海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。宮野花です。

以前ハーメルンにて、同タイトルのロボトミー小説を書かせていただいてました。その節は皆様に大変お世話になりました。

6年前のものになり、人様に見せられるような文章でなかった為そちらは今非公開とさせて頂いておりますが、ちまちま書き直ししたものをこちらにあげる予定です。もし宜しければ暇つぶし程度に読んでいただけると嬉しいです。












【第一章】ちっぽけな私と、アブノーマリティな貴方
【一】異国の鳥は赤に濡れる_1


 

あなたの目の前にパソコンが一台ある。

もしくはスマホかもしれない。いや、アイフォンかもしれない。

目の前のその液晶をよーく覗いて。その一番下。貴方を時に苛立たせる広告のバナー。

戻るボタンを押そうとしたら間違えてクリック。あぁやってしまった。

パッと表示切替。一瞬の読み込みの後に、動画が流れる。

 

 

 

よく 見て

 

 

 

 

 

 

 

トゥルットゥトゥットゥ〜【陽気な音楽】

 

 

 

 

 

廊下の扉前。緑の髪の男の子が立っている。

にっこりと活発な笑みを浮かべて。私たちにぱくぱく口を動かして何かを伝えようとしている。

真っ赤な制服は新品だろうか、それとも今日のためのよそいきだろうか。まだ新しさを感じるぴっちりとした制服は、彼が来ていると言うよりは着られているような感じだ。

 

「さて!皆さん。今日は私たちの仕事について紹介しますね!」

 

男の子はそれを簡単だ、と言った。

 

「私たちの研究所には、とってもキュートでファンタスティックなモンスターがたくさんいるんです!

私達はそのお世話をしています。カーリー!お手本をみせてくれるかい?」

「OK!皆さんこんにちは!私はカーリー。いまからモンスター達とお話してくるわ!」

 

カーリーは可愛らしい、深い緑の髪をした女の子。

私達にわかりやすいように大きな声で話してくれる。

そうして、わざとらしく手を振って、扉の中に入っていった。

 

「モンスター達と交流すると、エネルギーが溜まるんです!」

 

男の子はそう言って、ウインクをした。

 

「誰にでもできます!貴方にも!」

 

そうして、カーリーの入っていった扉が開いて。

 

「ほら、カーリーも簡単に、」

 

 

 

 

──べちゃっ、と。カーリーの首が飛んだ。

 

 

 

 

「……え?」

そこで画面が切り替わる。

 

『ロボトミーコーポレーションは、共に素晴らしい未来を作る仲間を募集しています!一緒に世界のヒーローになりませんか?

詳しくは動画下のURLをチェック!貴方とお会い出来るのを楽しみにしています!』

 

 

 

 

【陽気な音楽】とぅるっとぅっとぅっとぅ〜

 

 

 

URL をクリックしますか?▼

 

はい←

いいえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが。人生という名の舞台の主人公である。

貴方に一人の女性を紹介しよう。彼女の名前は黒井百合。親しみを込めてユリと呼ぶ。

彼女もまた、彼女の人生の主人公である。

 

ユリは特別な家系に生まれた一人の女性。陰陽師の一族に生まれた、特別な血を受け継ぐ女性。

 

ここからはじまるであろう、壮絶で大いなる彼女の戦い──────を、貴方が期待したのなら申し訳ない。

 

彼女、黒井百合は。

残念ながら戦う力どころか、幽霊を見る力すら持っていない。

平凡でつまらない女なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第一章】

 

彼女は大きな助けになるでしょう。それを犠牲と呼ぶにはあまりにも酷いと思いませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリジリジリジリ。蝉が煩い。

 

そんなことを思いながら、私はぼんやりと目の前の景色を見つめる。

公園のベンチから見る光景。遊具で遊ぶ幼い子達。サッカーボールを追いかける子達。アイスクリームを移動販売車から買ってる人達。

そのどれもが私にとって現実味のない、映画を観ているような気分になるものだった。

だって全員私とは違う、外国人なのである。いや。向こうからしたら私が外国人なのだ。ここ、アメリカでは。

 

ジリジリジリジリ。蝉はアメリカでも煩いことを今日私は初めて知った。

「……どうして。」

 

どうして、こんなことになっているのか。

私は日本から離れる気なんて無かったのだ。人生計画に海外移住なんて言葉はこれっぽっちとなかった。

日本という国は好きだったし、ずっと日本に住むのだと信じていた。と、いうよりもそれ以外考えてなどいなかった。

 

それでもそうするしかなかったのだ。

なんでも私は日本にいると〝死ぬ〟らしいから。

 

今でも覚えている。真剣な顔の両親。静まり返った部屋。

重々しい空気の中、口を開いた母の震える声を。今でも覚えている。

 

『百合ちゃん、よく聞いて。このままだと百合ちゃんね、死んでしまうかもしれないの。』

『えっ!?何、急に!?』

『あのね……、百合ちゃんは今、凄く危ない怪異に狙われているのよ。』

『怪異……って。お兄ちゃん達が祓ってる奴ってこと……?』

 

実は、私の家系は古くから伝わる陰陽師の血筋なのだ。

それだけだと大変怪しく胡散臭い詐欺師と勘違いされる話だが、そうではない。

正真正銘、本物の力を持っているのが家、〝黒井家〟。誰もが一度は経験する、厨二病の妄想を実現したのが私の家族だった。

御札を使って悪いものを祓ったり。誰かの悩みを解決したり。時に結界を貼ったり。

封じられた右目が疼いたり……は、流石にしないけれど。

まぁとりあえず、わりとすごい家なのである。

 

『 そう。百合ちゃんにずっと付き纏っていた怪異があって……。

今まではお兄ちゃんやお父さんが食い止めていたのだけど、成長しすぎて私達では手に負えなくなってきてしまったの。』

『そ、そんな……。』

『このままだと取り憑かれて殺されてしまうわ。今すぐ日本を出なさい。』

 

さぁここからはじまるライトノベル、又は青年誌のような壮絶なる人ならざるものとの戦い──、と思いきや。

 

『わ、わかった……。』

 

残念ながら私、黒井百合には。

陰陽師の力というものが全く、本当に全くなかったのである 。

『もう住むところも飛行機のチケットも用意してあるから。』

 

あとは私が荷造りするだけだと言われて、私の海外移住は選択出来るものでは無いのだと、そこまで追い詰められているのだと悟る。

今考えてみると幼い頃から英会話を習わされていたのもそのためだったのかもしれない。つまり両親はずっと前からこうなることを予想していたのだろう。

真剣な顔で死ぬと両親に言われて恐怖しないほど肝の据わっていなかった私は、翌週日本を発つことになったのだった。

 

そして、今に至る。

 

大きくため息をつく。これからどうしようかな。

とりあえず、勤め先を探さなければいけない。両親がまとまったお金を持たせてくれたとはいえ、収入がないのは不安だ。

あとは土地にも慣れないと。日用品はどこで買うとか、交通の便はいいのかとか……。やることは沢山ある。こんな所で油を売っている場合では無いのだ。

 

わかっている。わかっているけど。心が追いつかない。

 

「本当に、一人になっちゃった……。」

 

もう家族のいる家には帰れないのだ。

友達に明日会おうという電話もできない。

よく行っていたチェーンの喫茶店にも行けない。

つい先週まで簡単に出来ていた事全て、簡単に出来なくなってしまった。

家族も友達もいない一人という事実、慣れない土地、私に目をつけてきたという両親すら恐れた〝悪いもの〟の存在。

今という現状が不安で覆い尽くされる。

泣きそうになる。けど泣いたって、どうにもならない。

 

「……?」

 

俯いていると、こつん、と足首に何かの感触。

 

「……毛玉、?」

 

下を見ると足元にまんまるの白い毛玉があった。いや、毛玉じゃない。

白の中にある、二つの瞳。くりっくりのそれが私を見つめてきて。その下にはつん、と尖ったくちばしが。

鳥だ。もっふもふの鳥。

その鳥はつぶらな瞳で私を見上げてくる。え、え、何この鳥かわいい。

驚きに固まっているとスリスリと足首に顔を擦り付けてくる。え?本当に何?可愛い。

その愛くるしさに耐えきれず、思わず手を伸ばした。

どうか逃げないでと願うが、普通は無理な話だ。人の手が伸びてきたなら普通は飛び去るはずだけれど。

なんと。なんとである。鳥は私の手にちょん、と乗ってきた。

 

「かっ、」

 

可愛すぎる!!

 

え?なんでこの子こんなに私にサービスしてくれるの?

驚かせないようにゆっくりと持ち上げる。顔目の前に手のひらを持ってきて、観察する。白いもふもふ、まんまるの小鳥。

持っている手とは反対の人差し指で、その小さな頭を優しく撫でた。

鳥は嫌がるどころか、きゅっと目を閉じてされるがままになっている。逃げる素振りもなくなんだか気持ちよさそうだった。

 

「かわっ……、いい子、いい子だねぇ。どうしたの?どこから来たの、君?」

 

返事が来るはずもないが、思わず尋ねてしまう。

こんなに人に慣れているのだ。明らかに人間と暮らしていたのだろう。

誰かのペットが逃げ出してしまったのだろうか。羽毛はとても綺麗で真っ白、よく手入れされている。きっととても大切にされていたのだろう。

 

「君のご主人様、心配してるんじゃあない?」

 

こてん、と首を傾げる鳥。やっぱり可愛い。

この子はなんという種類なのだろう?お腹に歪な赤い丸模様がある。

ペットショップでもこんなに可愛くて珍しい子見たことがない。もしかしてだいぶ特別な種類なのだろうか。

 

「いたぞ!まずい!人に近づいてる!」

 

と、そこで男性の声。

焦った声に顔を上げると、スーツ姿の男女が汗を垂らしてこちらに近づいて来ているのが見えた。

もしかして。いや、もしかしなくても。

 

「っ!あの!そこの人!今すぐその鳥をこちらに!」

 

あぁ、やっぱり。

 

「迎えが来たよ。……お別れだね。」

 

〝その鳥〟とはもしかしなくても手のひらの可愛いこの子のことだろう。

つまりは飼い主さんが迎えにきたのだ。

鳥はつむっていた目を開けた。じっとその瞳が私を見つめる。

可愛い子。経った数分の事だけど、この子のおかげで少し元気が出た。

わからないだろうとわかってても「ありがとう、少し元気でたよ。」とその子にお礼を告げる。

 

うん。大丈夫。頑張れそう。

悩んでても仕方ないし。とりあえず私も、そろそろ新しい家に行かないと。

 

こちらに来た男女の二人は、険しい顔でこちらを見ている。汗ダラダラの真っ赤な顔。ずっとこの鳥を探していたのだろうか。

 

「あの、その鳥、私達が探していた鳥で。」

「その鳥を、早くこちらに。」

 

震える手で、鳥かごを向けられて。怖い顔で睨まれて。そんなに警戒しなくても、ちゃんとお返しするのにと苦笑いする。

まぁ、仕方ない。大切な鳥だったのだろうから。早くお返しなければ。

 

「はい。どうぞ。その籠に入れてあげればいいんですよね。」

 

女性に向けられた鳥かごに、鳥の乗る手を入れる。あとは手の上のこの子が離れてくれれば。

 

「……ほら、ダメだよ。帰らないと。」

 

しかし鳥は微動だにしない。

仕方ないので、もう片手でその小さな身体を軽く押し、中にいれる。

 

「バイバイ。」

 

別れの言葉。私だって離れ難いけれど、帰る場所があるのなら帰るべきだ。

半ば無理やりだったが、鳥はなんとか籠に入った。それに相手の女性はほっと息をついて、私に笑顔を向ける。「ありがとうございま、」

 

 

ぶちんっ

 

 

「ぇ、」

「いっぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ジェシー!!」

 

がしゃん、と鳥籠が地面に落ちる。

ぼたぼたっ、と地面に赤が落ちる。

鳥が、外に出ている。

 

──────なにが。

 

籠に鳥は入っていたのに。するっと蓋を開けて飛び出して。

一目散に飛んで行った。どこに?女性の顔に。

そしてその小さなくちばしで。()()()()()()()()

 

「え……え……?」

「おい!ジェシー!動くな血が余計出る!」

「あぁあっ!!痛い!見えない!!いた、痛いぃぃぃぃ!!」

 

女性は顔を抑えて蹲る。ぼたぼた。赤がどんどん地面に広がっていく。

私は、私は。何が起こったかやっぱりわからなくて。

目の前のあまりの光景に、どくどくと心臓が騒ぐ。混乱しながらも恐怖だけははっきりと感じていて。

逃げないと、と思った。しかし女性に鳥がまた近付いて。咄嗟に体が動いた。

 

「駄目っ!!」

 

鳥を払い除けようとしたのに、簡単に避けられてしまう。

そしてなんと今度はこっちに寄ってきて。ひゅっ、と息を呑んだ。まずい。

慌てて腕で目を覆う。それは反射的な自己防衛だったが、次の瞬間には痛みを覚悟していた。

強く唇を噛む。きっと次は私がつつかれる。怖い。痛いのは嫌だ。早く逃げないと。

 

「……?」

 

しかしいつまで経っても痛みは来ない。

 

「えっ、」

 

恐る恐る目を開けると。なんと。

なんと、鳥が私のもう片方の腕にとまっていたのだ。

 

「えっ、えっ……!?」

 

つつくでもなく。逃げるでもなく。ただ静かに私の腕にとまっている。

どうして?さっきは人を襲ったのに。

突然大人しくなった鳥に驚きが隠せない。この鳥をどうしたらいいかわからず、男性に視線で助けを求める。

すると男性は地面に転がった鳥籠を持ち上げた。

 

「罰鳥、籠に入れ。」

 

男性は鳥を睨むも、鳥は微動だにしない。

 

「……この女性にも施設に来てもらう。別れじゃない。とりあえず入ってくれ。」

「はぁっ!?」

 

えっ、何。なんで私巻き込まれること決定なんだ。

そもそも施設って何。貴方達誰。この鳥何。

冗談じゃない!!

 

「私行きませんから!!」

 

さっさとこの場を去ろうとするが、鳥が離れない。

勘弁して欲しい。なんとか籠に戻ってもらおうと、先程よりも強めに鳥の体を押すが全然動いてくれない。接着剤でついているのかとききたくなるくらい動か無い。

 

「その鳥、持って帰りたいんですか?人の目を抉るような鳥ですが、飼いたいんですか?」

「そ、そんなわけ……っ、そもそも今動物を飼う気なんてありませんしっ、」

「なら申し訳ありませんが、付いてきていただけませんか。だって離れないんですし。」

「ぅ……。」

「このスーツケース、貴女のですね?お運びしますね。代わりに鳥籠を通じてお願いします。」

「ちょっと!?」

 

ぐいっと押し付けられる鳥かご。

にっこり笑う男性の右手には、私のスーツケースが。

顔から血の気が引いた。いつの間に。

その中にパスポートも新しい家の地図もお金もスマホも入ってる。それを持って行かれたら私何も出来ない……っ!!

泥棒!と叫ぼうした。が、ちょうどそのタイミングで腕の鳥が動いて。

押し付けられた鳥かごに、大人しく入っていく。あんなに拒否していたのに急に。まるで私たちの会話わかっているかのようで。

 

「あっ……!?ちょ、ちょっと待って……っ!!」

 

鳥に気を取られてる間に、男性はスタスタと歩いていってしまう。私のスーツケースを左手に、怪我をした女性に肩を貸しながら、どんどん遠ざかる背中。

失う訳にはいかない、私のスーツケース。

慌てて追いかける。 なんで、なんでこんなことに。

 

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。」

 

途中、男性が振り返る。

必死に追いかける私を余裕の顔で見ながら彼は口を開いた。

 

「大変失礼いたしました。私はlobotomy corporation(ロボトミーコーポレーション)のエージェント……、もとい、社員のダニーです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【陽気な音楽】トゥルットゥトゥットゥ〜

トゥルットゥ……トゥ……ドゥ……ザ、ザザザザザ、

 

 

「カーリー…!?カーリー!!おい!!誰か!!」

 

扉から倒れてきたカーリーに、新人のライアンは助けを呼ぶ。

誰か!と、悲鳴のような声を上げるが誰も来ない。

と、その時だ。

 

──ぃぁぁぁぁぁっ!!

 

「……え?」

 

誰かの、悲鳴。

それと共に、警鐘が鳴り響く。

 

【警告】【警告】

 

 

ずずず、音がする。地面が大きく揺れる。そのせいでその場に尻もちを着いてしまった。

ライアンは、状況が呑み込めない。ただ心臓だけが早く動いている。

ドッと汗が噴き出す。体が熱い。なんだ。なんだこれは。

 

「おい!新人何してる!」

 

そんなライアンに気がついたのか、彼の先輩にあたる職員が彼に近づいてくる。

 

「え、あ、」

「早く立て!ここは危険だ!!」

 

ライアンの腕を掴んで無理やり立ち上がらせる。その時彼がかかえていたカーリーが床に落ちて、鈍い音がした。

あっ、とライアンが思うも、先輩は彼だけを引っ張ってその場から離れる。

離れていくカーリーの体を見て、彼女の名前を呼んだ。ついさっきまで一緒に仕事をしていた彼女を。

 

「諦めろ!あれは死んでる!」

 

先輩の言葉が、頭に入ってこない。

しかし掴まれている腕をよく見ると、赤く濡れていて。それは制服の赤なんかではなくて。

ライアンは状況は理解が出来ないが、恐怖だけは追いついてきた。

そのせいで目からは涙が溢れてくる。そして口からは変な声が出た。

 

「ぁ、あぁ……!」

「しっかりしろ!気を保て!」

「でも、カーリーが、俺のせいで、俺がカーリーに、」

「ちがう!」

 

ライアンの言葉に先輩である彼は怒鳴った。

「いいか、全てはこの会社が悪いんだ!お前は悪くない!」

「かいしゃ。」

「そうだ!モンスター……、アブノーマリティの管理方法を、この会社が間違えた!俺達に間違った指示を送った!!お前は悪くない!人殺しはこの会社……っロボトミーコーポレーションだ!!」

 

だから、と。先輩は何かをライアンに伝えようとしたのだが。

それは叶わなかった。なぜならその前に、彼の頭が無くなったのである。

 

「……え?」

 

ライアンは目の前の、ついさっきまで話していた人の姿に目を見開く。

その体はまだライアンの腕を掴んでいる。しかしふっと力が抜けて、目の前で倒れた。その時ゆるりと腕も離された。

ライアンの目の前に、なにかがいる。

 

巨大な、犬?

 

違う。犬ではない。

だって犬なら、なんで頭に人の腕が生えてるんだろう。なんで顔に口がふたつもあるんだろう。なんで足が真っ赤な大腸なんだろう。なんで目がいくつもあるんだろう。なんで、なんで。

その、犬に似ている、しかし決して犬ではない何かは。

いくつもある目でライアンを見ている。そうして、頭から生えている人の腕が伸びてくる。

ライアンはその場に座り込んで動けない。涙が溢れて、鼻水も止まらない。しまいには失禁してしまっている。

全てがスローモーションに見えた。その中で感じたのは確かな〝死〟。

限界を超えたライアンは、天に向かって笑顔を向ける。ぐちゃぐちゃな笑みを。

 

「ろ、ろ……、ロボトミーコーポレーションは!!仲間を募集しています!!一緒に戦ってくれる仲間を!!助けてくれる誰かを!!あぁっ、あぁぁっ助けて、助けて死にたくない!!死にたくないいいいいっ!!」

 

 

───ぶつんっ、

 

 

死体が転がっている。足跡だらけの汚い床。血の海。

 

そんな絶望的な状況に、どこからか美しい音楽が。

僅かに残る職員は、天を仰ぐ。救いを求める。美しい音色。もしかして自分たちを救ってくれる音だろうかと。

涙を流す。うっとりと聞き入る。救いの音楽。

耳から入ってくるその音は、一体の人形が奏でる音楽。心を揺さぶり、脳に響いて。やがて……やがて。

 

──────パァンッ!

 

と、職員の脳みそが、ポップコーンのように弾け飛んだ。

音楽すら人を殺すことを、職員は忘れてはならない。

だってここはロボトミーコーポレーションだから。

 

 

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ようこそ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、貴方は求められている人間なんですよ。

 

私たちの力になってください。

 

命より重いものが、時にあることは知っていますか?

簡単です。けれど貴方にしかできません。

待っています。貴方を。私は、待っている。

 

 

 

 

 

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