東京都東練馬区
野比家からほど近いアパート
ドラえもんが野比のび太のお世話ロボットとなってから数日。
ヒデキの判断で直接接触を避けている玲雄達タイムパトロール達は、『つづれ荘』というアパートで部屋を借り、そこで生活をしていた。※1
アパートで生活………といっても、中に『壁掛けシリーズ』を何枚も貼り付けており、各々が圧縮空間の中で寝泊まりしているのだが。※2
ちなみにタイムマリンは『壁掛け秘密基地』の内部に停めてあり、時間移動や物資の補給、ひみつ道具の調達などはそこで行われている。
「よく部屋を借りれたよね?てっきりどこかの地下や多奈川辺りでタイムマリンを沈めて、その中で生活するものだと思っていたよ」
玲雄がそう言うと、スネトが肩を竦め、呆れ顔で返す。
「おいおい、バカを言うなよ。そんなことをしたら見つかった時に大変だろ?それぞれの時代にはね、僕達タイムパトロール隊員とかの時間旅行者や勤務員をサポートする航時局の勤務員があちこちにいるのさ。僕達捜査課の人間なんて、単独で張り込みとか時間犯罪者の追跡とかをするだろ?そういう時に拠点となる借家とかを事前に押さえたりしてくれるんだ。僕も何度かお世話になった事があるよ」
スネトが半ば自慢気に言うと、それを補足するようにヒデキな続ける。
「航時局は民間にも手助けをしているのさ。例えば時間旅行者が時代の雰囲気をそのままに残して、未来の生活基準で環境を整えたホテルがあるだろう?石器時代のホテルとか。あれの管理とかをやっていたりするのさ」
「今回はそれの長期滞在版ってところだね。感謝してよ?そういうの、機動隊は中々気が付かないからねぇ」
「またそういう余計な一言を入れるんだから……そういうのが無ければ、素直に感謝されるだろうに。勿体ないなぁ」
余計な自慢を入れるスネトに、ヒデキが渋面を作る。
こういう事に関する調整は、スネトが気が付いて率先して手続きしていた。
この準備期間、スネトはタイムマリンの改造やら補給の手続き、宿舎の調整などに奔走。ドラえもん達の行動を監視するにあたり、快適な生活を送れているのはスネトが休みを潰して頑張ってくれたお陰である。
これはスネトが言うとおり、要請やパトロールで出動し、終われば本部に直帰する機動隊では中々気が付かない。
必要ならば捜査や張り込みの為に現場の時代に長期滞在する捜査課のスネトだからこそ、宿泊や食料、補給の重要性に気が付いて担当する部署と調整をしていた。
そこは純粋にみんなから尊敬されているのだが、余計な一言を入れてしまうのは子供の頃からの悪癖だった。
先祖のスネ夫がそういうタイプなので、家柄なのかも知れない。
そういう所でスネトはひどく損をしているらしい。
(捜査課の課長から聞く限りだと、養成学校や勤務成績は悪く無いらしいんだけど…まぁ、これはスネト君の子供の頃からの個性だよね)
昔よりはマシになったとは言え、自己顕示欲が強すぎるのが欠点だなと思うヒデキであった。
「本当、スネトがいて助かるよね」
「ふふん。まぁ、こういうのは僕の得意分野だからさ。色々と任せてよ。ジャンボ風に言うなら『任されよ!』ってところだね」
胸をトンっと叩いて得意顔を見せるスネト。自己顕示欲が高いのは欠点であるが、そんなところもスネトの個性だと思えばカワイイところだ。
「それよりも………ジャンボ!この経費は何なのさ!」
スネトは懐から領収書を取り出し、タケルに見せる。
様々な雑貨を購入した記録が残されていた。その殆どが生活雑貨であるのだが………
「何って言われても………必要だろ?鍋とかトイレットペーパーとかお玉とか………」
「必要ないでしょ!殆どの物は補給物資で届くことになってるんだし、調理器具とかは自動調理機があるんだから!」
「ほら、サヤカちゃんが趣味でお菓子を作るときとか………」
「サヤカちゃんをダシにしてもダメ!趣味で経費が下りるわけ無いでしょ!大体、何で全部『剛田商店』ばかりなのか聞きたいんだけど?」
剛田商店とはタケルの実家が営んでいる量販店の前身となった店だ。
主に雑貨を取り扱う店だったのだが、タケルの曽祖父である『ヤサシ』が食品なども扱うようになり、練馬区を中心にチェーン展開へと事業を拡大したのが現在のタケルの家業である。
つまり、タケルは家業の未来の為に経費を使おうとしたのである。
「やっぱりダメ?」
「これを認めたら、僕まで私的横領に手を貸すことになるからダメだね。会計監査で引っ掛かりでもしたら、君だけじゃなくて僕のクビだって危なくなるんだから。これは経費じゃ落とせない!次の君の給料から天引きさせてもらうからね!」
「ちぇっ!スネトのクセにケチクセェの!」
「なんなら機1や総務の経理係に報告を上げても良いんだよ?」
「うっ!ヒデキからも言ってくれよ!多目に見てくれって!今回の責任者だろ!?」
タケルはヒデキに泣き付くが、ヒデキも首を横に振る。
「残念だけど、僕はあくまでも作戦の責任者であって、タイムパトロールとしては部外者だからね。そういうのは口出しできないよ」
「ここの指揮官はヒデキだけど、実務権は僕にあることを忘れないでね」
スネトが言うように、今回の特殊任務の指揮官はヒデキであるが、ヒデキはあくまでも外部協力者であって、経理や補給、人事の割り振りなどのタイムパトロールとしての実務運用に関しては全てキャリア組のスネトが責任者となっている。
「それに、僕も横領には反対だから」
内々で済ませようとしているだけ、スネトは温情をかけている方なのであり、タケトがやろうとしていた行為は立派に『公金私的横領』に該当するものであった。
古くからの友人でも、公金を私的に使うのは見過ごせない。
「レオ〜〜………は無理か。サヤカちゃーん!」
「悪いけど、私もスネトさんに賛成よ」
「ちぇっ!分かったよ………良いじゃねぇか、少しくらい」
サヤカにダメ出しされ、ようやく諦めるタケル。
ちなみに玲雄に弁護を頼むのを最初から除外した理由は2つ。
いくらお人好しとは言え、玲雄の性格からして不正を許すとはとても思えないことが1つ。
そして何より、玲雄がヒデキとスネトを言いくるめる程、弁達者なワケがあるはずもない事が最大の理由だ。
「僕にヒデキとスネト相手に口で勝てるわけ無いでしょ?それに犯罪行為を許すつもりなんてサラサラないし。あ、スネト。これ、復元光線のバッテリー交換の報告ね」
今度は玲雄がスネトに経費の申請を出す。
「またぁ?復元光線を何に使ったのさ」
「神成さんちのガラス修理に。あんな狭い空き地で、何でこうも野球をやるかなぁ………それも何度も何度も神成さんのガラスを割っているにも関わらずさぁ。懲りないよね」
「受理しとくよ。まったく………僕達の先祖は本当に懲りないよね」
玲雄はフォゲッターを上手く使いながら、修理業者等を装い、のび太達のフォローを上手くこなしていた。
中でも空き地周辺の被害をフォローするのに大変だったりする。
ドラえもんが付いていながらこの体たらく。本来ならばタイムパトロールの仕事では無いのだが、大人達がフォローしなければ子孫として色々と申し訳が立たない。
特に神成宅のガラス修理の確率はかなり高いと言える。
もっとも………
「レオさん、実は神成さんのお宅に被害がいくように仕向けてるでしょ?」
サヤカが指摘する。
「バレたか」
サヤカが言うように、玲雄はその気になれば被害が出ないようにする事も出来たのだが、敢えてそうはしていない。
「それは何で?」
「神成さんは出来た人さ。例えガラスを割ったとしても、素直に反省して謝れば、少し説教はされても許してくれるとても良い人なんだよ。でも、謝りもしないで逃げる子供達には厳しいんだ。だから、わざとあの人の家に向けて打球とかをコントロールしているんだ。怒ってくれるなら、あの人が良いって。なんて言うのかなぁ………真剣に教え導いてくれる人っていう感じの………」※3
玲雄は神成さんを思い浮かべながら、その人物像を拙い言葉で伝える。
玲雄の言葉にすぐ理解を示したのは、やはりというかヒデキだった。
「『昭和』って時代までは、地域で子供を育てるという風習が日本にあったみたいで、この時代あたりまではどこの地域でも『神成さん』みたいな近所の説教おじさんはいたみたいだよ。『平成』って時代辺りになると、そういうのも時代の流れで廃れていったみたいだけど」
「ああ、歴史の授業で言っていたかもしれないなぁ。昔は他人の子供に対しても自分の子供みたいに接していた時代があったって。レオもよく気が付いたよな?」
「それはほら。機3は時代の迷い人とかを扱うことが多いからさ。自然と『人』を見ちゃうんだよね。そういうジャンボだって、凶悪犯が現れた時は都合良く警察官に化けたり、上手く誘導してのび太君達を助けているじゃないか」
「ああ、それが機1の得意分野だからな。本当は機2が一番の得意分野だけどよ」
組織犯罪程ではないが、単独や軽度の時間犯罪を取り扱うのが機動2課であるので、組織だった犯罪を複数で対処する機動1課のタケルは、泥棒や単独の強盗犯に対しては専門外なのだが、弱ければ機動1課は務まらない。
必要ならば単独で凶悪犯に立ち向かう事も多い。
信じられない事に、のび太の住む地域は案外空き巣や強盗、誘拐犯等の凶悪犯が巷をたむろしている。
そういうのに何故か鉢合わせするのがのび太やドラえもんで、その度にタケルは上手く警察官を装ったり、凶悪犯を交番(当時は派出所)などへと誘導したりなどで活躍していた。
「私のオペレーションを忘れてもらっては困るわ」
それらを上手くサポートしているのがサヤカのオペレーター能力である。
現場に出ることは少ないが、タケルや玲雄を上手く誘導したり、必要な道具を現地に転送したり等、スネトとは別の意味で縁の下の力持ち役を担っている。
そして、情報収集や大まかな判断を下しているのがヒデキ。
5人は上手く助け合いながら、ドラえもんを陰ながらにサポートをしていた。
かゆいところに手が届く役割を担っていると言っても良い。
これは、本来任務とは違うわけだが、どうしても放っておけないのだ。
後々に行く先々でドラえもん達がする………もしくは首を突っ込む大冒険で発揮する、お人好し体質が彼らにもしっかり遺伝してしまっているのだろう。
(時々、「余計な事をするな!」ってタイムパトロール本部から苦情が来るんだけど………どうも放っておけないんたよね)
ヒデキも時々、お節介が過ぎると思ってしまう。思ってしまうのだが、野比のび太を取り巻く環境は、思わず手を貸したくなってしまう何かがあった。
彼らの先祖が驚くほど自分達にそっくりだった事も理由の1つ。
ヒデキが扱う物理学の分野では、『共時性』というモノがついて回ることが多い。
全く違う境遇なのにも関わらず、どこか似たような存在が集まってしまう。
血縁とはいえ、ここまで自分達とのび太達が似てしまっているのも一種の共時性なのだろう。
だが………
(それだけだったならば、ここまでギリギリを追求する線まで任務から逸脱する事はない………レオ君が言っていた、人を惹き付ける何かがのび太君達にはあるんだよね)
始めの方こそ………特に『暗記パン』や『コンピューターペンシル』の様に道具を使ってカンニングしたりするチート行為を平然とやって喜んでいたのび太達。
コンピューターペンシルの事件の時は、ついついドラえもんが『僕が君の所に来たのは間違いだったかも知れない』とこぼしてしまったように、いくら理由があるとはいえ、セワシの申請を許可してしまったことを後悔したヒデキ達。
カンニング行為を嫌う玲雄等は歯噛みをしていた程だ。コンピューターペンシルの本来の使い方は手書きの会計書類など、重要書類で間違いが生じないように使用するのが正しい使い方であって、間違ってもカンニングを助長する為の物ではないのだから。
少しずつ………それこそ本当に少しずつではあるが、人間的にのび太達は成長していっていた。
それは未来のひみつ道具を使いこなせず、結局自業自得で手痛いしっぺ返しを受けることによって教訓として受け止めているからだろう。
そもそも野比のび太、骨川スネ夫、剛田武ら主だった問題児3人にしてみても、イタズラ等でトラブルを引き起こしはするものの、根本的に悪事には向いていない性格。
決定的な所で良心が働き、最後の一線を超えることはない。
そして時には小人族のドンジャラ村を安全な地域に移住させたり、モアやドードー鳥等の絶滅危惧種動物を保護するなど、ひみつ道具を活用して善行に勤しんだりしている。
絶滅危惧種保護に関しては思い切り歴史を改編している事項であるので、タイムパトロール的には複雑な気分なのだが………。
中には苗木に意思を持たせて育成し、植物星へ留学させるなど、22世紀の人間をも舌を巻く偉業を成し遂げたりしている。※4
「あんな事が出来たら良いな、あの夢この夢いっぱいあるけれど、みんなみんな叶えてくれる………あの不思議なポッケで叶えてくれるから………例えば『空を自由に飛びたいな』と思えばタケコプターが叶えてくれる。そんなドラえもんが大好きで、少し調子に乗ってしまうけれど………だけど、気が付いて最後には学んで行く。良い所を伸ばして………あの時は本気で見限るところだったけれど………」
「何言ってるんだ?レオのクセに詩的な表現は似合わないよ。ジャンボやジャイアンの歌に匹敵するくらい、下手くそにも程がある」
「もう!分かってるよ。僕にセンスが無いくらい!」
プリプリと怒る玲雄。
(なるほどね。レオ君の剛田家音痴の血筋はセンスの無い詩で出るのか………レオ君の言う、あの時って言うのは………『刷り込みタマゴ』の時かな?あの時ほど、レオ君がのび太君に失望した事は無かったもんね………自分の事がどうとかは無関係で………)
ヒデキはその時のレオを思い出す。
同時に………
(気が付いていないと思ってるのかい?レオ君………君の体が、中心から少しずつ薄くなっているって事を隠してる事に………このままじゃ、君は………)
野比のび太が源静香と結婚を目指している。
それが進行すればするほど、玲雄の存在は………。
続く
※1
つづれ荘
21えもんの舞台である流行らないレトロなホテル、『つづれ屋』から。
一応、21えもんの先祖もドラえもんに登場しており、つづれ屋も古い旅館として登場している。
アパートの名前が思い浮かばなかった為、この名前にした。
※2
壁掛け○○
大魔境、宇宙小戦争、わんにゃん時空伝など数作品で活躍した建造物。
特に
※3
神成さん
狙ったかのように毎度毎度、ジャイアン達からガラスを割られる被害者。
のび太達からは恐怖の対象として見られている神成さんだが、素直に謝れば『偉い!よく素直に謝った!』と褒めてくれる人格者。あれだけ毎度、被害を受けていながら、そういった神対応が出来るものである。
なお、当たり前のようにドラえもんの準レギュラーキャラのように扱われているが、実は純粋なドラえもんキャラではなく、『おばけのQ太郎』から登場しているゲストキャラクターだったりする。
※4
キー坊
後に『緑の巨人伝』として再構築され、映画化されたエピソード。ドンジャラ村、モアとドードー鳥、キー坊のエピソードは後々の『雲の王国』で重要なファクターとなる為、外せないエピソードである。
いっその事、『緑の巨人伝編』をやろうかとも考えたが、わさドラ映画である事と、色々と矛盾が生じてしまいそうなので没にした。
え?わさドラのSTAND BY ME編をやっておきながら今更?
はい。「未来の国からはるばると」〜「帰ってきたドラえもん」のエピソードを組み込むのに楽であった為、自分でも矛盾しているとは思っていながらも進めてしまっています。
今更ながらすみません。
代わりにファミコン版ドラえもんの代表作である『白ドラ編』や『ギガゾンビの逆襲編』でもやろうかしら?
STAND BY MEドラえもん本編は徐々に進んでいきます。
それでは次回もよろしくお願いします。
のび太の結婚前夜編についてのベースは?
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STAND BY MEドラえもんルート
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旧のぶドラ映画版ルート
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その折半ルート