その後も何とかアブノーマリティについて有益な情報がないか調べても何も見つからなかった。
ノートも細かく確認したがやはり書いていないし、一か八かでインターネットを開いてもそれらしいものは見つからない。
〝呪いの解き方〟なんてこの世には腐るほどあるのだが、その倍以上呪いも腐るほどある……らしい。家族いわく。
変に合わない解呪をしたら状況が悪化することもある。だから正しいものを選ばないといけない。が、私にはそもそも〝美女と野獣〟の呪いが何なのかもわからない。
そんな時、目に止まった文字の羅列。
〝呪いは真実の愛で解ける〟
「……。」
アブノーマリティの名前は〝美女と野獣〟。有名な童話のタイトルと同じ名前。
心優しい美女が、野獣を心から愛した時に野獣の呪いが解けて。じつは彼は王子様だったという話。王道かつ人気のファンタジーラブストーリーだ。
私の脳裏に浮かぶ、うろ覚えの〝美女と野獣〟の姿。もし物語通り、アブノーマリティに愛を注いだら呪いが解けるのか?
「微妙。」
微妙。凄く微妙である。
思わず変な顔をしてしまった。確実に眉間と額にシワがよっている。
「愛……愛ねぇ……?」
それで解決するのなら、この上なく素敵な話だけれど。
それを過信できる程私の心は綺麗ではない。なんて可愛くない性格なんだと自嘲するが、本心なのだから仕方がないだろう。
「そうだったらいいのに。」
でも、そうだったら良かったのになぁと思う。
怖いもの、恐ろしいもの。そういった物全部、愛情とかで解決できてたら良かったのに。
そしたら私、日本から逃げなくても良かったかもしれないのにな。
なんてことを考えているのだと我に返り、ため息をつく。考えても仕方ないことをうだうだ悩むのは良くないとわかってるのに。
「お兄ちゃん……なんて言ってたんだっけなぁ……。」
〝呪い〟にならないもの。兄が言ったそれはなんだったのか。
もしかして本当に〝愛〟なのかな?
わからないけど。でももしそうなら··········アブノーマリティに対して私に出来ることって、なんなんだろう··········?
答えの出ない疑問に思考は徐々にぼやけてくる。体が重くて、まぶたが自然に閉じてくる。
それ以上の進展もなく、いつの間にか私は眠ってしまい、結局私はいつも通りの朝を迎えたのだった。
※※※
なんの答えも出なかった事に落ち込みながら次の日私が出社すると、何だかチーム本部が騒がしい。
いつもなら業務開始時間まで静かなのに、今日はがやがやと賑わっている。
それは楽しそうだとか活気があるとか、そんないいものではなく。むしろあまり良くない雰囲気である。
「なんなんだ」とか、「面倒くさい」とか。呆れた声がそこらで聞こえる。
一体何が起こっているのか。様子を伺おうと、声が一番大きい場所を覗き込む。
「だから!!私はあの女に言いたいことがあんの!!」
えっ。その姿を見て私は目を見開く。
「何度も言いますが自分のチームに戻ってください。迷惑です。」
「わかってるんだからね!!あんたあの女知ってるでしょ!?前にいっしょにあるいてたの見たんだから!!」
「ここにいる人達は全員知ってますよ。同じチームなんですから。」
「だから、……あっ!?」
その時ぱちっとその人と目が合って。私の肩が大きくはねた。まずい。
「あんた!!」
「は、はいっ、」
「よくも昨日は邪魔してくれたわねっ!?」
そう、その人は昨日〝美女と野獣〟を殴った女性である。
なんでここに、と考える暇も与えずに彼女はこちらに向かってきた。
その表情の恐ろしいこと。真っ赤な顔に険しくシワがよっていてまるで般若。私は顔から血の気が引いていくのを感じた。今すぐに逃げ出したい気持ちになる。
彼女は目の前までくると、私に手を伸ばした。反射的に私は目を閉じてしまう。
「ストップ。」
「っ、離してよ!!」
しかし覚悟したような衝撃はこない。
代わりに聞こえる男女のやり取りにそろそろと目を開けると、ダニーさんが女性の腕を掴んで抑えてくれていた。
「大人しくしろ。ユリさん。この人ユリさんのこと朝からずっと探してたんですよ。また何かしたんですか?」
「またってなんですか!!私何も悪いことしてません!!」
ダニーさんは私のことをじとっと睨んでくるが、本当に濡れ衣である。〝また〟とか私のことなんだと思っているのだこの人。
腕を強く掴まれた女性は何か言っている。ダニーさんと私を交互に睨みながら放たれるそれはおそらく暴言。
が、ぎゃあぎゃあ煩くてもはや何を言われているのか頭に入ってこない。かなり大きな声で言われているのだが、右から左へと流れていってしまうのだ。
反してダニーさんは至って冷静で。そこの温度差に私は他人事のように苦笑いしてまう。
「私昨日、この人に仕事の邪魔をされて。」
「は?」
ちゃんと説明をしようと話を切り出したところで、ダニーさんは険しく顔を歪めた。
「邪魔したのはそっちでしょ!?せっかくもう少しでトドメをさせたのにっ、」
「………ちゃんと話を聞きましょうか。」
ダニーさんは私たちを部屋の隅に誘導する。
他のみんな、なんだなんだと私達に注目するが。ダニーさんは至って冷静だ。
私の話を聞いて、上手くまとめて整理して。いくつか質問されて。その繰り返しはあまりに作業的。
野次馬の皆は淡々とした会話に興味は薄れたようだった。
「この人の事、ユリさんは本当に知らないんですね?」
「はい。昨日作業を邪魔された時が初対面です。」
私はダニーさんの質問に、できるだけ的確に答えていく。
収容室に入ろうとしたら、彼女が私をおしのけて入ってしまったこと。
〝美女と野獣〟を彼女が殴ったこと。
それはXさんに禁止されていた事だったので、慌てて止めたこと。
「それで、アイが助けてくれたから何とかなったんですけど。」
「アイ……?」
「あ!えっと、アイっていうのは新しい女の子のアブノーマリティのニックネームで……。」
「ユリさんふざけてます?」
「なんで!?」
ダニーさんにはぁ、とため息をつかれてショック。一生懸命説明したのにその反応は悲しい。
「ユリさん……アブノーマリティにニックネームって。」
「そ、それは……。」
「あまりアブノーマリティに深入りしないように。どんな見た目でも、人とは違うことを忘れないでください。」
「うぅ……。」
淡々と注意されて、私は肩を竦める。言い返すつもりもないが、返せる言葉もない。
確かにアイへの作業中、はしゃぎ過ぎた自覚はある。
どんなにアイが優しくて可愛い魔法少女だったとしても、私にとっては仕事相手なわけで。
仕事の距離感というのは大切だろう。しかしそうなると、オーケストラさんとの距離感も反省する必要があるような。
思わずしょんぼりと落ち込んでしまう。私の様子にダニーさんはそれ以上言うことはなく、「気をつけてくださいね。」という言葉で話は終わった。
「ユリさんへ言うことはそれだけです。……で、問題はそっちのお前。」
ダニーさんは目線を私から女性に移す。ギロッと効果音が着きそうな鋭い睨みに私に向けられたものではなくても反応してしまう。
「他職員の作業邪魔するって何?」
「わ、私は!」
「お前上層だよな?新人か?足引っ張んじゃねぇよ。」
「ダ、ダニーさん、」
流石にその言い方はきついのではないか。そう言おうとしたがダニーさんは私の声も無視でまくし立てる。
「命に関わる仕事ってのはもう分かってるだろ?上層が楽なんて言わねぇけど、下に行くほどこの会社は危険な仕事させられんの。それを邪魔するとかふざけんなよ。」
「っ、でも、でも私は!」
「一人の行動が全体に影響するのはどの会社も同じだ。それもわかんねぇなら教育係にもっかい叩き込んでもらえ。それがお前の為でもある。わかったか? 」
「あのアブノーマリティに先輩が殺されたのよ!!」
「えっ……、」
ダニーさんの声を遮り、女性が叫ぶ。
その叫びはチーム本部全体に響き渡るほどのもので、シーンとその場が静まり返る。
はぁ、はぁ。女性の呼吸が聞こえる。彼女は俯いてしまって表情がわからない。けれどその肩は震えていて。
「先輩が……いなくなって。理由はわからないっていうけど、美女と野獣の作業をした後にいなくなったから。」
「…………。」
「絶対にあのアブノーマリティのせい。……許さない。許せないの!!」
「それは……。」
先程の勢いはなく、ポツポツと声を出す女性に何を言っていいかわからなくて。
ダニーさんの様子を伺うと、彼の顔はやはり歪んでいる。しかしきっと先程とは違う意味の表情だ。
「……だからって、好き勝手していいわけじゃねぇよ。」
「っ、あんたに何が!」
「ここにいるほとんどが、そんな経験してる。」
「ぇ……。」
ダニーさんは振り返る。そしてチームの皆を見る。私もそちらを見る。皆どこか暗そうに、視線を逸らす。
「許せなくて、やるせなくて。どうにか殺したくなる。毎日それしか考えられなくなる。」
「……な、なら、私の気持ちだって、」
「でも出来ない。相手は〝アブノーマリティ〟だから。」
「っ……。」
「死んだらどうするんだ?」
「なによ!私はあんな奴に負けないわ!!」
「違う。」
そこで、急にダニーさんが私に目をやる。
「お前のせいで、ユリさんが死んだらどうするんだ。」
「え、」
その言葉に声が出たのは、私なのか彼女なのか。
ダニーさんは私から視線を動かし、また女性に視線を向ける。
「これは、そういう話なんだよ。」
「…………。」
その言葉に女性はぎゅっと唇を噛む。顔を上げてこちらを睨むけれど、先程とは違ってどこか弱々しい。
女性の口がパクパク、と動く。それはもしかしたら私に向けられたのか。こちらを見ているような気がした。
けれど何か言ったのか、動かしただけなのかはわからないが音は聞き取れなくて。
「……失礼しましたっ、」
「あっ、」
そして女性は踵を返し、チーム本部を出ていってしまう。
流れる沈黙。私は呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
そんな私の肩がぽん、と叩かれる。
「ユリさんめんどくさいのに会いましたね。」
「えっ、あっ、いや。」
「あんまり気にしなくていいです。あれはあっちが悪い。」
「は、はい……。」
「でも、言い返すべき時は自分でも言い返してくださいね。」
そうダニーさんに言われて私の肩身は狭くなるばかり。
助けてくれたことにお礼を言ったのだが、ダニーさんは首を振った。
「あの女のしたことは悪いことですが、正直気持ちはわかります。」
そう言われて私も頷く。あの話をされた後だと、同情心が生まれない方がおかしい。
「けれど気にしないでください。……それで、誰かを巻き込んでいいわけじゃないんだ。貴方はもっと
怒っていい。」
「えっと……私、怒るの苦手で……。」
「わかります。でも怒れるようになってください。その方が相手も楽な時がある。」
「ダニーさん……?」
なんだかダニーさんの様子がおかしい。
優しすぎるというか。失礼かもしれないが、彼はこんなに私のことを気にかけてくれる人だと思っていなかった。
ダニーさんはふっと笑う。笑うという表現はあっているのだろうか。口元は確かに緩んでいるが目元は険しく、目線も下を向いていて。
「俺が言うなって話ですけどね。」
「えっ、ちょっ、ダ、ダニーさん?」
「業務開始時間です。失礼します。」
それ以上何も言わず、ダニーさんはチーム本部を後にする。気がつくと皆作業に向かっていて、だいぶ人数が減っていた。
私は、少し足が重くなってしまって。
少し遅れてにチーム本部を出ることになる。その時振り返って人のまばらになったチーム本部を見た時、私はなんとも言えない気持ちになったのであった。
※※※
「ねぇ、オーケストラさん。呪いにならないモノって、何か知ってる?」
業務開始、最初のアブノーマリティはやはりオーケストラさん。
作業内容は〝清掃〟。いつも通り特に汚れもないが床を磨きながら、私はオーケストラさんに〝呪い〟について尋ねてみた。
──呪いですか?
「そう。前にね、教えてもらったんだけど……。思い出せなくて。」
朝聞いた女性の話。ダニーさんは気にするなと言っていたが無理な話だ。
女性は『先輩が殺された』と言っていた。でも正しくは『いなくなった』とその後付け足してた。
つまりは、〝美女と野獣が人に危害を与える姿〟は見ていないわけで。
もしかしたら、全部アイの言う〝呪い〟のせいという可能性も捨てきれない。私は呪いのせいで豹変した依頼人たちにお茶を何度も出してきた。
──……申し訳ございませんが、私も存じ上げません。
「そっか……。ありがとうございます。」
しかしオーケストラさんも知らないようだった。
オーケストラさんは申し訳なさそうに謝ってくれて、私は慌てて笑顔をつくる。博識なオーケストラさんならわかるかな、位の気持ちで聞いたのだ。謝らないで欲しい。
──しかしどうして突然?
「んー、なんか、呪いをかけられている子がこの施設にいるみたいで。なんの呪いかはわからないんだけど。」
もしその呪いをどうにか出来たら、被害は減るのではないかと。もしかしたら女性の言ってた先輩とやらも帰ってくるんじゃないかなんて希望もあって。
勿論、そんなの本当に出来るかなんてわからない。むしろできない方が自然だ。
「…………。」
脳裏に浮かぶ、日本にいた頃の記憶。
何度も人に縋られた。『君も黒井家の人だろう。』。
でも皆失望した。『他の人はいつ帰ってくるんだ。』。皆私に怒ってすらなかった。私のことなど見ずに、客間で苦しそうに頭を抱えるばかり。
「私に出来ること、何か無いかなって思って。」
──ユリさん。
情報提供だけでも出来たらと思ったのだ。少しでも私が役に立てるなら、私が学んできたことが何かしらの力になれるなら。
私はオーケストラさんを見る。綺麗な人形のお顔。優しいアブノーマリティ。私の味方。
オーケストラさんに、失望されたくない。
理由はそれだけでは無いけれど。それは大きかった。出来ることは限られていても、努力くらいしないといけない。
それに私を必要としてくれたこの会社に貢献したいのだ。お給与だって巨額をくれるのだから、それ相応の仕事をしないといけない。
──ユリさんは、少し優しすぎます。
オーケストラさんにそんな事を言われて、私は数度瞬きをする。
そしてつい、笑ってしまった。優しいのは貴方だ。
「優しいのかな。」
優しいとは、よく言われる。家族は口癖のように私に優しい優しいと言ったし、友人からも言われることも多かった。
けれど、それ以外は言われたことがない。
「優しいだけじゃ駄目なんです。きっと。」
でもそれが、〝それ以外褒めるところがない〟と言う意味だと察してしまったのはいつだったのだろう。
優しいだけじゃ人は支えられない。側にいてはもらえない。
ひねくれた考え方と言われても仕方ないが、実際にそうだった。
オーケストラさんの方に手をのばす。それを察して、オーケストラさんは空中から手を現させ、私に寄ってきてくれる。
近づいてくれた手を強く握った。こんな力じゃ簡単に振りほどかれてしまう。昨日だって、美女と野獣を殴ろうとする女性をちゃんと止めることが出来なかった。
オーケストラさんの手を握りながら、私は少し怖くなる。それが体にも現れて、私の指先は少し震えていた。
置いていかないで。
私、ちゃんと頑張るから。
……離れないで。
そんなこと、口に出せないけど。
私は思う。呪いの反対はやはり〝愛〟なんかでは無い。
だってこの気持ちは間違いなく好意で。私はオーケストラさんのこと大好きで、大切に思ってるけれど。
それと同じくらい怖くて、不安で。
安定しない、迫り来る不明確な恐怖は。こんなのはまるで、呪いだと思うのだ。
最近読者さんがね!!ロボトミプレイ配信見せてくれてるの!!
私めっちゃうるさいけど許してくれてる!!いつもあんなテンションでごめん!!
ちなみにコメント催促とかで無く。管理人経験者さんとかの体験談とか私めちゃくちゃ待ってる。他ゲームとかだとついていけないかもだけどもし良かったら聞かせて欲しいなぁ。
ハーメルンでは色々コメント欄規約あるけど、私あんまり気にしてないから
他の方が不快になったりとか、暴言とかでなければ自由に書き込んでくださいね。出来ないこととか言えないことは濁したりはっきり言っちゃうけど、みんなで楽しくロボトミーの世界浸れたら私は嬉しいですよ!!
コメントしてない人でも読んでくれてるだけで本当に嬉しいの!!
読者様方は、作者の力にすごいなれている事を自覚してどうぞ。
それは私以外の作者さんたちも絶対そうだから!!っていう話をしたかった。
配信してくれてる読者さんと話してて思ったこと。
皆様にも伝えておきたいなと思ったことを書きました。いつも本当にありがとうございます!!