薔薇は青いままでいい   作:敷き布団

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今回はリサ視点のお話なのでボリューム薄めです。








第6話 無力な幼馴染は

君が聴いてくれないのなら

僕は歌わなくていい

僕の音楽を嫌いになったなら

僕は歌えなくていい

 

 

 

 

 

『リサ、サビが終わった後のフレーズ、間に合ってないわよ。もっと練習してきてちょうだい』

 

『ご、ごめんね』

 

今日のお昼の練習風景だった。今度Roseliaはライブを控えているからって、練習には熱が入っている。友希那や紗夜の雰囲気はいつも通りの緊張感なんだけど、あこや燐子はいつもよりも張り詰めた空気で合わせていた。

そんな少しだけハードな練習。Roseliaに入ることを決めた時点で、自分が苦しむことなんてのは分かっていたけれど、それでもいざ一日中楽器を弾き続けるとなると疲労ぐらい感じて当然なのだ。いくらピックを使っていたとしても指は痛くなるし、足腰もキツくはなる。

 

「ふぅ……。疲れたぁ……」

 

アタシはモフモフのベッドに倒れ込んで、充足感を覚えた体を労る。全身に襲いくる疲労感と充足感は表裏一体で、体を限界まで追い込んでいるからこその充足感だった。他のことは何もかも忘れられるような、そんな心地の良い疲労感であった。

 

「……はぁ」

 

そのため息は自分の情けなさというか、どうしようもならない馬鹿馬鹿しさを思い出すため息。そんなため息に当てられてか、アタシはスマートフォンを無心で眺めていた。友達とのくだらないやりとりの中に紛れ込む、友希那や柳とのやりとり。アタシがわざわざお膳立てした、惨めなやりとり。

 

「見ても仕方がないよね、こんなの」

 

眺めていれば眺めているほど憂鬱な気分になるスマートフォンをほっぽり出して、アタシは心機一転外を見ようと窓に近寄る。アタシにとってこれは一つの賭けなのだけれど、どうやらアタシはその賭けに勝ったわけでもなく負けたわけでもなかったらしい。

 

「……え?」

 

窓越しに見える友希那の部屋。幼馴染のその部屋には、アタシの大好きな2人の幼馴染がいて。アタシの目に映ったのはその2人が口論して、仲違いしたらしいところであった。

 

「え? どういうこと?」

 

もちろんアタシとて地獄耳をしているわけではないから、その内容はさっぱりだけど、どうやら友希那が怒鳴りつけたことは見たところでは確定だった。だって友希那があんなに強く感情を表に出すことなんて、アタシはまずほとんど見たことがなかったから。Roseliaが仲違いをしそうになったあの時の慟哭と同等の、いや、それよりも大振りであったかもしれない。

暫くアタシは頭の中がフリーズしていて、何も考えられなかったけど、ふと意識を取り戻して、向かいの部屋に明かりをつけたまんまの友希那を見つけた。アタシは部屋を出て、階段を降りて、すぐに家を出て、友希那の部屋に向かったのだ。

 

「友希那っ」

 

「……リサ? どうしたの?」

 

見た限りでは、あんなに衝撃的な光景が繰り広げられていたのにも関わらず、友希那はケロッと何事もなかったかのような反応を見せた。

 

「どうしたも何も、柳と何かあったの?」

 

けど、柳の名前を出した瞬間、友希那はあからさまに目を逸らした。きっと何も起きていないというフリをしたのだろうが、それでは何かあったことをただ肯定しているだけである。アタシは友希那の顔をじっと見つめる。すると、友希那は根負けしたのか、口を開いた。

 

「……別に、喧嘩をしただけよ」

 

「喧嘩って、何の?」

 

「……まぁ」

 

「誤魔化したって分かるんだよ? 友希那」

 

「……そう」

 

だって目が泳いでいるのが丸わかりだ。たとえアタシが友希那の幼馴染じゃなかったとしてもその発言の信用度が低いことぐらいは簡単に察することができるほどだ。だから、アタシは友希那が口を開くのをずっと待っていた。

 

「柳と別れたわ」

 

「……えっ?!」

 

……あまりに唐突な発言にアタシは耳を疑った。どういうことかさっぱりわからない。喧嘩をしたぐらいならまぁ分からないでもない。誰でも喧嘩をすることなんてあるはずだ。けれど別れたって……。正直信じられなかったけど、でもその現場を遠目ながら目撃してしまったものだから、信じるほかなかった。そして、アタシの脳裏に数日前の柳の発言が蘇った。

 

『僕さ、友希那のこと。嫌いかもしれない』

 

柳はどうしてか、理由をはっきりとは教えてくれなかったけど、嫌なぐらいにその発言と友希那の説明が噛み合ってしまうのだ。

 

「どうして、別れたの?」

 

「どうしてって……。……私と柳じゃ、合わないからかしら」

 

「合わないって……全然2人で噛み合ってるじゃん! 小さい頃からずっと……」

 

「……そんなこと言ったって。別れようと言われたんだもの。だから別れたのよ」

 

「『だから別れた』って……。友希那はそんな簡単に別れちゃっていいの?!」

 

あまりに容易く飛び出した、幼馴染同士の決別の言葉。どうして友希那がこんなに淡々と構えていたのかまるでアタシには訳が分からなくて、思わず声が大きくなった。けれど、アタシが荒げた声にも友希那は動揺するそぶりを見せなかった。本当は少しぐらい動揺していたのかもしれないけど、アタシには少なくともそう見えた。

 

「……別に。去る者を追っても仕方がないもの。私だってライブも控えてる。リサだってそうでしょう?」

 

「それは……そうだけどさ。……でも、あんまりにも冷たすぎるよ……」

 

友希那の表情が読めない。自分の心すら読めないアタシにはその顔の意味は分からない。アタシの口から吐き出された言葉はあまりに空虚に消えていく。

 

「……そうかしら」

 

「ごめん友希那。アタシが……首を突っ込むことじゃないよね」

 

アタシの心の中に渦巻いたのはドロドロとした感情だった。どういうわけだか、アタシには友希那と柳が別れたという事実が許せなくて、けれど、許せる自分もいて、もう頭が狂いそうだった。

アタシは何を返せば良いかも分からずに部屋を飛び出した。アタシが知らなきゃいけないことは友希那の気持ちだけではない。友希那の気持ちも分かってはいないけど、他にも知らなきゃいけないことがあるから。アタシはもう1人の幼馴染の元に向かった。

 

アタシはいつものように柳の家に入る。3つ並んだ植木鉢の真ん中の鉢の底に張り付いた合鍵でガチャリと音を立てる。階段を上り、ノックをするも返事はない。ドアノブを回して部屋に入ると、明かりも消されて部屋は真っ暗だった。

 

「……柳?」

 

「……なんだよリサ」

 

窓から差し込む僅かな明かりがベッドの隅に座り込む柳の存在を映していた。見てはいけないものを見てしまったかのような罪悪感。けれど、そんな罪悪感に負けてたって拉致が開かないから。

 

「リサ、何の用?」

 

「友希那から……話聞いた。別れたって」

 

「……そっか」

 

いつにも増して言葉の少ない柳が顔を上げることはない。

 

「なんで、別れるなんて言ったの? 嫌いかもしれない、って思っちゃったから?」

 

「友希那は結局……Roseliaが1番なんだよね」

 

「え? ……それは……アタシには分かんないけど。でも、Roseliaにかけてる想いは、強いと思う」

 

「……僕のこと、友希那は見てくれなくなったから」

 

「……うん」

 

柳の言葉の端々には悲壮感と絶望が漂っている。それはさながら捨てられた仔犬のような憐憫を伴ってアタシに語りかけてくる。

 

「僕が、僕の曲は、Roseliaのこと壊すかもしれないから」

 

「……えっ?」

 

柳の口から発された言葉の意味が分からなくて、アタシは思わず聞き返した。柳の曲がRoseliaを壊すだなんて、まるで意味がわからない。何の関連性だってないじゃないか。

 

「……友希那に言われたんだよ。Roseliaの曲作り、手伝おうとしたら、僕がRoselia壊しちゃうから」

 

「Roseliaを壊すなんて、そんな」

 

アタシには友希那の発言のその真意は分からないし、そもそも話の流れだってまるて知らない、ただ首を突っ込んでいるだけのアタシだったけど、たとえ柳が作ってくれた曲でもRoseliaで歌えば、それはきっとすごい曲になるはずだ。だからこそ友希那の言いたいことがよく分からない。

 

「最近ずっと、友希那は音楽だけだから。……僕の音楽が嫌いになっちゃったなら、もう僕が友希那のそばに居られる道理はないよ……」

 

「そんなこと……」

 

ない、ってそう断言したかったけど。今の柳の顔を見ると、とてもそんな無責任なこと言える訳がなかった。アタシの唇はただただ震えていた。

だってアタシは今井リサで、湊友希那ではないから。

だってアタシは柳のことが好きな今井リサで、友希那のことが好きな今井リサだから。

柳の表情に浮かんでいるのは、音楽に恨みを持ったかつての友希那のような表情。柳にかける言葉なんて、アタシには何も思い浮かばなかったんだ。

 

 

 

 

 

君が考えてることなんて

僕には何も分からないけど

あの日見た青い薔薇は

色褪せたまま消えていった

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