海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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【二】異国の鳥は赤に濡れる_2

「Lobotomy Corporationって……!?」

 

Lobotomy Corporationって、あのロボトミーコーポレーション!?

世界を代表するエネルギー会社の、あの!?〝未来を作る〟がコンセプトの、日本ですら聞くような名前の大企業の!?社員!?こんな危なそうな人が!?

嘘でしょ、と信じられない気持ちだったが、男性についていった先にあった車。間違いなくロボトミーコーポレーションのマークがついたワゴン車である。

しかしそんなもの偽装しようと思えばできるし、まだ信じられない。

私の疑いを見透かしたように男性、ダニーさんはため息をついて名刺を渡してきた。

 

「ほら、これでいいですか。」

「ほ、本当に……?本当にロボトミーコーポレーションの社員さんなんですか……?」

「その名刺の番号に電話していいですよ。そこに書いてある名前と社員番号言ってもらえればわかるはずです。」

「……じゃあスーツケース返してくださいそこにスマホが、」

「すみませんもう車に乗せました。ほら貴方も乗って。」

「うわっ!?」

 

無理やり背中を押されて車の助手席に乗せられる。バタン、勢いよく閉められる扉。

頭の中に浮かぶ二文字。〝拉致〟と〝誘拐〟。車から出ようとするも、知らない車のドアの開け方なんですぐにわからない。

ドアを開けるハンドルを探していると、その前に男性が運転席に乗ってきた。いつの間にか後ろの席に女性も横たわっていて。えっ、まさかこのまま車出すなんてことない、ないよね!?

そちらを見るとぱちん、目が合う。そしてにっこりといい笑顔を向けられて。

 

「車出すんでシートベルトしてくださいね。」

「……警察!!警察!!どこ!!警察!!!」

「はいはい。」

 

そして私は凶暴な鳥を押し付けられ、誘拐されたのであった。嘘でしょ!?

 

拝啓、日本のお母さん。お元気ですか。

こんなことなら日本の方が安全だった気がします。外国、怖い。

 

 

※※※

 

 

車に揺られついた先はなんとまぁ立派な建物。

広いわデカいわで、会社と言うより日本の大学を思い出した。

しかしその大きさよりも、建物の壁に記された社名が私にとって何よりも嬉しかった。

 

ちゃんと〝Lobotomy Corporation〟の文字。嘘じゃなかったんだ……!!

 

安心に泣きそうになっていのもつかの間。ダニーさんは私を気にかけることなく建物に入っていく。もちろんその手には私のスーツケース。

恨めしく背中を睨みながらとりあえずついていく。彼は中の受付で車の女性のことを頼んだようだった。

勿論その時受付の人にダニーさんの暴挙を伝えた。

が。ダニーさんが直ぐに何か小声で言って、私の持つ鳥かごを指さす。それだけで何かが伝わってしまい、受付の人は私を無視した。酷い!!

 

「これから地下に行きます。」

「地下……!?」

 

そこに追い打ち。地下ときた。

 

「本当に私をどうするつもりですか!?」

 

もういい加減にして欲しい。なんなんだこの人。何がしたいんだ。

私の叫び声がフロントに響く。一斉に浴びる注目。それでいい。この人を誰か止めて。私を助けて。

私の睨みもダニーさんは気にせず、むしろ面倒くさそうに顔を顰めて。

周りが注目している中で言われたのは。

 

「その鳥、罰鳥を元の部屋に戻して欲しいんです。」

「は、」

「うちで研究している鳥なんですよ。研究室に戻すのを手伝って欲しいだけ。それが終わればお荷物は直ぐに返します。」

「そ、そんなの……、ここでもういいでしょ!?ほら、籠返しますから……っ!」

「っ、馬鹿!!」

「えっ、」

 

バサバサっ、

 

「罰鳥が逃げた!!」

「おい!捕まえろ!!」

 

えっ、嘘。

たった今籠に居たはずの鳥が、また外に出ている。

おかしい。籠の蓋は開けていないはず。そう思って見ると。

 

「は……!?」

 

蓋が、壊されている。さっきまで閉まってたのに。

老化とか、落下の衝撃とかじゃない。何がギザギザした物でこじ開けられたような跡。

誰が、なんて。つい今まで無事だったのだからそんなの。

 

「あの、鳥が、」

 

フロントを飛びまわる鳥。そこにいる皆をパニックにさせる鳥。

あの小さなくちばしで、自ら籠を壊したのか。そんなこと可能なの?本当に?でもそれ以外考えられない。

鳥を見て逃げる人がいる。逆に捕まえようとする人もいる。それに反応した鳥は、また人をつつき始めた。目ではないにしても痛そうで。

その姿を見て、私は腕を動かす。真っ直ぐと伸ばして、手のひらを天井に向けて。

 

「……おいで。」

 

そして鳥に、告げる。

自分でも何をやっているのかと思う。人を襲うような鳥だ。手を自ら差し出すなど危険なこと。飼い主でもない、会って数十分の私なんてあの鳥からしたらただの人間でしかない。

 

けれどもしかしたら。

 

あの鳥は私を襲わなかった。私の手の中なら大人しかった。しかも私が離れようとした時、鳥籠から飛び出た。たまたまかもしれない。たまたま。でももしかしたら、もしかしたらあの鳥は。

私の手に気が付いたように、鳥はこちらに向かってくる。

周りの人の悲鳴。逃げろという声。怖い。けれどもしかしたら。

 

「……やっぱり、」

「は!?罰鳥が、大人しく人の手に乗ってる!?」

「何者だあの人は!!」

 

鳥はやっぱり、私の手に乗った。周りの人々が先程とは違う意味で騒がしくなる。

皆私に注目している。誰だ誰だと興味を持たれているようだが、私はそれに答えている余裕はなかった。

 

やっぱり。やっぱりだ。この鳥は。

 

「……私の言葉、わかってるんだね。」

 

私の言葉、人の言葉を理解している。

 

……一体なんなんだ。この鳥は。

 

頭のいい鳥がいると聞いたことはある。カラスはクルミを食べる時、車にわざと轢かせて殻を割る。おしゃべりインコは人の言葉を覚えて真似する。

そういった話をテレビで見て感心した。頭がいい、すごいと。

が、この鳥はそれを超越している。

会ったばかりの私の言葉を、その意味を。間違えることなくちゃんと理解しているのだ。

別れを告げれば嫌がり逃げて。駄目だと言えば大人しく腕にとまり。おいでと言えば素直によってくる。

人と同じように、私の言葉を理解しているのだ。そしてその上で、この子は人を襲ったのか。

「……お家帰ろう?」

 

鳥は首を振る。いやいや、と。この子私にずっと着いてくる気か。それは困る。

 

「最後までちゃんと送るから。ね?一緒に行こ。」

 

つぶらな二つの瞳が、私を見つめる。

あと一押し。恐怖を我慢して小さな丸い頭を指で撫でた。

擽るように指を動かすと気持ちよさそうに鳥は目を細める。こうしていると、ただの可愛い鳥。

 

「お願い、籠に入って。私ちゃんと持つから。」

 

しかし私がそう言うと、ちゃんと籠に入ってくるのだ。蓋の壊れた、もう役に立たない籠に。

 

「ダニーさん、早く行きましょう。」

「は……はい。」

 

私の様子にダニーさんは困惑しているようだった。急に従順になったとでも思われているのだろう。しかし違う。

従順になったのは貴方にじゃあない。この鳥に対してだ。

伊達に陰陽師の家系に生まれていない。ちゃんとそういう勉強はしてきたのだ。……力のない私には全く意味がなかったけど。

まさかここで家での教えを使うことになるとはなぁ。

 

『知能のある怪異には、下手に反抗せず出方をみる。』

 

兄は私にそう言った。

 

『そういったのは大抵、明確な未練や理由があって怪異になっている。正しい対応をすれば何事もなく済む場合が多い。けど例外もめちゃくちゃ有るから注意。慎重にね。』

 

そしてくぁ、とあくびをして。

 

『まぁ俺は面倒臭いからとっとと祓っちゃうけど。百合は気をつけな。』

 

記憶の中の会話に、小さくため息をついた。ここにいるのが兄ならば、こんなことにはなっていないんだろうな。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

ダニーさんの後ろについて、鳥籠を手の中に私は地下の廊下を歩く。

この会社は地下もとんでもなく広いようだ。エレベーターを使って下がったが、ボタンが見たことも無い数だった。一体どこまで下があるのか。

私達の目的地は地下一階らしく、そこまで深く潜らなくて良かったのは不幸中の幸。

ついた地下一階は長い廊下になっていて、壁には扉が一定間隔でついている。まるでマンションの廊下だ。

しかし扉の雰囲気はそんなものでは無い。見ただけでわかる重量感と、よく分からない電子パネルがそこらについている。これでは収容所だ。

しかも、いくつかの扉を通り過ぎたのだが中から聞こえる変な音。人の声ならまだしも、聞いたこともない動物のような声や、何かを引きずる音とか、呻き声とか。

 

ここ、本当にどうなっているの?

 

そう思ったが、私は知っている。好奇心は身を滅ぼすと。聞かない方がいいだろう。

早くスーツケース返してもらって、帰りたい。家に着くのはいつ頃になるだろうか。まだ夕飯も決まっていないのに。というか布団、家にあるのだろうか。寝具がないのは本当に困るのだけど。

「着きました。ここです。」

 

考え事で現実逃避をしていると、どうやら着いたようである。

ダニーさんは壁のパネルをなにやら操作して扉を開けた。え、中広い。普通に人が住めるくらいの広さである。

少しためらったけれど、中に入らないと鳥は戻せない。警戒しながら中へと足を踏み入れた。

 

「えっこの木どこから生えてるんですか!?」

 

広い部屋の中心に、真っ黒な木が一本。

木なら茶色を普通思い浮かべると思うのだが、この木に至っては真っ黒だった。黒寄りの茶色ですらない。

しかも葉っぱひとつ付いていないという。夏の時期なら大抵は生い茂るはずなのに。これではただ枝分かれしている大きな棒である。

木は床のタイルが一枚剥がれていて、そこから伸びているようだ。つまり床の下に土があるのだろうか。それが原因で栄養が足りてないんじゃあないか。

 

「その鳥は普段その木にとまっているんです。戻していただけますか。」

「この大きい木、この鳥一羽の為なんですか……?」

「そうですよ。この木じゃないと大人しくしてないんです。」

 

それは随分とこだわりの強い。

ダニーさんの言葉に従い、鳥籠を木の近くに持っていく。蓋は壊れているから簡単に出られるけれど、鳥は一向に動こうとしない。

 

「ほら、お家だよ。……ねぇ、出てきて。」

 

無視である。しかも目を閉じて寝たフリしてる。つい数秒前までバッチリ起きてたのわかってるんだからね。

 

「鳥籠置いておくだけじゃダメですか?」

「それだとまた直ぐ逃げてしまうんですよ。」

「えぇ……?」

 

ここに籠置いていくのと木にとまるのって差分ある?

でもそれならどうすればいいのか。出てくるまで待つなんて冗談じゃあない。私はとっとと帰りたいのだ。

籠の中を見る。鳥はやはり目をつぶって動く気ゼロ。助けを求めてダニーさんを見るも、ポリポリと頭を掻くだけで全く頼りにならない。

 

「あぁもう……っ、わかりましたよ。ダニーさん、籠持ってください。」

「えっ、何するつもりですか。」

 

何って、出てくれないのなら出すしかないだろう。

籠をダニーさんに持ってもらい、私は両手を中に入れる。

つつかれないかと震えながら、もふもふの鳥を両手で包んだ。

そのままそっと持ち上げて。すると鳥が目を開ける。先程までどんなに声をかけても籠を揺らしても動かなかったのに。

やはり寝たフリだったか。本当に頭のいい。

 

「いい子は帰る時間だよ。」

 

目を抉る鳥が悪くないのかは置いておいて。今はいい子に家に戻って欲しい。そうでないと私も帰れないのだ。

落とさないように気をつけながら、木の黒い枝、太いところに鳥を置く。そうして手をゆっくり引っ込めて。

 

「もう逃げちゃあダメだよ」

 

ようやく、鳥は私の手を離れたのである。

私の言葉を理解しているはずだが、鳥はわからないとでも言うかのように首を傾げて。可愛いはずのその姿に私は苦笑いするしかなかった。

まぁ次逃げても、私には関係ない。その時はその時で会社の人は頑張ってほしい。

空の鳥籠を持って私とダニーさんはさっさと部屋を後にする。背中に視線を感じたが振り返えらなかった。そうしたらまた着いてくるような気がしたから。

 

「つ、疲れた……。」

「ご協力ありがとうございました。」

「スーツケース早く返してください。もう直ぐにでも帰りたいです……。」

「……かしこまりました。玄関に持っていかせますので、送りましょう。」

 

やっと帰れる。今何時だろう。

もう夕飯も適当でいい。帰りに適当にパンでも買って、今日はさっさと休もう。

 

「……?」

 

ふと。どこからか楽器の音が。

なんだろう、この音。不気味な地下には似合わない、穏やかな音色。しかも一つじゃあない。色んな楽器の音が聞こえる。まるでオーケストラのような、

 

──────ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!

 

【警告】【警告】

 

「えっ、なに?!」

「っ!」

 

【アブノーマリティが逃げだしました。】

【エージェントは管理人の指示に従い直ちに鎮圧作業を実行してください。】

 

「あ、アブノーマリティ……??」

「くそっ……また脱走か……!今度はどいつだ……!」

「脱走っ!?」

 

【脱走したアブノーマリティを特定しました。】

【アブノーマリティネーム〝静かなオーケストラ〟。】

 

「……嘘、だろ……。」

「ダ、ダニーさん?一体何が……、」

 

突然鳴り出した警報音。

ダニーさんに状況を説明してもらおうとしたが、それはできなかった。

というのも。彼の顔はあまりに真っ青で、顔中にダラダラと冷や汗をかいている。

見開かれたダニーさんの目。警報音は鳴り止まない。

 

一体、何が起こっているのか。

 

【警告】【警告】

 

警報に反して、やはり聞こえる美しい音色。

 

【エージェントは管理人の指示に従い、直ちに鎮圧作業を実行してください。】

 

それと一緒に、なにか声が聞こえたような。

 

 

 

────早く、来てください。早く。

────私は貴方を、待っている。

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