とあるタイムパトロール隊員の特殊任務   作:本城淳

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出木杉ヒデキに呼ばれた骨川スネトとその幼馴染み達。
共通点は謎のノイズ。
世界に何がおきているのか!?


出木杉ヒデキと衝撃の事実

航時局。

タイムマシン発明以来、時間旅行に関する法律『航時法』を制定、その管理・施行を主な任務にしている公的機関だ。

タイムパトロールも、航時法をもとに運用されている。ある意味でタイムパトロールは航時局の下部組織とも言える組織であろう。

その航時局もいくつか施設を創り、民間に研究委託をしている。

その1つが『時間物理学研究室』であり、出木杉ヒデキはそこで研究室の1つを任されている。

20代前半の年齢で、それだけの待遇をされているあたり、彼がどれだけ期待されているかがわかるだろう。

 

「いつ来ても、この広さにはビックリさせられるわ」

 

身分証明、ボディチェックが終わり、一歩施設に踏み入れた出木杉サヤカの第一声がこれだった。

富士山頂上まで建築物が所狭しと並ぶ22世紀。※1

壁掛け秘密基地など、狭い土地を空間圧縮する事によって有効活用している現代。

外部から見れば21世紀初頭の交番程度の広さしかないように見えるが、一歩中に踏み入れれば、まるで夢の国のようなだだっ広い。

それもそのはずで、交番程度の広さの建物は守衛所であり、研究所そのものは日本にはない。

世界のどこからでも守衛所の『定点どこでもドア』から施設に入れる仕組みになっている。※2

外部の人間が研究施設に入るには、各地の守衛所のどこでもドアから入るのが一般的だ。

玲雄達がどこでもドアから出て研究所の敷地に入ると、車が横付けされ、研究員が降りてきた。

 

「やぁ、君達。待っていたよ」

 

爽やかな笑顔でスネト達を迎え、手を差し出すヒデキ。

代表してスネトがヒデキと握手を交わす。

スネトが終わると、タケル、サヤカ、玲雄も順番に握手。

 

「ヒデキ!久し振りだな!元気だったか?」

 

タケルが尋ねると、ヒデキは苦笑いを浮かべながら

 

「相変わらず忙しいね。僕も木手博士もてんてこ舞いさ。何も考えずに君達と公園を駆け回っていた頃が懐かしいよ」

「ヒデキさん、また少しやせた?」

「アハハハ。気を付けてはいるんだけどね」

 

サヤカがヒデキの様子を心配するのを見て、玲雄がヒデキの顔色を窺うと、確かに以前に会った時よりも少し痩せていて、顔色も悪かった。

 

「君も少しは休まなくちゃダメだよ?」

「研究が面白くて仕方ないのさ」

 

研究が面白く、熱中のあまりに何日も徹夜をしていた………なんて言うのはよくある話だったりする。

 

「それで、今日はどうして僕達を?普段なら、研究所まで呼ぶなんて事はしないじゃないか?」

 

ヒデキは時間物理学の第一人者で、研究所の中ではそれなりの地位にいる存在だが、決して公私混同はしない。

親しい友人である玲雄や親戚のサヤカが相手でも、職場に人を呼ぶなんて事は余程の事がなければやらない。

 

「とても大事な話なんだ。今日、発生したノイズの事でね…詳しいことは僕の研究室で話すよ。案内するから乗ってくれないか?」

 

ヒデキが乗車をすすめると、自動車の扉が開き、玲雄達は車に乗り込む。

車はフワリ………と浮かぶと、そのまま前進を始める。

そのハンドルを握るのは持ち主のヒデキ。自動運転が今は主流なのだが、マニュアルもできるようになっており、モータースポーツも興味があるヒデキは普段の移動でも好んでマニュアルで運転している。

 

「いやぁ、良い気分転換だよ。軽いドライブ気分だ」

「本当に何でも趣味にしてしまうな。君は」

 

鼻歌混じりに運転するヒデキ。

助手席に座っている玲雄は笑う。

珍しい場所を移動している関係から、周囲をキョロキョロ見渡す玲雄。

 

「記念に写真や動画に撮りたいくらいだよ」

「この辺りまではまだ大丈夫だから、自由に撮って良いよ。でも、撮影禁止区域もあるから注意をしてね」

「撮影禁止区域?」

「ここは各国公営の研究機関だからね。一般に公開できない事も色々あるんだ。君達なら心配いらないとは思うけど、今の段階では一般に公表できない事も色々とあるから」

「そっか………みんなと一緒にいるから、つい気を抜いちゃうけど、ここはそういう場所だったね………」

 

玲雄がそう言うと、ヒデキは柔らかな笑顔を彼に向けて………

 

「僕を出木杉ヒデキ個人として自然体で接してくれる………僕は君達のそういう所が………サヤカちゃんが羨ましいな」

「ん?ヒデキ?」

「何でもないよ。君達とはいつまでも仲良くしたいって思っただけだよ。レオ君」

 

ヒデキの言葉を聞いて、キョトンとする玲雄。

 

「当たり前じゃないか。何を言ってるんだよ」

 

出木杉ヒデキ博士ではなく、あくまでも出木杉ヒデキ個人として接してくれる貴重な存在。それは、親族以外では数少ない存在であり、彼にとっては何物にも代えられない宝物だった。

 

 

時間物理学研究室の応接間。

 

「君達に見てもらいたいのはこれだ」

 

ヒデキが自分の執務室から取ってきた端末から呼び出したデータは………

 

「航時局に提出された時間旅行申請?」

 

それは航時局に申請されていた何でもない時間旅行の申請書だった。

それも…

 

「何だこの時間旅行申請者。『野比セワシ』って言ったら、弟の同級生じゃないか。まだ小学生の申請書がどうしたんだよ?」

 

タケルがそう言うと……

 

「ジャンボ。内容をよく見なよ。『借金苦に苦しむ先祖代々の生活を改善する為、その原因になる野比のび太の未来を変えるサポート』だってさ。バカバカしい。これは立派な過去改変だよ。棄却して当然の内容さ」

 

スネトがバカバカしいと断じている通り、こういう内容の時間旅行は航時法で禁止されていた。

 

「セワシくんの環境は可愛そうだとは思うけれど………でも、こういうのをいちいち許可していたら、キリがないわ。そのうち歴史の重要な事柄が変わっちゃうわよ………」

 

タケルとスネトの弟の幼馴染みという事もあり、ヒデキも含めて野比家の事情はよく知っていた。

特にスネトは野比家の莫大な借金を代々肩代わりしており、その返済の目処はまったく立っていない。

セワシが現状を嘆いてこの申請を出した気持ちはわからなくもないが、この過去改変は安易に許可を出せる案件ではない。

心優しいサヤカや玲雄としても、野比家に同情はしても、申請内容を肯定する気にはなれなかった。

サヤカが言うように、野比家のような状況に陥っでいるのは野比家だけではない。いちいち取り合っていたならば、歴史がメチャクチャになってしまう可能性が高い。

そして、一度例外を出してしまえば、「じゃあ我が家も」という家が後を絶たなくなり、キリがなくなってしまう。

野比家の現状は可愛そうだが、この申請を許可するわけにはいかないのだ。

 

「うん。この申請を担当した航時局の職員もそう思って不許可の判定をしようとしたんだ。ところが………その最終決裁をしようとした瞬間に起きたのが、あの現象なんだ………」

「あの現象………って………」

「『ドラえもん』君を過去の改変に向かわせなければ、世界が滅ぶ何かが起こるって事さ。これは『木手博士』の見解だけどね」

 

木手博士とは出木杉家と同様に、木手栄一という秘密道具の原型を発明した人物を始祖にして発明一家として名を馳せている一族の子孫だ。※3

木手家の子孫、木手エイジはヒデキと昔なじみであり、ヒデキは歴史改編の事例を色々と聞いていた。

木手栄一はタイムマシンの原型、航時機を発明したのだが、過去改変による歴史の修正力をもってしてもどうにもならないことは多々あるらしく………

 

「『ドラえもん』を過去に送らなければ、世界が滅ぶ何かが起きてしまう………という事?」

「残念ながら………ね。そして、さっきの現象を知覚できたのは、僕と君達だけなんだ」

 

確かにノイズの一件に関して、それを覚えているのはヒデキと玲雄達、それに航時局の担当者だけだった。

 

「何で俺達だけ?」

「それは………何で?」

 

ヒデキは目を閉じて黙って首を振る。わからない………という事なのだろう。

 

「それで………僕達を集めた理由はなんだい?」

 

スネトはヒデキに尋ねる。野比セワシの申請が世界の存亡に関わる何かに関係しているのがわかった。それとノイズの知覚。それが何の関わりがあるのか………。

 

「それにおかしい。ドラえもんが過去に介入したのなら、何故今をもってして野比家は貧乏なんだ?」

「それもわからない………『ドラえもん』を送った結果を持ったとしても、野比家の運命は変わらなかっただけなのか………」

 

ヒデキは俯かせていた顔を上げ、玲雄達の目をしっかり見る。

 

「君達を呼んだのは、それを調べに行って欲しいんだ」

 

ヒデキが彼らに伝えた案はこうだ。

セワシの申請は棄却せず、野比家の要望通りにドラえもんを野比のび太のもとへ送り込ませる。

玲雄達は20世紀に送り込まれたドラえもんの行動を逐一監視し、原因を突き詰める。

ドラえもんのひみつ道具使用及び時間移動に関しては、重大な歴史改編に関係しない限りは極力黙認する。

玲雄達はドラえもん達の行動の安全を図ると共に、事件よって発生する歴史の改変のフォローに尽力する。

 

これ等の決定が航時局やタイムパトロールによって秘密裏になされたことをヒデキから伝えられる。

 

「安心して欲しい。事情を知っている僕も、極力アドバイザーとして協力することを約束するよ。ノイズを知覚できた人達の中で、信用できるのは君達だけなんだ!」

 

歴史の改編を黙認する。

それは航時法の下に時間移動を管理するタイムパトロールにとっては黙っていることが出来ない内容だった。

沈黙が支配する応接間。それを破ったのは玲雄だった。

 

「………やろう」

「レオ?」

 

真面目さに定評がある玲雄から出た言葉に驚くタケル達。

 

「だってそうだろ?確かに航時法は大切だよ。でも、航時法だってそれを扱う人間が滅んだんじゃ、意味がないじゃないか。そんな一大事を放っておくことなんか出来ないよ!」

 

大義名分としてはそうだが、玲雄は自覚こそしていないがお人好しだ。

玲雄もセワシの事は知っている。

野比家は不幸だが、その人物達が軒並みお人好しなのも知っている。

セワシや野比家の事が可愛そうだから、野比のび太の起こす出来事を何とかしてあげたい気持ちがあったのは確かだった。

 

「そうだもんな。人類の存亡が関わっていたんじゃ、放っておけないもんな!よく言った!レオ!」

「そういう理由をつけちゃって………レオさんったら素直じゃないんだから」

「知らないよ僕は………まぁ、野比家の借金が骨川家の家計に影響があるのは間違いないからね。仕方ないから手伝うよ?僕も」

 

渋々ながらもヒデキの提案に乗る四人。

 

「わかったよ………レオ君以外は、ちょっと席を外して欲しいんだ。レオ君、君にはまだ話がある。ちょっと残ってくれないか?」

「???」

 

玲雄を残してタケル達に退室を求めるヒデキ。

ヒデキはタケル達が出ていったのを確認した後に、玲雄に向き直る。

 

「ヒデキ。何で僕だけを残したんだい?」

「これから話すことが、特に君に影響があると考えてるからさ。いいかい?レオ君。僕、サヤカちゃん、タケル君、スネト君には共通点があるんだ」

「共通点?」

 

ヒデキは頷く。

 

「僕達の先祖と、野比のび太君は、実は幼馴染みだったという共通点がね。野比のび太君の妻、剛田ジャイ子さんの兄は剛田武君と言ってタケル君のご先祖様だし、骨川スネト君のご先祖様は骨川スネ夫君。そして僕とサヤカちゃんのご先祖様は出木杉英才様と源静香さんなんだ………」

「あれ?じゃあ僕は?僕の日野家は………」

 

ヒデキはまた、首を大きく振る。

 

「関係あるんだよ、レオ君。君は………」

 

言いづらそうにするヒデキは、誰かの写真を取り出す。

 

「この人は………僕の子供の頃に似ている………?」

 

写真の人物は、玲雄の子供時代によく似ていた。

 

(これは誰なんだ?服のセンスからして、問題の20世紀の時代のモノだ………でも、日野家がその時代に東練馬にいたなんて聞いたことがない!)

「いずれわかる事だからね。写真の人物の名前は………野比のび太君だ………」

「これが………野比のび太?」

 

言われてみれば、野比セワシを見て、誰かに似ていると思ったことは何度かあった。

誰かどころではない。まさに自分に似ていたから既視感を覚えていたんだ。

 

「君は………野比のび太君の剛田ジャイ子さんの間に生まれ、日野家に婿入した野比のび太の子供の曾孫なんだ………」

 

ヒデキの言葉に目眩を覚える玲雄。

 

「僕は………セワシ君とジャンボの遠い親戚だったんだ………じゃ、じゃあ………」

 

もし、野比のび太の過去を改変したとすれば………。最悪の場合は………。

 

「残酷な事を言うかもしれないけど………野比のび太君の未来を変えてしまった場合は………レオ君。最悪、君はこの世界から消えてしまうことになるかも知れない………それでも君はドラえもん君を過去に送り、彼を見守る任務を受けられるのかい?」

 

玲雄にとって、究極の二択を迫られる事になった………

 

続く




出木杉ヒデキ
1話、2話でも名前が出てきた出木杉英才と源静香の子孫。
出木杉サヤカとは同年の従兄弟関係。
英才以来、天才を排出してきた出木杉家の中でも特に天才。
ただの天才というだけで無く、文武両道かつ人間的にもその名の通り「できすぎ」ている人間。
幼少期は幼馴染みとして玲雄達と仲が良かったが、天才の宿命故か留学、飛び級等で引き離された生活を送る。
広い交流を持っているが、「出木杉ヒデキ」個人の友人としては玲雄達は特別らしく、偉くなった現在でも玲雄達とは親しい友人関係を保っている。

日野玲雄
本作の主人公にして野比のび太と剛田ジャイ子(本名不明)の枝分かれした家系の子孫。
のび太の6人の子供の内の誰かの曾孫となる。
容姿はのび太で剛田の血筋も引いているから運動神経は良いという設定。
射撃が得意なのも先祖の才能を引いているからか?
機動3課を希望したのは、悪人逮捕には興味が無く、交番にいるお巡りさん的な地域に密着した立ち位置にいたかったため。
家訓からか、のび太の子孫にしては少し真面目な性格をしているが、お人好しな性格は野比家の血か剛田の血なのか……。
日野家に婿入した曽祖父が野比家の遺産相続を放棄した為、野比家の借金とは無縁の中流家庭で幼少期を送っていた。
原作通りの静香と結婚する未来へ進んだ場合、彼の未来はどうなるのか?(ついでに、まだ発覚していないが出木杉家の二人の未来もどうなるのか!?)

※1
富士山頂上までビルが並ぶ
ドラえもんではなく、藤子不二雄作品の1つである『みきおとミキオ』の世界における未来世界の描写。
長年宇宙で勤務していたミキオの叔父が、富士山の頂上までビルが並んでいた光景に残念がっていた。
ミキオの世界はドラえもんの世界以前の話だと思われるので、21世紀だと思われるが………
現実の21世紀では果たして『みきおとミキオ』の世界のようになるのか………?
恐らく、本城が21世紀後半の世界を見ることはない事が残念だが、非常に興味深い話である。

※2
定点どこでもドア
元ネタは『ファミコン用ソフト ドラえもん』、通称『白ドラ』より。
宇宙開拓史をモチーフにした白ドラの開拓編でのどこでもドアは、ドラクエの『旅の扉』のように、一定の場所だけを繋ぐ『定点どこでもドア』が存在。
他にも『どこでもドア』がある地点にランダムで飛ばされる『ランダムどこでもドア』も存在していた。
もしかしたら開拓編で登場していたマンホールは、『ドラえもん のび太の竜の騎士』に登場していた『どこでもホール』なのではないかと疑っている私がいます。
トカイトカイ星とコーヤコーヤ星をマンホールが繋いでいるって………どこでもホールならば考えられなくもない?

※3
木手栄一
キテレツ大百科の主人公。
もっとも、ドラえもんとの世界とは繋がりは公式には無いので、航時機とタイムマシンの繋がりはオリジナル設定で。
ドラえもんと繋がっているのは「パーマン」「21えもん」の2作品は確実なのだが………
また、キテレツの発明品はキテレツ本人ではなく、キテレツの先祖、ケテレツ斎が発明した物を再現したものである。
また、キテレツが過去改変を行った事実は………あったかなぁ。

玲雄がのび太の子孫の可能性、どなたか気が付いた方はいらっしゃいますか?
日野玲雄を逆から読むと「オレノビ」と読めます。
この名前は「ドラえもんズ」にあったのび太の変装したときの名前、「旅のレオ」から取りました。

まぁ、普通に考えれば「大魔境」、「海底鬼岩城」、「鉄人兵団」、「竜の騎士」、「雲の王国」、「銀河超特急」、「南海大冒険」、「不思議風使い」、「太陽王伝説」などなど、放置していれば地球滅亡に繋がる事件。ドラえもんが過去に行っていなければ、どうやって解決していたんだろう?って事件が多すぎますよね?
短期的には何も起こらなくても、「宇宙開拓史」「宇宙小戦争」「竜の騎士」「ブリキの迷宮」「アニマル惑星」「宇宙漂流記」「夢幻三剣士」「ロボット王国」「つばさの勇者達」「ワンニャン時空伝」は主に外交関連で未来に影響を及ぼしそうですし…。

それでは次回もよろしくお願いします。

のび太の結婚前夜編についてのベースは?

  • STAND BY MEドラえもんルート
  • 旧のぶドラ映画版ルート
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