サトリの鬼姫   作:春乃

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壱話

 

 

 

 

 

 とある世界のとある星のとある国に、特異な力を持った人間がいた。

 その人間は、目を合わせた相手の心を読み、記憶を覗き、思うがままに操った。

 しかしそんな人間の最期はあっけなかった。力を振るいすぎたその人間は、恨みを買い、現代社会に普及しているはずのない銃という武器であっけなく死んだ。

 

 特異な力を持っていても。他人の心を覗き、操る術を持とうとも、所詮は人の子だったのだ。

 

 そんな前世の記憶を、自分の心──魂を“(サト)”ることで知ったのは、前世とは違う世界、違う種族に転生したゴブリンの少女。マナである。

 

「これから、どうしよう」

 

 前世の記憶を思い出したことで急激に成長した自我と知能。それを駆使してこれから自分は何をするべきなのかを考える。

 前世から考えると、この世界は異世界である。文明レベルは前世と比べて少し低く、人々は剣や魔法を使い、魔物を倒す世界。

 前世の自分だったなら、この世界がまるでゲームの世界のように見えていたのかもしれない。それでもマナにとっては現実で、たった一回しかない自分の命だった。

 

「まずは、あんぜんなところをさがさないと」

 

 未だ雨が続く森。

 木々は雨を防いでくれるが、枝の隙間から滴る雨水は確実にマナの体温を奪っていた。

 

「……よし」

 

 少し歩いて、マナは自分が腕を回しても反対側に手が付かないような大木の根元に、自分がギリギリ入れそうなくらいの空間を見つけた。

 少し湿っているがこのまま雨に打たれるよりはよほどいいと、この木の根で一夜を明かすことに決める。

 出来るだけ体温が逃げないように体育座りで自分を体をぎゅっと抱きしめ、マナは夜が更けるのをじっと待った。

 

 

  ──────────────────────────────

 

 

「…………ん、うぅ」

 

 静かに囀る小鳥の声でマナは目を覚ました。どうやら無事に夜を越せたようで、狭い木の根から出て体を伸ばす。

 

「お腹すいた」

 

 次に食欲がマナを襲った。

 まだまだ子供ゴブリンなマナは食べ盛りなのである。

 

 とは言え、どうやって食料を調達するのか。

 ゴブリンは基本的に群れる生き物だ。魔物の中でもカースト下位に位置する彼らは群れを作り、狩りをする。決して、一人で生きていける程強くないのだ。

 

「うーーーん」

 

 腕を組み、考える。

 額に生える親指くらいの二本角が無ければただの人間の幼女であるマナが、ぼろ切れだけを纏い森の中で一人思案に耽るという光景は、全くもって異質であった。

 

「木の実とか、あれば……」

 

 狩りなど出来る訳もなく。前世の記憶までも総動員して考えたその作戦は、マナの頭上何メートルも上に伸びる枝々を見て崩壊した。

 普通のゴブリンなら爪を駆使して木登りをしたのかもしれないが、マナは本当に額に生える角以外は人間と変わりなく、身体能力も外見相応だった。

 

 人の体で森を生きるというのは至難の業なのだと、マナは貧弱な己の体を呪った。前世の自分と同じように、特異な力があれど所詮はこんなものだと。

 

 ──その時である。

 

「ギャッギャ!」「ギギギ!」「ギョギョギョ!」

 

「……え?」

 

 前方の茂みがガサガサと音を立て、そこから三つの人影が姿を現した。

 それは紛れもなく、姿形は似つかないが──マナと種族上の同族であるゴブリンたちの姿だった。

 

「な、なに?」

 

「ゲギュ!」「ゲギュ!」「ゲギュギュ!」

 

 ゴブリンたちは声を上げこちらへ向かってくる。

 マナは後ずさりをして──木の根に足を引っかけた。

 

「ひ、ひぃ!」

 

「ギュギュギュギュ!」

 

 尻餅をついて、眼前に迫ったゴブリンたちを見上げる様は正しく追い詰められた獲物。

 窮鼠猫を嚙むという言葉があるが、嚙みつくための牙も爪も無いマナはただこれから来るであろう結末を受け入れるしかなく──。

 

 

  ──────────────────────────────

 

 

「ゲゲゲ!」『姫! 食事です!』

「ギュ!」『姫! 果実です!』

「ギョギュギュ!」『お疲れではありませんか! 姫!』

 

 どうしてこうなったのだろうかと、マナは再三考える。

 

 三匹のゴブリンに捕まってから一日経った。

 ここは母が捕らえられ、自分が生まれた場所。

 詰まるところマナは、ゴブリンの巣へと逆戻りしてしまったのである。

 

 そこでどういう訳か、マナは多大な接待を受けていた。

 

「なんで?」

 

 もう何度目かも分からないその言葉は、周囲に侍るゴブリンたちの声に消えた。

 

 マナはゴブリンの言葉が分からない。

 分からない、が。自分の特異な力である“(サトリ)”を使えば何を考えているのかは分かった。

 自分の事を姫と称し、ゴブリンたちは世話をしてくれる。母がいた頃はどうだったろうかと思えば、あの頃は周囲にゴブリンたちの姿は見えず、一日中母が世話をしてくれていた記憶しかない。

 母が居なくなってからゴブリンたちはマナに侍るようになってきた。何故だろうか。

 

「……“(サトリ)”」

 

 あまりしたくなかったが、前世の自分がしていたようにゴブリンの記憶を覗いてみる事にした。

 この力を使って暴れた末に殺された前世の自分を反面教師に、あまり他人の心は覗かないようにしようと思っていたマナだったが、今回は例外とした。

 

 

 

 

 

 

 そのゴブリンは、こことは違う場所にあった巣で人間の母体から産まれた。

 その数時間後には、ゴブリンの本能に従いすぐに巣の一員として食料を求め狩りをする。

 動物を狩り、時には他の魔物と戦い、逃げ、人を襲い、数を増やし──

 

 

 

 

 

 

(これじゃあ全然分かんない。もっと深くまで“(サト)”らないと)

 

 これじゃあ埒が明かないと、マナは“(サトリ)”の力の出力を上げる。やり方は前世の自分が教えてくれた。

 

(──?)

 

 その時、何か“おかしなもの”を見つけた。

 言うなれば、異物だろうか。ゴブリンの記憶を覗こうとして深く深く心に干渉したからこそ見つけられた異物。

 

 それは前世で言うところの──

 

「ステータス?」

 

 

 

 

 種 族:ホブゴブリン Lv15 

 名 前:なし

 ランク:D

 生命力:220/231

 魔 力:27/27

 物理攻力:60

 物理防力:53

 魔法攻力:31

 魔法防力:42

 速度能力:47

 

 スキル

 【連携 Lv5】【剣術 Lv3】【恵体 Lv3】

 

 称号

 

 スキルポイント:30

 

 

 

 

 前世との差異は色々あったが、ステータスなんてものがあるなんて思いもしなかった。

 魔物がいて、魔法がある、前世からしてみればゲームのような世界だが、ここまでゲームのような要素があるとは。

 

「私にも……?」

 

 ということは自分にもこのステータスがあるのかもしれない、と。マナはこちらを見るゴブリンたちの瞳に反射する自分と目を合わせた。

 

(“(サトリ)”!)

 

 

 

 

 種 族:ゴブリンプリンセス Lv1 

 名 前:マナ

 ランク:E

 生命力:43/50

 魔 力:20/20

 物理攻力:7

 物理防力:5

 魔法攻力:14

 魔法防力:15

 速度能力:10

 

 スキル

 

 称号

 【姫種】

 

 スキルポイント:0

 

 

(よわーーー!)

 

 表示された、先のゴブリンと比べるとあまりにも貧弱なステータスを見て、マナは心の中で悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

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