一番星に魅せられて   作:黒金剛

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オープンキャンパス

スズカが渡米してから早数ヶ月が経った。スペのジャパンカップも既に過去の話となりつつある今日この頃、一人のウマ娘がその名を世に知らしめている。

 

 

「何処も彼処もテイオーのことばっか........」

 

 

注目されているのはスピカのメンバーの一人、トウカイテイオー。彼女は先日、皐月賞を見事1着でゴール。次走の日本ダービーでの活躍も期待されている。それも当然といえば当然。続く日本ダービーを獲ることができれば、それは即ち三冠ウマ娘に王手となるということ。

 

 

皐月賞、日本ダービー、菊花賞。この三つのレースを制すること、クラシック三冠を手にすることはウマ娘として一つの大きな栄光だと言える。実際三冠ウマ娘に輝いたウマ娘は数えられるほどしか居ない。

加えてテイオーは今までのレースで無敗。このまま三冠を獲れば、レース史上極めて稀な無敗の三冠ウマ娘となる。もちろん本人もそれを狙ってる様子だしな。

 

 

「眠っ........」

 

 

そんなことを考えながら学園内をのそのそと歩いていた俺は、読んでいたネットニュースから目を離して眠気覚ましのマックスコーヒーを一口。馴染みのある甘さが喉を通して体中に染み渡る。至福とはまさにこのことだな。

 

 

「あっ、八幡はっけーん!」

 

 

そんな何気ない幸せを噛み締めていると、何やら聞き覚えのある騒がしい声が俺を呼ぶ。誰かはわかっているが念の為振り向くと、件のウマ娘であるテイオーがこっちに走り寄ってきていた。

 

 

「もー、いくら朝だからってもう少しシャキッとしなよ。そんなんだからゾンビみたいって言われるんだよ」

 

「ほっとけ」

 

 

のっけから言葉の先制パンチをくらわせてくるテイオーに短くそう返す。未だに学園歩いてると生徒から怖がられるんだよなあ。俺の目はそんなに怖ぇですか。

 

 

「で、お前は何でこんなところほっつき歩いてんの?暇なの?」

 

「忘れたのですか?今日はオープンキャンパスの日ですわよ?」

 

 

俺の質問に答えたのはテイオーではなく、その後ろから歩いてきたマックイーンだった。というか居たのね。

それにしてもオープンキャンパスか。確か先輩が貧乏くじ引いて今年はスピカが担当することになったんだったな。俺には特段関係なかったからすっかり忘れてたわ。

 

 

「それで、今はこの二人を案内してるんだー!」

 

 

そう言ってテイオーが指したのは二人の幼いウマ娘。一人は黒っぽい鹿毛で、もう一人は栗毛に近い鹿毛。

 

 

「は、はじめまして!私、“キタサンブラック”って言います!」

 

「サ、“サトノダイヤモンド”です!よろしくお願いします!」

 

「.........スピカのアシスタントトレーナーやってる比企谷八幡だ」

 

 

若干緊張した様子で挨拶をしてくれる少女達。黒っぽい鹿毛の娘はキタサンブラック、栗毛っぽい鹿毛の娘はサトノダイヤモンドというらしい。

 

 

「二人とも、そんなに固くならなくても大丈夫だよー。八幡は目は腐ってるけど、本当は結構優しいからさ」

 

「目だけ見れば悪党感は否めませんが、実際は悪い人ではないので心配いりませんわ」

 

「褒めるのか貶すのかどっちかにしようね?」

 

 

俺の目ってそんなに酷いか?確かに腐った魚の目みたいとは言われるけど。十分酷かったわ。

 

 

「実はこの二人、ボクとマックイーンのファンなんだって〜!」

 

「ほーん、そりゃまた物好きなこって」

 

 

なんでもキタサンブラックはテイオーに、サトノダイヤモンドはマックイーンに憧れているらしい。確かに二人とも成績は残しているウマ娘だし、熱烈なファンが居てもおかしくはない。まあ、蓋を開けてみればすぐ調子にのる子供(ガキ)と、スイーツ大好き暴食お嬢様なんだけど。

 

 

「今なんか失礼なこと」

 

「考えてましたわよね?」

 

「いひゃいです........」

 

 

二人して人の頬引っ張るのやめてね。なんで考えてたことがわかるのん?あとほんとにやめて?八幡頬っぺたちぎれちゃうからあ!!

 

 

「「あ、あのっ!!」」

 

 

ようやく離してもらった頬をさすっていると、未だに緊張が抜けきらない声音で二人から話しかけられる。何言われんの俺。

 

 

「「どうやったらテイオーさん(マックイーンさん)みたいな凄いウマ娘になれますか!?」」

 

 

何を聞かれるかと思えば、なんとも幼いならではというような質問。かといって、そんな質問をされても返答に困ってしまう。正直そんなこと俺に聞かれてもわからないし。

とはいえ、こうも期待するようなキラキラした目で見られてはわかりませんで済ませるわけにはいかない。千葉の兄だからかこういう年下の子にはめっぽう弱いからなあ。

 

 

「そうだな.........強いて言うなら、夢があるかどうかじゃないか?」

 

「夢?」

 

「ですか?」

 

「この二人だけじゃない。世に名を馳せるようなウマ娘は皆、何かしら夢を持ってる。確固たる夢を持ってるからこそ、それに向かって努力することができる。どんな辛いことも苦しいことも乗り越えられるんだ」

 

 

夢というものの力がどれほど強いのか、スズカやスペのレースを見て思い知らされた。いや、ただ目を背けていただけで、そんなことは初めから知っていたのかもしれない。夢を追う者の姿ってのは、如何せん俺には眩しすぎるから。

 

 

「もちろんこの二人に憧れるのは悪いことじゃない。だが、憧れよりも強い、自分だけの夢や目標を見つけてみろ。それに向かって努力すれば、自ずと凄いウマ娘になってると思うぞ」

 

「私達だけの.........」

 

「夢や目標..........」

 

 

って、まだ小学生の子に柄にもなく何を語ってんだか。恥ずかしいったらありゃしない。

 

 

「なになに?らしくないこと言ってるじゃん?どういう風の吹き回しさ」

 

「言うなよ........俺も自分で言って後悔してるんだから。二人も悪いな。こんな見知らぬ怪しい奴にいきなりこんなこと言われて困惑したろ」

 

「い、いえ!とっても心に響きました!」

 

「私達だけの夢や目標、頑張って見つけてみます!ありがとうございます、比企谷さん!」

 

 

マズったかと思ったが、どうやら案外二人には好評だった様子。ドン引きされたら八幡危うく立ち直れないとこだったよ。

 

 

その後は、学園内の案内を再開する彼女達を見送って普通に家に帰った。オープンキャンパスの手伝い?面倒くさいからパスで。

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