海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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【十三】誰の声?_5

 

 

本当に、人生において何よりも大切なものを失った時の消失感は、気絶に少し似ている。

ふっ、と暗くなって。ぱっと目が覚めた時、過ぎた時間を見て初めて自分が意識を失っていたことに気がつく。

それに近いと思う。

その瞬間に激しさはなく、ついていく頭なども無く。むしろ普段の何倍も静かな時間が、自分の中でだけ流れて。

しかし遅れて、とんでもない痛みと苦しみが襲ってくる。

大切なもの、信じていたものを失った時。そんな感覚になる。

 

〝お前はついてくんなよ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり。収容室、〝静かなオーケストラ〟の対面。百合は首を傾げて立っている。

たった今まで、百合は泣いて謝罪していた。許しを乞いていた。そんな彼女に静かなオーケストラが言った一言。〝私にそういった術は効きません〟。

 

「?、??、えっと。」

 

えっと、どういう、ことだろう。

オーケストラさんの言葉の意味が、私はよく分からなくて。……効かない、って言ったよね?

 

「効かない、っていうのは……?」

 

───そのままの意味です。私にそういう力は効きません。

 

「それはわからないんじゃ……?」

 

───わかりますよ。本当に効かないんです。

 

「ええと……。」

 

なんだか、押し問答になってしまう。

力が効かない、というのはどういうことだろう。そもそも私が使っている力というのも、私自身よく分かっていないわけで。でもその得体の知らない力が、オーケストラさんに効かないなんて誰にも分からないと思うんだけど……?

頭に浮かぶ〝?〟マーク。理解していない私を察したのか、オーケストラさんは話を続ける。

 

────世界には、様々な変化を与えるものがあります。そして〝結果何かに対して悪影響を与えた場合〟それを〝攻撃〟と呼びます。

 

「うん……。」

 

それは、わかる。叩かれたらそれは〝物理的な攻撃〟だし、酷いことを言われて傷付いたのならそれも〝言葉の攻撃〟だ。

 

────では百合さんの仰る〝私の気持ちを操る〟ということも〝攻撃〟になりますか?

 

「それは、そうなんじゃ……。」

 

────それは〝何に対して〟の攻撃になりますか?

 

「ん、んん……?えっと、心とか……意識、とか?」

 

────そうですね。〝精神〟に対しての攻撃になるでしょう。

 

「精神……。」

 

────さて、本題です。

────私は自分の〝精神に対して悪影響になるもの〟は完全に防ぐことが出来ます。

 

「…………ん?え?どういうこと……?」

 

オーケストラさんの言葉に首を傾げる。

 

────そのままの意味です。百合さんの仰る力は、強制的に思考を変えてしまうようなものなんですよね?そうなると、何らかの波長であったり、見えない力を百合さんが使っていることになります。

 

「そう……ですね。無意識に使ってるのかも……。」

 

────私はそういう力を防ぐことが出来る、という話です。

 

「…………んん?」

 

オーケストラさんの言っていることが、いまいちよくわからない。

防ぐことが、出来る?どうしてそんな断定して言えるのだろう。

心とか意識への攻撃って、目に見えないのに防ぐことが出来るの?それらって、全部同じ形をしてるの?それを、どうしてオーケストラさんが知ってるの?……オーケストラさんには、見えるの?

 

────まぁこれは……、見せれる時がきたら、きっと分かりますよ。

 

「え!それって、見せて貰えるものなんですか?」

 

───条件が揃えば見せられるでしょう。

 

「じょ、条件……。」

 

……ううんと。

なんだか全部曖昧なままで話が終わってしまいそうで。

このままでは結局何も分からないままだと思って。私は追求を続けようとする。でも何を聞けばいいか、どう聞けばいいかわからなくて迷っている時だった。

 

〝ぎゅっ〟。

 

「えっ、」

 

浮かぶ人形の手。オーケストラさんの手が。私の手を掴んだのである。

突然の事でびっくりしてしまって。反射的に振り払おうとしてしまったが、オーケストラさんはがっしりと私の手を掴んで離れない。どうしたのか聞こうと口を開いたけれど、先にオーケストラさんの声が。

 

───私の気持ちを否定しないでください。

 

「……え、」

 

───作り物なんかじゃ、ありませんよ。

───私はちゃんと、ユリさんのことが、好きです。

 

「……オーケストラさん。」

 

その言葉は。あまりに真っ直ぐだった。

裏表のない、美しい響きだけだった。物語のような美しさだった。初めて貰ったような、そんな言葉だった。

綺麗で、眩しくて。……私はそれ以上、何も言えなくなってしまう。

どうして、なんだろう。どうしてこんなに、オーケストラさんは私を信じてくれるんだろう。

彼の言葉に私は喜びよりも困惑の方が近くて。

否定したい訳じゃなくて。疑いたいわけじゃなくて。オーケストラさんの言葉が、気持ちが嘘だなんて思ってなくて。

ただ……ただ私は……自分に、自信が無いんだ。。

 

「……嫌になったら、ちゃんと言ってくださいね。」

 

私がそう返したら。私の手を握るオーケストラさん力が強くなって。

わかってる。もっと可愛い言葉、言おうと思えば言えただろう。

喜びの涙くらい流せればよかった。ありがとうって感動すればよかった。それが、シーン的に正しいのだとわかってるのに。

出来ない。出来ないんだ。自分の奥深く、根本に絡みつく自己嫌悪とか劣等感とかそういうものが絡みついて邪魔をする。

そうして彼も、私も何も言わなくなってしまう。それでも握られた手は離れなくて。少しだけその手は震えていて。私は握り、返せなくて。

オーケストラさんが今何を考えてるかとか、そういった事。私はわからなかった。わからないまま……進まないまま、時間だけが過ぎていくのを。そこで立って、感じていた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 

 

 

体が

自分のものに思えない時があるなんでかわからないなんで?私のなのに私のじゃあないのねぇわからないよわからないわからないのよ。

 

「ユリ、ユリ、ユリ、ユリ。」

 

繰り返す。忘れてはいけない。私の中で決して忘れてはいけないその名前を。

どうして?どうしてこんなに特別なの?貴女はどうして特別なの?ねぇユリおしえてよ。

 

 

 

……一時安定されたかと思われていたアブノーマリティ、O-01-04……ユリの言うところのアイの様子はまた悪化してしまっていた。

 

 

 

 

その為Xは再びユリに作業指示を出す予定だったのだが、彼女には他にも作業してもらいたいアブノーマリティが沢山いる訳で。

ユリの手があくまでの〝繋ぎ〟として、白羽の矢が立ったのがこの〝アンドレ〟という男であった。

アンドレは収容室の前で内心ため息をつく。彼がアイへの作業をするのはこれが初めてで。どうして急に、と。任されたのが自分だったのだろうと憂鬱だった。

その答えは単純で、〝たまたま空いていたから〟なのだけれど。

それでもアンドレは首を振る。こんな姿勢ではダメだと。会社は自分を信頼してくれているのだと思い直して。緊張しながら恐る恐る、中に入ったのだった。

 

「失礼……しまーす……。」

「………あ、ら……?」

 

アンドレが中に入った時。アイは部屋の中心に立っていた。

ぼんやりと壁を見つめて、フラフラと安定のしない足で細かに揺れながらも二本足で立っている。

その表情は無表情で、焦点もどこにあっているのか分からない。それでもアンドレの声に気がついたようで、ゆっくりと、そちらを向いた。

「……こんにちは。」

 

無表情のまま、声に元気はないが、アイは確かにアンドレに挨拶した。

 

「貴方は……えっと、ごめんなさい。あまり物覚えがよくなくて……。誰だったかしら……。」

「わ、私は初めて貴女とお会いします。なので知らなくて当然です。」

「そう……?なら、よかった。これから覚えればいいわね……。」

 

ふふ、とアイは笑う。ぎこちないけれど確かにアンドレに向けられた笑みである。

アンドレは彼女の様子に驚きが隠せず、その姿を凝視してしまった。

人型のアブノーマリティというのは事前に聞いていたけれど。ここまでちゃんと意思疎通できるなど思っていなかったからだ。

力なく笑う彼女にアンドレの緊張は徐々にほぐれていき。警戒をしないといけないと分かっているのに、一歩、彼女に近づいて。

 

「調子は、いかがですか?」

「調子……そう、ね。最悪ではないわ……。」

 

その答えにアンドレは眉を下げる。声にも表情にも、力を感じられない。

 

「本当に……?具合が悪そうに見えますが。」

「ふふ、大丈夫大丈夫。ありがとう、優しいのね。……ぅ、」

 

そうは言うものの、憎しみの女王は気分が悪そうに頭を抑えた。

そして立ちくらみを起こしたのかフラフラと後ろの壁に寄りかかり、ずるずると膝から崩れ落ちてしまう。その様子にアンドレは慌てて駆け寄り、床に伏せる彼女を抱き上げて。

 

「大丈夫ですか!!」

「大丈夫、よ。早く元気にならなきゃね……。こんなんじゃ、悪者が来た時に頼りないわ……。」

 

腕の中で力無く笑う彼女。その言葉に、アンドレの心が揺れる。

アブノーマリティと言えど、その外見はただの可愛らしい少女だ。丸い顔に長い足。細い腕。

そんな彼女が、こんなに具合が悪そうなのに。自分以外を心配しているというのは。

その心優しさに、アンドレの胸が小さな熱を持つ。それは同情であり、感動であり。

 

「無理を、しないでください。」

「無理なんて、」

「大丈夫ですよ。ここには悪者なんていません。」

「……え?」

 

アンドレは笑う。彼女を安心させたくて。

 

「だから休んでください。ね?」

 

……その言葉に、アイの目が大きく見開かれた。

ポロリ。その大きく美しい宝石の瞳から、涙があふれる。ポロ、ポロ。止まらない。溢れだしてしまう。

 

「大丈夫です、大丈夫ですから……。」

 

その涙を拭おうとアンドレは手を伸ばす。

少女の瞳から溢れ出すそれは、不謹慎にも美しい。そして、痛々しかった。

アンドレの頭によぎるいくつもの想像。この少女は今までどれだけ悩んだのだろうと。魔法少女の格好をした、わかりやすい正義の人。こんな時でも誰かを心配するような彼女。きっと辛い思いを沢山したのだと想像しては、胸を締め付けられて。

 

「貴女が無理してまで倒さないといけない悪なんて、ここにはいませんよ。」

 

それは彼女にとって──────トドメであった。

 

「やめてよっ!!」

「う、ぁっ!?」

 

ドゴッ!!と、強い衝撃音と共に、アンドレの全身に激痛が走る。

何が起こったのか理解できない。彼の目の前はチカチカと点滅し、その先にはアイが立っている。

どうやら彼は彼女に振り払われ、壁に打ち付けられてしまったようで。

 

「私の存在意義を……踏みにじらないで!!私は!!私は……っああああああっ!!」

「うっ……!?」

 

突然叫び出すアイ。彼女の身体を強い風が覆った。あまりにも強い風に、アンドレは上手く息ができなくなって。

その中で見えたのは。

アイの身体が宙に浮き上がる様子。浮き上がる、と言ってもそれはなにかに持ち上げられているような。叫び声とは一転したぐったりとした様子で、上に登っていく。

彼女は何かをブツブツと唱えているようだった。何を言っているのかは聞き取れない。

浮き上がった身体を取り囲むように、どこからかいくつもの青い光が現れる。人玉のように丸く現れたそれは姿を変え、鋭く細く、槍のように変形し。

 

「うあっ!!」

 

その光が、彼女の身体を貫いた。

彼女は衝撃のせいか、痛みのあまりか、ピンと手足が伸び、大の字になる。その顔は酷く辛そうに歪んでいる。

彼女の体勢はまるで何かの的。その的を狙うかのように、彼女の魔法の杖が勝手に動く。

魔法少女の、夢の杖。

杖はその可愛らしいハートの先を彼女の身体に向ける。そして。〝ドスンッ!!〟

 

「うぁぁぁぁああっ!!」

 

そして、とどめを刺すように、心臓を貫いた。

 

強い光が彼女の身体を覆う。

アンドレはその眩しさに目をつぶった。でないと彼の瞳は焼き付いてしまったかもしれない。

その光は凶器のような鋭さと熱を持っていて、アンドレの身体に焼けるような痛みが走った。

その痛みにアンドレは歯を食いしばる。何が起こっているのか彼は把握ができなかった。

 

彼女はどうなったのか?

 

その光は徐々に弱いものに変わっていき、なんとか彼の体は焼けずに済む。

ようやく光が落ち着いたところで、アンドレはそうっと、目を開いた。そして、 開いた目に映ったのは。

 

「あ……、え……?」

 

ダンッ!!

 

「ぁ、」

 

次の瞬間。

アンドレの身体が再び、思いっきり壁に叩きつけられた。

先程とは比にならない痛み。いや、痛みすら感じないような。彼は頭を、背中を強く打ち、その衝撃に身体の空気が押し出され歪な音が出た。

動けない。体が動かない。彼は、逃げる事が出来ない。

 

だから、彼は避けることが出来ずに死ぬ。

 

動けないでいるアンドレの身体を、アイの青い尻尾(・・・・)が叩き潰した。べちっと音を立てて潰されたアンドレの身体から、血が飛び散って壁を汚す。

 

そこに居たのは。少女ではなく青い大蛇である。

 

この時、アンドレはもう既に死んでいただろう。

けれど形残る身体が気に入らないのか、または遊んでいるのか彼女は何度も尻尾を叩きつける。

長い尻尾を引き摺っては持ち上げ、叩きつけて―――ぐちゃっ、ぐちゃんっと、アンドレの身体をすり潰していく。

 

その姿はかつて彼女が自身の対照として欲したもの。

 

──────悪だ。

 

 

 

ユリちゃんのR指定系の小説って需要ありますか?ちな書くとしたら男主人公の夢小説みたいにかけたらいいなと思ってます。

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  • 早まるな
  • 正気に戻れ
  • どうした
  • あけましておめでとう!
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