「日野玲雄」は枝分かれした野比のび太の子孫だった!
もしのび太の未来………借金を負わなかった未来へと進めば、玲雄はタイムパラドックスによって消えてしまう可能性がある!
その事実を突きつけられた玲雄は、果たしてどう決断するのか?
「僕が………もしかしたら消えるかも知れない?」
力が抜けていく玲雄。
「うん。君のご先祖様……日野ノビハルさんは、野比家と縁を切って日野家の婿養子に入ったんだ。多分だけど、野比家の遺産相続を放棄して、日野家の籍に入ったんだと思う。もし、野比家の借金問題が解決したならば、ノビハルさんは日野家に籍を入れることはなかったと思う。借金問題が無くなれば、間違いなく一番影響を受けるのは、日野家を始めとした野比家の分家なんだ」
「………何で、僕にこの事を?」
「君は僕の大切な幼馴染みだ………。いくら世界の為とはいえ、君の犠牲をしたいとは思わない。君に自分が消えるかも知れない任務を君に強要なんて出来ないよ………」
「………」
このまま未来へ変える行動を監視を続けるということは、玲雄は自分が消える手助けをすることになる。
ヒデキは玲雄との友情と世界の未来の板挟みになり、苦しんでいた。
「………確かに僕が消えるかも知れない手助けをするのは怖いさ………君も知っての通り、本来の僕は臆病者だからね」
幼い頃の玲雄は、高祖父ののび太と同様に臆病な性格だった。
今でこそ親友な関係であるが、タケルやスネトからは良く臆病なところでからかわれ、いじめられ、その度にサヤカやヒデキに庇ってもらっていた。
気が弱くて力持ち………それが幼少期の日野玲雄だった。
今の性格になったのは、家族に鍛えられ、そして勇気を出してジャンボ………タケルに立ち向かい、そしてお互いを認めあって親友となった。
「だったら………」
「人に真面目であれ………何で世界のブレが僕に見えたのかはわからないけれど、僕が世界の破滅が見えたことには、多分意味があると思うんだ………だから僕はこの任務を受けるよ」
玲雄は力無くソファから立ち上がる。
「ヒデキ。教えてくれてありがとう。黙って何も言わずにいた事も出来たのに………君のそういう真面目で誠実なところ、大好きだよ。もし、消えずに僕が残れたら………その時は………」
そう言って玲雄はフラフラと部屋のドアから出ていった。
ヒデキはその後ろ姿を見送りながら、下唇を噛み締める。
「僕だって………最善を尽くすよ。レオ君」
帰り道
「レオさん。ヒデキさんとのお話が終わった後から元気がないようだけれど、何かあったの?」
「え………あ、ああ………何でもないよ。サヤカちゃんの気のせいさ」
「………………」
「ジャンボまでどうしたのさ。ムスッとしちゃってさ。これから世界を救う任務があるんだから、明るくいこうよ!ほら、こんな時こそジャンボの歌の出番でしょ?ほらほら、僕がアプリで作った『俺はジャンボ様だ』のイントロもあるからさ?ね?」
ヒデキとの会話の後、玲雄は普段通りに振る舞っていたはずなのだが、やはり付き合いの長いサヤカ達の目を誤魔化すのは難しいらしく、サヤカはしきりに玲雄を心配し、タケルは何かを察したようにムスッとしており、スネトは場の雰囲気を和ませようと立ち回っているものの、モノの見事に空回っている。
「僕は大丈夫だよ。ほら、タイムマリンの事故の事もあってさ、ちょっと疲れちゃっただけだって………」
「そう………」
サヤカは玲雄の返答を聞き、それ以上は聞いてこなかった。その代わり、そのまま俯いてしまう。
(参ったなぁ………玲雄自身と世界。天秤にかけるまでもない。タイムパトロールに所属しているならば、これ以上ない名誉じゃないか!)
頭ではわかっている。わかっているのだが、やはり消えるのは怖い。死ぬのではない。最初から存在しないことになるかもしれない。
それが………一番怖い。
何よりも………
(そこまでして、野比のび太に義理を立てる意味を見いだせないのが、一番覚悟を決められないんだよなぁ)
そこが一番引っかかっていたことだ。
イマイチ覚悟が決められず、そんな玲雄の消沈した雰囲気に呼応するかのように、その場の雰囲気はドンヨリしていた。
雰囲気が最悪のまま、4人はタイムパトロールの独身寮へ到着する。
「じゃあ、また明日………」
航時局とタイムパトロールの指示では、数日後には「特別対策本部」という臨時の部署に4人は所属を移すことになる。翌日からはその為の準備と現在の任務を他の隊員に引き継ぎをする事になる。
明日にはこの雰囲気が解消されると願い、玲雄は自分の部屋へ向かう。
「おいレオ」
部屋のドアに手を掛けた時、タケルから声をかけられる。
「何?ジャンボ」
「何じゃねぇだろ?すっとぼけるなよ」
タケルは昼間のように肩を組んでくる。
「お前が何かを悩んでいるっていうのは、俺だけじゃなく、スネトもサヤカちゃんも気が付いていたぜ。特にサヤカちゃんなんて本気で心配してたんだぜ?わかるだろ?」
帰り道でのタケルは明らかに怒っていたが、それでもしばらく考え、優しめに声をかけてきた。幼い頃のタケルならば、胸倉を掴んできて怒りのままにがなり立てて来ただろう。
しかし、成長したタケルは少し時間を置き、怒りを飲み込んでからアクションをするようになった。
「俺はバカだから、お前の悩みの力になれるかわからねぇ」
「確かにジャンボは頭が良いとは言えないよな」
「うるせぇ。学校の成績はお前も俺と似たようなものだろう?何なら、俺の方が成績が良かっただろうが。特に小学校の頃、0点の数ではちょっとした伝説になってたくらいじゃねぇか」
「う………それを言われたら………」
脳筋と言われているタケルだが、実は小学生時代は玲雄よりも成績が良かったりする。
「バカで脳筋の俺達なんかが下手に考えたって、何か良い案なんて思いつきゃしないんだ。だったら、スネトやサヤカにでも相談してみろよ。バカな俺達よりもずっと良い事を考えてくれるって、下手な考え、数撃ちゃ当たるだろ?」
「それを言うなら『下手の考え休むに似たり』だろ?」
先ほどよりもいささか気が楽になったような気がしてタケルにツッコミを入れる。
「分かったよ。ジャンボの言う通りだ」
誰かに相談してどうにかなる問題ではない。
けれど、自分一人だけで悩んでいても気持ちが落ち込むだけだと思うことも確かだった。
「気持ちが落ち着いたら、ジャンボに相談するかもしれない。ありがとう………心の友」
玲雄から初めて心の友と言われ、一瞬だけキョトンとするタケルだったが、すぐに照れたように鼻の下を人差し指でこすると、肩に回していた腕をほどいて玲雄の背中をバチンと叩く。
「いっつ!」
タケルのバカ力で叩かれ、思わず悲鳴を上げる玲雄。
「おう!いつでも良いぜ!心の友よ!俺じゃ役に立たないかもしれないけどな!」
「………まずはそのバカ力を加減する事を相談させて貰うよ。イタタタ………じゃあ、おやすみ」
ヒリヒリ痛む背中を涙目で擦りながら、タケルと別れる。
タイムパトロール隊の一般隊員の独身寮は、個室で六畳間の居間とキッチン、トイレに脱衣所兼洗濯室とユニットバスのビジネスホテルのような間取りだった。
一般的なアパートに比べたら少し粗末であるが、トイレ浴室共用で部屋も相部屋といった高校大学クラスの学生寮に比べれば贅沢なものだろう。※1
玲雄は1日の汗を風呂で落とし、洗濯機に服を放り込んでからしばらく寛いだ後、空腹を覚えて冷蔵庫の前でウンウンと悩んでいた。
「何を食べるかなぁ………備え付けの調理器は旧式だから、作れる物なんて大した物が無いしなぁ………」
独身寮に備え付けられている全自動調理機。
22世紀の一般家庭は材料を投入すれば、後は自動で調理をしてくれる調理機が普及していた。※2
最近交流が出来たアニマル星から輸入されている光と水で何でも出来る環境に優しい調理機なども富裕層で出回っている。※3
何を食べるか悩んでいると………
『来客です。網膜、声紋識別完了。出木杉サヤカ様です』
と、インターホン(?)が来客を告げる。
「サヤカちゃんから?どうぞ、入れてあげて」
『オートロックを解除します』
カチャリと音がなり、ドアが開く。
ドアの前にはナプキンに包まれた箱を持ったサヤカが立っていた。
「やぁサヤカちゃん。こんな暗い時間にどうしたの?」
「えっと………元気が無いようだったから、夕飯でも差し入れしようかなって………」
「良いの?助かるよ。冷蔵庫の中、碌な物が無くってさ……」
「ダメよ?全自動のばかり食べてちゃ。たまには自炊しないと」
「って事は手作り!?やったぁ!たまには落ち込んでみるのも悪くないね!」
「こら!調子に乗らないの!じゃあ、談話室で食べましょう?」
「うん。ちょっと待ってて。私服に着替えてくるから」
いくら気心知れたサヤカが相手とはいえ、年頃の娘が独身男性の一人部屋にホイホイと入るわけがない。
それが出来たのは小学生時代までだ。
玲雄は着せ替えモニターですぐに部屋着から、外出着も兼ねた普段着に着替えると、サヤカを伴って男女共用の談話室へと足を運ぶ。
廊下がガラス張りで、外から丸見えなこの部屋は、健全な男女交流をするにはピッタリな場所だった。
「はい、どうぞ」
サヤカがナプキンを広げると、包の外からは想像も付かないほどの量………ご飯にスープ、主菜に副菜2種類、デザートのフルーツまで盛りだくさんだ。※4
「うわぁ、すごく美味しそう。さすがはサヤカちゃん。料理も凄く上手だよね。いただきます」
玲雄は丁寧に両手を合わせ、料理に一礼。
「うん!久し振りに食べたけど、サヤカちゃんの料理って本当に美味しい!今日のは特に美味しいね」
才媛、出木杉サヤカは料理でもピカイチだった。
もっとも、内勤のサヤカは毎日お昼は自前のお弁当で、レオも時々オカズのお裾分けを貰っているので知っているのだが。
手放しに褒める玲雄にサヤカは少し顔を赤らめて
「もう、褒めすぎよ。それに、スネトさんにもお礼を言っておいてね。このお肉とか野菜はスネトさんがレオさんの為に奮発してくれたんだから」
「スネトが!?」
このサヤカの料理に使われている材料は少し食べただけでもわかる程、値段が張る高級品だ。それを提供したのがスネトだったという事に玲雄は驚いた。
「そうよ。スネトさんだって、あなたの様子がおかしかったことに気が付いていたわ。気付かないはずが無いでしょ?私達、そんなに浅い関係じゃないもの」
「あいつ………僕の為に無理なんかして見栄を張っちゃって…」
親がグループの社長であるスネトは金持ち………というのはスネトの事を良く思っていない人間の心無い妬みだ。
スネトはタケル同様に大学生の頃から無一文で実家を飛び出し、奨学金とアルバイトで食いつないできた苦学生だ。
金持ちのお坊ちゃまだったスネトにとっては過酷な大学生時代。
そしてキャリア組のエリートとはいえ、今はまだ若手の公務員。
贅沢ができる給料が貰えている訳でもなく、更には奨学金の返済にも苦労している。
それなのに、スネトは玲雄を励ます為に無理をして高級品の材料を取り寄せ、励ましてくれた。
玲雄はタケル、スネト、サヤカの心意気に心を打たれ、良い大人だというのに思わず嬉し涙が出てきた。
「美味しい。美味しいなぁ………凄く美味しいよ。こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてだ」
食材が美味しいだけじゃない。
作ってくれた腕が良いだけじゃない。
この料理が本当に美味しく感じる一番の理由は………親友達の温かい心が詰まっているからだ。
だから、こんなにもこの料理は美味しい。
「レ、レオさん!?ヒデキさんとのお話は、そんなに辛いものだったのね………もう。こんなに涙を流しちゃって、いつまで経っても本当のレオさんは泣き虫なのね」
サヤカはハンカチを取り出して玲雄の涙を拭う。困ったように眉をハの字にしながらも、その表情に柔らかな笑みが浮かんでいた。
(あなたは人の喜びを自分のように喜んで、人の悲しみを自分のように悲しめる人。出世よりも人を助けることが第1の機動3課を希望するような優しい人……。そんなあなただから、タケルさんもスネトさんもヒデキさんも、そして私もアナタが放っておけないの。だから、時々は本当の泣き虫のあなたの姿を見せても良いの。少なくとも私達の前では………それを忘れないで、レオさん。だから………)
サヤカは優しく、されど少し困った顔で泣きながらも嬉しそうに食べるレオの食事が終わるまで、静かに見守っていた。
続く
※1
タイムパトロール独身寮
寮と名をうってはいるが、どちらかと言えば社宅に近い。
家賃格安、家具、家電は備え付け、風呂・食事・清掃は自分持ち。
備え付け品の私物交換については原則として禁止。
男子寮と女子寮はフロアで別れているものの、行き来については特に禁止されていない。
※2
全自動調理機
「ドラミちゃん アララ少年山賊団」のセワシの家庭より。
ドラミちゃんはご飯を作ると言ってやっていたのは立体コンソールの操作のみ。
後は全自動で食事が作られていた。
この様子から、22世紀の家庭では一般的な光景なのだろう。
便利なキッチンである反面、家庭料理が失われている侘しい光景でもあると言える。
なお、独身寮に備え付けられている調理機は旧式で、ある程度の栄養バランスや盛り付けの自由が効く改変後の野比家の物とは異なり、決められたメニューしか作ることが出来ない。
※3
アニマル星の調理機
「ドラえもん のび太のアニマル惑星」の食料工場にあった調理機。材料は光と水という、食糧難とは無縁の画期的なアイテム。
ドラえもんと21えもんが同一世界ならば、この頃は既に星と星が行き来する宇宙大航海時代だと思われ、アニマル星やトカイトカイ星、ピリカ星等とも交流があると思われる。
※4
ナプキン型ランチボックス
ナプキンの上で配膳したものを形状記憶、圧縮してお弁当箱サイズに包むひみつ道具。
お弁当気分を味わえると言うことで、新婚夫婦や遠足等で人気。ただし、使用用途が限定的な上、グルメテーブルかけの料理に勝てる腕前があることが前提な為、売れ筋はあまり良くない。
こういうのが他にもあったならば、是非とも情報を。
うん。「のび太の結婚前夜」の静香ちゃんパパの名言が飛び出しましたね。
レオ………羨ましいヤツ。
それでは次回もよろしくお願いします。
のび太の結婚前夜編についてのベースは?
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STAND BY MEドラえもんルート
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