年のび太のように二次災害に見舞われる可能性がある中、行動を起こせる勇気を奮い立たせるのがどれほど難しいか………。
この頃ののび太は未来は簡単に変わってしまう事を知っていた。
自分が知っている過去の通りに事が起きているとは限らず、雪山に行っても徒労で終わってしまうかも知れない。
二次災害に巻き込まれるかも知れない。
最悪は静香もろとも………。
青年のび太はそれを考えなかった訳ではなかった。それでも行動に移すことが出来た。
静香は事実はどうあれ、野比のび太の本質に心から惹かれた。
『危なっかしくて見てられない』のび太だったからこそ、危険を顧みずに自分を助けに来てくれたのび太の優しさと、本当の勇気に心を奪われた。
もちろん玲雄、タケル、スネトの3人はこの結果に度肝を抜かされた。
しかし、サヤカだけは静香の心情を理解する。
サヤカ曰く。『もし、子供ののび太さんの目論見通りにしずかおばあちゃんを颯爽と救助する事が出来ていたら、結果は子供ののび太さんが考えていたのとは違った結果になっていたかも知れないわね。失敗ばかりしたからこそ、しずかおばあちゃんは惹かれたのよ』と言っていたが、玲雄達にわかるわけもなく………。
理由を聞いても、『女の勘よ。こういうのは理屈じゃないの。説明しても理解できないわ』と詳しく説明をしてもらえなかった。
『女の子が考える事って理解できないや』
と玲雄は首を捻ったが、それがわかるのならば、玲雄とサヤカの関係は大分違ったものだっただろう。良いか悪いかは別として。
結果はともかくとして、これでのび太と静香の未来はこれでより強く固まった。
それは玲雄の異変がより強くなることを意味するが………。
(まぁ、結果は受け入れるさ………どんな結果になっても)
この日、日野玲雄の運命が確定することになる事を、今は誰も知らない………。
日野玲雄に『幸せのドア』が開かれることは………果たして来るのだろうか?※3
続く
※1
意外に毒舌なドラえもん
原作のドラえもんは時折、「お前、慰めるどころかむしろトドメを刺してね?」と思える程の毒舌を炸裂させる時がある。
特に酷いのが、のび太が実力で100点をとった時の一言。
「ああっ!ついにカンニングしたか!」
おまっ、さすがにそこは褒めてやれよ!
※2
雪山のロマンス
STAND BY MEドラえもんでは青年のび太が都合よく現れた結末で終わった雪山のロマンス。
このご都合主義な結果に玲雄達をぶつけました。
※3
幸せのドア
映画、『のび太の結婚前夜』に使用された主題歌。
『何時間歩いても 話しても 温もりを感じる』
この歌詞から浮かび上がる情景を想像したとき、白い背景の並木道をゆっくりと話しながら、穏やかに散歩デートをしている大人のび太と大人静香の姿が浮かんで来ました。
それでは次回もよろしくお願い致します。
玲雄の結末は………
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