とあるゲーマーの話   作:しろむらさき

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終末戦争の停戦から数年後という想定です。
前半部分イランヤロ!とか言われそうですが、投稿者が書きたかっただけなんです。ユルシテ...


①とあるゲーマーの話

彼女は極限の状態であった。

これまで生きてきた17年という歳月の中で、最も集中していると言っても過言ではない。

右手にはマウス、左手にはキーボード。

それらのデバイスは今、彼女の手となり足となり、そして頭脳となっていた。

 

『現在のスコアは2-0と、Cシャドウ選手がリードしている展開です』

『3ポイント先取ですから、もし次も彼女が取れば3-0という一方的なスコアで決勝戦が終わる事になる訳ですが……』

『はい。もしそんな事になれば、予選から通して1度も相手にポイントを取らせずに優勝するというね。もう、前代未聞の快挙ですよ』

『ただそうは言っても、相手は直近の2大会を連覇しているウィンド選手ですから。王者の意地にも期待したいところです』

『さぁ初参戦の人気配信者の3タテが起こってしまうのか、それとも最強と謳われた男の逆襲が始まるか。見ていきましょう……第3ラウンド開始です!』

 

繰り出される攻撃をいなしつつ相手の動きの特徴を見出し、それに合わせた最適なコンボを導出。

そして相手が少しでも隙を見せた途端、目にも留まらぬスピードで畳み掛ける。

有利な状況だと思っていたところで突然始まる猛攻に対応できる者はおらず、千景は予選上がりではあったものの順当に勝ち上がってきた。

そうしたプレイスタイルと対する相手の反応は、この決勝戦においても例外ではない。

最初のラウンドでは中盤まで相手が優勢だったものの、一瞬空中でコンボが切れたところを突いて攻勢に転じ、そのまま相手HPを削りきって勝利。

次ぐ第2ラウンドでも、前半はやはりガードを中心とした立ち回りに徹し、少し動きを変えてきた相手のクセを見破って再び仕掛けた。

それでも、優勝経験のある猛者の目には依然として闘志が宿っている。

それを感じ取った彼女は最後の作戦に出た。

 

『ああっと、今度は最初から行ったCシャドウ!ガードなんか忘れたと言わんばかりの苛烈な攻撃がウィンド選手の体力をどんどん減らしていく!』

『これ心を折りにきてますよ!流石のウィンドもここは焦りを隠せないか!』

『いやーこれまずいぞ!ウィンド選手何もできてません!サンドバック状態になってしまってます!どうにか抜け出さないとこのまま終わってしまうぞ!』

 

画面に映るキャラクターをどう動かすのかを5手、6手先までイメージ。

機材を操る手先指先は、運動神経を通じて送られてくるイメージを画面の向こう側に再現し、彼女の思い通りの戦況を作り出す。

 

『これ、ウィンド選手側がずっと空中に浮かされっぱなしなんですよね。先程までの2ラウンドにおいてCシャドウ選手が見せた攻勢パターンと、全く同じやられ方をしてしまってます』

『どうにかして地上に降りたいのはウィンドです!ただ隙も無ければ体力も無い!』

『うーんどうするウィンド!』

 

圧倒的有利の先にあるものは勝利のみ。

だが油断はしない。

小さい頃からゲームに力を注いできた彼女には、有利を取って油断した結果、逆転の敗北を喫してしまった苦い記憶が何層にも積み重なっている。

そしてその中に、一際大きく存在感を放つ試合があった。

 

“まさか、お前に勝てるとは思わなかったな”

 

もう絶対に、油断なんかしない。

強者は強者のプレイングのみを追求する。

嫌いだったあの人に負けて以来、そう誓ったのだ。

 

『勝った!Cシャドウ!やりました!初出場で初優勝、最後に笑ったのはCシャドウ選手でした!おめでとうございます!Good game, GG!』

『GG!いやーちょっと強すぎましたね……』

 

そして彼女は、1番高い所まで来た。

神の力ではなく、自分自身の力で。

勇者ではなく、郡千景という1人の人間として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、来た来た!ぐんちゃーん、こっちこっちー!」

 

手を振る友奈に軽く手を挙げて応えた千景の中には、2つの感情が渦巻いていた。

 

「ぐんちゃん、優勝おめでとう!」

「ありがとう、高嶋さん。でも、今回はちょっと……」

「あれ?どうしたの?」

「その……優勝できた事は嬉しいのだけれど、ちょっと物足りなかったかも」

「確かに、すっごく強かったもんね。誰もぐんちゃんに勝てなかったし」

 

結果に対する達成感と、相手に対する不足感。

こんな事で喜んでしまって良いのだろうか?

井の中の蛙になりはしないだろうか?

対立する感情の波は素直な喜びを妨げる。

 

「でも私、相手をどんどん倒しちゃう強いぐんちゃんを見てて」

 

そんな心の矛盾を消し去ってきたのはいつだって——

 

「カッコイイなーって思ったよ」

「はぅ……」

 

友奈がそっと千景を抱き寄せる。

 

「っ……!?こ、こんな所で」

「今回、1番強かったのはぐんちゃん。そうだよね?」

 

友奈の吐息が耳をくすぐる。

黒髪の少女の顔は一目で分かる程に紅潮していた。

 

「強い人には強さの理由があるんだって。ずっとずっと頑張ってきた、っていう理由が」

 

頑張ってきた——私はちゃんと頑張ってきたのだろうか?

幼い頃からずっと、現実から目を背けるためにゲームにのめり込んできた。

そんな態度を「頑張る」と言ってしまって良いのだろうか?

 

「ぐんちゃんがどう思ってるかは分からないけど、私は」

 

そんな疑問も。

 

「とーっても頑張ってたと思うんだ」

 

特効薬の前では無力だった。

どんな諍いも、疑問も、妬みも、全部全部吹き飛ばしてしまう。

千景は思った。

彼女がそう言うのなら、そう思っていよう。

だって、彼女がそう言っているのだから。

彼女の言葉に嘘偽りなどあるはずがないのだから。

 

「高嶋さん……ありがとう。その……ちょっとだけ楽になったかも」

「そう……?良かった。ぐんちゃんが元気だと、私も元気になれちゃうな」

「もう、またそんな事言って。だから私は」

「おーい、千景ー!」

 

慌てて友奈を引き剥がした千景の目に、ムードを壊す天才の姿が映った。

隣では、これまた慌てたひなたが何かを言っている。

 

「あ、若葉ちゃんにヒナちゃん!」

「すみません、後でよく言い聞かせておきますので」

「ん、何の話だ……?」

 

ハアアァァァ……。

漏らされたため息は鉄アレイのように重い。

 

「あら……あなたたちも来てたの」

「お疲れ様です。優勝おめでとうございます、千景さん」

「た、大赦の公務で近くに来たんだ。時間が空いたから、ついでに寄ろうと思ってな」

「ふふ……そんな事言って。本当は気になって仕方がなく、公務が終わった途端に大急ぎで会場に駆け込む心配若葉ちゃんだったんですよ」

「ひ、ひひひひなたっ!そそそれは言わない約束だっただろう!」

「若葉ちゃん。帰ったら、ゆっくりじっくりお話しましょうね」

「な、なぜそんな脅すような口調で言うんだ……?私が一体何をしたというのだ……?」

「そう、乃木さんが……」

 

若葉をまじまじと見つめる千景。

たまたま見ていた手先から胸、首筋、顔。

整った各パーツには、人間の完成形を具現させたかのような美しさがある。

そして、目が合う。

戸惑いながらも、実直に見つめ返してくるまっすぐな目。

彼女はこの目が嫌いだった。

純粋と猜疑。

相容れない2つのタイプは衝突しっぱなしだった。

相手にあって自分に無いものを羨み、妬み、(そね)んだ。

それでも、ゲームの腕前だけには唯一自信があった。

向こうからゲームの対戦の申し入れがあった時は喜んで受けたものだ。

対戦で勝つ事は、若葉を上回れるものがある事の証左だったから。

そしてそれが故、あの言葉は屈辱以外の何物でもなかった。

 

“まさか、お前に勝てるとは思わなかったな”

 

決して、侮辱しようとして言った言葉ではなかっただろう。

何事にも報いを——の家訓通り、彼女は勝つための努力を重ねていた。

対する自分は勝てるだろうとの希望的観測に甘え、プレイングに綻びが出てしまった。

ただそれだけの事だったのだ。

千景は初め、若葉を恨んだ。

常勝が当たり前だった彼女にとって、敗戦という事実は強みを奪われた事に等しかったから。

だが結局は、自分の(おご)りが招いた負け。

ゲームに逃げれば逃げるほど、そう認めざるを得なくなった。

 

“敗北とは、金輪際お別れするわ”

 

その想いが、千景を1段上のステージへと引き上げた。

 

「うどん食べに行こっか!お祝いしないと!」

 

今やそのゲーマーは1人ぼっちなどではない。

手を引いてうどんを食べたがる親友(友奈)に、弱さと向かい合うチャンスをくれた戦友(若葉)

1人は私を受け止めてくれた。

そしてもう1人は、私を1つだけ強くしてくれたから——

 

ありがとう

「ん?何か言ったか千景?」

「……何でもないわ」

「そ、そうか……」

「さ、行きましょう。高嶋さん……ふふ」

「うん!もうお腹ペコペコだよ〜」

「なぜ笑っているんだ……?ち、ちょっと待ってくれ、置いていかないでくれ千景!」

 

受け止める者のいない空虚な叫びは、雲一つない快晴の青空へと消えていった。

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