とあるタイムパトロール隊員の特殊任務   作:本城淳

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野比のび太、未来へ行く

『ただいまぁ』

 

公園代わりに使っているいつもの空き地から自宅に帰ったのび太は、項垂れたまま階段を登り、自室に入る。

お土産に持ち帰ったどら屋のどら焼きをドラえもんに渡すと、ドラえもんはいたく喜んで「ありがとう!」と小躍りした。

元々外出していた目的がドラえもんのこの笑顔を見るためだったので、それ自体にはのび太も満足していたが、英才と静香の光景を見てしまった今はとても一緒に喜ぶ気分にはなれない。

のび太は重い足取りのまま勉強机に座ると両手で頬杖を突き、窓越しに空を見上げてボーっとしていた。

 

『いただきまーす』

 

ドラえもんはそんなのび太の様子には気が付かず、好物のどら焼きを美味しそうに頬張る。

野比家の屋根の上で待機していた玲雄とタケルがボソボソと会話を始める。

 

「あーあ。のび太くんの様子に気が付かずにどら焼きに夢中になっちゃって………」

「ドラえもんの好物はどら焼きなんだろう?特にどら屋のどら焼きはうめぇもんな。ドラえもんがのび太そっちのけでどら焼きにかじりつくのもわかる気がするぜ」

「食べたことあるような言いっぷりだね?」

「おう!この間サヤカちゃんが差し入れで買ってきただろ?その時にな!」

「なにそれ?僕、知らないんだけど?」

 

玲雄がジト目でタケルを睨む。それを聞いたタケルは「あ、やべっ!」と口が滑ったことを認める。

 

「ほ、ほら。どら屋のどら焼きって色々なバージョンがあるだろ?」

「あるだろ?って言われても知らないよ。まぁ、たい焼きにしても今川焼にしても、専門店ともなればバリエーションがいっぱいあるのは定番か。生ドラとか栗入りとかうぐいす餡|(あん)のどら焼きとか」

 

玲雄は一度もどら屋の中に足を踏み入れた事はないが、どら焼きが売りの店ならば、基本の餡のみならず様々なバリエーションのどら焼きがあるだろう事は想像に難くない。

 

「その1つに紫芋餡のどら焼きがあるって知ったサヤカちゃんが非番の日に買いに行ってな。そのついでにってことで普通のどら焼きを次の勤務日に差し入れをしてきたんだよ。でもその日はレオが非番だったから………」

 

焼き芋好きのサヤカならば紫芋餡と聞けば飛びつくのも頷ける。そのついでにお土産を買ってくるあたり、気配り上手なサヤカらしい。しかし、そのお土産を玲雄は食べていない。

 

「それで?僕の分まで残しておくのがマナーだと思うんだけど、食い意地の張った誰かが食べてしまったと。そういうのを一番やりそうな人、僕の隣にいると思うんだけど………どう思う?ジャンボ?」

「い、いやぁ。あまりにうますぎてつい………」

「つい………じゃないよ。本当に………」

 

この場所がのび太の部屋の上でなければ、たとえ負けると分かっていたとしても玲雄はタケルに飛びかかっていた事だろう。

それほど美味しいどら焼きが食べられなかったこともさることながら、「サヤカが買ってきたお土産が自分に届かなかった」という事実にショックを受けていた。

 

「悪かったって。今度、俺が買ってきてやるからよ。そんなに怒らないでくれよ」

 

単純に美味しいどら焼きが食べたいわけじゃないのでそれでは意味が無いじゃないかと言いたい玲雄であったが、この会話は本部のオペレーターであるサヤカにも聞かれているので口にすることができず、ため息をつくしかない玲雄。

 

『あれ~、食べないの?のび太くん』

 

そこでドラえもんも玲雄と同様にため息をつくのび太に気が付く。

 

『どうしたの?』

 

ドラえもんがそう聞くと、のび太は机に突っ伏す。

 

『生きてく自信が無くなった』

『ええー?』

 

唐突に変な事を言うのび太。

以前ならばそんな事を聞けば、慌てていただろうドラえもんも、今では慣れたもの。内心で『またか………』と思うくらいだ。

もちろんそれは玲雄達タイムパトロールの面々も同じで、この程度の事ではいちいち相手にしていられない。

これが野比のび太の日常の一部として受け入れてしまっている。

どうせこれはのび太がドラえもんに何があったのか、何か面倒な頼み事や道具を出して欲しいと頼む前振りに過ぎないのだと分かっているのだから。

 

『何があったの?』

 

とはいえドラえもんの役目はのび太のお世話だ。

面倒だとは思っていても、何があったのかを立場的に聞かない訳にはいかない。

 

『さっき空き地でね、しずかちゃんと出木杉が劇の練習をしていたんだ………』

『ああ、学芸会の』

 

のび太達が学芸会で劇をやることは当然、ドラえもんも知っている。

 

『まるで本当に愛し合っているみたいだった………』

『お芝居でしょ、それ』

 

苦笑いをして答えるドラえもん。

嫉妬に狂うのび太視線とはいえ、そうみえるくらい二人の演技が抜群である事に感心すら覚えるドラえもんからしてみれば、「なんだそんな事かぁ」くらいの感覚だろう。

だが、嫉妬する少年からしてみればそんな事で済まされる問題ではないようで………。

 

『笑い事じゃなぁぁぁい!』

 

と、突っ伏していた格好からガバっと起き上がり、怒りの形相でドラえもんに詰め寄り、その手から食べかけのどら焼きを奪い取る。そしてアグアグと食べながら………

 

『これがキッカケで2人は仲良くなって………しずかちゃんを取られちゃって!そしたら………僕の人生まっくらだぁ!』

 

と今度は泣き出す始末だ。

玲雄とタケルは「怒るか食べるか泣くか、どれかにしろよ」と聞こえないツッコミを入れる。

 

『大袈裟だなぁ………』

 

おそらくはドラえもんも「忙しいヤツだなぁ」と思っているに違いない。

 

「「まったくだ」」

 

屋根で聞いている2人もあぐらをかき、腕を組みながらウンウンと頷いている。

 

『大丈夫だよ!君達は将来、結婚することになっているんだから!』

 

下らないと思っていても、そこはしっかりとフォローするドラえもん。

 

『絶対?』

『そんなに言うなら、見てくれば?結婚式を』

 

ドラえもんは何気なしに言う。

もちろん、これは………

 

「過去の人に当人の未来を見せる為に未来へ連れて行く行為って………」

「航時法違反なんだけど………もう今さらなんだよね………何もかもが………」

 

航時法のアレコレを突っ込んだところで最初に残酷な未来を告げている段階でアウト。そもそも当人達は預かり知らない話ではあるが、ドラえもんとのび太の場合は色々な特例によってその辺りは黙認されているので、この場合も特例で済んでしまう可能性は高い。

つづれ装のセーフハウスでその様子を見ていた時間科学の第一人者であるヒデキは特例が終わったあとはセワシとドラえもんにはしっかりと航時法について勉強してもらわないといけないな………と考えている様子である。

 

『えーー!』

『手っ取り早いと思うけど?』

 

いきなり出されたドラえもんの提案に大声をあげるのび太。

第三者であるドラえもんからしてみれば確かにそうなのだろうが、自身の未来の結婚式を見に行くなんていきなり言われたのび太からしてみれば寝耳に水どころではない一大事だ。

大声を上げてしまうのも無理はない。

 

『ねぇ!もししずかちゃんのおムコさんが、出木杉だったらどうしよう!』

 

縋り付くのび太。

 

『そこまでは責任もてないよ』

 

そんなのび太をグイッと押し返し、困り顔で返答するドラえもん。

些細な事で変わってしまうのが未来だ。ドラえもんにそこまで責任を持つ義務はない。

のび太もそれがわかっているのか結婚式を見に行くかどうかで迷い、シュンとなる。

そんなのび太を尻目にドラえもんはオヤツタイムを切り上げてのび太の机の引き出しを開く。

のび太の机がドラえもんの持つタイムマシンの入口だ。

ドラえもんは早々に超空間に入り込み、その大きな顔だけを出す。

 

『行くの?行かないの?』

 

のび太はしばらく考えてから………

 

『行く!』

 

と言ってドラえもんの後を追う。

 

「ちょっ!本気で行くのかよ!」

 

たまらないのがのび太に張り付いている玲雄とタケルだろう。

 

「そこまでの度胸がのび太君にあるなんて思わなかった!」

 

臆病なのび太にそんな度胸があるなど思っていない2人は、どうせ行かないだろうとタカを括っていた。

 

「ヤバい!アパートに戻らないと見失うぜ!?」

「どこでもドアは持ってきていたっけ!?」

 

アタフタし始める二人の機動隊員。

 

『二人ともそのままのび太君の机の中に入って!タイムマリンで迎えに行くから!』

 

スネトの声が響く。

 

「でもスネトは大型タイムマリンのライセンスが………」

 

タイムパトロールが扱うタイムマシン………タイムマリンには組織内のライセンスが必要となる。

スネトもサヤカも小型のタイムマリンならばライセンスを持っているが、大型のライセンスは持っていない。

 

『こんな事もあろうかと、音声自動操縦装置を付けていたんだ。へへん。やっぱり僕ちゃん、天才だね!』

 

得意気に語るスネトだったが………

 

『それでもライセンスは必要なのよ?スネトさん』

『まぁ、今回は緊急時となるから大目に見るけどね………幹部なんだからタイムパトロール法はしっかりと覚えておいてよ。スネト君』

 

出木杉姓の2人にツッコまれるスネト。

どこかツメが甘いのは先祖のスネ夫譲りなのか………。

 

「とにかく急がないと!」

 

玲雄とタケルは鍵がかかっていないのび太の部屋に侵入し、のび太の机の引き出しを開ける………が。

開けた引き出しの中身は時空間トンネルではなく、のび太の文房具やらが整理整頓が不十分で散らかっている汚い引き出しの中身だった。

 

「「スネト………?」」

 

2人がハモって冷ややかな声をかける。

 

『迎えに行くって言ったって、まずは僕達がタイムマリンに乗り込まなければいけないんだから………』

 

普段、玲雄達のタイムマリンは「壁掛け秘密基地」の駐機スペースに停めてあり、ドラえもんのタイムマシンのように常に時空間に置いてあるわけではない。

のび太の机が時空間トンネルに繋がっていないのは当然の話であった。

 

『………今回の教訓として、まずは「どこでもホール」か「どこでもドア」でいつでもすぐにタイムマリンに乗り込めるようにしておいた方が良いと思うな。それにレオ君達も、そのあたりの秘密道具は常備していてね?いつ必要になるのか分からないんだからさ』

 

ヒデキの呆れた声に3人は………

 

「「『すみませんでした………』」」

 

と頭を下げるしか無かった。

 

『ドラえもん君のタイムマシンには発信機を取り付けてあるから大丈夫だよ。2人が未来に到着した直後に行けば良いんだから。さすがに時空トンネル内で何かあった場合までは責任もてないから急いだ方が良いことには変わりないけどね………』

 

さすがは英才の再来と言われているヒデキ。

やることにソツがない。

それからしばらくして、のび太の机と玲雄達のタイムマリンが繋がり、5人は合流を果たすことが出来るのであった。

 

続く。

のび太の結婚前夜編についてのベースは?

  • STAND BY MEドラえもんルート
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