ゆりゆりぃ…………。
と思ったら思ったよりしてなくて( •᷄ὤ•᷅)ナットクイカナイ
たどり着いた収容室の前。私は煩い心臓を落ち着かせようと深く息を吸う。
蘇ってくるのは、やはり〝赤い靴〟の記憶。
追いかけられるあの足音が。真っ赤に染ったアネッサさんの顔が。思い浮かんでは私の心臓を握り、恐怖を掻き立てる。
上がる心拍数。息も荒くなってくる。駄目だ、こんなでは。駄目なんだ。情けない自分に必死に言い聞かせて。
ちゃんと、しないと。
意を決して私は収容室の扉を開ける。さぁ、ご対面。〝O-01-04〟とはどんなアブノーマリティなのか──────、
「あら、こんにちは!」
「…………え。」
女の子、だ。
女の子がいる。人間の女の子。しかもとんでもない美少女。
美しいロングヘアが私の目の前で揺れる。夏のブルーハワイを思いださせる青い髪。それを上の方で左右一束ずつ結んでいる。うさぎの耳のような髪型は人を選ぶはずなのに彼女にはよく似合っていて。
お洋服もかわいい。ピンクのヒラヒラワンピース。胸元には大きなリボン。
薄い水色のニーハイソックスはずり落ちないよう、ガーターベルトで支えられていて。
圧倒的なその美しさと可愛らしさは、確かに人離れはしているけれど。
この子、アブノーマリティなの?
アブノーマリティというよりこれは。
「本当に……いたんだ……。」
「?どうしたの?」
こてん、と首を傾げるその子に私は息を呑む。その時彼女の金の瞳がキラリと揺らめいて星のようだった。
先程とは違う意味で、私はドキドキしていた。高鳴る胸、湧き上がってくるこの感情は。
「わ、私……、私!」
「ひゃっ、な、なにかしら……?」
思わずガシッとその子の手を掴んでしまう。
傍から見たらだいぶ危ない女だ。わかりやすく興奮して、初対面の美少女の手を掴むなんて警察を呼ばれても仕方ない。
だって、と言い訳する。どうか許して欲しい。だって、だってね私。
「私ずっと、ずっと貴女に憧れてたの…………!! 」
そう。だって私。叶うことなら〝魔法少女〟になりたかった女なのである。
────私にとって、〝魔法少女〟は憧れで、大好きで、特別な存在だった。
それは、幼い頃の記憶。
私の家族は職業柄、外に出ることが多かった。その為私は基本家では一人だったのだ。
いや、一人というのは語弊があるかもしれない。
かなり裕福な内に入る私の家は、一応週替りのお手伝いさんがいた。
親としても幼い子どもを一人家においていくのは不安だったのだろう。ベビーシッターというものである。
だから私は家で、よく知らないお手伝いさんと二人で過ごすことが殆どだった。
この話をするとよく、『でもお兄さんとお姉さんは?』と聞かれる。
もっともな質問だ。
それにお答えすると、兄と姉は、親について行っていた。いや、本人達からしたら連れていかれたという方が近いのかも知れない。
それだけ聞くと家の親は〝仕事に子どもを連れていく酷い親〟に聞こえる。実際見方によってはそうかもしれないけれど。
仕方ないことだった。私と違い兄と姉は、大人顔負けの力を持つ天才だったのである。
それこそ、私含め誰もが羨むような。
兄は次期本家当主なんて言われていたし、姉はわずか七歳にして信者が出来るような。そんな天才であったのである。
その為親として、陰陽師として。二人を家に置いていく方が不安だったのだ。いつ暴走したり、誘拐されるか分からない。その為兄と姉はいつも両親について行っていた。
だから、お留守番は私一人だった。
ベビーシッターの人は優しかったけど、別に仲良くはなかった。
私は比較的〝大人しい子ども〟だったので、ベビーシッターの人もそんなに構うことがなかったのである。
そんな私にとってテレビの世界は特別だった。
私はその頃やっていた〝魔法少女のアニメ〟が大好きだった。
色とりどりのカラフルな世界。毎日が楽しそうな女の子達。それぞれに大切なものが、人があって。それを護る正義のヒーロー。
『わたしも、まほー、つかえないかな?』
へんしんできないかな。
たたかえないかな。
そしたらきっと、おるすばんしなくていいよね?
ちちんぷいぷいと、魔法のステッキの代わりに傘を降る。
結局何も何も起こらなかったけど、もしかしたらいつか起こるかもしれない。そんなことを夢みた幼少時を、私はまだ覚えている。
────そんな〝魔法少女 〟が、今目の前にいる。
こんなことが現実に起きるなんて信じられないが、実際に起きているのである。
私の言葉にぱちぱちと瞬きをする魔法少女。驚いた顔すらも可愛らしく、私はまたドキドキしてしまう。
そして彼女はゆっくりと口を動かし、綺麗な弧を描き。そうまさに絵のような笑顔を私に向けた。
「ふふ、そんなふうに言われると照れちゃうわ。」
声すらもなんて綺麗なのか。
鈴が転がるようなとはまさにこの事を言うのだろう。可愛い高い声。しかし聞き取りやすい凛とした声。
そんな声で、彼女は私に話しかけてくる。
「貴女は魔女に憧れていたの?」
「ま、魔女……?」
「私に、って言っていたから。私、魔女なのよ。」
魔女?魔法少女じゃなくて?
予想外の言葉に何も言えないでいると、彼女はそのまま説明を続ける。
「愛と正義の魔女。それが私!そうだ、魔法の杖を見てみる?」
「魔法の杖!!」
魔法の杖って、あれか。戦う時に使ってた可愛いキラキラのステッキ。
見たい。見てみたい。
欲に従い勢いよく首を降る。するとクスクス。彼女に笑われた。そんな仕草も可愛くて感心してしまう。
彼女は自分の後ろに立てかけていたらしい杖を私に差し出し、見せてくれた。
杖と言っても、人が支えに使うようなものでは無い。
ピンクの棒に、黄色のツヤツヤしたリングが縞模様に巻かれている。そこが持ち手なのだろう。キャンディみたいな色合いがまた可愛い。
それだけじゃあない。棒の先には大きなピンク色の星が付いていて、その星の中心はハートの形に穴が空いている。更に白い翼のオーナメントで飾られていてとても可愛い。
もう反対側には水色のハート。こちらは真ん中に星型の穴が開いている。
可愛さを全面にだした、女の子らしい杖。
それと似たものを私は知っている。それはテレビの中の、あの女の子達が持っていた。それは正しく、〝魔法少女の魔法の杖〟。
「あ、でもね。触らせてはあげられないの。ごめんなさいね……。これは魔女しか使えない魔法の道具だから。」
「魔法の、道具。」
「そう。私達魔女はこれを使って敵を倒すのよ。世界の平和を護るのが私達の役目だから。」
「世界を護る、」
「何かあったら助けを呼んで。すぐに駆け付けてみせるわ!」
世界の平和を守る、魔女の少女。
悪者がきたら、直ぐに駆けつけてくれる。
すごい。全てが同じだ。
あの時と、同じ。あのテレビと。
「…………、」
「そうだ!良かったら今まで倒した悪者の話を聞いて!!なにがいいかしら、街に現れた怪獣の…………、え?あら?ど、どうしたの……?」
彼女の、心配する声が聞こえる。
そりゃあそうだ。急に下を向いて、震えて。
急にこんな。泣いてるような様子。実際私は泣きそうだった。
思い出す。『ちちんぷいぷい』と傘を振ったあの日を。
何も起こらなかった一人きりの午後。夢は夢でしかなく、現実は現実。それを幼いながらに私は知っていた。
魔法少女なんていない。
可愛くて、強くて、キラキラのヒーローはいない。
だから私は魔法少女になれないし、魔法少女が私を助けに来てくれることなんてない。
明日も明後日も、一人だけお留守番の毎日が続くだけ。
夢を見ながらも、そんな現実を悟っていたあの日々を思い出してしまう。
「…………昔の自分に、言ってあげたい。」
「昔の貴女に?」
顔を上げる。そこには〝魔法少女〟がいる。
「私、魔法少女はファンタジーの世界のもので、本当にはいないって思ってたの。でも、違うんだね。」
『わたしも、まほー、つかえないかな? 』
『ちちんぷいぷい……えいっ、』
『…………やっぱりむりかぁ。』
放り出した傘を、拾ってあげたい。
「昔の自分に、魔法少女って本当にいるんだよって。……すっごく可愛くて、明るくて、優しいんだよって。教えたいな……。」
将来、本物の魔法少女に会えるよって、教えたいのだ。
それだけできっと、あの時の私は明日を楽しみに出来ただろうから。
「…………そんなに、褒められると照れちゃうわ。」
私の言葉に彼女は困ったように目を逸らす。困らせてしまっただろうか。申し訳ない。
言いたいことを言って、心はだんだん落ち着いていく。好意だとはいえ一方的な会話になってしまったことを反省した。
「ごめんなさい。…………あの、良ければ貴女のこと、もっと沢山教えてもらえませんか?」
ここには仕事で来たんだ。ちゃんと彼女と〝交信〟しないと。
「貴女のこと、もっと知りたいの。」
けど、それは本心。仕事という気持ちはあるけれど、叶うなら私は彼女についてもっと知りたかった。
本物の魔法少女は、一体どんな人生を歩んできたのか。どんな経験をして何を思ったのか。
「もちろんよ!!」
そう言って笑ってくれた彼女が私は嬉しくて嬉しくて。
私の中にいる幼い頃のあの気持ちが、蘇ってくる。
一方その頃、ダニーは電話である人物と会話をしていた。
「先日はありがとうございました。おかげでとても助かりました。」
「こちらこそありがとうございました、エージェントダニー。」
先日。それは例の〝赤い靴事件〟の時のことである。
ダニーがアンジェラを止めることが出来たのは、この電話の向こうにいる人のおかげであった。
[あと、その後アンジェラの記憶の一部にバグが発生するよう弄りましたので、貴方のことは覚えていないでしょう。]
「そんなことまで……。」
ダニーは相手の言葉に驚いたが、同時に合点がいった。なるほど、あれだけのことをしてもお咎めがないのはこのおかげかと。
[しかし彼女は頭がいい。違和感には既に気がついており、原因の究明に励んでおります。どうか貴方も慎重に行動してください。]
「わかりました……。お気遣い感謝します。」
[それにしてもあそこまで上手くいくとは思っておりませんでした。エージェントダニー、貴方のおかげでしょうな。]
「いや、ほとんど貴方のおかげです。俺はただ居合わせただけで。」
ダニーはちゃんと感謝の気持ちを込めて言ったが、その中には皮肉も混ざっていた。〝俺のおかげなんて、俺だけのせいにするな〟という皮肉を。
[ そんなことはありません。貴方はもっと自分に自信を持っていいでしょう。]
「…………自尊心は、それなりにありますが?」
それを相手は気がついていないのか、もしくはあまり気にしていないのか。口調は変わらず穏やかなままであった。
「それで、教えてください。貴方は何者ですか?」
ダニーは本題に入る。彼が今いちばん知りたいのはこれであった。
そう、ダニーは知らないのだ。電話の向こうの相手が誰なのか、何故自分にコンタクトを取るのか。
[おや、忘れてしまわれましたか。私の名前は〝B〟です。]
「それで答えになっているとでも?」
[今はそれしかお答えできません。]
ダニーは舌打ちをする。電話の向こうにも届くように。チッ、とわかりやすく。
「……せめて、貴方の望みを知りたい。どうして俺に協力してくれるんだ。」
わからなかった。
わからないものを、信じていいかダニーはわからない。
このBという人物は、ある時突然、ダニーにコンタクトを取ってきた。
突然個人のパソコンに届いたメール。最初はスパムだと思って直ぐにゴミ箱にいれようとした。が、それを止めたのはそこに書かれていたある一文。
「〝本当のXを知っている。〟
〝取り戻す手伝いをしたい。〟
貴方はそう言いましたね。……俺の知り合いなのか、あんたは。」
[このやり取り以外での貴方との面識はありません。]
「じゃあどうして、」
[貴方が思っている以上にこの会社の闇は深いということですよ。]
「そんな抽象的な表現で誤魔化されるとでも?」
[誤魔化されなくても構いません。結局貴方は私を頼るしかない。違いますか?]
「……っ、」
その通りだった。
ダニーは会社を恨んでおり、どうしてもやりたいことがある。
しかしここロボトミーコーポレーションはあまりに大きすぎて、ダニーという一人の人間がどうこうできるような会社ではない。
会社の現状を告発しても、何故かその情報は信じて貰えないのだ。
それどころかそれに関わった人物は行方不明になってしまう。何らかの理由は必ずあるが、全て突拍子もない、あからさまに作られた話だった。
その為、ダニーと同じ気持ちを持った仲間は数人はいたのだけれど。皆怖がって、離れてしまった。当たり前だ。誰しも自分の命が一番大切で。
ダニーが、ちがうだけで。
[大事なお友達だったんでしょう。]
「っ……!!」
[会社を恨むお気持ち、わかります。私にもとても大切な人がいる。]
「…………あんたに俺達の何が分かるんだよ。」
[わかります。私の大切な人もまた、壊れてしまったから。]
「それは……どういう、」
[ある意味私と貴方はとても似ていると思うのです。協力しましょう。互いに、互いの為に。これ以上は出会えないと思う程の人の為に。私達は協力する必要があります。]
「…………。」
納得がいかない。しかしダニーにこの人物の助けが必要なのは間違いなかった。
Bの力は圧倒的で、ダニーにとってその力を貸してもらえるのは願ったり叶ったりである。
彼がいなければ、〝赤い靴事件〟は止められなかった。〝アンジェラをショートさせた〟のも、〝ダニーに管理モニターの使い方を教えた〟のも。全てこのBという人物で。
「わかったよ……。」
[理解していただけたなら何よりです。]
そう答える以外にダニーは出来なかった。
その返事にBは満足したのか、先程以上に穏やかかつ優しい口調になる。
[Xは今、完全にアンジェラの監視下にいます。まずはそれを何とかしないといけません。]
「それはわかってるけど……どうするんだ。」
[アンジェラを消去すればいい。]
その言葉にダニーは流石に驚いた。
確かに、その通りだが。それはあまりに安直過ぎないかと。
[勿論直ぐに出来るとはいいません。まず私達が〝アンジェラなしでも上手く動ける〟ようになることが必要です。
今のロボトミーコーポレーションアンジェラに支えられている部分も多くありますから。]
「そうなったら……消去、出来るって言うのか?」
仮にB言う通りになったとして。アンジェラを消去する?そんなことが本当に出来るのかダニーは想像が出来ない。
ロボトミーコーポレーションは世界的なエネルギー会社。最新の機器を取り揃え、それだけに留まらず未知の生物をも取り扱うとんでもない大企業。
そんな会社のシステム、アンジェラという名のAIを個人が簡単に消せるわけが無い。無いはずなのに。
[はい。出来ます。]
Bはとても簡単なことのように言う。
[その為にはまず優秀な人材を育てることが大切です。会社の土台を作らなければ。あの新しいエージェントは特にいい人材になってくれると考えられます。]
新しいエージェント。その言葉を聞いてダニーは直ぐに誰のことか理解する。
[ダニー、貴方にはエージェント・ユリのデータ収集をお願いしたい。頼めますね?]
閑話休題。
話はアブノーマリティの収容室に戻る。ユリと魔法少女は楽しくお喋りをしていた。
「それでね!その怪物が公害の原因にもなっていたみたいで。」
「じゃあそれで皆の具合も良くなったの?」
「そうなの!ほんと、ヘドロを吐く敵なんて臭くて嫌になっちゃった。」
彼女はこれまでの自分の活躍を沢山私に話してくれた。
怪物の話、ロボットの話、マッドサイエンティストの話、闇に呑まれてしまった少女の話。そしてそれら全て、自分が救ったのだと。
彼女の話全てにドキドキして。それはまさにテレビの液晶越しに見ていた魔法少女の物語そのものだったから。
幼い頃に憧れていたあと世界が本当にあるのだと。ただ見ていた時とは違う、リアルな彼女の話はより私の心を奮い立たせた。
「すごいねぇ……。でも辛くなかったの?」
「大変なことは沢山あったけど、辛いとは思わなかったわ。皆が喜んでくれると私も嬉しかったもの。」
「そっか……。」
「それにそんなこと思ってる時間がもったいないもの!だって、私以外に誰が世界を護るの?」
「かっ、かっこいいっ!!」
なんて立派でかっこいい考え方なのか。どこまでも期待を裏切らない魔法少女である。
けれど話を聞いていて思ったのはやはり彼女もオーケストラさんと同じ、〝私の知らない世界〟からやってきたのだということ。
彼女の言う怪物やロボットの話が本当なら、そこまで事件の規模が大きいのに知られていないのはおかしい。
それが世界的な機密情報と言えば無理もない話だが、それにしては彼女は隠す様子もなく、むしろオープンだ。となると、やはり〝別世界から来た〟と考える方が自然だろう。
「ふふ、不思議ね。……こんなに話してて楽しいのは初めてかもしれないわ。」
「えっ?でも貴方ならたくさんお友達がいそうだけど……。」
魔法少女のその言葉は意外だった。
話していてわかるが、彼女は魔法少女出なくても充分魅力的な人だろう。
社交的で、人見知りもせず、表情豊かで、思いやりもある。少し眩しいくらいには人ができていると思う。
そんな彼女にはたくさんの友達がいそうなものだが。私は自分で言うのもなんだが、そんなに話し上手と言う訳でもない。
それなのに彼女からそんな評価を受けるのは以外だった。お世辞ならわかるが、そんな風にも見えないのである。
「そんなことない。私ね……仲間はいたけど、お友達はいないのよ。」
「……?仲間も、お友達なんじゃない?」
「どうかしら?大切な仲間とは思っていたけど、一緒にいて楽しいとか思うことはなかったわ。」
「……。」
彼女がそんなにハッキリと物を言うのは意外だ。そんなに仲良くなかったのだろうか?
「ねぇ……、私の最初のお友達になってくれないかしら。」
「えっ!?私が!?」
私でいいの!?
いや、私はすごく、すごく光栄だけれど。
私別に、なにか特質しているとか、そういう特別な人間ではないのに。
こんな、みんなの憧れでもある魔法少女の友達に、しかも第一号に。なっていいのだろうか!?
「ダメ……かしら? 」
「いや!全然!!全然いいよ、嬉しいです!!」
彼女のまゆがへの字に下がるのを見て、慌てて私は首を振る。
駄目だなんてとんでもない。むしろこちらがいいの?と聞きたいくらいだ。
「嬉しいわ!じゃあ、貴女の名前を教えて!」
「私、ユリっていうの。ええと……、お花のリリーって分かるかな?私の国の言葉で、そのお花の名前になってるんだ。」
「リリーは知ってるわ!お花の名前なんて素敵!ユリ、ね。ユリ。」
ユリ、ユリ。彼女は何度も私の名前を繰り返す。確かめるように、とても丁寧に。
「とっても綺麗な名前……。私、大好きよ、ユリ。」
「っ、 」
その言い方がなんだが告白みたいで。私の顔が熱くなる。
何を意識しているんだと叱咤する。彼女は私の名前を褒めているだけで、そこに深い意味はないのだ。
「わ、私のことはいいからっ。えっと、貴女の名前は?」
「私の名前はね!…………私の…………名前は、」
「……?」
つい今まで笑顔だった彼女は、急に頭を抑えて困惑の表情を浮かべる。
「私の名前……名前、なんだったかしら……あれ……?わたし、わたし、なまえ?名前……。」
「ど、どうしたの……っ!?」
なんだか様子がおかしい。もしかして聞いてはいけない事だったろうか。
彼女は苦しそうに頭を抑え、綺麗な髪を強く掴む。ぐしゃり、ぐしゃり。それと同時に呻き声をあげる。
「ぅ…………ぅ、おもいだせない、私……私は、」
「無理して思い出そうとしないで!落ち着いて、ね。ゆっくり息をして……。」
丸まる背中をそっとさする。安心できるようによう耳元で声掛けをして。そうしていると暫くしてようやく顔を上げてくれた。
「ごめんなさい、ユリ……。どうしても名前が、思い出せないの……。」
「謝らないで。調子が悪い時は誰にだってあるし……。そんな時に聞いちゃってごめんね。」
「ありがとう……。でも、思い出さないと……。ユリに名前、呼んでもらえないわ…………。」
「…………。」
落ち込んだ様子の彼女に心が痛くなる。
どうしよう。無理はして欲しくないけれど、確かに名前が思い出せないというのは本人としても不安だろう。彼女の為に私が出来ることは…………。
「……あっ、じゃ、じゃあなんて呼ばれたいとかある?」
「なんて、呼ばれたいか……?」
「そう!お友達だし、ニックネームで呼ぶのもいいでしょ?」
「ニックネーム……。」
咄嗟にでたアイデアだったが、我ながら悪くない考えだと思う。
思い出せないのなら、その間は呼ばれたいように呼ばれればいい。根本的な解決にはならないだろうが、少しは彼女の気も紛れるんじゃあないだろうか。
「ユリに、」
「私に?」
「名前、つけてほしい。」
「え。」
私に?彼女の、ニックネームを?
えっ、それいいの?責任重大じゃあない?
ニックネームと言ったが、この場合記憶が戻るまでの名前ということになる。そんな重要なこと、勝手に私なんかがやっていいのだろうか。
しかし本人が望んでいるのだ。なによりもこの美少女に大きな目をうるうるされて頼まれると……誰が断れるだろうか。
「ちょっと考えるね…………ええと…………。」
悪者と戦う魔法少女、皆のヒーロー。
愛と正義の味方。愛と、正義の……。
「あ!……アイ、とかどう?」
「アイ?」
「そう!アイってね、私の国の言葉でLoveの意味があるんだよ!」
「Love……。」
「貴女に似合うかなって……。勿論気に入らければ考え直すけど!!」
愛、Love、アイ。
結構いいと思うんだけどな。どうだろう。
人の名前なんて決めるの初めてで、ドキドキする。気に入らないかな……?
「アイ……アイ、ね!!ありがとう、とっても素敵だわ!」
「本当!良かったぁ…………。」
「アイ、アイ……。素敵ね!沢山呼ばれたくなっちゃう。ねぇ、ユリ。私の名前呼んで?」
可愛い笑顔を取り戻した彼女は、ぎゅっと私の腕に抱きついてそんなおねだりをしてくる。
それに応えて私が「アイ、」と呼ぶと、本当に嬉しそうな表情で「なぁに、」なんて返事が返ってきて。
「あはは、呼んだだけだよ、アイ。」
「うふふ、嬉しい!これからたくさん、たーっくさん呼んでね?ユリ!」
そして次の作業指示が来るまで私達はお互いの名前を呼びあって。
きっとその日私は一生で一番名前を呼ばれた日になったのであった。
【お知らせ】
「原作を知っているから、原作もあまりに違いすぎて読みにくい方もいると思う」というご指摘を頂き、当作品のバックストーリーを解禁致しました。
活動報告にて掲載しております。
【活動報告に飛びます】バックストーリー解禁
読まなくても全然問題ないですし、当作品のメインストーリーと関係ある所は本編でちゃんと記載します。
作者としては考察も楽しんで欲しいと思って謎の部分も多く残してたのですが、それが読みにくいとなっていたのなら本当に申し訳なかったです。
ごめんなさい、考察コメントってハーメルン的にはNGらしいですが私は嬉しかったの。ごめんね……。
それから、原作を知らない方にはマジでよく分からない、混乱を招く内容となっております。
その為「原作とちげぇじゃんよみにく!」という方のみ閲覧をおすすめ致します。ご活用ください。
あと、「これはよくない」というご指摘はできるだけ素直に受け止めます。全てを受け入れられないかもしれませんが、考慮できるところはしたいと思っていますので何かあればご連絡ください。
その際お手数ですがメッセージだと助かります。
そして原作への愛は持っており、好きだからこそ書いているものです。決して悪意や意図的に「改善するような作品」を作っているつもりはありませんので、優しくしていただけると嬉しいです。豆腐メンタルですみません……。
読んでいただいている皆さんが大好きです。
それも忘れないで欲しいです。皆さんが思っているよりもずっと、書き手というのは読み手に支えられていると私は思っております。
私結構コメント頂いた方、難しい名前でなければ覚えてます。それだけ好きなんだよって。
あれここまでいくと重いな私。ヤンデレかな?
あと話変わりますが定期的に百合書きたくなるのなんなんだろうねマジで。発作?