海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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さすがに前回のが長くくどかったので人外×少女回早めに書き上げました。
コメント返信順にしていきます!もうちょっとお待ちください……。










【十】黒い怪物の心_2

 

電子パネルを軽く指で触れれば、直ぐに扉は開いた。

本当に一人で入らないと行けないのだろうか。ダニーさんを見るも彼は動きはないらしく、無言で「行け」の圧をかけられる。

それでも教育係ですか!と言いたくなるのを抑えて。私は恐る恐る中に足を踏み入れたのだった。

 

「し、失礼しまーす……?」

 

中は真っ白な部屋。鳥……罰鳥さんの時は木があったのにこの部屋はまっさらだった。

部屋の中心、いや、それよりも少し奥の位置。見た事のある人形がぽつんと立っている。

 

「静かな……オーケストラ、さん?」

 

なんて呼べばいいのか分からなくて、とりあえず教えられたままに呼ぶ。

しかし返事はかえってこず、それどころかなんの反応もなく。私は不安になってしまった。

 

「あ、あのー……、」

 

──ユリさん!!

 

「うわっ!?」

 

静寂の中、いきなり頭の中に声が入ってきた。

突然のことに驚いた私は転んでしまいそうになる。先程はダニーさんが支えてくれたけどこの部屋には私一人。

床にぶつかる!反射的に閉じた目。痛みを覚悟したのだが、それはやってこなかった。

 

「……?」

 

そろそろと目を開ける。と、私の体は転ぶことなく誰かに抱かれ、支えられていた。

誰か、なんて。ここには私以外人はいない。入るのはただ一つ。

 

──大丈夫ですか?

 

「だ、大丈夫。ありがとうございます……。」

 

そう、支えてくれたの静かなオーケストラさんであった。

前指揮棒を振っていた、空中に浮く二つの手が私の腰を支えている。

腕のない、手首までのそれのどこに力があるのかわからない。しかし彼はしっかりと私のことを支えてくれていたのだった。

私がバランスをとると、手は離される。その手は私の前に回り、自然な動作で私の手をとった。

 

──またお会いできて光栄です。

 

「っ、」

 

そして私の手の平を支え、小さく下に振る。それがまるで洋画の俳優が女優にする挨拶のよう。

本来は甲にキスをされるものだろうが、如何せん静かなオーケストラさんの背が高くて届かない。けれど彼は自分の方に私を引っ張ることなどせず、ゆっくりと丁寧に手を離してくれた。

こんな丁重に扱われるの、初めてだ。普通こんなの現代社会の男性はしない。

相手はアブノーマリティ。しかも人形の姿だと言うのに恥ずかしくなってしまう。

ダメだ。仕事をしに来たのだからさっさと動かないと。

 

「あの、今日は掃除をしに来たんです。」

 

──掃除?

 

ダニーさんから受け取ったバック。中に入っている掃除用具を取り出して見せる。

掃除用のウェットティッシュに、折りたたみ式の箒とちりとり。本格的な清掃には物足りない道具だが、拭き掃除と掃き掃除が出来るのなら十分だろう。

 

あれ、でも。

 

「そう、掃除……掃除?この広さ一人で……?」

 

静かなオーケストラさんに言いながら、自分の中で困惑が生まれる。

この部屋、それなりに広いのだ。詳しく覚えてないけど学校の教室くらいはあると思う。

大抵五、六人くらいで掃除していたあの教室。その広さを、物がないにせよ一人で?これ、どれくらい時間かけていいんだろう。

 

「ご、ごめんなさい直ぐに戻ります。」

 

そこら辺、ダニーさんに聞いてこよう。時間をかけていいのなら終わるまできっちりやるけれど。もし制限があるのなら掃除する部分を決めないといけない。

それにこの部屋、どこを掃除していいか分からないくらいには綺麗だ。その場合は点検だけでいいのか?それとも日課としてとりあえず全体を拭けばいいのか?その辺も聞かないと。

わからないことだらけだ。もっとちゃんと聞いてから中に入ればよかったと反省する。

一度出ようと振り返った。が、外に出ることはかなわなかったのだ。

 

「えっ、」

 

腰を掴まれる感覚。動けない。

更に手にもった掃除用具が奪われる。そして床に放り投げられた。ウェットティッシュも、箒も、ちりとりも。ポーイ、である。

 

「えっ……えっ……!?」

 

床に掃除用具の落ちる音。重いものでは無いので大きな音は立たなかったが、雑に叩きつけられた音はした。

 

なんで?

なんで、静かなオーケストラさん怒ってるの!?

 

腰を掴んでるのも、掃除用具を奪ったのも言わずもがな彼である。

まだ何もしていない。なのになんでこんなことをされるのか。いや、していないのに出ようとしたから怒っているのか。

ダラダラと汗が吹き出る。怖い。逃げたい。しかし腰を掴む手を振り払うなんてもっと怖くて出来ない。

目の前には収容室の扉。その先にはダニーさんがいるはずだ。

あぁどうか!私の願いが届いて、ダニーさんが助けてくれないだろうか。いや、この距離なら叫べば気がついてくれるだろうか。

でも気がついてくれなかったら?〝助けて!〟なんて叫んだのに、何も起こらなかったら?よけいにアブノーマリティを怒らせるかもしれない。

 

どどどどど、どうしよう!?

 

「ご、ごめんなさっ、」

 

──そんなの貴女がしなくていい。

 

「へ……、」

 

とりあえず謝っておこうと思ったら、被さるように聞こえた頭の声。

予想に反してその声は怒ってなかった。むしろ悲しそうで。

 

私がしなくていい?……どういうこと?

 

──誰ですか。

 

「何が……?」

 

──誰が貴女にこんなことをさせたんですか?

 

誰がって。……Xさんからの指示だけれど……。

これ、言っていいのだろうか。言ったら何か大変なことにならない?大丈夫?

 

「ええと……、それを知って、どうするの?」

 

──失礼な輩にはそれ相応の罰が必要でしょう。

 

あっ、これ絶対言っちゃダメなやつだ。

罰って、罰って言ったこのアブノーマリティ。この前の演奏だって、悪意が無くても職員さん苦しんでた。そんなアブノーマリティに〝罰〟という形でなにかされるなんて、一体どうなるのだろう。想像もつかない。

それに別に失礼なことなんてされていない。仕事なんだから至って普通のことである。

でもそれを言ったところで、このアブノーマリティはわかってくれるだろうか?

 

「うーんと……もしかして掃除嫌い……?」

 

──そういう問題ではありません。

──貴女がする必要は無いと言っているんです。

 

「じゃあ、私にして欲しいことって何かある?」

 

──貴女はいてくれるだけでいいんですよ、ユリさん。

 

「えぇ……?」

 

──私の音楽を聴いて、好きに過ごしてくれればいい。

──眠りたい時に寝て、時に歌でも歌ってくれればそれでいいんです。

 

「いやそれは……、」

 

私典型的なダメ人間にならない?

何このアブノーマリティ、すごい私のこと甘やかしてくる。甘やかして人を堕落させるタイプのアブノーマリティなの?

私に怒っていないのなら、危害を加えることは無いと思う。それはいいのだけれど……。

 

「ううん……。」

 

困ったなぁ。何もしなくていいと言われても、仕事だから何かはしないといけない。

とりあえず離してもらいたくて、腰を掴む手をそっと避けてみる。すると驚くくらいあっさり離れる手。

静かなオーケストラさんの方を見る。相変わらず佇む人形の体。無機質なそれは当たり前だけれど表情は変わっておらず、何を考えているのかよく分からない。

 

「じゃあ、音楽のお礼に掃除するっていうのはどうかな……?」

 

──お礼なんて、

 

「私がしたいの。それならいいよね?それにね、働くことが好きなわけじゃないけど……、働くことで得られるものも沢山あるから。」

 

それは本心だ。私の為に音楽を聞かせてくれると言うのなら、私も何かお礼をしたいし。

仕事したい、働きたい、なんで思えるほどできた人間じゃあないけれど。

 

『ユリは家にいて。危ないから。いいのよ、気にしないで。ユリに力がなくても私達が護るから。』

 

「…………。」

 

いつかの家族の言葉が蘇る。優しい言葉。本当に優しい人達だった。力がない私を責めることもせず、私が知らないところでたくさん助けてくれた。

……でも、本当は私も。何か皆の役にたちたかったんだ。

 

「だから、何かさせてください。ね?」

 

だから、頑張ろうって思う。この会社が私を必要としてくれてるなら、できる限りの事はしたい。

 

静かなオーケストラさんは、私の言葉に黙ってしまう。

やっぱり私の言葉じゃ納得してくれないだろうか。会話が出来ても、元々の価値観は違うだろうし。

となると、嘘をついてでも説得しないといけないだろうか。あまりいい気はしない。嘘というのは一度つくとそれを続けていくのが大変だし。

頭をなやませていると、私の前に何かが差し出される。……箒?

 

──乱暴に扱って、申し訳ありませんでした。

 

「……ありがとう、拾ってくれたの?」

 

──当たり前です。貴女の気持ちも知らないで、勝手をして……。未熟で、情けないですね。

 

「そ、そんな。私のこと考えてしてくれたんだし。わかってくれたならいいよ……。」

 

箒だけじゃなくて、ちりとりとウェットティッシュも拾って渡してくれる。

頭の声は本当に申し訳なさそうで。このアブノーマリティ、本当に優しいんだ。

 

──なにかお詫びをしなければ、ですね。

 

「えぇ、別にいいよ……?」

 

──そういう訳にはいきません。

 

お詫びと言われても。これも下手なことを言えない。

私の想像できない力を持っている人形なのだ。本当に何もいらない。というか出来れば何もして欲しくない。それが一番平和でいいのだけれど。

でも様子を伺うに、静かなオーケストラさんは何かしないと気が済まなさそうだ。

 

「……じゃあ、オーケストラさんって呼んでもいい?」

 

──……?いいですけど……そんなのお詫びには。

 

「それで十分です。オーケストラさん、ありがとう。」

 

静かなオーケストラさんって呼びにくかったし。私が呼び方を変えるだけならば施設に影響もないだろう。

うん。我ながらいい解決策である。これはダニーさんにも褒めてもらえるんじゃあないか。

一人満足に浸っていると、オーケストラさんは何故か口を手で覆っている。と言っても口も人形。その行動に何の影響があるか分からないけれど。

 

「……あ、」

 

その時私はあることに気がついて、オーケストラさんに近付いた。

 

──ユリさん?

 

「ちょっと我慢してね。」

 

少し背伸びして、オーケストラさんの顔に手を伸ばす。私の手にはポケットから取り出したハンカチ。それで人形の耳を軽く擦って。

 

「ホコリ、ついてましたよ。」

 

小さなワタボコリ。でも白い人形の体だと割と目立ってしまうのだろう。取れてよかった。

これで掃除、終わりでいいかな?話してたら結構時間経っちゃったし、他に汚れているところもないし。

 

「じゃあ、また来るね。オーケストラさん。お話してくれてありがとう。……私が来るまで、ちゃんと待っててね?」

 

──は、は、はい。待ってます……。

 

「…………?」

 

最後、オーケストラさんの口調が崩れていたけれど。どうしたんだろう?

気にはなったが、ダニーさんも待っているだろうし。大したことでは無いだろうと判断した私は、とりあえず収容室を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

収容室を出ると、壁によりかかっていたダニーさんがこちらに近づいてきた。

 

「お疲れ様です。問題はありませんでしたか?」

「無かったですけど……。もっと掃除のやり方とか教えて欲しいです。広くてどう掃除していいのか……、あと、どれくらい時間をかけていいのかわからなくて。」

 

そう聞いたらダニーさんが一瞬まずい、という顔をした。直ぐに元に戻ったが私は見逃さない。

ダニーさん、教えるの忘れてましたね?

 

「……基本、次の作業指示が来るまでは作業をしていて大丈夫です。もしも早く終わったら、チームのオフィスに戻って、報告書でも作成しながら待機していてください。」

「わかりました!あと、報告書の書き方も教えて貰えますか?」

「あー……そうかそれもか……。」

「それと、移動する時、アブノーマリティの収容室の場所ってどうすればわかるんですか?ずっとダニーさんについてってもらうわけにもいかないですし。」

「……まとめて教えます。とりあえずチーム本部に戻りましょう。」

 

…………ダニーさん。

失礼なのは承知だけど、それでも思ってしまう。

人に物を教えるの下手ですよね?

というか慣れてないのか……。何から教えればいいかあまり把握していないようだ。

本当に、なんで教育係になってくれたんだろう?最初は自分の運が悪いと嘆いたが、ダニーさんを見ていると不思議になる。

ダニーさんも、教育係になるのって不本意だったのかもしれない。

教えるのも面倒くさそうだし。勿論仕事だからやってもらわないと困るけど、明らかに人選ミスだと思う。

オフィスに戻るダニーさんの背中を追いかけながら、私は早く仕事を覚えようと再度決意する。

お互いの為に、早く一人で仕事できるようになろう。

 

 

 

 

 

 

 

ズシン、ズシン

ギィ、ギィイ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「っ、なんだ。」

 

戻る途中の廊下。チカ、チカ。電気が急に不規則に消灯する。消えたり、ついたり。チカ、チカ。チカ、チカ。

 

プツンッ、

 

そして、真っ暗になった。

 

「て、停電ですか……?」

「まさかっ……!!」

 

 

──────ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!

 

「!?」

「嘘だろっ……クソ、なんでよりによって……っ。」

 

【警告】【警告】

 

【アブノーマリティが逃げだしました。】

【エージェントは管理人の指示に従い直ちに鎮圧作業を実行してください。】

 

真っ暗な中で大きな警報が響き渡る。

何も見えないせいか、音がハッキリと耳に入ってきて。だからダニーさんの舌打ちも聞こえたのだ。

 

でも、そんなことより。そんなことより私は。

 

「いいか、絶対俺から離れるな。離れたら死ぬからな。わかったか?」

「……聞こえる。」

「は?おい、返事しろ。……おい!?」

 

ギィ、ギィ

 

聞こえる。聞こえるのだ。誰かが私を呼んでいる。

床が軋むような音がしている。ギィ。しかしこれは音ではない。声なのだ。

何故か知っている。私はわかっている。呼ばれている。おいで、おいで。と。

 

その声以外、どうでもいい。

 

色々と聞こえる。警報音、ダニーさんの声、タブレットの通知。

でも、どうでもいい。だって私は呼ばれている。私を呼ぶ声以外、全てどうでも良く遠ざかっていく。

 

「おい!!離れるなって言ってるだろ!?」

 

ダニーさんに強く腕を掴まれて。あぁでもどうでもいい。行かないと、行かないと。

呼んでる。呼んでるから。私を呼んでるから。

 

 

 

 

 

 

 

消えることのないランプを持って森の中を歩きながら、生き物たちに森に深入りしないように警告しました。

 

そのおかげで怪物の犠牲となった生き物の数は減ったけれど。

 

それでもなお、大鳥は怪物の手によって死んだ生き物たちのことが気がかりで。

大鳥は考えました。どうすれば皆を助けることが出来るだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ!」

 

先に彼らを殺していたら、怪物に殺されることはなかったんだ!

 

 

 

 

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