サトリの鬼姫   作:春乃

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参話

 

 

 

『取得可能スキル』

 【恵体 Lv1】必要スキルポイント 10

 【剛腕 Lv1】必要スキルポイント 5

 【健脚 Lv1】必要スキルポイント 5

 【暗視 Lv1】必要スキルポイント 5

 

「うーーん」

 

 マナは、いつものようにゴブリンの巣の最奥に居た。

 この巣は廃村をそのままゴブリンたちのが乗っ取ったものであり、所々崩れていたり使い物にならなくなったりしているが、ゴブリンたちには関係ない。

 

「持ってるスキルポイントは10」

 

 レベルが上がった際に得られるスキルポイントは、スキルを取得することに使用出来るようだった。

 どんなスキルがあるのかとステータスと睨めっこしていた時に表示されたのが、この『取得可能スキル』の一覧だ。

 現在マナが持っているスキルポイントは10。ホブゴブリンに進化する際に【恵体 Lv1】のスキルを取得することが出来るらしいのでこれは候補から外すとして、残りのスキルは【剛腕】と【健脚】、【暗視】だ。

 

「なやむぅ~」

 

 目を閉じ腕を組みながら悶々と悩む二本角の少女。

 

 それを見たゴブリンの従者は、「またか」というような視線をマナへ向けた。

 

 

  ────────────────────────────────────

 

 

「……食糧庫は、こっちかな」

 

 深夜。

 ゴブリンたちも寝静まり、見張りのゴブリンがあくびをしている視線をかいくぐってマナは巣の中を探索していた。

 目的は食糧が集められている食糧庫だ。

 いずれ巣を出ていく際に、ある程度の食糧を拝借していきたいマナは予め食べ物がある位置を押さえておきたかった。

 

「とりあえず……」

 

 “(サトリ)

 瞳を閉じて、他者の心を読むその力を周囲に広げる。

 普通にやるより効力は小さいが、今はそれで充分だ。簡単な思念や、他者の存在の有無などを知れる。

 

「う……」

 

 そして、マナはこの巣に捕えられている人々の思念をキャッチしてしまった。

 母と同じ若い女性や、男性までも捕えられている。おそらくは労働力として使われているのだろう。

 

 助けるべきなのだろうかと、マナは考える。

 母と同じ立場の彼らは、母と同じで助けを求めている。

 しかしマナは貧弱で、この巣から出た後すぐに死んでしまうかもしれない。自分の事で一杯一杯なマナは他人を気にしてはいられなかった。

 ゴブリンたちとの繫殖活動に勤しめば彼らは解放されるかもしれない。しかしマナは、顔も知らない他人の為に人生を捧げるほど殊勝では無かった。それは、悪人であった前世の記憶に知らず知らずのうちに影響されているのか、人間並みの知能を持っていても結局は魔物という存在だからなのか。答えの出ない自問自答の迷宮に陥りそうになり──母を思い出す。

 

 殺したいほど憎んでいたゴブリンとの子供である自分を、あんなにも愛してくれた母。

 生きてほしいと願われていた。幸せになってほしいと。

 

 それはいつしか自分自身の願いになった。ただ生きるだけじゃ意味が無い。一生ゴブリンの子供を産み続ける人生に、マナは意味を感じられない。

 プライド、誇り、アイデンティティ。言い表せない“それ”を、マナは大切にして生きていきたい。

 

 自分はゴブリンの王ではない。ただ子を産むための装置として育てられているだけだ。そんな自分が何を言っても捕えられている人たちは解放されない。

 

 なんて言い訳を心の中で重ねながら、ゴブリンたちが居ない場所を探索しようと“(サトリ)”の探知を広げ──

 

「……!」

 

 前方から、多数の人間の思考をキャッチした。

 

 

  ────────────────────────────────────

 

 

(どうしよう、どうしよう!)

 

 突然現れた“人間”の反応。

 驚いてしまって正確な数は分からないが、かなりの数の人間がこの巣にやってこようとしている。

 

(倒しに来たんだ……)

 

 もちろんその可能性は考えていた。

 母を始めとして、多数の人間を襲っていたこのゴブリンの巣はいつか見つかる。さらに先日人間と出会ってしまっているので、こうなるのは時間の問題だろうと。

 

(どうしよう、殺されちゃう!)

 

 しかし、いくら可能性を考えていようともマナは貧弱なのである。一人では何も出来ない。

 だからこそ強くなろうとしている最中なのだが……タイミングが悪かった。数日としないうちにマナはこの巣から逃げ出す予定であり、この襲撃が少しでも遅れていたらとマナは考えずにはいられない。

 

 とりあえずマナは姿を隠すことにし、なんとか原型を留めているボロボロの家屋の中に入る。

 

「ギャギャギャ!」「ギャッ!」「ギギ!」

 

 と、そこには先客がいたようで、三匹のゴブリンがこちらに背を向けて何かをしていた。

 

(なにをしているの……?)

 

 ゴブリンたちは膝をついて、こちらからは見えない“何か”に祈っているように見える。

 

 ゴブリンたちに気づかれないようにそーっと覗いてみると、そこには武器があった。

 

 前世の記憶を辿ると──それは刀と呼ばれる武器。

 鍔は無く、握りと鞘がまるで夜を思わせるような黒。おそらく二メートルはあるだろう、漆黒の大太刀。

 

 それを壁に立て掛け、膝をついて祈るように何かを唱えているゴブリンたち。

 

 その異様な姿にマナは呆然とすることしか出来なかった。

 

『───────』

 

「え?」

 

 誰かが声をかけてきたような気がして、マナは周囲を見渡すが、この家屋には自分とゴブリンたちしか居ない。

 

「そんなわけないか……」

 

 きっとすぐ外で争ってる人間の声だろうと、とりあえずマナはまだこちらに気づいていないゴブリンたちにバレないように体を小さくする。

 

 人間の気配が無くなったらここから出よう。そんなことを思いながら目を閉じて周囲を“覚”っていると──

 

(や、やばいやばいやばい。こっちくる!)

 

 こちらに近づいてくる、三つの人間の反応。

 

(殺される──!)

 

 マナは、非常に人間に近い容姿をしている。

 それこそ額に生える二本の角さえ隠してしまえば、外見はただの可愛いらしい人間の幼女と同じだ。

 

 ただマナは、自分という存在を人間とは思っていなかった。

 

 人間とゴブリンの血が流れ、ステータスにはゴブリンプリンセスと書いてあり、この前出会った人間からは死んでくれと言われた。

 さらに他者の心を読むという謎の力を持った自分は、こちらに向かってきている人間たちではなく、今もなお漆黒の大太刀に向かって拝んでいるゴブリンたち魔物に近い存在だと。

 

 この瞬間は、一種の分岐点だったのだろう。

 

 ここでマナが外の人間たちへ助けを求めれば、人間に近い容姿をしたマナは一旦保護される。ここにやってきている人間は領主の息がかかった騎士たちであるからして、領主の娘の顔を知っている。

 マナは一度辺境の街へと連れていかれ、セヴォルト・ライトウッド辺境伯は一度はマナを魔物として処分しようとするが、娘と似ているマナを殺せずに人間として育てていく。

 そこには当たり前の、“人間”としての幸せがあった。

 

 一方で、ゴブリンたちへ助けを求めればその幸せは訪れない。

 

 

 人間としての幸せか、魔物としての生か。

 

 

 箱の中の猫は死んでいるのか、生きているのか。

 

 

 観測されない限り重なり合っているそれのように、人間がここにやってくる数秒間、その二つは重なっていた。

 

 マナは──

 

「助けて!」

 

「ギュギュ!?」「ギョギャギ!」「ギ?」

 

 魔物としての生を選択した。

 

「おい! ここにもゴブリンがいるぞ!」

 

 扉が蹴破られ、抜刀した三人の騎士が入ってくるのをゴブリンたちの背後に隠れたマナは見た。

 

「殺せ! お嬢様の敵だ!」

 

(…………っ!)

 

 騎士たちから浴びせられる殺気。

 手が震えて、上手く呼吸が出来なくなる。

 

 殺さなくていい。戦わなくてもいい。逃げればいい。生きればいい。

 

 だからこそマナは、自分の力を使う。

 

「“(サトリ)”ッ!」

 

 

 

 

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