タイムパトロール
隊員寮…談話室
「ふぅ………美味しかった。ありがとう、サヤカちゃん。君が言う通り、スネトにもお礼を言っておかないと」
「ふふふ。スネトさんの事だから、『僕が普段食べている物を少し恵んであげただけさ。改まってお礼を言われる事じゃ無い』って言いそうね」
サヤカはクスクスと笑いながら答える。
「ハハハハ。確かにスネトなら言いそうだ。サヤカちゃん、スネトのモノマネ、上手いね」
「もう。そんな事を言ったらスネトさんに悪いわよ」
そう言いながらも、益々笑う男女。
「ところでレオさん。何をそんなに悩んでいたの?良ければ話をしてくれないかしら?」
「………………」
口を噤む玲雄。
野比のび太の未来を変えてしまったら、もしかしたら自分の存在は無かった事になるかもしれない。
それを言ってしまえば、この優しい女性の事だ。玲雄をこの任務から遠ざけようとするだろう。
(でも、世界の未来はサヤカちゃんの未来だから………この子の未来を潰してまで、僕が生き残るのはイヤだ………それに、もしかしたら借金が残らなくたって、僕が消えるとは限らないじゃないか!例えば僕のひいお祖父ちゃんだって、借金が原因で日野家に婿養子になるんじゃなくてさ)
22世紀の現在ならば、それほど『家』に拘らなくなっているが、当時の日本はそれなりに『家系』というのは重要視されていた。
特に地方では妻の実家を継ぐために、男性が婿養子に入る話は少なくない。
特殊な例を挙げれば祖父母の家名を継ぐために、敢えて祖母の養子に入って家を継ぐ例だってある。
「ねぇ、サヤカちゃん………」
「何?」
「………」
(やっぱり言えないよね。サヤカちゃん、結構勘が鋭いし…なら、直接では無くても……)
一拍おいて、玲雄は切り出す。
「今回の野比のび太の任務だけどさ。いくら世界の為だとは言っても、過去を変える………っていう大それたことをやっちゃって良いのかな………って思ってさ」
自分の存在の事もそうだが、玲雄の中では玄孫の代に至るまで巨額の借金を生み出した『野比のび太』の印象は、かなり悪いものになっており、その血を引いているという事も少なからずショックを受けていた。
「レオさんにしては珍しいわね。いつもならば始末書覚悟で航時法の救助対象外の人も助けたいとか言い出す人なのに」
確かに玲雄は時間旅行者の行動に巻き込まれて被害にあった人間以外の過去の人物達をも助けようとする場合がある。
「チェックカード」で定められた死と判定されている場合は歯噛みするほどだ。※1
そんな玲雄が過去の人物を助けることに躊躇いを持っていることに疑問を持つ。TP隊員としてはそれで正しいのだが、玲雄に関して言えば『らしくない』と考えてしまうサヤカ。
「でもそうね………レオさんの場合、資料として見る野比のび太さんを判断するよりも、タイムテレビで人柄を見てみたら良いんじゃないかしら?」
本来は最低限しか救助対象の情報を集めようとは思わない。
しかし、今回の場合は長丁場になる可能性が高い上、玲雄に限って言えばその方が良いように思えた。
「タイムテレビで野比のび太君を見てみる………か」
言われてみれば玲雄はのび太の人柄を知らない。
小学生の頃にあった夏休みの宿題で、先祖を調べるレポートをやった際も、日野家の先祖を調べたが、野比家を調べた事はなかった。
それも当然で、野比家と遠縁だったなんてつい先ほど知ったばかりなのだから。
普通、先祖といえば家の直径を調べる。せいぜい興味があるのが母方の家くらいで、祖母以上の家系に興味を持つことは稀だろう。
余程の大物が先祖にいるのならば話は別だが。
「分かったよ。僕達が直接コンタクトをとるかはわからないけれど、野比のび太君とは長い付き合いになるみたいだからね。サヤカちゃんが言ったように、タイムテレビで見てみる事にするよ」
(多額の借金を作って子孫を苦しめた人………そんな先入観を持っているからいけないんだ。先入観で野比のび太君を評価してしまったら、任務だって上手くいくものもいかなくなるかも知れない。サヤカちゃんの言うとおりだな)
「お役に立てたかしら?」
サヤカがにこやかに玲雄に微笑みかける。
「もちろん!サヤカちゃんには昔から助けられてばかりだよ。本当にありがとう。今度、何かお礼するよ」
「当たり前よ。大切なお友達じゃない。お礼なんて良いわ」
「ダメダメ。『人の心に対して誠実であれ』!日野家の家訓は僕にとって大切なんだ」
ドヤ顔で言う玲雄に、サヤカは少しため息をつく。
「変に真面目なところが無ければなぁ………」
ポツリと漏らすサヤカ。
「ん?何か言った?」
「何でもなーい。出発前に焼き芋をごちそうしてくれれば良いわよ」
「相変わらずそれ、好きだね………」
「それを知っているのはあなた達だけだから大丈夫です!」
出木杉サヤカの大好物は焼き芋である。
玲雄の部屋
「えっと………確かこの辺に………」
玲雄はタイムテレビを探す為に押し入れのなかをゴソゴソと漁る。
仕事柄、タイムテレビを良く使うのだが、だからこそタイムテレビを使う場合は職場の物を使う為、私物では全くと良いほど使わなくなっていた。
「ああ、あったあった。うわぁ………だいぶ旧式だなぁ。長いことメンテナンスもしていなかったし、まともに映るかなぁ」
目的の物を見つけたは良いものの、プライベートで使わなくなってから久しい。
先祖ののび太と同様、精密機器の扱いが苦手な玲雄はメンテナンスも苦手で、物持ちはあまり良くない。血筋故か土地柄か、壊れた物を窓からポイ捨てする事も昔はよくやり、その都度母親から怒られたものである。※2
苦労の末、何とか不調ながらもタイムテレビを起動させた玲雄。
不調故か、場面場面でノイズが走り、シーンが飛んでしまっている。
しかし、そのまばらなシーンを見ていても、のび太の日常は目を覆いたくなるようなモノばかりだ。
テストではしょっちゅう0点を取るのび太。小学生の頃は0点記録の断トツで、その記録は破られる事は無い伝説を築いた玲雄ですら可愛く見えるレベル。
「0点のギネス記録があったなら、間違いなく歴代最強だと言われていた僕でも裸足で逃げ出すレベルだな………これは」
五十歩百歩と言うツッコミを入れる人間はこの場にはいない。
「遅刻記録、立たされ記録、居眠り記録、宿題を忘れる記録……僕も大概だったけど、ここまでは流石に………」
目くそ鼻くそを笑うと言うツッコミを………以下略。
ちなみに玲雄は寝付きも良いが、寝起きも良いので遅刻は意外になかったりする。
「臆病でケンカも弱いし、運動神経も酷い………周囲からは何をやらせてもダメな奴とまで言われているし………」
玲雄は剛田の血筋故か、気は弱いながらも腕っ節は良いし、運動は苦手どころかむしろ得意だ。
この人物の血が自分にも流れていると思うと情けなくなってしまう。しかし………
「数字で表せる所だけで言うならば、本当に彼を評価できる場面なんてどこにもない………だけど………人間的には………」
普段はのび太をバカにし、むしろ苛めているとさえ言えるタケルとスネトの先祖、剛田武と骨川スネ夫も、のび太が本当にピンチだった時や他の誰かに苛められた時などは積極的に助けているし、どこか深い所では認めている節がある。
「基本的に意気地なしな彼でも、本当に大事な部分では信じられない勇気を持っている。面倒くさがりではあるけれど、困った人には手を差し伸べる事が出来る………それが野比のび太君なんだ………それに最初に気が付いたのは………剛田ジャイ子というわけか………」
のび太の良さを最初に気が付いたのは自身のもう一人の先祖、剛田ジャイ子だった。
ある日から、剛田ジャイ子はのび太を付け回し始める。その理由はジャイ子がギャグ漫画を書く為のネタとして付け回していた。
のび太の生活は、第三者として観察しているのならば、ギャグそのものであり、ネタの宝庫だろう。
ジャイ子の尾行に気が付き、最初こそ迷惑がっていたのび太であった。武によって理由を聞き、無理矢理協力させられていた事も迷惑がっていた事に拍車をかけていたこともあるだろう。
しかし、ジャイ子が真剣に漫画家を目指している事を知ったのび太は、いつしか真剣にジャイ子に協力していくことになった。
真剣な相手には我が事のように共に真剣になる野比のび太。
自身が大好きな漫画の事とだったのも、のび太が親身にジャイ子に協力する理由だった。
のび太はジャイ子の漫画の為ならば、どんな協力でも惜しまなかった。本気になった時ののび太の集中力は、玲雄でも舌を巻くほどに凄まじいものだった。
未来のタケルの家業の元になっているジャイ子の実家、剛田商店の手伝いなどもジャイ子の代わりに店番に立ったり、飼い犬のムクの散歩を手伝ったりなどだ。自分の母親が頼んで来るお使いや庭の草むしりなどは逃げ回っているのにも関わらず。
特に真剣になっている友人に対するのび太の場合は特に……。
そんなのび太と行動を共にする内に、ジャイ子はのび太の良さに気が付いていき、徐々に好意を抱くようになる。
次にのび太を認めたのはジャイ子の兄、剛田武だった。
元々、目に入れても痛くないくらいにジャイ子の事を可愛がっている武。
そんなジャイ子に対して偏見を持たずに親身に協力を惜しまないのび太の事を武は認め、本当にのび太の事を「心の友」として接し始める事になる。
のび太を認めた頃には武も成長し、「ジャイアン」と呼ばれて恐れられる暴君のようだった姿もなりを潜めていた事もあるのだろう。
いつしかのび太と剛田兄妹の仲は深まっていく。
中学に上がる頃にはのび太の方も、源静香に対する気持ちは完全に諦め、ただの幼馴染みとして気持ちを落ち着かせた事もあったし、その頃にはのび太の方もジャイ子に対して魅力を感じていたのだろう。※3
ジャイ子は大学受験に何度も失敗するなど、どんなにのび太が挫折しても、見捨てることは無かった。
既にのび太の本当の魅力に気が付いていたのかも知れない。
ジャイ子がのび太と結婚するとなった時、ジャイ子の両親は渋面を示したのだが、剛田兄妹は………特に武は両親を説得した。
「あいつの事だから確かに苦労する人生だろうよ!けどなぁ、あいつはこんな俺やジャイ子相手でも、心から心配して、あいつなりに色々と力を貸してくれるような奴だ!色々とダメな奴だけど、一番大切なモノをあいつは持っている!あいつだからこそ俺はジャイ子を任せられるんだ!のび太を認めてやってくれよ!父ちゃん!母ちゃん!」
当人のジャイ子以上に熱く両親を説得する武。
それに対して根負けした武の母は、深くため息を吐き。
「はぁ………分かっていたよ、あの子がどれだけいい子だって事はね。のび太君を小さな頃から見ていたからねぇ。けど、あの子と一緒になるのは大変な事だよ?下手をしたら、想像を絶するくらいにねぇ。悪い子じゃないけど、結婚すると心配だったんだけど………負けたわよ。武、ジャイ子。あんた達は私と同じで、こうと決めたら頑固だねぇ」
ついに根負けして結婚を認めるジャイ子の母。
そうして結婚が決まったのび太とジャイ子。
そののび太とジャイ子の結婚が決まった時、ジャイ子の結婚を祝う女子会でジャイ子と静香は………。
「静香さん………あなたも実はのび太さんの事を………」
ジャイ子が源静香に対してこんな質問をする。
のび太に好意をもっていたジャイ子が、一番の危機感をもっていたのは静香の存在だった。
いくら気持ちに整理を付けたとはいえ、のび太がどれだけ静香の事を好きだったのかを知っていたジャイ子。
そして、静香も小さな頃からのび太を知っており、今でものび太と友人関係である。
静香はのび太の良いところも悪いところも知り尽くしている。ジャイ子にとって、一番のライバルと言ってもいい存在だった。
そんな危機感を抱くジャイ子に対し、静香は………。
「ジャイ子ちゃんがいなければ、確かに私がのび太さんと結婚していたかも知れないわね………のび太さんの良いところは、私もよく知っているから………でもね、それはどこか『私がいなければ心配で見てられない』という同情の気持ちが強かったから…だと思うわ。ジャイ子ちゃんのように、心からのび太さんを愛しての事じゃないと思うの。そんなの、私にとっても、のび太さんにとっても、いい事じゃないと思うわ………」※4
と語っていた。
タイムテレビで盗み見している玲雄としては
(サヤカちゃんと同じ顔で、このセリフは来るものがあるなぁ)
と、勝手にヘコんでいた。
閑話休題
その後、周囲に祝福されて結婚したのび太とジャイ子。
6人の子供に恵まれ、会社経営も苦しいながらも上手く行っていた。
のび太は経営者としても才能があるとは言えるものではなかったが、その人柄により良い従業員に恵まれていたのが幸いし、またプロの漫画家として活躍していたジャイ子によってささやかながらも幸せな結婚生活だったと言える。
しかし、剛田家が心配したとおり、その幸せはアッサリと崩れ去る。
のび太が立ち上げた会社の倒産………それにより発生した莫大な借金。
毎日借金取りが押し寄せ、完全にドン底に陥るのび太一家。
ある日………
「ジャイ子ちゃん!僕と離婚してくれ!」
突然、別れを切り出すのび太。
「何だとのび太!テメェ、ジャイ子を捨てる気か!そんな事、俺は許さねぇぞ!」
すっかりやつれ切ったのび太の胸倉を掴み、怒鳴り散らかす武。
「だって、僕なんかと一緒にいたらジャイ子ちゃんが不幸になるじゃないか!僕と縁を切れば、不幸になるのは僕だけで済むんだよ!もうこれ以上、ジャイ子ちゃんやジャイアンを巻き込みたくないんだ!」
のび太は号泣して武やジャイ子に懇願する。
のび太は自分の事業失敗のせいで、ジャイ子や親友の武が巻き込まれ、不幸になるのが耐えられなかった。それによる離婚の決意だった。
そんなのび太の頬を衝撃と痛みが襲う。
しかし………それは武の拳による衝撃では無かった。
普段は内気で大人しい、ジャイ子の平手打ちによるものだった。
「バカにしないで!のび太さん………アナタと結婚することでこんな事が起きることなんて………苦労する事なんて始めから覚悟していた事だったわ!」
ジャイ子は号泣していた。
「どうして、一緒に頑張って行こうって言ってくれないのよ!私がアナタを見捨てると思われていたなんて心外だわ!お兄ちゃんだってそうでしょ!?」
「当たり前だぜ!のび太!バカだバカだとは思っていたけど、ここまでバカだとは思わなかったぜ!お前は
「でも!ジャイアンだって店を大きくして、スーパーが軌道に乗ったばかりじゃないか!そんな大事な時期に、君を巻き込むなんて事ができるわけないよ!君だけじゃない!グループを継ぐために下積みが大変なスネ夫や火星での研究で忙しい出木杉君、その出木杉君の奥さんとして支えている静香ちゃんだって巻き込むなんて……君達の邪魔をするなんて出来る訳がないじゃないか!僕の事なんてさっさと見捨てて君達だけでも幸せになってよ!」
自分が大変な中でものび太は周囲の幸せを最優先に考えた。
のび太の頭の中では両親とも縁を切り、一人で苦しむ道を選択した。
ここで自分の事しか考えて無ければいっそ武もジャイ子ものび太を見捨てていただろう。
しかし、そうではないからこその野比のび太であり、これまでののび太があったと言える。
「うるせぇ!」
武はそんなのび太を見て顔を真っ赤にし、今度こそその拳をのび太の顔にぶつける。
「やいのび太!お前がどんなに一人になろうとしても、俺は…俺達は絶対に見捨てないからな!草の根を掻き分けてでも、俺はお前を探し出してやる!みんなだってそうだ!」
武は殴られ、倒れたのび太に手を差し出す。
「言えよのび太。助けてくれってよ………」
のび太は最初、驚いた顔を浮かべた後に、涙でグシャグシャになった酷い顔をボロボロな袖で拭った後、腫れた頬をさすりながら
武の手を取る。
「ジャイアンにはかなわないなぁ………いつも強引なんだから………でも、嬉しいよ………君はいつまで経っても、僕のガキ大将だ………助けて。ジャイアン………」
「おう!任されよ!」
のび太からのSOSを受け、武は奔走する。
のび太を助けた事によってスーパー剛田はその事業拡大を一世代遅らせる結果になってしまったが、それでも武は気にしなかった。
更に武はスネ夫、出木杉夫妻を始めとし、ヤスオやハルオ等の友人達を頼った。
特に力になってくれたのはスネ夫だろう。
スネ夫は武から連絡を受けた直後、すぐにのび太のもとに駆け付けた。そして、武と同様に顔を真っ赤にして怒った。
「カッコつけて一人で苦労を背負い込もうとするなんて、のび太のクセに生意気だぞ!何で僕に相談しなかったんだ!」
武と親友になったのならば、スネ夫とも竹馬の友。
人間関係の殆どが腹の探り合いありきのスネ夫にとってしてみれば、それとは無縁の幼馴染みである武とのび太は数少ない気のおける親友だった。
「君の借金くらいなら、僕の家の財産なら容易い事さ。もう安心してくれよ」
快くのび太の借金を肩代わりしようとするスネ夫。しかし、それを快諾しなかったのは他ならぬのび太自身だ。
いくら金持ちの骨川家だとしても、のび太が作った借金は安くはない。
普通の家庭ならば何世代もかかってやっと返済できる金額だった。
それを完全に肩代わりしてもらうのは、のび太にとって心苦しいものだった。
「だったら、少しずつ返してくれよ。な?」
借金取りから開放されるだけでも野比家は楽になるだろう。
完済なんてスネ夫は元から期待してはいなかった。最悪、世代交代した時に子供達が遺産放棄しても構わない。
「金を貸すときはやるつもりで貸せ」
スネ夫はそんなつもりでのび太の借金を肩代わりしたつもりでいた。
その後ののび太の生活は生活保護を受けている状態に等しく、赤貧を絵に書いたような最低限の生活をしていた。
身の丈に合った細々とした生活をのび太は生涯、甘んじて受けた。
苦労を重ね、休む間もなく働く生涯。
そんなのび太の命は、それほど長いものでは無かった。
数十年後、生涯を終えたのび太の葬式が終わった後、野比家とすっかり老けた剛田武、骨川スネ夫が揃う。
遺産相続の話だ。
「………僕は、父さんの借金を相続するよ………相続放棄してスネ夫さん達に肩代わりして終わりだなんて、そんな不義理な事ができるわけ無いじゃないか」
そう言ったのはのび太の長男、野比ノビスケだった。
ノビスケはのび太の息子とは思えないほど強気でケンカ早く、幼少期は伯父の武を彷彿させる程、ワンパクな少年だった。
しかし、根底にある心意気はのび太のそれを確かに継いでいた。
「バカな!のび太はそんな事を望んでいない!僕が良いって言っているんだから、ノビスケ!遺産を放棄するんだ!のび太の遺産でマトモな物と言えば、そのボロボロな机くらいじゃないか!」
「そうだよ。その机が大事なんだ!ノビハル達にもやらないぞ!この机は!」※5
誰もがノビスケの決断に反対した。債権を持っているスネ夫ですらも。
「兄ちゃん!だったら僕も父さんの借金を継ぐよ!兄ちゃんだけに負担はかけさせる訳にはいかないよ!」
既に日野家に婿入していた玲雄の曽祖父、ノビハルが言うが、ノビスケは首を横に振る。
ノビスケの妻が特殊なだけであり、ノビスケの弟妹達の配偶者達は野比家と縁を切ることを望んでいる。
「君達は僕と縁を切るんだ。スネ夫さんへの恩は、僕が引き継ぐ。そして野比家の事を忘れて幸せになれ」
幼少期から変わらない強い意志を持つ瞳で弟妹達を睨みつけるノビスケ。その心意気は剛田の血か………。※6
「人の悲しみを知り、人の喜びを自分の事のように感じる人になれ。それだけが父さんがお前達に残した一番大事な遺産だ」
「兄ちゃん………」
ノビハル達ノビスケの弟達は涙する。
そして、日野ノビハルはのび太から受け継いだその精神を家訓にする事になる。
『人に対して真面目になれ、人に対して誠実になれ………』
日野家の家訓は、のび太の精神が形を変えたものだった。
「そういう………事だったのか………」
確かにのび太は数値や結果から見れば最底辺で、成し得た事は子孫に多大な借金という負の遺産を遺した野比家の黒歴史と言えるだろう。
しかし………
「野比のび太の一番の遺産は………その精神性か。いや、ジャンボやスネトにも、その精神は受け継がれているのかも知れないな………もしかしたならば、出木杉家も………」
タイムテレビを見終えた玲雄。
当初、心のどこかにあったのび太に対する嫌悪感は完全にとは言えないまでも、払拭されていた。
「サヤカちゃん。君のアドバイスは、想像以上に役に立ったよ。ヤキイモ1つじゃ、足りないかもね。こんな大事な遺産を貰ったんじゃ、僕も覚悟が決められたよ………」
窓の外に目をやると、既に空は朝焼けに染まっていた。
ほとんど徹夜でタイムテレビを見ており、少し目がショボショボする。
しかし、玲雄の気分にもう迷いはなかった。
玲雄は電話に手を伸ばし、登録してある番号にコールする。
「朝早くにごめん。ヒデキ、覚悟が決まったよ。僕は………過去に行く。ドラえもんとのび太おじいちゃんを応援するよ」
数日後、野比家のもとに航時局から異例の通知が届く。
「やったぁ!頼んでみるものだなぁ!」
大喜びするセワシ。
「よくあんな申請が通ったなぁ………セワシくんも無責任な。苦労するのは僕なのに………」
続く
※1
チェックカード
藤子不二雄作品の『TP(タイムパトロール)ぼん』に登場したアイテム。
「安全カード」と呼ばれることもある。対象物にかざすと、歴史に影響を与える存在であれば光って知らせる。光の強さは対象の歴史に対する重要度で変化する。T・P隊員が本来の救助対象以外の人物を救助するとき、あるいは生体コントローラーなどで相手を利用するときは、このカードで相手が歴史上の影響がない存在かを確認しなければならない。カードに反応した相手には極力干渉してはならないとされている。
※2
東練馬区名物、窓からポイ捨て
ドラえもんの舞台である東京都東練馬区の住民は、とにかく窓から(特にのび太の部屋の窓から)物をよく捨てる。
特にのび太の母、玉子は畳に置きっぱなしの物を怒りに任せて窓から道路に投げ捨てることは多いし、のび太自身も良くポイ捨てをする。
野比家の面々だけかと思いきや、スネ夫にジャイアン、果ては静香に至るまでまるで窓こそがゴミ箱だと言わん限りにポイ捨てをしている。
とりわけ酷いのはドラえもん。
特にデリケートに扱わなければならないひみつ道具を「こんな物は捨ててしまおう」と、ゴミ箱ではなく一直線に窓へと向かっている描写がコミックでは多々あったりする。
土地柄なのだろうか?
※3
静香を諦めるのび太
原作や「スタンド・バイ・ミー・ドラえもん」である通り、のび太は何度か静香を諦めようとする場面が何度かあった。
ジャイ子と結婚した未来のび太の人生でもそんな事は何度かあった事だと考察。
ジャイ子との未来は、そうした行動に果てに、のび太は自分で納得して静香から身を引いた形となったのかも知れない。
※4
当初の静香とのび太の結婚事情
これも原作及びスタンド・バイ・ミー・ドラえもんのエピソードから。
大人になった静香がスキー旅行に行った際、雪山で遭難する様をタイムテレビで見ていたのび太とドラえもん。その静香を助けて良いところを見せるためにタイム風呂敷で大人になり、救助に向かった子供のび太だったのだが、結局失敗の連続で逆に静香から「心配だからのび太さんと結婚するわ」と逆プロポーズされる結果に。
これについては静香も元々のび太の良い所は良く知っており、のび太に惹かれていた上で、照れ隠しもあってこういう逆プロポーズにしたという見方もあり、本城としてもその見方については肯定的である。
しかし、その同情心による結果(静香の母性をくすぐった上での結果)に子供のび太は不満があり、ドラえもんは「これがイヤならばもっと立派な大人になるようにするんだね」とのび太を諭す。
それにより更に成長したのび太の結果がスタンド・バイ・ミー、「さよならドラえもん」でジャイアンに立ち向かうのび太や大長編(映画版)でののび太が出来上がったのではないだろうか?
では、本作の「ドラえもんが現れなかった世界線での静香」の場合は?
「のび太の事は好意的ではあるものの、同情心の方が勝っており、気持ちではジャイ子の方が勝っていると気が付いていて身を引いた」「のび太が気持ちに整理を付けていたから、友人としてしか意識していなかった(ジャイアンやスネ夫と同列扱い)」。これらの合せ技一本というところでしょうか?
ドラえもんが現れず、ジャイ子と結ばれた結果の未来の場合、どういう経緯があったのかと考えた場合、こういうエピソードがあったのでは無いかと思いました。
漫画の第1話ではのび太はジャイ子の事を嫌っていましたし(初期のジャイ子がバッドエンドの象徴として嫌な子という表現がありましたし)、ジャイ子はジャイ子でのび太を選ぶ理由もあるだろうと考えました(いくらバッドエンドの象徴として描かれていようと、当然ジャイ子側だって選ぶ権利はありますから)。
ちなみに、本作のジャイ子は静香と結婚が確定したストーリーの後、ジャイ子が長年出番が無く(現実時間で10年以上も出番が無かった)、初期設定がなかった事にされて改変された「クリスティーネ剛田」バージョンのジャイ子として登場しています。
※5
のび太の勉強机
ドラえもんが来た世界線では、タイムマシンの出入り口として登場しているのび太の勉強机。これはのび太の父、野比のび助の時代からセワシの時代まで、代々受け継がれいる。
※6
野比ノビスケ
静香と結婚しても産まれるワンパク少年。
ジャイ子ルートでは剛田の血でワンパクだが、原作のノビスケがワンパクなのは静香の血統らしい。
静香が男だったならば、間違いなくジャイアンに匹敵するワンパク小僧だったのが伺えるエピソードが確かに存在している。
それはのび太と静香が体を入れ替えたエピソードで、非力で貧弱なのび太の体を使って裏山の頂上にある一本杉を登りきった場面で静香のヤンチャぶりが伺える。
今回はここまでです。大分強引かつ駆け足ではありますが、プロローグ編の大筋は大体終わりとも言えます。
次回はドラえもんが過去に………行ければ良いなぁ。
さて、玲雄の結末は………
1、セワシくんエンド(大阪理論)
2、リルルエンド(タイムパラドックスで消えるエンド)
どちらがよろしいでしょうか?
のび太の結婚前夜編についてのベースは?
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STAND BY MEドラえもんルート
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旧のぶドラ映画版ルート
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その折半ルート