一番星に魅せられて   作:黒金剛

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レースの描写って難しいですね.........


ダービー前の一戦

『祝!模擬レース決定!!タイキシャトルVSスペシャルウィーク』

 

 

場所はスピカの部室。そこに置いてあるホワイトボードいっぱいに書かれたその文字をただ呆然と見つめるメンバー達。

 

 

「えっと........トレーナーさん、これは?」

 

「喜べ!模擬レースをセッティングして来てやったぞ!」

 

「模擬レースって........タイキシャトルさんとですか!?」

 

 

突然の報告に驚く面々。という明日って.......いくらなんでも急すぎるだろ。

 

 

「東条先輩に頼んできたんですか?よく了承してくれましたね」

 

「それはまあ、俺の人徳故ってことだな」

 

「「「「いや、それはない」」」」

 

 

声を揃えてキッパリ否定される先輩。流石に先輩が不憫に思えてくる。いやまあ、悪い人ではないんだけど、人徳があるか聞かれたら微妙だな。

 

 

「実際は必死に頭を下げて頼んだのと、今度八幡を飲みに付き合わせるっていう条件で納得してもらった感じだけどな」

 

「人を勝手にダシに使わないでくれません?」

 

 

知らない間に巻き込まれていた件について。あとなんで東条先輩もその条件でオッケーしたんだよ........

 

 

(それにしても.......相手はタイキか.......)

 

 

彼女は去年のマイルチャンピオンシップ、スプリングステークスの二つのGⅠレースで二連勝を飾っており、今や最強のスプリンターと言っても過言ではない。スピカのアシスタントとしてどうかとは思うが、はっきり言ってスペシャルウィークが勝つのは無理だろうな。

 

 

「.......私は反対です」

 

 

しかし、そこで反対の意見を挙げたのはなんとスズカだった。

 

 

「.......スズカさん?どうして?」

 

「だってスペちゃん........今体重増えてるし」

 

「スズカさん!?」

 

 

スズカの口から飛び出たのは思わぬ理由。痛いところを指摘されたのか悲鳴じみた声を上げるスペシャルウィーク。

 

 

「勝負服も入らなかったんでしょ?この前だって体重........」

 

「ストップです、スズカさん!比企谷さんもいるのにぃ........」

 

 

思ったより容赦ないですね、スズカさん。それと別に俺に聞かれたからって何かあるわけでもないと思うんだが.......別に言いふらしたりしないよ?

おそらく新参者の俺に体重面のことを聞かれたくない乙女心なのだろうが、残念ながら彼女の体重が皐月賞前から増えているのは先輩から聞いている。こういう役割上しかたないよね。だから俺は悪くない。

 

 

「......心配なの。無茶したら怪我しちゃうこともあるし。それに、もし.......」

 

 

きっとスズカが心配しているのは体重面のことだけではないのだろう。彼女が最も恐れていること、それはスペシャルウィークの敗北とそれによる走ることへの絶望感なのだ。

 

 

俺が来る前のチームの雰囲気やメンバー個人のことはある程度先輩から聞いている。皐月賞での敗北以降、スペシャルウィークが心に大きな不安を抱えていることも。

 

 

「.......確かに、タイキシャトルは短距離最強だ。今のお前じゃおそらく勝てないだろう」

 

 

そんな時にかけられる現実を突きつけるような先輩の厳しい言葉。わかりやすくスペシャルウィークは落ち込む。

 

 

「だが、強くなるためには自分より格上の相手とぶつかるのが一番の近道だ」

 

「強く、なれますか........?」

 

「一度の本番で学べることは、普段のトレーニングの数倍はあると思っている。そうだろ、八幡?」

 

「なんでそこで俺に振るんですか.......まあ、概ね同じ意見ですよ」

 

 

先輩の言う通り、レースで学べることは多い。例え勝てなくとも、それだけ得られるものは多いだろう。

 

 

「スズカさん........私、やってみます!」

 

「スペちゃん.......わかったわ」

 

 

スペシャルウィークの並々ならぬ決意に納得したのか、スズカも首を縦に振る。こうして、スペシャルウィークとタイキシャトルの模擬レースが決定したのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

そして迎えた模擬レース当日、公式戦ではないにもかかわらずレース場には多くのウマ娘が観客として集まっていた。

 

 

「スペ先輩、ファイトー!」

 

「ほら、あんたも応援しなさいよ」

 

「いや、俺はそういうの得意じゃ.......」

 

 

ターフ上では先輩がスペシャルウィークに声をかけている。表情を見る限り、適度な緊張はあれど気負いすぎている様子もない。体調も問題なさそうだ。

 

 

そうこうしている間にスペシャルウィークとタイキの両者がスタート位置へと並ぶ。そしてスタート係であるグルーヴの合図と共に二人が一斉にスタートする。

 

 

スタートして直ぐに飛び出したのはタイキ。そのままぐんぐん加速してスペシャルウィークを突き放さんとする。一方、スペシャルウィークの方はついていくので精一杯という感じだ。

 

 

(流石にタイキの方が数段速いか.......だがあの位置.......良いとこ入ってんな)

 

「ねえ、あんなに後ろにピッタリついて大丈夫なの?」

 

「スリップストリームって言ってな。あそこが一番風の抵抗が少ないんだよ」

 

 

まさかあいつ、狙って入ったのか?いや、先輩はスリップストリームなんて教えていなかった。ということは偶然、もしくは本能で感じとったか。なんにせよこれならもしかして.........

 

 

そう思ったのも束の間、レースが坂へと移った瞬間戦況は大きく動く。前を走っていたタイキが更に加速、一方のスペシャルウィークは明らかにスピードが落ちる。みるみるうちに二人の差が広がっていく。

 

 

(ここまでか.......?だが、もしここで更に何か掴めば或いは.......)

 

 

そんな俺の思考を肯定するように、突然スペシャルウィークの走りが劇的に変化する。

 

 

「よし!それだ!」

 

「どれだよ!」

 

「スペ先輩負けてるのよ!?」

 

 

その瞬間隣に立つ先輩がそんな声を上げる。ダイワスカーレットとウオッカはその叫びの意味がわかっていない様子。

 

 

「スペちゃん、走り方が変わった?」

 

「歩幅を狭くして小さく走る、所謂ピッチ走法ってやつだ」

 

 

なるほど、タイキと模擬レースを組んだのはこのピッチ走法を習得させるためだったのか。確かに先輩から見せてもらった皐月賞の映像では、スペシャルウィークは坂でスピードダウンしていた。その苦手を克服するための模擬レースだったわけか。

 

 

(これで勝負は五分五分.......さて、どっちが勝つか.......)

 

「ウマ娘は根性だ!!」

 

「「「「行っけえ!!」」」」

 

 

徐々に差が縮まっていく。しかし、流石はGⅠウマ娘。負けじと更に加速し、まさに一進一退の攻防が続く。

 

 

(楽しそうに走るなあ.......あいつ.......)

 

 

負けているにもかかわらず満面の笑みで走るスペシャルウィーク。再び距離を詰めるが、ゴールはもうすぐ手前。さて、結果は────

 

 

「ゴ、ゴール!!」

 

 

ゴール係のヒシアマゾンの声がターフに響く。それと共に最高潮の盛り上がりを見せるレース場。

 

 

結果は残念ながら僅差でタイキの勝ち。スペシャルウィークは結果的に負けはしたものの、次に繋がるものを得られたのは間違いない。今回の模擬レースは大成功と言えよう。

 

 

「約束は守ったわよ」

 

 

スペシャルウィークの下に駆け寄るスピカのメンバーを横目に眺めていると、背中にかかる声。後ろを振り向くとそこにはこちらに歩み寄ってくる東条先輩の姿。

 

 

「いやー、やっぱ速いわ。タイキシャトル」

 

「当然でしょ?次はうちが得する模擬戦を組みなさいよ」

 

 

そう言って颯爽と身を翻す東条先輩。相変わらず様になるというかなんというか、つくづく何処ぞのアラサー教師を重ねてしまう。

 

 

「それと、飲みの約束忘れるんじゃないわよ、比企谷?」

 

「覚えてたんすね.......」

 

 

何も言われないからこのまま有耶無耶にしてやろうと思ったのに。やはりそう甘くはなかったか。

 

 

「.......ありがとな、おハナさん」

 

 

そう呟く先輩と二人、しばらくの間去っていく彼女の背中を見送るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「よう、お疲れさん」

 

「あっ、比企谷さん!」

 

 

模擬レースが終わり、スズカと仲良く寮に戻ろうとするスペシャルウィークを呼び止める。

 

 

「悪いスズカ、ちょっとスペシャルウィーク借りてもいいか?」

 

「私は大丈夫ですけど.......」

 

「すまんな。スペシャルウィーク、ついてきてくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 

スズカの了承を得てスペシャルウィークを連れてきたのは学園内にあるベンチ。外はすっかり暗くなり生徒の姿も見られない中、そのベンチに彼女を座らせる。

 

 

「早速で悪いが、脚を触ってもいいか?」

 

「あ、脚ですか?」

 

「言い方が悪かったな。筋肉の疲労具合とかを診てもいいかって意味だ」

 

 

変態を見るかのように後退ろうとするスペシャルウィークに、慌ててそう言い替える。危うく変態野郎として通報されるところだったわ。

 

 

「そういうことでしたら大丈夫ですけど.......比企谷さんはトレーナーさんみたいにいきなり触ってきたりはしないんですね」

 

「あの人はへんた........特殊な変態だからな」

 

「結局変態なんですね.......」

 

 

俺には出会い頭にウマ娘の脚を触るなんて真似できない。そんなことされたらあっという間に通報されて、弁明もできずに牢屋行きになるまである。俺の立場って弱すぎ?

 

 

「.......やっぱり慣れない走り方をした分、いつもより疲労が溜まってそうだな。軽くマッサージするから痛かったら言ってくれ」

 

「あっ、はい。........んっ」

 

 

そう言って俺は軽くマッサージを始める。マッサージと言っても筋肉の凝りをほぐすだけの軽いものなので、それほど時間はかからなかったが。

 

 

「うっし、こんなもんか。どんな感じだ?」

 

「あっ、なんだかさっきより脚が軽くなった気がします!」

 

「まあ、あくまで気休めみたいなもんだからな。帰って風呂入ったあとのストレッチとかはしっかりしておいてくれ」

 

 

立ち上がって腿上げなんかをしながら嬉しそうに顔を綻ばせるスペシャルウィーク。少なからず効果はあったようでとりあえず一安心。

 

 

「すいません、こんな遅くまで私のために.......」

 

「気にすんなよ。........ダービー、勝てるといいな」

 

「はいっ!」

 

 

俺の言葉にスペシャルウィークは元気よく返事をする。何処までも晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

その数日後、俺達はテレビ中継でNHKマイルカップを観戦していた。注目するのは一人のウマ娘。

 

 

『エルコンドルパサーだ!!エルコンドルパサーが今、1着でゴール!!』

 

 

リギルの新星、エルコンドルパサー。これまで五つのレースに出走し、全て負け無し。スペシャルウィークの同期の中でも頭一つ抜きん出ている存在だ。

 

 

『エルコンドルパサー、素晴らしい走りでした!』

 

『ありがとうございます』

 

 

画面は変わりヒーローインタビュー。映るのはエルコンドルパサーと東条先輩。記者のインタビューに東条先輩は淡々と答える。

 

 

『エルコンドルパサーさんの次のレースはズバリ.......』

 

『世界を狙うためにも、次は日本ダービーです』

 

「エルちゃんもダービー.......」

 

「やっぱそうくるか.......」

 

 

東条先輩の宣言に苦々しくそう呟く先輩。エルコンドルパサーはもちろんのこと、前回の皐月賞で敗北を喫したセイウンスカイやキングヘイローも日本ダービーに出走する。これは楽には勝たせてくれなさそうだな。

 

 

『エルコンドルパサーさんも一言!』

 

『私、ダービーでも勝ちマース!!スペちゃん、ガチンコ勝負デース!!』

 

 

テレビ画面越しの宣戦布告。それに伴ってスピカの視線が当の本人へと集まる。

 

 

「わ、私!1着とってみせあいたぁ!?」

 

 

慌てて立ち上がろうとしたスペシャルウィークは盛大に机に手をぶつける。なんとも締まらねえなあ........

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