海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※注意※

この話以降、一部ガールズラブに捉えられる話がちょくちょく出てきます。
というのも、今後出てくるアブノーマリティ(人外)に女性の姿をしたものが複数存在するためです。
メインストーリーに関わってくるため、ガールズラブが苦手、人外と割り切れないという方は全編通してこの先を読むことはおすすめできません。

そしてヤンデレです。ヤンデレガールズラブです。

しかし上記も、アブノーマリティの価値観の違いを表現する為必要だと思い書きます。
一部捏造はありますが、大幅なキャラ崩壊、原作とのキャラの違いを出さないようには書いておりますので、未熟な点は目を瞑っていただけると幸いです。あと性癖歪んでてすみません。

さらに前作を知っている方へ。
彼女の話は前作よりも時間をかけて書くため、一気に前作と同じような距離感にはなりません。
彼女をもっとちゃんと深く書けるように頑張りますので、どうか今作もよろしくお願いいたします。

一言。彼女を待っていた皆様、
「待たせたわね!私が来たわよっ!」
あー、セリフ取られてしまった……。




あと、今回めっっっっっっちゃくちゃオケユリ。イッッッチャイッチャしてます。多分爆発する。した。私が。















【第二章】その愛は世界を救うのか
【一】噂の魔法少女_1


 

誰しも一度は、〝自分の存在意義〟について考えたことがあるではないだろうか。

人生を振り返った時、何らかの拍子、〝どうして生きているのか〟と思うことは誰にだってあることである。

それを考えてしまった時、答えが出ないことに焦るか、答えなんてないと割り切るかは人それぞれであるが。

悩み焦ることは辛く苦しい。たとえそれが自分の成長に繋がるとしても、苦しいのは誰だって嫌である。

嫌だから、そこから逃げ出すために皆足掻くのだ。

 

ではそれが人でなければ?

 

人でないのなら。そう、アブノーマリティなら?

答えが出ないことに焦るのか?割り切るのか?苦しみから足掻くのか?逃げ出せるのか?あなたはどう思う?

あなたの考えを当ててあげようか?

 

〝アブノーマリティも、悩むのか?〟

 

……なんてことを考えたのでは?

それが、大抵であり。普通である。

しかし例外もいる。その例外の一つが、この〝黒井百合〟という女だった。

 

 

 

 

 

 

 

【第二章】

 

愛というものが私には理解出来ません。しかしそれが生み出す膨大なエネルギーの価値は私にも分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入社して数日が経ち。あれから私はだいぶこの会社に慣れてきた。

しかし残念なことに会社内の人間関係は全く良くなっていない。別に虐められている訳では無い。ただ、私に話しかける人は本当にごく一部で。

アネッサさんと、ダニーさん。あとは一部のコントロールチームの人くらいであった。

しかし私は気にしないようにしていた。何故ならば。

 

〝イレブンさん〟事件の噂がようやく落ち着いてくれたのだ!

 

それだけでも十分。本っ当に十分!ありがたかった。聞く度に憂鬱になったあの名前が無くなっただけで私は十分嬉しかった。

このまま時間の力で風化して欲しい。大丈夫。人は案外忘れっぽいものだから。

それに最近は新しい噂も流れていて、みんなその話ばかり。私の話をする人自体がかなり少なくなった。

今もほら、少し離れたところでその噂をしている人が。

 

「すごく可愛いアブノーマリティが来たんだよ!」

「知ってる知ってる!あの、女の子でしょう?」

 

きゃあきゃあと楽しそうに騒ぐ彼女らは、コントロールチームの人達だろう。

数日前に私を追いかけた人達に彼女らもいた。元気な姿に安心して、私は着替えを進めながらほっと息をつく。

そう、最近はそのアブノーマリティの噂で持ち切りだった。なんでも〝可愛いアブノーマリティ〟が収容されたのだと。

私はまだ会ったことないが、そのアブノーマリティの話は一日一度どこかでは聞こえてくる。

なんと、女の子らしい。アブノーマリティにも性別があることをその噂で初めて知った。

 

「私ね、昨日会ってきたの!そしたらこんにちはって挨拶して手も振ってくれたの!」

「えぇ!いいなぁ。可愛いだけじゃなくて優しいんだねっ!」

 

シャツのボタンを止めながら、ついつい耳に入ってくる会話を意識してしまう。

挨拶をしてくれるアブノーマリティか。確かにオーケストラさんも私に挨拶をしてくれたから、コミュニケーションのとれるアブノーマリティは存在するのだろう。

 

「その子ね、なんと……魔法少女なんですって!」

 

えっ、

 

「えーっ!魔法少女って……あの、アニメの!?」

「そうなの!世界を救う正義のヒーローって、すごくない!?」

 

〝魔法少女〟。

魔法少女って、あの、魔法少女?

 

その言葉に一気に心拍数が上がる。蘇る昔の記憶。幼い頃に憧れてやまなかった、テレビの中の可愛い女の子達。

テレビの前で私はずっと魔法少女を応援していた。画面の中で動く敵に何が出来る訳でもないが必死に睨んで。

魔法少女達に『がんばれ!』『まけないで!』なんて叫んだりしてみて。物語の最後で彼女たちが勝ったのを見ると、自分の事のように嬉しかった。

それがアニメであり、実在しないことは当初からわかっていたけれど。

それでも心のどこかで、『もしかしたらいるのかもしれない』と夢をみていたのである。

 

「……本当に?」

 

思わず出た声は、どこか期待の混じったもの。

その魔法少女が?本当に?

実在するのか。いやそんなまさか、ありえない。あれはフィクションで、作り上げられたキラキラの想像で。

 

「すごいでしょ!最近来たばかりみたいだし、運が良ければあなたも作業行けるわよ!」

「えーっ!いきたーいっ!管理人、指示くれないかなぁ。」

そんな会話をしながら、着替え終わった彼女達はパタパタとロッカールームを出ていく。

そんな二人を見て、恐らく先輩であろう人がため息を吐いた。「アブノーマリティに変わりはないのに、呑気なものね。」。

ぐさっ。その言葉は私に刺さった。

話を聞いた私は、アブノーマリティということも忘れその魔法少女に会ってみたかったかったのである。

 

「…………いや、どっちにしろ無理か。」

 

しかし抱いた期待は一気に冷めていった。

話していた一人の言葉を思い出す。

 

『運が良ければあなたも作業に行けるわよ!』

 

そう。どのアブノーマリティの作業になるかはある意味〝運〟だ。

私達はXさんやアンジェラさんから指示を貰って、その通りに動かないといけない。それはつまり上からのアクションが無いと、どう頑張っても魔法少女には会えないということで。

赤い靴の一件以来、私の担当するアブノーマリティは固定されている。

今主に私が担当するのは三体。

 

最初に出会った小鳥の〝罰鳥 〟さん。

ランタンを貸してくれた〝大鳥〟さん。

そして人形の〝静かなオーケストラ〟さん。

 

この三体の作業を行ったり来たり。その為その〝魔法少女〟に会える確率はかなり低い。

それを残念がるのはあまりに贅沢な話。だってその三体のみを作業しているという事は、私は今とんでもなく安全で楽な仕事内容なのである。

皆優しくてとてもいいアブノーマリティで。おかげさまで今のところ危険と程遠い毎日を送っている。

それでいいのか?と思うほどに、毎日本当に楽だった。

 

しかし私も〝恐怖に立ち向かう〟と決意した身。

 

流石にこのままでは申し訳なくてダニーさんにちゃんと話したこともある。

 

『私の担当アブノーマリティ、たまには誰かと変わった方がいいんじゃないでしょうか?』

 

と。今の状況はとてもありがたいが、私ばかり安全なアブノーマリティなんて不公平。

皆だって鳥さんやオーケストラさんの作業をしたいだろうと、勇気を持ってダニーさんに提案した。

 

『絶っったいにお断りします。』

 

そしたらすごい怖い顔で否定された。

え?なんで?

 

『で、でも……!私だって他のアブノーマリティの作業やりますよ……っ!』

『それはありがたいです。でも上からの指示が来るまで……いや出来ればずっとあいつらの作業していてください。』

『えっ、でもいいんですか……?』

『大人しく作業しててください。ユリさんがやらないとあいつら大人しくしてないんですからね。』

『……?鳥さんもオーケストラさんも優しいですよ。』

 

私がそう言うと、ダニーさんは顔をしかめる。

確かに最初の時は大変だった。オーケストラさんも鳥さん達もだいぶ皆を困らせていたけれど、今は違う。

ちゃんと話せばわかってくれる。コミュニケーションさえとれば何もしないのだから、皆はオーケストラさん達を勘違いしているのかもしれない。

 

『ちゃんと話してコミュニケーションとれば三体ともすごくいいアブノーマリティですよ!今度試してみてくださいっ!!』

『嫌です勘弁してください。あのですねユリさん、それ他の人に言わない方がいいですよ。』

『へ?』

『頭おかしいと思われますから。現に俺も頭おかしいなこいつって思ってます。頭おかしいですよねユリさん。』

『なんで!?』

『いいからユリさんは黙ってオーケストラ達の相手しててください。あいつらの作業なんて俺、絶対に絶対に絶っ対に!嫌ですからね。』

 

「…………。」

 

今思い出しても私の事〝頭おかしい〟とかダニーさん酷い。

なんで?鳥さん達は確かに意思疎通が難しいから、危ない部分はあるかもしれないけど……。

オーケストラさんなんて特に優しいのに。いつも作業中、音楽を演奏して楽しませてくれるくらいだ。

けれど私は所詮新人で。それ以上何か言っても聞き入れてくれる雰囲気は無く。

新人は大人しく今やれる仕事をやれと言う意味かもしれない。

それからは反省して何も言わず大人しくオーケストラさん達の作業をしている。

それに正直危険のないオーケストラさん達だけ相手にすればいいのはありがたい。

私は、私に出来ることをやろう。今日も一日頑張ろうと決意し、着替え終わった私はロッカールームを後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ある職員の記録》

 

彼女はとても素敵な人です。アブノーマリティと思えないほど。

しかしその力は確かに人離れする素晴らしいものです。

そしてその強く正しい力に相応しい、穏やかで真っ直ぐな心を彼女は持っていると思います。

 

私は彼女に聞きました。

『今日の調子はいかがですか?』。

するとこう答えました。

『平和はとても素敵』だと!

 

 

 

 

「………………。」

「管理人、以上が全ての報告書になります。」

 

アンジェラの言葉にXは顔をしかめる。

彼の目の前にはA4サイズのコピー用紙。しかしそれにはいくつもの文字が殴り書きされていて、もう本来の用途には使われないだろう。

 

「また同じような……。うーん……。」

 

Xは悩んでいた。最近彼の頭を占めているのは〝新しいアブノーマリティ〟についてである。

新しいアブノーマリティが来て、数日が経っている。何人かのエージェントを作業に向かわせたのでその存在は職員内で既に噂になっているほど。

それらの噂は全て良いものでしかなかった。皆が皆、そのアブノーマリティの事を褒め称える。『安全だ』、『可愛い』、『友好的だ』と。

そして、『魔法少女である』と。

 

「本当にそうなのか……?」

 

本当にそうなのだろうか。本当に安全なアブノーマリティなのだろうか。

しかも〝魔法少女〟?なんだそれは。確かに見た目はそう見えるが、そんなものは所詮人が作ったフィクションであろう。

しかしそれらを判断しようにも情報が少なすぎる。

職員を何人かいかせても、同じような会話しかしない。そのため同じような報告書しか上げられない。

〝安全〟だと判断するなら、〝安全〟である報告が必要になる。〝何もされなかった 〟という報告だけでは決め付けられないのだ。

 

「もっと……情報を。会話ができるなら何を考えているかの確認は取れないのか……?」

「過去の話はよくしてくれるみたいですよ。それらも報告に上がってますが読まれますか?」

「読んだよ。〝怪物と戦った〟話だろ?」

「ロボットと戦った話もありますよ。」

「それももう何回も読んだ。別のエージェントの報告書でも読んだ。それで最後は〝褒めて〟終わり。……そんな力を持っているアブノーマリティは危険かもしれないって、なんで思わないかな……。」

「管理人とエージェントとでは捉え方が違うので仕方ないでしょう。」

「ならせめて、収容室内の音声を録音できないか?実際の会話を記録出来ればまた変わると思うんだ。」

「インカムからの音声は全て文字にし記録しております。しかし室内全体は無理です。有害音声が含まれる可能性がありますので。」

「…………はー、アブノーマリティって本当に厄介だな……。」

 

やはりもっとベテランを向かわせるべきかとXは考える。その〝新しいアブノーマリティ〟、もとい〝魔法少女〟に向かわせたエージェントは、比較的新人ばかりであった。

勿論最初は経験豊富なエージェントを向かわせていた。よくわからないアブノーマリティと新人を対面させるのはあまりにリスクが高い。

しかし回数を重ねるうち、比較的作業が簡単に終わる上危険が少ないことを確認できた為、最近は新人に向かわせることが増えたのである。

ベテランは忙しいのだ。

ベテランにはもっと危険であり難しいとするアブノーマリティへの作業をやってもらっている為、新人に任せても大丈夫なアブノーマリティの作業まで時間を割けなかった。

 

けれどその結果、魔法少女の情報は集まらないでいる。

 

「彼女に向かわせればいいじゃあないですか。」

「…………彼女って、ユリさんのことだよね。」

「そうです。貴方もわかっているでしょう、彼女はあまりに特殊であると。」

「…………。」

 

わからないはずがなかった。

エージェント・ユリ。最近入ってきた日本人女性の新人エージェント。

そんな彼女が担当するのは、主に三体。

 

脱走常習犯であり、やけに攻撃的な〝罰鳥〟。

多くの人間を魅了し殺してきた〝大鳥〟。

そしてこの施設で最高危険度に分類されている〝静かなオーケストラ〟。

 

その三体を彼女は難なく作業し、必ずアブノーマリティからの好反応を得ている。

新人の彼女にそんな危険な三体を任せているのすらXは申し訳なく思っている。

その上新しいアブノーマリティを頼むなど出来ず、Xは今まで避けてきたのだが。

 

「X、何度も言ったでしょう。恐怖には立ち向かわなければいけない。多少の無理は誰しもしなければいけません。」

「それはわかってるけど、」

「彼女にはもっと色んなアブノーマリティを作業して頂くべきです。」

「…………。」

「大丈夫ですよ。きっとうまくいきます。……全て。」

 

Xはアンジェラの言葉に黙ってしまう。

そして管理モニターに目を向け、光る液晶をじっと見つめた。

あと数分で、今日の業務が始まる。いつ終わるかわからない、化け物の管理をする仕事がはじまるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間がきた。ユリの一日の仕事ははじまった。

 

業務開始と共にタブレットを開く。今日の一体目のアブノーマリティはオーケストラさんだった。

もうマップを見なくてもオーケストラさんの部屋に行けるようになった。私は急ぎ足で廊下を移動する。

色んなエージェントさんとすれ違うが皆会釈もしない。

仲のいいエージェント同士だとエレベーター内で会話してたりするが、今のところ私にはそういう相手もいなかった。……自分で言ってて悲しくなる。

でも別に最近は気にしないようにしている。

 

「オーケストラさん!おはようございます!今日もよろしくお願いしますっ!」

 

──ユリさん、おはようございます。

 

相変わらずの優しい声に、わたしはついついにっこりとしてしまう。

そう、最近はエージェントさんと話せなくても気にならない。

その代わりのように、オーケストラさんが毎日沢山話してくれるからだ。

オーケストラさんとの会話は楽しかった。彼は私の話を上手に聞いてくれるし、聞きたがってもくれた。話の中で価値観の違いもあったけれど、それはそれで面白かった。

引っ越してきたばかりの私にとって、主な会話相手はオーケストラさんになったのである。彼としか話さない日もあるほど。おかしな話だ。

でも十分だった。オーケストラさんの存在が、私はとてもありがたかった。

 

そして実は最近、新たな試みもはじめたのである。

 

「今日もオーケストラさんのこと沢山聞いていいですかっ?」

 

──ふふ、今日は何をお話しましょうか。

 

「そうだな……この前の続き!オーケストラさんが前にいた世界のこと教えてくださいっ!」

 

──私の元いた世界のこと……。

 

私はメモを片手にオーケストラさんに質問をする。気分はインタビューをする記者。

そう、新しい試みとはオーケストラさんのことをもっと知ろうというものである。

きっかけは単純で。私が『オーケストラさんってどこから来たんですか?』と何となく聞いてみたことから始まった。

するとオーケストラさんの口から出てくる出てくる、私の知らない世界の話。

慌ててメモをとって、オーケストラさんに誰かに話していいか許可を貰ったあと、報告書にまとめて提出した。

そしたら、それは大いに評価され、オーケストラさんとの作業時間を長くとっていい代わりに、もっと色んなことを聞くよう会社に指示をされたのである。

 

「あ、今回も話したくないことは話さなくていいので!それだけは忘れないでくださいねっ!」

 

──ユリさんに言えないことなどありませんよ。

 

「ダメですよ簡単に人を信用したら!」

 

〝ユリさんだからですよ〟なんてオーケストラさんは言うけれど、オーケストラさんは優しいので誰にでもなんでも話してしまいそうで心配である。

話してくれるのは嬉しいし助かるのだが、無理やり聞きたいわけじゃないのだ。

それに、恐らくこの会話も記録されている可能性がある。

私に知られて良くても、他の人には駄目なことも言われてしまったら。それがこの会話で伝わってしまったら。

 

「ちゃんと自分のこと大切にしてください。……秘密にしたいことは、誰だってあるだろうし……。」

 

──ユリさんのことは信用しています。

 

「それは嬉しいですけど……、どうするんですか私が悪い人だったら!」

 

──例えユリさんが悪い人でも、私は好きですから。

 

「っ……!」

 

このオーケストラさんは!!

すぐこういうこと言う!!

 

いつもこうである。このわかりやすい口説き文句!!

私が言葉につまるとオーケストラさんは宙に浮く手で頭を撫でてきて。

からかわれているとわかっていても、恥ずかしいものは恥ずかしい!!

 

「と、とりあえず!前回の続きを……っ。」

 

話を逸らすため、私は前にメモした部分を開く。

走り書きのせいでだいぶ雑な文字だけれど、問題ない。前回のおさらいを頭でしていく。

 

まず、オーケストラさんは異世界から来たらしい。

らしい、というのははっきりと〝異世界 〟と教えて貰った訳では無いからだ。

ただ、出てくる名前とか単語が知らないものが多く調べても出てこなかった。だから勝手に〝私の知らない世界〟としているのである。

 

「オーケストラさんのいた所は……えっと、暗くて静かなとこだったんですよね。他に人はいたんですか……?」

 

──いたとは思いますが、私達に近づく者は少なかったですね。

 

「私達?」

 

──私と奏者ですよ。

 

「あ、そうか。〝オーケストラ〟さんだもんね。」

 

オーケストラは指揮者だけでは成り立たない。楽器の奏者がいないと。

そう言えば初めてあった時も楽器の頭をしたアブノーマリティがオーケストラさんの周りにいた。私達、とはあの子達のことだろうか。

 

「……なら、一人じゃなかったんですね。よかった。」

 

オーケストラさんの話を聞いていると、彼のいた世界は結構悲惨というか。

街が汚れていたり、貧困に苦しむ人がいたりと、断片的に聞いていても暗い雰囲気が伝わってきた。

となると、その世界でオーケストラさんは生きていたのかと思ったが。

それもまた、違うらしい。

オーケストラさんはただ、その世界を見ていただけなのだと言う。

それもよくわからないのだけれど、アブノーマリティにはアブノーマリティの感性やかんじ方があるのだろう。無理に理解することはやめた。

けれどそんな世界で独りぼっちは、やっぱり心細いし寂しいと思うのだ。オーケストラさんがそうでなかったのなら安心である。

 

──そうですね、仲間がいたのは幸いでした。

──指揮者だけでは音楽は完成しないので。

 

「音楽……、その世界でもオーケストラさんは音楽をやっていたんですね。」

 

──勿論です。私は生まれる前から指揮者でしたから。

 

「……?」

 

生まれる前から?それは、どういう意味だろう?

 

──私は音楽に全てをそそぎました。

──それしか無かったんです。それだけで良かった。

 

「ふふ、オーケストラさんらしいです。」

 

──でも今は違います。

 

「そうなんですか?」

 

──私にはユリさん、貴女がいる。

 

「へぁ、」

 

突然の告白に変な声が出た。

じわじわと熱くなる顔。いや、顔だけじゃない。全身が熱くなっていく。

しかもオーケストラさんは告白だけに留まらず、彼はなんと私の髪をひと房すくって。

 

──きっと私は貴女に会うためにここに来た。

 

「……っ!?」

 

オーケストラさんの口に届かない髪の毛は、ゆるりゆるりと指で弄ばれて。

彼の指に巻き付けられては解かれ、そしてまた巻き付けられて。

やがてオーケストラさんの手から、キラキラと小さな音符が出てくる。それは髪をつたい私の耳まで来ると、ポォン、綺麗な音で弾けた。

その動作に、触られているのは髪だというのにドキドキしてしまうのは。

それがあまりに丁寧で、幻想的で。まるで、まるで。好意を直接脳に伝えられているような感覚になって。

 

──ユリさん、

──貴女のために私はどんな音楽でも奏でましょう。

 

「それは……うれしい、けど。」

 

でもさすがにこれは、あまりに心臓に悪い。

 

──だからどうか、笑っていてください。

──貴女の笑顔が、私は世界一好きだ。

 

「〜〜〜っ!!」

 

オーケストラさんって、こういうことどこで学んできたんだ!!!

ドックドック動く心臓を抑える。痛い。心臓が動きすぎて、痛い。

こんなこと言われたことない。というか、普通言われない。どんな少女漫画だと言いたくなるほどロマンチックな告白。

なにか返事をしないといけないのに、言葉が出てこない。パクパクと口は動くのに出てくるのは空気だけ。

それを見据えたように、オーケストラさんの手が髪を離れて顔に近づいてくる。

そして次は唇を撫でられて。

 

──いいですよ。何も言わなくて。

 

 

「ひやぁ…………。」

本当に……オーケストラさん……。

こういうこと……どこで学んできたの……?

ロマンチック検定資格一級とれるよ…………。

 

 

ピピッ、ピピッ、

 

 

「っ、」

 

──おや?

 

「ご、ごめんなさい私です。タブレットが鳴っちゃって……。」

 

あまりのことに一瞬遠のいた意識は電子音で引き戻された。

次の作業指示かもしれない。私はタブレットのメッセージを開く。いつもと同じなら、この次は〝罰鳥〟さんか〝大鳥〟さんか──────、

 

「え……?」

 

{対象:O-01-04 作業内容:交信}

 

「何……これ?」

 

O-01-04?これって、アブノーマリティの名前なの?

いや、それより。罰鳥さんでも大鳥さんでもない……?

 

──どうされました?

 

「あ、いえ……。」

 

オーケストラさんが心配して声をかけてくれる。私は慌てて首を振り、笑顔を作った。しかし内心は笑えるような状況ではない。

知らない名前。これはつまり、新しいアブノーマリティということだ。

私は今から、私の知らないアブノーマリティに作業しに行かなければならない。

 

「……オーケストラさん、私もう行かないといけないみたいです。」

 

──ユリさん、大丈夫ですか?

 

「……大丈夫ですっ、」

 

持っていたメモをエージェントバッグにしまって、私はオーケストラさんに別れを告げる。

優しいオーケストラさんは何度も大丈夫かと聞いてきたが、私は笑顔を崩さなかった。

正直、不安だけれど。

ずっとオーケストラさん達だけを作業するわけにいかない。それは今朝ダニーさんに自分で言ったことだ。

 

「オーケストラさん、私大丈夫です。」

 

──しかし、

 

「だってオーケストラさんは私の味方なんでしょう?」

 

そう。だって私には貴方がいる。

優しいオーケストラさん。私の大好きなアブノーマリティ。

貴方は言った。〝私の味方〟だと。

それは私の心に刺さり、今でも残っている。

「……私もね、オーケストラさんの味方でずっといたいんです。そして担当でありたいの。」

 

その為には私は成長しなくてはいけない。いつまでも安全なアブノーマリティばかり作業して変わらないなんて、スカウトされた身だとしても解雇になるだろう。

解雇とまでいかなくても、きっと会社に見捨てられてしまう。そしたらオーケストラさんの担当を変えられてしまうかもしれない。

 

それは、嫌だ。嫌なんだ。

 

「だからね、頑張るって決めたんだ!オーケストラさん、私行ってきます!」

 

胸を張って、ロボトミーコーポレーションのエージェントであると言えるように。

強くて優しい貴方の担当として恥じないように。私はもっと成長したいのだ。

だから笑顔でオーケストラさんの収容室を出る。最後までオーケストラさんは何か言っていたけれど、振り切る形で部屋を出た。

深呼吸を一つして。気持ちを切り替えて。私は知らないアブノーマリティの部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

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