一番星に魅せられて   作:黒金剛

14 / 20
最強の走り

少しの休暇も終わり、実家から帰ってきたスペはいよいよ秋の天皇賞へと臨む。実家で十分に羽を休めることができたのか、彼女の表情には幾らか余裕がある。これなら少なくともオーバーワーク気味だった京都大賞典よりは良い走りを見せてくれるはずだ。

 

 

(秋の天皇賞.........スズカが怪我をしたレース.........)

 

 

思うところがないわけがない。正直また何か悪いことが起きてしまうんじゃないか、なんて不安さえ覚える。だが、今更そんなこと考えていても始まらない。俺はただ、スペを信じて見守ることしかできない。

 

 

自分に言い聞かせるそんな正論とやはり消えない一抹の不安を拳に握り締めた俺は、今まさにゲートに入ろうとするスペを見つめる。

 

 

ーーーーしかしながら、その心配は杞憂に終わることになった。

 

 

『スペシャルウィーク!スペシャルウィーク、堂々の1着だあ!!』

 

「やったあ!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 

スペは秋の天皇賞を見事制した。おまけに新たなレコードの樹立まで成し遂げた。宝塚記念から沈みっぱなしだったスペだが、ここに来てようやく息を吹き返したようだ。

 

 

(........まあ、俺としては無事終わってくれて何よりだけどな)

 

 

心配が杞憂に終わったことに安堵した俺は、心の中でスペに賛辞を送るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

秋の天皇賞が終わってから数日が経った。ようやく復活を遂げたスペだが、いつまでも余韻には浸っていられない。今度はジャパンカップが控えているからな。

 

 

それに加えてスズカのオープン戦まで時間がない。二人ともそのことを自覚しているからか、普段より更に練習に熱が入っている。そんな二人に感化されてか、他のメンバーもトレーニングに励む。

 

 

「........あいつら、いつの間にか互いを高め合えるチームになってたんだな」

 

「.......ですね」

 

 

チームの一人が頑張る姿は他の奴にも刺激を与える。誰しも一人で強くなるには限界がある。チームの絆、お互いを高め合える関係というのが、あいつらの一番の武器なのかもしれない。........まあ、集団からハブられてきた俺が何言ってんだって話だが。

 

 

「チームスピカさーん!!」

 

 

そんな感じで軽く自己嫌悪に陥っていると、何やらこちらを呼ぶ一人の声。見ると理事長秘書のたづなさんが何やら慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるのが見える。

 

 

「たづなさん?どうしたんですか?」

 

「今学園が大騒ぎなんです!」

 

 

焦るたづなさん言われた通りテレビ中継を見る。そこには確かに驚くべき内容が流れていた。

 

 

ーーーー『ブロワイエの来日』

 

 

かのヨーロッパ最強のウマ娘。凱旋門賞でリギルのエルコンドルパサーを破ったブロワイエが日本に来るというニュース。彼女が来日する理由は一つ、ジャパンカップに出走して己の強さを見せつけるため。

 

 

「........スペ」

 

「はい?」

 

「しばらく休んでいる暇はないぞ」

 

「はい!」

 

 

先輩の言う通りだ。思わぬ壁がジャパンカップに現れた。それも、エベレスト級の相手が。またもや簡単にはいきそうにないなと俺は一人心の中で悪態をつくのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

所変わって東京レース場。多くの報道陣が我先にターフ近くを陣取る中、遅れながら到着した俺と先輩は一人観客席に座る見知った背中を見つける。

 

 

「.......やっぱり来たわね」

 

「まあね、もう走った?ブロワイエ」

 

「いいえ、まだよ」

 

 

そう、俺と先輩がここを訪れたのは、来日したブロワイエが今日ここでトレーニングするという情報を聞きつけたから。勿論今話しかけた東条先輩や報道陣も彼女目当てでここに来ている。

 

 

トレーニングするというのは本当なのだろうが、一番の目的は自らの力をこちらに見せつけることだろう。ジャパンカップに向けての軽いジャブと言ったところか。まあ、彼女の実力次第ではそれがノックアウト級のストレートに変わる可能性もある訳だが。

 

 

ゆっくりとスタート位置に立つブロワイエ。ここからでもわかる鍛え抜かれた無駄のない筋肉と凄まじい迫力。立ち姿だけで他を圧倒する振る舞いは、まさに最強のウマ娘と呼ぶに相応しい。

 

 

ーーーーそして今、ブロワイエがその走りを見せる。

 

 

「いきなり全力!?」

 

 

スタートしたブロワイエ。そのスピードは見るからに一線を画している。まるで一瞬の出来事のように、彼女は颯爽とゴールを走り抜ける。

 

 

「タイムは?」

 

「信じられない!?ルドルフのタイムを上回ってる!」

 

「おいおい........」

 

 

彼女が叩き出したタイムは、リギル所属であり日本のトップクラスとも言えるウマ娘、ルドルフのタイムを上回っていた。たった一度の走りだけで日本の最強を凌駕するその実力。これがヨーロッパ最強、これが世界。

 

 

「........スズカの復帰レースもあるのに、胃の痛いことが続くわね」

 

「おハナさんも気にかけてくれてたんだ」

 

「スズカは元リギルなのよ?だからレースに復帰できたことは素直に嬉しいわ」

 

「復帰だけで喜んでいいの?」

 

「.......あなた、まさかスズカが1着を取れると思ってるの?」

 

「さあ、どうかな」

 

「スズカの復帰レース、最近調子を上げてきているウマ娘が出るのよ」

 

 

そう言って自前のアイパッドを渡してくる東条先輩。そこに映し出されているウマ娘の名前はサンバイザー。データを見るに、確かな実力のあるウマ娘のようだ。

 

 

「厳しい現実を叩きつけられると思うわ。あなたはどう思ってるの、八幡?」

 

「........俺はーーーー」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。