卒業の年なら、バレンタインデーのあと、卒業式を終えたうえでホワイトデーがやってくるはず。それなら関係の変化が立て続けに起こったりするのでは?ということでこの話ができました。
 pixivにも同名で同じ作品を投稿しています。

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silence white day

 別れの季節、三月。ウマ娘のレースを中心に年中行事を行うトレセン学園においても、学校である以上外すことのできない行事である卒業式が行われる。

 その卒業式に卒業生として出席した直後、サイレンススズカはこんなことを言い出した。

 

「トレーナーさん、今後のご予定はいかがですか?」

 

「予定か……特にないけど、仕事が忙しくなると思う」

 

 答えは返したが、「今後の予定」という言葉に感心させられてしまった。卒業式当日にもう先のことを考えているとは……とはいえ、スズカらしいという気もしないではない。何者にもとらわれないような人物であることは、ともに過ごしてきた時間で分かってきたつもりだ。

 

「じゃあ、当分私のわがままに付き合ってくれるってことですね?嬉しいです!」

 

 スズカとの思い出にひたっていると、思いもよらない言葉が飛んできた。もう3年近く担当トレーナーとウマ娘として過ごしてきたものの、それはまさに今日までの話である。

 

「仕事が忙しくなるって言ったの聞こえてたか?そもそももうスズカの担当トレーナーじゃなくなるんだが……」

 

「だからこそ、ですよ?」

 

 息が詰まった。スズカの翠の瞳が妖しい光を宿したかのように見えた──狙われている。ほぼ、間違いなく。

 向けられる感情に気付いたのはつい最近だが、そうとわかってからというもの、スズカの行為ひとつひとつが気になってしかたなかった。それでも、自分はトレーナーであり成人でスズカは生徒だからと意識を抑え込んでいた。トレーナーとウマ娘の関係が終われば忘れられてしまうだろうとも思っていたのだが……。

 もう、目をつぶっているわけにはいかないようだ。

 

「ホワイトデーに、バレンタインデーのお返しをしたいと思うんだけど……付き合ってくれるか?」

 

 尻すぼみになりながらだが、なんとか言い切った。スズカの顔を見ることはできない。なにしろ顔どころか首まで真っ赤になっている自信がある。心臓の鼓動はどんどん早まり、胸の奥底にある熱さを感じずにはいられなかった。

 

 「えぇ!もちろんいいですよ!どこへ行きましょうか!?」

 

 普段のスズカの声音からは想像できないほど明るく、弾んだ声が返ってきたので、思わず顔をほころばせてしまった。喜んでもらえそうで安心してしまいそうになるが、むしろここからが正念場。この様子なら断られることは無いだろうと思いつつ、念のため聞いておくことにした。

 

「ちなみに、スズカは欲しいものとかある?」

 

 するとスズカはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……トレーナーさんの、全部」

 

「はぁっ!?」

 

「ふふっ、冗談ですよ?トレーナーさんにもらえるものなら、何でも嬉しいですから」

 

 スズカは悪戯っぽく笑った。ずいぶん動揺させられてしまったが、あるいはだからこそだろうか、スズカの笑顔を護りたいという気持ちが湧き上がってくるのを感じる。

 

「わかった。何でも、いいんだね?」

 

 なんとしても、スズカを喜ばせたい。他の誰でもなく、自分の手で。

 

────────────────────────────

 

 あれやこれやと考えてはみたが、結局真っ向勝負することに決めた。わざわざホワイトデーの約束をしたことといい、どうにも覚悟が決まっていなかったが……それもこれまでだ。

 3月14日、ホワイトデー当日。待ち合わせ場所の駅前に向かうと、すでにスズカの姿があった。スズカは淡い色のブラウスの上に白のカーディガンを重ね着し、下は紺色のロングスカートを合わせていた。その姿はとても清楚で、大人びていて、そして美しいと感じた。スズカはこちらに気付くと軽く手を振って挨拶してきた。スズカの隣に立つと、彼女は小さく微笑んで話しかけてきた。

 

「トレーナーさん、なんだかいつもより緊張してます?大丈夫ですか?」

 

「あー……うん。ちょっとだけね。でも、もう平気だよ」

 

「そうですか……良かったです。私も、今朝起きた時からすごく緊張しちゃってて……」

 

「そっか。お互い様かな」

 

「ふふっ、そうかもしれませんね」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はい!」

 

 2人で並んで歩き出すと、不意にスズカが手を差し出してきた。

 

「あの、その……もしよろしければ、繋いでもいいですか?」

 

 頬を赤く染めながら、上目遣いに尋ねてくる。断る理由なんて無いし、そもそも自分だってそうしたかった。だから差し出された手に指を絡めると、スズカは嬉しそうな表情を浮かべた。体温の熱が流れ込んでくる。

 

「こんなふうに、トレーナーさんと……二人きりで過ごしていたいと思ってたんです」

 

 そんなことを言われてしまったら、こちらも本心を口にせざるを得ない。

 

「俺も、同じだ」

 

 スズカと出会ってからこれまで、本当に色々なことがあった。楽しいことも、辛いこともあった。それでも、スズカと過ごした日々の記憶だけは、今も色鮮やかに思い出せる。渦巻く感情があふれ出して、止められない。

 

「これからも、ずっと一緒にいてほしい」

 

 スズカの手を握る力が強くなる。

 

「もちろんです!」

 

 スズカも握り返す力を強くしてくる。互いの熱が混ざり合う。

 

「スズカ」

「トレーナーさん」

 

 ついに、想いは一つになった。

 

────────────────────────────

 

 順番が滅茶苦茶になってしまったが、バレンタインデーのお返しとして、スズカには今日一日楽しんでもらえたのではないだろうか……と、思いたかったのだが、どうやらそうではないらしい。

 スズカは熱を帯びたような目線でこちらを見つめてくる。

 

「トレーナーさん。本当に、私をこのまま送っていくつもりなんですか?」

 

「そのつもりだけど……」

 

「……私、今日は……ううん、明日も、あなたと過ごしたいです」

 

 二度、三度と深呼吸して、顔を真っ赤にしながらも、スズカがそう言ったので。

 

「……一晩かけて、お返しの続きをしてもいいかな?」

 

 男としては、女性の想いに応えるほかない。

 

 こうして身体も一つにつながり、今度こそ想いを重ねることができた。

 

 

 

 なお、翌朝。

 

「トレーナーさんは、恋愛の駆け引きはすぐ掛かっちゃってスタミナ切れになるのに、夜の方は持久力たっぷりのステイヤーなんですね」

 

 などとからかわれてしまったが、満更でもなさそうだったので、これからもウマ娘を満たせるように体力をつけておこうと思う。


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