海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※BLのようにもとらえることができる描写がありますが、作者にそういう意図はありません。
ただ読む方に受け止め方はお任せしますので、苦手な方はご自衛ください。










【十五】声を出すことに何の意味があるのだろう_7

 ずっとずっと叫んでいるけれど

 この声は誰かに届いているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 ダニーさんとリナリアさんに、手を繋がれて私は走る。

 走りにくいのに、私達は手を離さない。離したくなかった。二人がいてくれるということが、とても頼もしくて嬉しかったから。

 

「ぁっ、 」

 

 廊下の少し先まで進んだところで、二人が止まる。突然の事で足がもつれるも、何とか転ばずには済んだ。急にどうしたのか聞こうとしたが、その言葉は喉で止まる。……聞こえる。

  ズル……ッズル……ッ

 

「この音……、」

「近いな。状況の確認を先にしよう。」

「えっ。」

 

 ダニーさんとリナリアさんが、腰から銃を取り出す。黒いハンドガン。見た目こそ小さいのに妙な重さを感じさせるそれに。私はまさかそんなものが急に出てくるとは思わず、情けなくビビってしまう。

 ダニーさんを先頭に、私、リナリアさんと壁にそって縦一列で進む。そろりそろりと足音を立てないようにして。

 どんどん大きくなる、不可解な音。それは廊下の端、曲がり角のところまでくると、とても近くなって。

 角の手前でダニーさんが止まる、私達に少し待つよう、手で制して。ダニーさんだけぐっと顔だけ前に出して、その先を確認したようだった。……が。

 

「っ、な、なん、だ。」

「ぶっ、」

 

 ダニーさんが思い切り仰け反る。後ろの私の顔に彼の背中がぶつかって、鼻に鈍い痛みが。変な声まで出てしまった。

 

「ど、どうしたんですか……?」

「しっ、に、逃げるぞ。アレはヤバい。」

「え?」

 

ダニーさんの顔が真っ青になって、私とリナリアさんに引き返すように言う。有無を言わさずにグイグイと押されて、私達は困惑した。

 

「あの、何が見えたんですか……?」

「馬鹿、いいから戻れ。あれは無理だ。鎮圧するにももっと人がいる。」

 

ダニーさんは私の肩に手を置き、無理矢理方向転換させられて。ちょっ、痛い痛い。ぐいぐいと押される。

 しかし私は上から作業指示を貰っているのだ。なんの理由もなく引き返す訳には「えっ、ちょっ、やばっ。」え?

 

「な、な、な、何あれ。O-01-04って、人型じゃなかったっけ……!?あんなの施設にいた……!?」

「知らねぇよ。とにかく逃げるぞ。三人でどうにかなる相手じゃない。」

「ユリさん、あれは無理。早く離れよう……っ!」

「え、え。」

 

 私がダニーさんに引っ張られてる間に、リナリアさんも廊下の先を見たようで。ダニーさんと同じく真っ青になっていた。

 何が起こっているのか。私も確認しようと先を見ようとするが、二人に止められてしまう。「見ない方がいい。」「早く逃げよう。」え、な、なに?本当に……?あまりの二人の圧に私は頷き。三人で戻ろうとした時だった。

 

「……なんで二人と一緒にいるんだ?」

「レナード、」

 

怒りを孕む低い声が、その場に響く。

戻ろうと振り返ると、そこにはレナードさんがいた。彼は走ってここまで来たようで、その額には汗が滲み、息も荒くなっていて。真っ赤な顔でこちらを睨んでいる。

 

「レナード、お前も鎮圧に来たのか?逃げるぞ、あれは俺たち数人じゃ手に負えない。とりあえず避難しよう。」

「聞いてるんだ。なんでその新人と二人が一緒なんだ?」

「ちょ、レナード声大きいよぉっ。シーっ!!」

 

 廊下にレナードさんの声が響く。ダニーさんとリナリアさんは声を潜めているのに、レナードさんはお構い無しに話すもので、妙に彼の声が目立った。

 

「そんなこといいから今は早く逃げよう?」

「そんなこと?大事な事だ。ダニーもリナリアも、忙しいだろ?それなのに、なんでその〝特別な新人〟についてやるんだよ。」

「レナード、今はそれどころじゃない。早く行くぞ。」

「めんどくさいなぁっ、時と場合考えてよっ!早く逃げるよっ!」

 

 レナードさんの言葉に二人は苛立った様子で。大きくため息をつくとそのまま横を通り過ぎてしまう。

 えっ、と思う。レナードさんは?リナリアさんが振り返る。「ユリさん、いいからもう行こう。」よくないよね!?

 

「あ、あのっ、レナードさん。私またちゃんと、お話聞きます。だから一緒に戻りましょう……!」

 

 このまま一人置いていくことなんて出来ない。二人が言うのなら、ここは危険なのだろう。それは彼だって同じはずだ。

 

「……理由は? 」

「へ?」

「理由をきいてんだよ。なんで戻るんだ?」

 

 ギロッと睨まれて、まずい、と思った。

 よけいなこと言ったかもしれない。そもそも怒ってるのは、私の事でだったのに。

 

「えっ、えっと……、」

「ユリさんいいから!早く戻ろっ!」

 

リナリアさんが私を呼ぶ。二人は私を待ってくれているようで数歩歩いたところで立ち止まっている。しかし二人の足は軽く貧乏ゆすりをしていて、見るからに焦っていて。

 そうだ。とにかく今は逃げないと。よくわからないけど、二人が危険って教えてくれたんだから。

「二人が、危険って教えてくれて。とにかく一度逃げましょう。」

 

 彼からひしひしと感じるそれは恐らく怒りだ。私に怒っているのだろう。恐らく彼が素直に戻らないのも、私が理由だ。

 私は視線を床に落としてしまう。彼を、その向けられる怒りを直視出来なくて。

 こうしていても、レナードさんは動いてくれない気がした。私が何を言っても、聞いてくれないだろうと。

 それならもう、私は彼を放っておくことにして。それ以上は何も言わず、彼の言葉も待たずに背中を向ける。

 

「待てよ。」

「うわっ、」

 

 けど。私の腕はレナードさんに掴まれて。

 

「……お前ばっかり心配されて。」

「え……?」

「特別扱いされて、なんなんだよ。」 

 

 …………特別。

 

「また、それ……?」

「は?」

「…………心配、してもらえるの、ありがたい、です。」

 

 それは、本当。

 本当に、感謝してるけど。

 

「でも……情けなくも、なりますよ。」

 

 ふつり。と、湧いてきたこの感情は。

 

「…………私だって、何も考えてない訳じゃないもん……。」

 

 今考える事じゃ、ないのに。

 私だけ、この先の現状も見せて貰えずに引き返すことも。

 武器の銃を支給されてないことも。

 チームの皆にあんまり話して貰えないことも、馴染めていないこの感覚も。

 今、考えることじゃない。

 ……………………。

 すぅ、と。呼吸をする。ゆっくりと吐いて。

 心を、落ち着かせて。

 

「この話は、後にしましょう。」

 

 レナードさんの手を振りはらって、そう言い捨てる。

 こんなところで暗くなっても仕方がない。今すべきことを、考えないと──────「ふざけるな!!」

 

「えっ……!?」

「ふざけるな!!なんだその態度!!偉そうに……!!」

「レナード!!」

「ちょっと!!」

 

 突然怒鳴るレナードさんに、私の頭は真っ白になって固まってしまう。

 その様子を見て、ダニーさんとリナリアさんが駆けつけてくれて。リナリアさんは私を庇うように抱きしめてくれた。

 

「何こんなとこで怒鳴ってんの!?ありえないんだけど!」

「うるさい!!なんで庇うんだよ!!」

「レナードいい加減にしろ!」

「逃げるな!!戦えよ!!目の前で収容違反が起こってるんだぞ!!」

「レナード!!」

「ダニーに構って貰えないからってユリさんに八つ当たりしてんじゃねーよクソが!!」

「えっリナリアさん!?」

 

 リナリアさんの可愛い声から想像できない言葉遣いが聞こえた。

 

「あのさ。あんたがダニーに依存すんのは自由だけど、そのせいで人が死んだらどうすんの。」

「い、依存なんて、」

「おいリナリア、」

「ダニーもダニーなんだけど。なんでこいつに向き合わないの?めんどくせぇのはわかるけど、それで周りを巻き込むな。」

 

 リナリアさんがの長く細い綺麗な腕が、ビシッとレナードさんを指さす。

 

「あんたがなりたい特別は、ダニーの特別でしょ?それでユリさんの悪口とか。女々しい真似してきしょいんだよ。」

 

 しん、と静まり返るその場。

 リナリアさんがフンッ、と荒く鼻息を吐いて、レナードさんは俯いて震えている。

 ダニーさんは大きく目を見開いて。……戸惑ったような、困惑している顔で。

 

「えっと……。」

 

 ……いやこれ、何の話!?

 話が飛びすぎて何もついていけないんだけど……!?

 

「あ、あの……逃げた方が……?」

 

 それを言うだけで、私は精一杯だった。

 ……いや、うん。とりあえず逃げません?

 頭の中でごちゃごちゃ考えてたことが、一気に吹っ飛ぶくらいには衝撃的な話。衝撃すぎて今考えられることじゃない。だって……、今、こんなにレナードさんに嫌われてるのって私のせいじゃなくて……ダニーさんのせいってこと……?ええ……?私ダニーさんに結構雑な扱いされてると思うんだけど……?

 私の提案にダニーさんとリナリアさんはハッとした様子で。リナリアさんはこほん、と咳払いして、少し気まずそうな表情をしながらも頷いてくれる。

 

「そ、そうだね。行こうかユリさん。」

「は、はい……。」

 

 とりあえず、話はあと。私たちは今度こそその場を後にしようとしたのだけれど。

 

「俺がどう思おうと、お前がずるいのは事実だろ!!」

 

 その時だった。唇を苦しそうに噛んでいたレナードさんが、先ほど以上の声で怒鳴ったのだ。

 そして。

 

「えっ!?」

「はっ!?」

「ユリさん!!」

 

 腕を思い切り引っ張られて、投げ出される体。

 ドンっ、と。突然のことに受け身が取れず、思い切り肩が床にぶつかってしまう。骨に痛みが響き、顔をしかめたが。

 それも一瞬だ。

 全身の血の気が引いた。だらっと嫌な汗が噴出す。

 ごくん、苦い唾をのむ。ゆっくり、放り出された廊下の先に首を動かす。

 

「あ……。」

 

 私の知る、アイじゃない。そこにいたのはアイではなかった。

 青い、大蛇。廊下の天井まで頭が届きながらも、それ以上の長い胴体を引きずる大蛇。

 その背中には大きな翼が生えていて。頭に生えている角のような……耳のような垂れ下がるそれは、先が人の手のような形状で。

 これは明らかに怪物。人の言葉など通じないであろうそれが、もう数メートルの距離までに来ている。

 

「ユリさん!」

「っ!」

 

 私の前に飛び出してきたのはリナリアさんだ。「逃げて!」リナリアさんは私を背に、拳銃を大蛇に向けている。

 でも強い言葉とは裏腹に、その背中は震えていて。 

 当たり前だ。怖くないわけがない。こんな状況で飛び出して、怖くないわけがないんだ。

 ずる、と。床を引きずる音がする。それと同時に、リナリアさんの背中がびく!と大きく震えて。

 

「っ……!早く逃げて!!」

「リナリアさん、」

「早くして!!早く!!」

「……、」

 

 私はよろよろと立ち上がる。肩は痛いけど、幸いなことに足は痛めていない。

 

「リナリアさん、私、話してみます。」

「……はぁ!?」

「リナリアさんこそ、逃げて。」

 

 リナリアさんの横を通り過ぎて、大蛇に近づく。

 人の倍ほどある、大きな蛇。鱗の青は照明の光に反射して艶やかに光っている。あぁ、こうして見ると、確かにその色は確かにアイのあの美しい髪と同じで。

 リナリアさんが、私の名前を呼ぶ。悲鳴のような声に、私はどうしてか泣きそうになってしまった。

 

 リナリアさん、ダニーさん。ありがとうございます。私と一緒に来てくれて。

 

 ……心臓がばくばくとうるさい。呼吸が荒くなる。

 怖い。逃げたい。死にたくない。

 ……そりゃ、そうだよね。

 誰だって、死にたくなんてないよね。

 

「……アイなの?」

 

 私は大蛇に、問いかける。返事はかえってこない。伝わっているかすらわからない。

 頭によぎる、かわいい女の子の姿。……私はやっぱり、この大蛇がアイだなんて思えなくて。

 だって、どんな姿でも貴方だとわかるなんて素敵な力、私にはないんだ。

 ……でもね。

 

「もし……アイなら、お部屋に戻ってくれないかな。」

 

 もし大蛇が、アイならば。

 どうして、そんな姿になってしまったんだろう。

 大蛇の目は、空洞になっている。瞳はなくどこまでも闇が続いていて。私の姿なんて見えないだろうに、なぜか私のほうを向いているのだ。それが何故か無性に悲しくて。

 

「それでまた……一緒にお話ししようよ。」

 

 結局私は、貴方のことを何もわかってなかったのかもしれない。

 その場限りの気休めしかできなくて、なんの力にもなれなかったのかもしれない。

 

「……誰も死んでほしくないの。」

 

 そう、誰も死んでほしくないんだ。それは、本心で。

 

「アイも、死なないで。」

 

 何の力にもなれてなかったとしても、何もせずになんかいられなくて。

 

「お願い……今のままだと、きっと戦いになっちゃうよ。怪我だってして欲しくないのに。」

 

 結局私はこんなことしか言えない。

 なんて、情けないのだろう。来たはいいものの、こうやってリナリアさん達を巻き込んで。

 私にできることなんて、思いつかないのに。

 それでも、それでもね。

 

「心配で……、私、こんなところに来ちゃったよ、アイ……。」

 

 ……大蛇は、動かない。攻撃をしてこない。

 いつの間にか恐怖が遠ざかっている。それ以上に、悲しみが強く私の中にあった。

 私は鞄から、髪飾りを取り出す。大きな黒いハートの、可愛い髪飾り。

 これは……前にアイから貰ったもので。私の手に握らせてくれた、貴方と〝お揃い〟の髪飾り。

 

 ……あなたは、言ったね。『〝友達の証〟よ!』って。

 

 なんてことないように笑う貴方。でも私は嬉しくて、ずっとそれを鞄に大切にしまっていた。

 きっとね、これって〝ギフト〟でしょ?赤ずきんさんから貰ったのと同じ。多分、私以外の人にも渡すんだよね?

 それでも、私は嬉しかったんだ。〝友達の証〟。

 髪飾りを大蛇に見せるようにかかげる。……でも、なんの反応もない。それもまた、すごく悲しくて。

 

「まだ、友達でいてくれる?」

 

 そう言うと、大蛇の身体が少しだけ揺れた。目の前にして、初めて返ってきた反応だった。

 そこにいるのは私の知るアイじゃないけれど。

 けれど、もし大蛇が本当に彼女ならば。それなら、その部分も私は知りたい。

 だってそうしたら、もっと仲良くなれるよね。アイの力に、なれるよね?そしたら。

 

「……頼りに、してもらえる?」

 

 一方的に守られるだけじゃあない、私が弱いから優しくしてくれるだけじゃない。もっと、もっと対等な。

 

 ー--パァンッ!!!

 

「え……。」

「ユリさん!!」

 

 背中が、熱くなった。

 ダニーさんの声がリナリアさんの声が、聞こえた。でもそれも幕がかった、どこか遠い。

 

「っ……ぁ……?」

 

 熱に押されて私は前に倒れる。床に落ちた身体は妙に重くて、動かせなくて。私のものに思えなかった。

 痛い。熱い。自然に体が丸くなってしまう。だらだらと流れる汗を感じる。

 何が起こったのかわからなくて、確認しようとするのに、背中の腰あたりが異常に痛くて上手くいかない。

 グラグラと視界が揺れる。アイ、アイ、まだ声が届いているかもわからないのに、何も、出来てないのに。

 頭だけは動くけど、身体が別物になってしまったように動かない。そこで身体が抱き起こされた。

 目の前にはリナリアさんの顔がある。名前を呼ばれている。けれどやっぱりその声は遠くて。

 力が入らない体は、重力に従いだらんと首が座らない。その視界の先に、ぼやけた人の姿がふたつ。

 

「ぁ……、」

 

 そのうち一人の、銃を構える姿勢。

 

「ま……、」

 

 待って、と思う。この先にいるのは、アイなのだ。

 お願い、待って。きっと大丈夫だから。だって、だってアイだから。アイは優しくて、いい子で。本当に、優しいんだよ。

 

 撃たないで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 










おそくなってすみません…。改正前のもの以上に登場人物の感情を複雑に書きすぎて自分でもこうじゃないこうじゃないと悩むことが多いです。自分で自分の首絞めるの笑えない。


そして、コメント返せないことも申し訳ございません。
定期的に人と関わりたくない時期とかあってやんでることが原因です。
でも全部読んでいて、もうかけないかなあきらめようかなってなった時に、皆さんの言葉が励みでそのおかげで書き続けられてます。
本当に感謝しております。大好きです。
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