とあるタイムパトロール隊員の特殊任務   作:本城淳

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第2話です。


不可解な現象と幼馴染み

22世紀

タイムパトロール機動第3課

 

東京都新宿区東京都都庁

タイムパトロール日本支部

機動第3課オフィス

 

タイムパトロール機動第3課。この部署はタイムパトロールの機動隊と言えば聞こえは良いが、主な任務は時間旅行先で帰還不可能な事態に陥ったり、行方不明者の捜索をしたり等、時間に関係する軽度のトラブルに対処や巡回パトロールをする部署である。

警察組織における地域課などの仕事を担当するのが第3課の仕事である。

ニュースに出てくるような歴史の改編に関わる重度の時間犯罪者逮捕で活躍している花形部署は、機動第1課の管轄だ。

日野怜雄は、花形部署とはかけ離れた第3課に配属された若手隊員だ。

中肉中背の丸顔。不細工ではないが、かといって美形でもない。特徴らしい特徴は無く、学生時代の成績はあまり良くなく、その反面運動神経は良い方で、その体格に似合わないバカ力だったりする。

研修学校時代での体力テストの成績も悪くなく、花形部署の第1課からも打診が来るほどだったのだが、玲雄は敢えて第3課へと配属希望を出した変わり者だ。

その変わり者の玲雄は現在、始末書と格闘していた。

理由は今日のパトロール中、タイムマリンの操縦を誤り、不時着事故を起こした為だ。※1

事故そのものは単独事故で、大事にはならなかったし、エンジンにダメージを与えてしまったこともタイム風呂敷で即刻処理して事なきを得ている。

しかし、事故を起こした事は事実。だから玲雄は始末書を書いているのである。

 

「うーん……うーん………」

 

前述の通り、学生時代の勉強がお世辞にも良くなく、3流大学をギリギリで卒業した玲雄は、始末書を書くのに苦戦していた。

そんな怜雄の肩を誰かの腕が回ってくる。

「チッ!このクソ忙しい時に………」と内心毒付きながらも、玲雄はその相手の顔を見る。

熊みたいな体格に、筋肉太りで一見肥満に見える大男。

玲雄もよく知る顔だった。

 

「よぉ、レオ。始末書ご苦労さん」

「何だジャンボか……」

 

第1課に配属された剛田タケル。

玲雄とは幼稚園時代からの幼馴染みであり、同期だ。

ジャンボとはタケルが幼い頃から友人達に呼ばれていたあだ名であり、大人になった現在でも親しい友人達からはそう呼ばれている。

 

「おいおい。ジャンボは止せよ。弟も近所のガキどもからそう呼ばれているんだぜ?大体、お前やスネトのせいで機1でもからかい半分で呼ばれてるんだからよぉ。今年入った後輩からも『ジャンボ先輩』とか呼ばれてたまらないったらないぜ」

「僕にとって、ジャンボはジャンボだよ。良いじゃないか。慣れ親しんだあだ名で呼ばれ続けるんならば、君だって本望だろ?次のリサイタルはいつなんだい?」

「頼むから人の黒歴史をエグルのはやめてくれ………」

 

タケルは高祖父の武と同様、歌を歌うのが趣味であり、一緒にカラオケに行こうものなら地獄を見る。

一度マイクを持ったら最後、本人の気が済むまで何があっても手放さない。

それで歌が上手ければまだ救いようがあるのだが、先祖代々の血筋故か、その歌声は殺人音波そのもの。

タケルが配属されて間もなく開かれた歓迎会以降、機1慰安旅行は『どこでもドア』で現地集合現地解散。忘年会などの飲み会でもカラオケが無い会場を選定されるのが暗黙の了解となっている。

もっとも、その歓迎会で歯に衣着せぬ上司からハッキリと音痴を指摘され、自覚して以降はなるべく歌を控えるようにしているのだが。

ちなみに最初に歌うのは、剛田家伝統の『俺はジャンボ様だ』だ。

 

「またスネトやサヤカちゃんを誘ってカラオケでも付き合ってあげるよ。たまには人前で歌いたいだろ?」

 

玲雄がそう言うと、タケルの目は潤み………

 

「おおっ!流石は俺の心の友!」

 

と言って暑苦しく抱き着いて来る。感激するとやってくる彼の悪い癖だ。

 

「アタタタ!やめろって!今は勤務中だぞ!」

「えへへへ………悪い悪い」

 

玲雄が指摘すると、タケルは後頭部を掻きながら下を出して謝り、離れる。いわゆるテヘペロというヤツだが、美少女ならばともかく大男のそれは少々気持ち悪い。

玲雄は内心『うえっ!』と思いながら、コホンと咳払いをして姿勢を直す。

 

「それで?ジャンボは何の用でウチに来たんだ?雑談目的なら仕事上がりの後にしてくれよ。見ての通り、忙しいんだからさ」

 

幼馴染みの親交を深めるのは構わないのだが、今は就業中だ。ましてや今は苦手なデスクワークをしている最中で、タケルの暇潰しに付き合っている場合ではない。

 

「いや、機3の先輩から聞いたんだけどよ、その始末書はわざわざ自主的にやっているみたいじゃないか?タイム風呂敷を使ってタイムマシンや事故現場は元に戻したんだろ?先輩だってわざわざそんな物を書かなくても良いって言ってたらしいじゃねぇか」

 

そう。始末書は命令されて書いているものではなく、自主的に作成しているものだ。

 

「そんな子供じみた誤魔化しをしても、ドライブレコーダーを調べられたらすぐにバレるよ。そうなったらそっちの方が処分が重くなるじゃないか。それに、『人の心に誠実であれ、人の心に真面目であれ、人の心に優しくなれ』と言う日野家の家訓は知っているだろう?バレなければ良いなんて、不誠実な真似は出来ないよ」

「お前のそれは、単にクソ真面目ってだけだろう?そう言うところはいつまでも変わらねぇなぁ」

「ほっといてくれよ。わざわざそんな事を言うために来たのか?」

「いやいや、これでも俺は心配しているんだぜ?心の友が落ち込んでいるんじゃねぇかってよ。タイムマリンの操縦で事故るなんてお前らしくないだろ?」

 

確かに玲雄がタイムマリンの操縦を誤るのは珍しい事だ。

自動車の運転だって、免許を取って以来、無事故無違反を誇っていたのに………

 

「それは………」

「あら?レオさんにタケルさん。何の話をしているの?」

「サヤカちゃん………」

 

タケルと玲雄の会話に入って来たのは出木杉サヤカ。

機3のオペレーターを務める部署のマドンナ………いや、日本タイムパトロール隊のマドンナと言っても過言ではない美少女で、彼女に憧れている隊員は少なくない。

人手不足に悩まされるタイムパトロール本部としては、広報部に配属して広告棟になってもらいたいと考えていたのだが、本人は現場勤務を希望し、この機3に配属されて来た。

本部がサヤカを広報部に推すのも無理はない。

何故なら彼女は時間物理学者の第一人者、出木杉ヒデキとは同い年の従兄弟同士の関係。時間関係を扱う有名人の身内に持つ彼女がタイムパトロールにいる………と言うのは良い宣伝となるだろう。

しかし、彼女は『出木杉ヒデキの従兄妹』という肩書きを利用される事を非常に嫌う。

ただし、勘違いしないで欲しいのは、別にサヤカは出木杉ヒデキという個人を嫌っている訳ではない。それどころかヒデキは留学するまでは玲雄やサヤカ達と共に幼少期を過ごしており、むしろ仲が良く、そして尊敬もしている。

嫌いなのは前述通り、ヒデキの従兄妹の肩書きを利用される事と、それを企む人物。そして、彼と自分を比較する人が嫌いなのだ。

確かに高祖父、天才・出木杉英才以来、あらゆる分野でエリートを排出してきた名門出身というだけあって、ありとあらゆる方面で才能がある。一般のレベルと比べれば優秀だ。

しかし、優秀すぎるヒデキや代々の出木杉家が排出してきた天才達と比較してしまうと、見劣りしてしまう。

『優秀には変わらないけど、エリート一族の出木杉出身にしては普通』

それがサヤカに付いた周囲の評価だ。

それによってサヤカはコンプレックスを持ってしまっている。

もちろん、その周囲には親族は含まれない。人格者揃いの親族達はヒデキとサヤカを差別などしないし、平等に愛情を注いでくれたので、親戚付き合いに不満はない。

不満なのは勝手にサヤカに過度な期待をし、勝手に失望してくる人物達に対してだ。

そんな彼女は出木杉の名前が付いてまわるエリートコースに進むことはなく、タイムパトロールの一般隊員として入隊した。

そう………彼女の出身大学からしてみれば、キャリア組として入隊できる物を、敢えて一般のパトロールとして………だ。

玲雄にとって分からないのは、広報部は嫌だったとしても、サヤカの頭脳と運動神経ならば配属希望などどこでも通るだろうに、何故か機3を希望したことだ。

以前、怜雄が理由を尋ねると、「私を出木杉の娘じゃなくて、出木杉サヤカとしてきちんと見てくれる人の側で働きたかったからよ。玲雄さんの鈍感」という回答が返ってきた。

 

「それがよ、サヤカちゃん。聞いてくれよ。レオの奴がタイムマリンで事故ったらしくてさ」

「ええっ!?レオさんがタイムマリンで事故!?大丈夫だったの!?」

 

玲雄が事故をしたと聞き、本気で心配そうに身を乗り出してくるサヤカ。

 

「それが、操縦中にいきなりみんなの姿が消えてさ………焦っていたら、時空間の外に出ちゃって………その時空間の外に出て不時着しちゃったんだ。不思議だったのが、外の世界は荒れた20世紀でさ………見た光景が信じられなくて、しばらく呆然としていたら、次の瞬間には世界にノイズが走って元に戻っていたんだ……あんな光景は初めて見たよ」

 

ノイズが走って元に戻った後に、タイムマリンからは消えたはずの同僚達も同様に戻っており、玲雄に事故った事を心配してきた。

同僚達は、その現象を覚えておらず、「君は疲れているんだ。今日のパトロールは良いから、本部へ戻って帰りなさい」と主任に言われてしまった。

 

「だったらもう寮に帰って休めよ…でも、そっか………俺だけじゃなかったんだな?」

「タケルさんも?実は私も………」

 

話を聞くと、タケルもサヤカも空間にノイズが走った次の瞬間、荒廃して人が一人もいない世界が目の前に広がっていたという。

玲雄と同様に、しばらくしたら再びノイズが走り、元の世界に戻っていたらしいが。

あまりにバカらしい事に二人は周囲に黙っていたようだが、不気味な出来事だったので、気心知れた玲雄に相談しに来たとの事。

 

「みんなもか…何だったんだろう?」

「私やタケルさんだけならともかく、時空パトロール中のレオさんまでそうなっていたなんて、本当に不気味だわ」

「うーん。俺達だけならともかく、サヤカちゃんまでわからないのだったら、本当にわからねぇよな?ヒデキにでも聞いてみるか?」

「おいおい。ヒデキは忙しいんだから、こんな事で手を煩わせるワケにはいかないだろ」

 

ヒデキはとても忙しい。

時間移動の歴史が浅すぎて、ヒデキが研究しているテーマがあまりにも多い。自分達の下らない事に多忙な彼の手を止めるのは、人類の大きな損失に繋がる。

 

「いや、案外ヒデキも興味津々なのかもしれないよ」

 

と、機3の事務室に入って来た人物が3人に言葉をかける。

 

「スネトか?捜査課のお前がここに来るのは珍しいじゃないか」

 

幼馴染み5人組の最後の一人、骨川スネトだ。

 

「おいおい。捜査課はドルマンスタインの事で大忙しなんじゃないのか?こんな所にくる暇なんてあるのかよ?」

「こんな所で悪かったわね」

 

まるで自分の部署のように機3をディスるタケルに思わずつっこむサヤカ。

だが、捜査課が忙しいのは確かで、気軽に会える玲雄、タケル、サヤカの三人と比べると、スネトはアチコチの時代を飛び回っている状態で仲々顔を合わすことが難しい。

 

「僕も君達と同じ状況になってね。課長に言われて休暇を言い渡されたんだ」

「君もか………」

「まぁ、僕は君達と違ってエリートだからね。ほんの些細な事でも経歴に傷がついてしまうんだ」

「「「エリートじゃなくて悪かったな(わね)!!!」」」

 

スネトが時折鼻に付く余計な一言を言うのは幼い頃のクセだ。

成長につれ、その部分は鳴りを潜めてきたのだが、幼馴染み相手の場合は気軽さ、一種のじゃれ合いで出てくる悪癖だ。

 

「まぁまぁ、聞いてくれよ。今回の不可解な現象が起きたことで僕はヒデキに相談したんだ。彼は専門の時間物理学以外でも、色々な分野でも知識が豊富だからね。もしかしたら何か知っているかも知れない………と思ったんだ」

「どうせヒデキのお墨付きが出れば、自分の経歴に傷が少なくて済むとか思ったからだろ?お前が考えそうな事だ」

 

タケルが茶化すと、スネトはムッとして腕を組んでソッポを向く。

当たらずとも遠からず。

キャリア組の世界はどこの組織の上層部にもあるように、足の引っ張り合いが激しい。

少しの隙が致命的になったりするのだ。

 

「ヒデキさんは優しいから、こんな事で怒ったりはしないだろうけど、あまり邪魔をしてはダメよ?」

 

サヤカがスネトを嗜めると、今までおどけ気味だったスネトの表情が急に真面目になる。

 

「ヒデキが言ってたよ。『よく相談してくれた。君が知る限り、その現象を体験した人を集めて、僕の研究室まで連れてきて欲しい』だってさ。それが気心知れた君達で良かったよ」

「ヒデキがそんな事を?」

「心当たりがあるのかしら?さすがはヒデキさんだわ………」

「まじかよ………」

 

スネトの言葉に三者三様の反応を示す。

 

「今日はもう休暇を言い渡されたんだろ?だったら話は早い。早速、僕と一緒にヒデキのもとに行くとしよう」

 

そう言ってスネトは本部から三人を促そうとするが………

 

「ちょっと待って」

「どうした?」

 

玲雄が待ったをかける。

 

「書類がまだ終わってない」

 

始末書を指差して玲雄が席に座り直す。

 

「………」

 

玲雄に任せても終わらないので、結局始末書は書類が得意なサヤカが適当に体裁を整えて終わらせ、主任の机に提出した。

 

続く




剛田タケル
漢字で表記すると剛田尊。剛田武の直系玄孫の長男。
幼い頃にはジャンボと呼ばれ、幼少からの親しい友人からは今でもジャンボと呼ばれている。
実家は東京都を中心にチェーン展開されている『スーパーゴウダ』を代々経営しており、将来的には家業を継ぐと思われていたのだが、家業を嫌がり、実家を飛び出してタイムパトロールに入隊した変わり者。
容姿は先祖の武にそっくりで、幼少期は性格もジャイアンそのもの。
現在の性格は「大長編のジャイアン」
体を動かすのは大好きで、運動万能。
反面、学業の成績は悪く、玲雄と同程度。
趣味は野球、カラオケ。
しかしカラオケを趣味としながらも、その歌声は機動隊1課の課長曰く、『殺人音波兵器』

出木杉サヤカ
漢字で表記すると出木杉清香。
出木杉英才と源静香の玄孫(やしゃまご)
容姿は若き日の静香にそっくりで、玲雄達にとっては憧れの的。
玲雄、タケル、スネト、従兄のヒデキとは幼馴染み。
エリート家系、出木杉家の出身なだけあって、彼女の学力偏差値は高いのだが、優秀すぎる出木杉ヒデキの従兄という事にプレッシャーを感じており、大学卒業後はエリート街道に進まず、タイムパトロールに入隊。
『ヒデキの従兄妹』という目で見られ、過度な期待を寄せられることを何よりも嫌っている。
ヒデキの事はコンプレックスの対象ではあるものの、あくまでも嫌いなのは『過度な期待を寄せられる事と人』であって、ヒデキ本人とは別段不仲という訳でも無く、それどころか誰よりも尊敬している。

骨川スネト
名前の通り、骨川スネ夫の子孫。
実家が代々経営している骨川グループの御曹司だったが、父親とソリが合わずに大学進学を機に家を出て後、キャリア組としてタイムパトロールに入隊した変わり者。
エリートとして経験を積むために現在は捜査課で勤務。
小柄な体格にキツネ顔、特徴的な髪型は先祖のスネ夫譲り。

※1
タイムマリン
タイムパトロールが所持しているタイムマシン兼戦闘艇。
映画版、大長編によく登場するあれ。

ノイズとは何か?
出木杉ヒデキは何に気が付いているのか?
世界に何が起きているのか?
それでは次回もよろしくお願いします。

のび太の結婚前夜編についてのベースは?

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