一番星に魅せられて   作:黒金剛

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二冠達成とその代償

多くの人がひしめく東京レース場。小耳に挟んだ情報では、あまりの多さに入場規制さえされているとか。スピカの付き添いで何度もレース場に足を運んでいるからか、この観客の多さにも慣れてきてしまった自分が居て怖い。

 

 

やはり一大有名レースとあってか観客の多さは段違い。しかしながら、一番の理由はテイオーの二冠達成を見届けるためだろう。どうやらテイオーに対する期待度は想像以上らしい。

 

 

その期待の中心はというと、白を基調としたお馴染みの勝負服を着て地下通路に居た。そして、その彼女を見送るスピカのメンバー全員。各々がテイオーに激励の言葉をかける中、俺は一歩後ろに下がってその様子を見守る。

 

 

「調子よさそうだな」

 

「うん、すっごく楽しみなんだ!勝った時のウイニングライブがね!」

 

「もう勝った気でいるよ」

 

 

相も変わらず自信満々にそう言ってのけるテイオー。自信家というか自意識過剰というか、変に気負って緊張しているよりかはマシか。

 

 

「それじゃあ行ってくるね!八幡もいつまでもぼーっとしてないでちゃんと見てなきゃダメだよ!」

 

「へいへい、いいから行った行った」

 

 

肩を竦めながら適当にあしらった俺を尻目に、彼女は光浴びるターフへと地下通路の出口を潜っていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『各ウマ娘、一斉にスタートしました!!』

 

 

ついに始まる日本ダービー。ゲートが開くと共に出走ウマ娘が飛び出し、各々が立てた作戦のもと位置につく。

 

 

テイオーは現在8番手。集団の外を走っている。そのまま第1コーナーへ入っていき、第4コーナーを曲がった最後の直線でテイオーは5番手に位置する。しかし、ここからがテイオーの本領発揮。

 

 

(前には誰も居ない........よーし!トウカイテイオー行っちゃうよー!)

 

 

勝気な笑みを零したテイオーは、力強く踏み込み一気に加速。その爆発的な加速力で外から一気に抜き去っていく。一番前を走っていたウマ娘も悠々と追い越し、そのまま1着でゴールする。

 

 

これで、テイオーはめでたく無敗での二冠達成。この記録はルドルフ以来のまさに快挙と言える記録である。二冠達成と三冠への期待で観客のボルテージは今日一番になる。

 

 

「あいつ.........」

 

 

しかし、今の俺にはテイオーの二冠達成よりも、もっと気になることがあった。

 

 

「........先輩」

 

「ん?どうした?」

 

「この後のテイオーのウイニングライブ、参加を中止にすることはできますか?」

 

「........何かあったのか?」

 

「確証はありませんが、なんとなく嫌な予感がします。とにかく一度病院に連れていきたいんです」

 

「お前がそこまで言うのは珍しいな。........わかった、なんとかしてみよう」

 

「すみません。お願いします」

 

 

頭にこびりついて離れない嫌な予感を抱えながら、笑顔で客席へと手を振るテイオーを眺めるのであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「もう、いきなり病院に連れてくるなんてどうしたのさ。ウイニングライブまで不参加にさせてさ〜」

 

 

約束通り先輩はどうにかしてくれたようで、ウイニングライブへの参加を取り止めてテイオーを病院に連れてくることができた。まあ、当の本人は不満丸出しだが。

 

 

「テイオー。今日の最後の直線、スパートをかける時に脚に違和感を覚えなかったか?」

 

「え?確かに少し変な感じはしたけど........もしかして、それで病院に連れてきたの?」

 

 

最後の直線でテイオーがスパートをかけた時、前を走っていたウマ娘がテイオーの前に出るような格好になったせいで若干体勢が崩れた。それでもしかしたらと思ったが、やはり彼女自身も違和感を感じたようだ。

 

 

「だとしたら大袈裟だよ〜。だって別になんともないし。今だって普通に歩いてるじゃん」

 

 

しかし、本人はまったく気にしていない様子。確かに彼女の言う通り今だって普通に歩けているし、なんならその脚で見事日本ダービーを制したのだから、大袈裟だと言われるのもしかたがない。

 

 

「お前の言い分はわかるが、万が一ってこともある。軽く見ていた違和感が、後から取り返しのつかない怪我に繋がることだってあるんだ」

 

「八幡の言う通りだ。少しでも違和感を感じた以上、一度きちんと診てもらった方がいい」

 

「二人とも心配症だなあ。そこまで言うなら一応診察してもらうけど、多分無駄骨だと思うけどね」

 

 

そうこうしているうちに、病院の先生からきちんとした診察を受ける。その結果は、我ながら予想だにしないものだった。

 

 

「折れてますね」

 

「え?」

 

「「は?」」

 

 

あっさりと告げられた診察結果。しかしながら、内容はとてもじゃないが聞き流せるものではなかった。

 

 

「骨折です。レース復帰はおそらく来年の春になるでしょう」

 

「ええぇぇぇぇ!?」

 

「マジかよ........」

 

 

怪我をしているというのは覚悟していたが、まさかそこまで症状が重かったとは。歩けてはいるから軽い怪我だと高を括っていたが、まさか折れているとは。日頃の監督不足だなこれは........

 

 

未だに信じられない俺達を代表して本当に折れているのか尋ねる先輩に、医者はレントゲン写真を見せてくる。ここまでされてしまえばもはや信じる他ないだろう。

 

 

(しかし.........参ったなこりゃ.........)

 

 

医者によれば治るのは来年の春。テイオーの目指す菊花賞は当然その前にある。三冠確実とまで言われているテイオーだったが、これでは勝つどころかレースに出ることすらできない。

 

 

二冠達成のあまりにも大きすぎる代償に、俺は一人病院の無機質な天井を仰ぐのだった。

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