今日は4月の16日………俺の幼馴染である一色いろはの誕生日である。
投稿日が既に一か月も過ぎている?作者の都合だ、許すな。
で、ネットでのリサーチと小町とお義母さんに意見を頂戴して贈り物を選択した。
自らの誕生日当日じみに緊張した面持ちでいろはの背中を見ていた。
ちなみにだけど俺の誕生日に緊張するのはプレゼントのグレートがどんどん上がっていくからだ。
ブランド物のバックを送られたときは思わずフリーズした。
誕生日だというのに、いろはの背姿は普段と全く変わらない様に見えた。
それは食事が出てからも変わらず、会話こそすれど普段通りに食事をとっていた。
真面目にどのタイミングで渡せばいいのか分からない。
普段は夜に誕生日パーティーを行うからか?
いろはから見えないソファの陰に隠したプレゼントを入れた紙袋の方向を見て眉尻を下げる。
後片付けを終えて戻ると、いろはが丁度ソファに腰かけて本に目を通しているところだった。
読書している様も絵になるのは、流石といったところか。
集中しているいろはの隣に座るのは微妙に躊躇いがあるのだが……
遠慮していても仕方ないと、置いてあった紙袋の手提げを掴み、隣に腰かける。
ふっといろは顔が上がる。
俺の気配と紙が擦れる音に気付いたのだろう。
「誕生日おめでとう」
突き出すように膝に乗せると、更にきょとんとした顔になった。
「なんですかこれ」
「誕生日だろ?」
「そうですけど…………夜に祝うはずですよね?」
「ただ、俺が一人で祝いたくなったからだ」
「今日のはーくんはどこかおかしいですよ?」
「なら、日頃の感謝でもいい。ただ、お前に渡したかっただけだからな」
せっかく悩んで用意したものなのだ。貰ってもらえないと寂しくなる。
だから、誕生日プレゼントとしてではなく感謝の気持ちという事で彼女に押し付ける。
ほとんど毎日美味しい料理を作って貰って、掃除も手伝ってもらって…………
恩を小出しにでも返しておきたかった。
もしかしてだが、一生を使っても還すことが難しいのではないか?
「……開けてもいいのですか?」
「ああ」
頷くといろははおずおずと袋に入っていた箱を手に取り、丁寧に包装紙を開けてリボンをほどく。
なんというか、贈り物を目の前でゆっくりと開けられるというのは、やけに緊張した。
毎年のようにやっていることなのに緊張するのはなぜだろうか?二人きりだからか?
中に入っているのは、定番といったら定番のハンドクリームだ。
大きめな箱でささやかにお菓子がついているのはセットで売っていたからである。
これもいろはの好きなメーカーのものだったというのもポイント高い。
いい匂いがするとかそういった洒落たものではなく、
家事をするのに困らない無臭且つ肌に優しく潤いを保つといった文句で売り出されているものだ。
ネットで評判も確認しているので、効果に心配はないだろう。
小町からもお兄ちゃんにしてはポイント高い!との評価をいただいた。
で、そのポイントって何処で使えるの?
「まあ、それ程大したもんでなくて悪いけどな。家事させてるし、乾燥するだろ?
匂いがついたやつもあったけど、お前持ってそうだったし。肌に優しくて効き目があるらしい」
「はーくんらしく実用的ですね」
「だろ?」
「ありがとうございます。大切に使いますね」
「……そんなに喜んでもらえたなら送る身としても本望だな」
「はーくん、ありがとうございます」
これは…………もう…………隠すことは出来ないよな。
ただ、自分でけじめをつける前にこれだけは聞いておかないと
「その、あー、いろは」
「はい」
「改めて聞くが……いろはは、俺の事が好きなのか」
「はい。好きですよ……はーくんが好きです。一人の男の人として、好きなんです」
恐る恐るの問いかけに、いろはは小さく笑って肯定した。
その答えは予想していた癖に、俺の心臓はうるさいくらいに暴れてる。
体の隅々まで熱くなった血液が届くのを実感していた。
日常の生活の中で、無意識のうちに送られる好意から、伝えようとあからさまに伝えられる好意に俺は目を逸らし続けていた………最近はそれすらも出来なくなっていたが
受け取ろうにも自分に自信が無いからという理由ではぐらかしていた。
それが改めて直接ぶつけられたのだから、歓喜も興奮も当然のものだろう。
身に余るような喜びを感じ、固まっていると、いろはがそんな俺を見て何を思ったのか苦笑した。
「別に、今すぐ返事をして欲しいとかではないんですよ」
「は?」
「私は私なりに覚悟を伝えたかったのです。
私は、はーくんが好きで、はーくんとこれからも一緒に居たいって。
…………伝えられただけで、今日のところは満足です」
「そうなのか?」
「ええ。高校に入って、奉仕部の二人というライバルになりうる人が現れて…………
どうやら少しだけ焦っているみたいですね。でも、そんな事はもうどうでも良いんです。
これから、はーくんの躊躇いを吹き飛ばせるくらいに、私に惚れさせればいいんですから」
「………そうか」
「あ、今は伝えるだけですけど絶対に逃がしませんからね?」
普段見せている虚勢を張った表情ではなく、久しく見た事なんてないような
心の底から自信に溢れた顔を浮かべいろはが立ち上がろうとしたので、手を伸ばして引き寄せる。
(──ここまで言わせておいて返事をしないなんて、情けない真似はしたくない)
ゆっくりでいいと俺の意思を尊重してくれたいろはに、躊躇いを振りきって彼女を包み込んだ。
腕の中で華奢な体が強張って、それから抱き締められていると理解したのかふっと力が抜けた。
急に引っ張ったからか脚の上に乗っているいろはは胸にもたれながら俺を見上げる。
澄んだ瞳には、驚きと困惑と、それから僅かな期待の色が、窺えた。
いろはを離さないように抱き締めながら、小さく頷く。
俺という人間ががここまで好きだと言うのを躊躇っている。
そして、好いてもらっていると認識するのを心のどこかで拒んでいたのは…………
中学生時代に…………いや、幼少のころから常にあった友人からの裏切りが…………
拒絶の言葉がずっと胸の奥で楔のように刺さっていたからだろう。
「ずっと見ていたいろはは間違いなく知っていることだと思う。
それに、つまんない事かもしれないけどさ……友達だと思ってた人達に裏切られた。
俺自身になんて価値がないって笑われた。
……友達だと思っていたのは俺だけで、俺は彼らに、利用されていただけ。
とても哀れで滑稽だと、本当に自分でも思うよ」
名家のように家政婦を雇うほどのものではなかったが、両親のお陰様で収入は他の家庭より
余程よかったし、自分自身でひらかした事は一切なかったが持ち物の質はよかった。
それに加えて、才色兼備な幼馴染がいて…………本人のスペックも非常に高かった。
それを妬んだのか、利用しようとしたのか
──恐らくどちらともであるが、数人のクラスメイトが側に寄ってきたのだ。
「なんとなく分かると思うけどさ……親が裕福だと、周りが金銭的なものを望むって」
「……はい。知ってます、見てきましたから」
彼らは愛想もよくて親しくしてくれていた。
中学校生活の途中からとはいえ、気も合って親友と言えるくらいに仲がよくなった。
このまま高校に行っても付き合いは続くんだな、と思えるくらいには親しかった。
幼少のころから続いていたそれらから学ぶこと無く………あっさりと心を許して
そんな彼らが自分を罵っているのを見た時は、心臓が潰れそうになった。
「彼らの本性を見抜けなかった俺が愚かだったし至らなかった。
それは分かってるんだ。分かっていても、人を信じる事が怖くなった」
信じたらまた同じように裏切られるのではないかと、恐れた。
一度芽生えてしまった疑惑の心は簡単になくせるものではない。
だから、疑ってしまう…………たとえそれが身近な人間だとしても
「全員が全員そうじゃないって分かってる。
そいつら以外は純粋に俺と友達をしてくれていたのかもしれない。
けど──……一度芽生えた疑念って、簡単に振り払えるものじゃないだろ?」
「……はい」
「だから、お前に対して寄り添っても心の距離だけは保っていた。
きっとお前のことだからそれも感じていたんだろ?」
「…………はい」
「まぁ、最近は距離なんてないようなものだったけれどな」
「はーくんは隠し事は苦手ですから」
「元々は、お前への好意にも本当は答える気なんてなかった。
常に裏があるかもと疑っている俺と一緒に居たら幸せになんて……なれないと思った」
「…………そうですか」
「幻滅したか?」
「しませんよ。するわけないじゃないですか」
「でも…………」
「でもじゃありません。はーくんの考えている事なんてお見通しなんですから」
「そうか…………」
「はーくんは、こんなにも優しくて素敵なのに…………」
頬に手を伸ばして悲しそうに微笑んだいろはに、八幡も淡く笑う。
「だから、人を心から好きになるなんてないって思ってたんだよな。
……こうも簡単に決意ごと覆されるとは思ってなかったけど」
改めて、いろはを見つめる。
視界に捉えるだけで胸がじわりじわりと温かくなっていく。
面映ゆい気持ちと愛しいという気持ちで満たされる。
こんな気持ちになるのはいろはが俺の初めてで恐らく最後になる。
それだけ、恋焦がれていた。
「……最初はさ、どうやったら離れてくれるかなって思って塩対応をしたりさ」
「知ってます。面と向かって言われましたからね」
「その節はすまなかったよ。その時の俺はさ、素直じゃないし、可愛げなんてなかった。
互いに利害関係でいいって思ってた。そのうちに離れていくだろうと思って
でも……それがいつの間にか、物足りないって思うようになった」
最初の頃こそ、無駄に関わりたくないと思っていたのだ。
それが変わったのは、いつだったろうか。
「もっと知りたいと思うようになった。触れたいと思うようになった。
大切にしたいと心の底から思うようになった。
欲しいって、思った。初めてだったんだ、こんなの………」
「……はい」
「ずっと、我慢してた。俺なんかって。
諦めるだけじゃなくてどうやったらお前と釣り合えるようになるかって悩んだよ。
まあ、俺から何かする前に、お前が踏み出したんだけど」
「ふふ。……私だって我慢してました。
はーくんはカッコいいから、他の人に取られたらどうしようって思ってました。
それに私の事を好きになってくれるかなってひやひやしてました」
「正直言って、そんな物好きはお前くらいだよ」
「む。またそう言う……」
「……だから、その物好きが物好きでなくなるように頑張るよ」
「え?」
「今の俺は人とも真面に関わろうとしないでさ、雰囲気も暗いだろ?
他の人に誇ることがあるとすれば学力くらいだ」
「確か、総合二位でしたっけ?」
「ああ」
「十分凄いと思うんですけど………」
「でも、そんなものじゃあいろはの隣に入れない。その程度じゃ、俺がいたくない。
他の人からいろはが人から物好きって言われなくなるように、頑張っていい男になる。
いろはに見劣りしない……とまでは行かなくても、胸を張れるいられるくらいにな」
もう、誰にも文句を言わせないように、大切な人の隣で胸を張って立つために
全身全霊で立派な男になろうと思っている。
勉強もスポーツも………苦手な他の人との関りだって
いろはのためだけでなく、自分のためにも。自分に自信を持つためにも。
──その始まりはこの言葉から始めるべきだろう。
「俺はいろはの事が好きだよ…………俺と付き合ってくれるか?」
透き通るような瞳を見つめてゆっくりと囁くと、澄んだ瞳が膜を張ったように湿る。
しかし、雫はこぼれ落ちる事はなく、ただ俺の姿をを映している。
そこに映し出された俺の姿を見ていると、俺もまったく同じようになっていた。
いろははその瞳を隠すように閉じて、微笑んだ。
「遅いですよ、バカ」
「悪かったな」
「これからもよろしくお願いしますね?」
「ああ、任された」
たとえ、この場に他の誰がいようとも八幡にしか聞こえないような………
それでいて小さく弾んだ、それでいて震えた声が…………
了承の意を伝えるといろはは、八幡の胸に改めて顔を埋めた。
ぎゅっと背中に回る手は、力強く八幡を留めて離さない。
もう逃がしてあげないと言われているようで何だか面映ゆさを感じる。
この幸せを自分も逃がさないように八幡もいろはの小さな背中にしっかりと手を回した。
(──絶対に、離さない)
大切にしたい。幸せにしたい。愛したい。
いろはと真に心を通わせて初めて感じたのは、そういった気持ちだった。
「お前を幸せにしたい」
「確約ではないんですか?」
ゆっくりと顔を上げたいろはが悪戯っぽく問いかけるので、笑っていろはの耳元に唇を寄せる。
そして、囁くように自分の決意を口にした。
「これはあくまでも俺の願望だからな。俺が俺の手で必ず幸せにしたいって願いだから。
決意で言わせてもらうなら……大切にするし幸せにするよ、絶対に」
「やっぱり、はーくんはズルい人です」
「そんな俺は嫌いか?」
「いいえ、大好きです」
たっぷりと熱を込めた誓いの言葉に、いろはは熱に溶かされたような甘い笑顔で頷いた。
告白って難しい………不評だったらこの話は消します